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魔術師の原罪  作者: 卓麻呂


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18/20

第17章

バイクで転倒。鎖骨を折ってしまい、現在休職中です。ヒマなので筆が進む進む。そしてもうすぐ魔術師の原罪も終わりです。

次の作品のプロットも作らないと。

まだ2作品目なので、まだまだ修行不足ですね。もう少し魅力的なキャラを作れるようプロットを練っていきたいです。

次の作品もこの世界線の続きです。

いつも読んでいただきありがとうございます。

GC320.9.26


レオンは艦長室で一人、報告書の画面を眺めていた。


内容は頭に入っていない。


視線だけが文字の上を滑っていく。


ため息を吐き、椅子にもたれかかった。


セラにあんなことを言われるとは思わなかった。


彼女が惑星アニマに特別な感情を抱いていることには知っていた。そうは言ってもアニマについていえば調査団全員が少なからず愛着を持っているのは事実だった。


イーサなんかは研究対象としてしか見てないだろうが。


順調にいけば数年後、人類が大規模に進出してくる。そしてこの世界は変わってしまう。


森も海も生態系も。


いずれは都市が建設され、工場が建ち、資源が採掘される。


それは避けられない。


そしてレオン自身も、そのことは残念だと思っていた。


アニマは貴重で美しいと思う。


テラⅡのやうにはなってほしくない。


人類が介入すればアニマ固有の生態系は失われてしまう。


だからセラの気持ちは理解できた。


むしろ理解できすぎるほどだった。


だが――。


「だからといって本星に逆らうわけにはいかない」


誰もいない部屋で呟く。


自分に言い聞かせるように。


彼らは探検家ではない。


研究者だけでもない。


軍人だ。


火星連合評議会の命令によって派遣された人員だ。


どれほど遠く離れていても、それは変わらない。


命令に従う。


それが前提だ。


フェイズアンカーを停止する。


そんな選択肢は存在しない。


少なくとも自分には。


シグなら迷わないだろう。


実際、彼は言っていた。


「艦長はもう少し強引にでも艦を纏めるべきです」


正論だと思う。


指揮官とはそういうものだ。


議論ばかりしていては組織は動かない。


最終的には誰かが決断しなければならない。


その役目は自分だ。


だからシグは間違っていない。


だが。


レオンは苦笑した。


自分には向いていない。


昔からそうだった。


命令で人を動かすより、納得して動いてもらう方を選んできた。


意見を聞く。


話し合う。


可能な限り合意を作る。


効率は悪いかもしれない。


それでも、そのやり方でここまで来た。


今さら別人にはなれない。


皆の意見は尊重したい。


だから話は聞く。


何度でも議論する。


だが。


フェイズアンカーを止める。


本星への裏切りはできない。


そんな事をすれば調査団全員が路頭に迷うことになる。帰る場所を失うのだ。


そんな選択肢はない。


セラとは改めて話そう。


感情的にならず。


落ち着いて。


きっと分かってくれる。


彼女は聡明だ。


感情だけで動く人間ではない。


必ず理解してくれるはずだ。


レオンはスクリーンに映る広がるアニマを見つめた。


そして自然と、もう一人の顔が浮かぶ。


リナ。


胸の奥が少しだけ重くなった。


残念だった。


本当に残念だった。


調査団の仲間だ。


帰りたいという気持ちも理解できる。


だが、やってはいけないことをやった。


だから拘束するしかなかった。


もし。


もしリナが地球へ情報を流していなかったら。


セラはあそこまで追い詰められなかったのだろうか。


地球の介入が確実になったからこそ、彼女は焦った。


アニマが変わってしまう未来を現実として突きつけられたからこそ、あんな提案を口にした。


そう考えることもできる。


だが。


レオンは首を横に振った。


違うな。


たぶん違う。


リナが何もしなくても、いつか同じ問題は表面化していた。


遅いか早いかだけだ。


この星系を発見した時点で。


アニマの存在を知った時点で。


誰かが向き合わなければならない問題だった。


結局、自分たちは選ばなければならない。


人類の繁栄と。


アニマの未来を。


両立できる方法があるなら、それが一番いい。


だが、そんな都合の良い答えがあるとは到底思えなかった。


レオンは目を閉じる。


そして誰にも聞こえない声で呟いた。


「本当にないのか……?」


それはセラに向けた言葉ではなかった。


自分自身への問いだった。


もし第三の道が存在するなら。


自分はそれを選びたい。


だが指揮官である以上、存在するか分からない希望に全員の運命を賭けることはできない。


だから今日もレオンは現実を選ぶ。


心のどこかで、別の答えを願いながら。


GC320.9.27


ミレイは黙ってセレナの話を聞いていた。


表情は硬い。


いつもなら何かしら口を挟むはずなのに、今日は最後まで黙っていた。


セレナが話し終えると、重い沈黙が落ちた。


フェイズアンカーを停止させる。


元々はミレイがセレナに訴えた件ではある。


あの時はやや感情的になっていたかもしれない。


そんな事できるはず無いと心の中では理解した上での発言だったのだ。

 

