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さっきまでここにいたのに、どこに行ったんだ? トイレか?
だとしても不用心というかなんというか……。いくら深夜で客が来ないからって、店内を空っぽにするなんて。客がいきなり来たらどうするんだ。来ないと見越してのことなんだろうけど。
がらんとした店内に俺一人。
それにしても暇だ。時計の針はもう深夜二時半を過ぎていた。雑務も教えてもらいながら、大体の仕事は片付いた。
このまま朝までこの調子か。日が昇るまでにあと何人の客が来るのか。この分だと、お客の数も、顔も、買っていったものも、俺は多分全部覚えていられるんじゃないか。
……青山さん、帰ってこないな……。
ふと、視線を感じて顔を上げる。
雑誌コーナーの向こうにあるガラス張りの窓。
「青山さん?」
と、思ったのに。
ガラスの向こうは真っ暗闇。青山さんはおろか、人っこ一人立っていない。
なんだ、気のせいか……。そういうことはよくある。俺は気にせず、また店内に視線を戻した。
その時――。平凡なチャイムと共に、自動ドアが開いた。
きた……!
「いらっしゃいませ――」
反射的にそう口にして、自動ドアの方を向く。久々の客だ。
営業スマイルフル装備で迎えたつもりの俺だったが、次の瞬間、ドアの方を向いたまま固まってしまった。
いや……なにって。いないのだ。
そこにいるはずの客がさ。
自動ドアをくぐり抜けてくるはずの客が、どこにも。ドアはそのまま何事もなかったかのように閉じ、チャイムも鳴り止んだ。
……なんだ……?
目を細めて凝視してみるも、変わった様子はない。ただの自動ドアだ。風で何かが飛んできて、センサーが反応したのか。いや、今日は風もそんなに吹いていない。ドア付近にゴミらしきものもない。
おかしい。首を傾げてそう思ったら、またドアが勝手に開いた。
「……」
怖い。とは思わなかった。その時は、変だなくらい。
ドアがもう一度閉まったのを確認し、俺はカウンターを離れて自動ドアの前に立ってみる。俺が近づくとセンサーが反応し、当たり前のようにドアが開いた。
そこから首だけを出して辺りを見回す。勿論、誰もいない。
……悪戯じゃないよな。
「故障か……」
脳裏に店長と青山さんの言葉が蘇ったが、目に見えてもいないのに、不可思議な現象を幽霊の仕業だのなんだのと決めつけるのは気が引けた。
そりゃあ、足のない女の人が入ってきたとかなら、俺も多分信じるんだろう。幽霊という存在を。
でも、何もないのにドアが勝手に開くぐらいだったら、扉の故障とか、他にも理由はいくらでもありそうだ。俺は外に向かって短い溜め息を吐いた。
今まで辞めた奴って、自動ドアの故障を幽霊の仕業と勘違いして、怖くなって辞めただけなんじゃないかよ。
こんなのがなんだっていうんだ。ちっとも怖くない。人通りが少なくて、周りが樹海で、自殺の名所でもある。そういう要素が不安や恐怖を倍増させているわけで、そのせいでおかしなものを見たっていう錯覚を起こしてしまうんだ。
生憎、俺は信心深くはない方で、目に見えない、証拠もない話は好かない。
だって、その手の話は必ず裏で誰かがしてやったりな顔をして楽しんでいるのだから。そう考えたら、怖い怖いと騒ぐその他大勢に流されるのは、至極馬鹿馬鹿しいことだと思わないだろうか。
これぐらいのことなら、一週間なんてちょろいもんだ。
カウンターに戻ろうとすると、閉じかけたドアがまた開いた。今度はチャイムが鳴り終わっても、開きっぱなしになった。
「……」
それを冷めた目で見つめる俺。青山さんといた時は、こんなことなかったよな。
視線の先にあるドアは閉じられずに開いたまま、外の生暖かい空気を絶えず店内に送り込んでくる。人が一人、ドアの前に立ちっぱなしになっていると、同じ現象が起こることがある。
いやいや……。
カウンターに戻り、おかしな自動ドアを観察し続けること、およそ数分。なかなか閉じない自動ドアに痺れを切らし、俺はもう一度カウンターを離れてドアを調べに行った。
開きっぱなしだと店内に虫がガンガン入ってくるのだ。これ以上は見過ごせない。どうせ、レールかどこかにゴミが詰まってるっていうオチだろ。だが、しゃがみ込んでレールを隅から隅まで見てみても、ゴミ一つ挟まっていなかった。
ほんとに壊れちまったのか。取りあえず青山さんが来たら相談して……。
ボリボリと後頭部を掻きむしり、そう思った時だった。