だが、今それをセレナが話す意味はあまりにも大きい。


フェイズアンカーは火星とこの星系を結ぶ唯一の道標だ。


完全にリンクが切れれば、フェイズアンカーを利用したワープができなくなる。


もちろんおおよその座標は分かっているため、いずれ到達するかもしれない。ただし、遠く離れた場所にピンポイントでワープする技術は無い。

ワープにはフェイズアンカーが必須なのだ。


宇宙は広大だ。


星間航行において仮に数光年という距離であっても、それは絶望的な距離となる。


フェイズアンカーがなければ、再びこの場所へ到達するのは極めて困難になる。


数百年。


あるいは永遠に。


人類はこの星系を見失うかもしれない。


ミレイはゆっくり息を吐いた。


「つまり……」


声が少し掠れていた。


「本当にやるなら、後戻りはできないってことですね」


セレナは静かに頷く。


「そうなるわ」


「地球も火星も来られなくなる」


「可能性は大きく下がるわね」


ミレイは唇を噛んだ。


それはつまり。


自分たち自身も帰れなくなるということだった。


「その先、私達はどうやって・・・」


ミレイは視線を落とした。


「プラントの設備を使えばここに拠点を築くことができるわ」


アニマを守りたい。


その気持ちは自分も同じだった。


この世界を知れば知るほど、その価値は分かる。


失われてほしくないとも思う。


だが――。


「艦長はどう考えてるんですか?」


その質問に、セレナは少しだけ目を伏せた。


「レオは・・・反対するわね」


ミレイは顔を上げる。

それ以上聞くつもりは無かった。


「フェイズアンカーのマナドライブを停止させるには直接行く必要があるの」 


セレナは続ける。


「私が行きたいけど、プラントのマナドライブでアンカーのマナに干渉する必要があるの」


静かな声だった。


皆に気付かれないようにフェイズアンカーに近づくためにはプラントのマナドライブから干渉が必要だ。以前からセレナはプラントのマナドライブがフェイズアンカーのマナドライブに干渉可能である事に気づいていた。

何故こんな事ができるのかは分からない。


ミレイは理解した。


つまり。


最も危険な計画を提案している本人は、その場に行けない。


行かないのではない。


行けないのだ。


プラントから離れれば作戦そのものが成立しない。


だから現地へ向かうのは別の誰かになる。


「それで私なんですね」


その事実が急に現実味を帯びる。


「私に出来るでしょうか?」


危険で、無謀な反乱。


ミレイはセレナを見つめた。


彼女の表情は真剣だった。


感情だけで話している顔ではない。


本気で考え抜いた顔だ。


だからこそ余計に怖かった。


「こんな危険な事……」


セレナは小さく首を振る。


「あなたにしか頼めない」


セレナにしても苦渋の決断だった。もし発覚すればミレイも拘束されてしまう。


再び沈黙。


ミレイは胸の奥がざわつくのを感じていた。


「やります」


ミレイもアニマに魅せられた1人である。セレナと同じく人類の介入はあるべきではないと思っている。


これは間違った選択だ。


解っている。


ミレイは目を閉じた。


これは調査団全員に対する、そして人類に対する反逆行為である。


常軌を逸してる。


しかし、セレナの覚悟を聞いてミレイの迷いは消えた。


「……私がやります」


もし失敗したら・・・


ミレイはわかっている。リナは拘束されたのだ。


セレナはミレイをジッと見つめる。


やがて小さく息を吐く。


「責任は取るつもりよ」


淡々とした声だった。


だからこそ重かった。


「成功にせよ失敗にせよ私たちは帰れなくなる」


「そうですね」


ミレイはセレナの目を見た。


セレナの眼差しは真剣だ。


そして静かに言った。


「本当に正しいかなんて分からない」


「でも、こうしなかったら後悔する気がするの」


その言葉だけは。


理屈ではなく、心から出たものだった。


GC320.9.29


ステラ・ヴィアの艦橋には、いつもと変わらない空気が流れていた。


各コンソールでは乗員たちが業務を続け、航行システムや観測データが静かに更新されている。


平穏そのものだった。


レオンは端末から視線を上げた。


「ルカの体調が悪いみたいだな」


シグが手元のデータを確認しながら答える。


「検査データ上は特に異常ありません」


少し間を置いて続けた。


「精神的な疲労でしょう。星域への長期滞在も予想以上に長引いていますから」


「そうか」


「本人は大丈夫だと言っていましたが、とりあえず自室で休ませています」


レオンは頷いた。


無理をさせるつもりはない。


調査団に選ばれるメンバーはそれぞれ優秀な人材ばかりだ。


だが優秀な人間ほど、自分の限界を認めたがらないことがある。


ふと視線を向ける。


本来ルカが座るはずのセンサー席には、今日はアイリが座っていた。


まだ少し慣れない様子でコンソールを操作している。


アイリは心配そうに言った。


「大丈夫でしょうか……」


マルコが肩をすくめる。


「あいつは真面目だからな」


少し苦笑する。


「色々抱え込んで爆発しちゃったのかもしれないな」


アイリは困ったように笑った。


「爆発って……」


「人間はな、そんなつよくないんだよ」


マルコは端末を閉じる。


「ルカは変に真面目なんだ」


「マルコさんとは違いますね」


アイリがクスクスと笑っている。


「俺だって真面目だよ。ちゃんと息抜きして溜めないようにしてるだけさ」


マルコが笑いながら言った。


「息抜きはしたはずなんだけどな」


マルコはアイリを見て言った。


「コッソリ来るのは禁止です。ちゃんとした手順を踏んでからにして下さい。恥ずかしかったんですから」


アイリは顔を真っ赤にして俯く。


「コッソリ行くのが男のロマンなのさ。そうだよな?ノア」


「その通りであります」


ノアは目を逸らしながら真面目に答える。

 

ルカは誰よりも仕事熱心だ。


そして疲れていることを周囲に見せない。


「しばらく休めば元に戻るさ」


マルコはそう言った。


だがレオンは少しだけ考え込む。


本当にそれだけだろうか。


この星系に来てから、乗員たちは少しずつ変化している。


帰還の問題。


地球との関係。


最近ではリナの件もあった。


誰もが平静を装っている。


だが見えないところで疲労は積み重なっているはずだった。


レオン自身も例外ではない。


シグも同じだろう。


おそらくセレナも。


「……何とかしないとな」


レオンが呟く。


するとマルコが笑った。


「まず早く帰れることを祈りましょう、艦長」


艦橋に小さな笑いが起きる。


その時だった。


アイリが眉をひそめる。


「ん?」


「どうした?」


レオンが尋ねる。


アイリはコンソールを確認する。


「いえ……」


少し首を傾げる。


「気のせいかもしれませんけど、フェイズアンカー側のマナドライブ出力が一瞬だけ揺れたような……」


シグが即座に端末を開く。


「異常値か?」


「もう消えてます」


数秒後。


シグは首を振った。


「記録にも残っていません」


マルコが笑う。


「ルカの仕事を代わった初日から幻覚か?」


「違います!」


アイリが慌てて否定する。


艦橋に少しだけ和やかな空気が戻る。


だが。


誰も気づかなかった。


遥か彼方のプラント深部で。


セレナがプラントのマナドライブによる干渉を続けていることを。


アイリがセンサー画面を見つめたまま声を上げる。


「フェイズアンカーのセンサーに反応があります」


レオンが即座に顔を上げた。


「なんだ?」


アイリはデータを拡大する。


「小型機です。識別信号は……リムですね」


「リム?」


マルコも端末を覗き込む。


「一機だけです。フェイズアンカー外壁に取り付いています」


レオンの表情が険しくなった。


「誰だ?」


マルコは通信ログと機体情報を照合する。


数秒後、首を横に振った。


「妙ですね」


「どうした?」


「リムは無人です」


艦橋の空気が変わった。


アイリが驚く。


「無人?」


「コックピット生命反応なし。遠隔操縦信号も確認できません」


マルコは眉をひそめる。


「応答もありません」


レオンは立ち上がった。


無人機がフェイズアンカーに張り付いている。


フェイズアンカーにトラブルは無い。レオンは作業を指示していない。


リナの件があったばかりだ。


偶然で済ませるには不安要素が多すぎる。


「誰かがフェイズアンカーの内部に入ったのか?」


マルコが肩をすくめる。


「可能性はありますね。外壁に接続した後、ハッチを使ったならセンサーでは追えません」


シグが静かに言った。


「最悪の可能性も考慮すべきです」


レオンも同じ結論に達していた。


フェイズアンカーが停止するという事態が頭をよぎる。


フェイズアンカーは人類の生命線だ。


何か起きれば計り知れない損害だ。


「まずいな」


レオンは即座に決断した。


「見てこよう」


そしてシグを見る。


「来れるか?」


シグは既に立ち上がっていた。


「了解です」


迷いはない。


むしろ最初から同行するつもりだったように見える。


レオンは頷いた。


「武装は?」


「標準装備で十分でしょう」


「そうだな」


二人は足早に艦橋出口へ向かう。


その途中でレオンが振り返った。


「マルコ、アイリ」


「はい」


「引き続き観測頼む」


マルコが軽く手を上げる。


「任せてください」


アイリも真剣な表情で頷く。


「フェイズアンカー周辺の全センサーを監視します」


「何かあればすぐ連絡を」


「了解」


レオンとシグが艦橋を後にする。


扉が閉まる。


その瞬間、先ほどまでの会話の雰囲気は完全に消えていた。


アイリは改めてセンサー画面を見つめた。


フェイズアンカー。


その外壁に張り付く一機のリム。


動かない。


フェイズアンカーはステラ・ヴィアのすぐ近くに設置してあるのだ。何故今まで気づかなかったのか。


アイリは無意識に呟く。


「なんだろう……」


マルコも珍しく笑っていなかった。


「嫌な予感がするな」


光学センサー画像では、特に何も起きていないように見える。


フェイズアンカー管制室。


本来この施設は無人運用を前提として設計されている。


管制室と呼ばれてはいるが、実際には広くない。


数人が入れば窮屈になる程度の空間。


壁面には状態モニターが並び、中央には制御コンソールが設置されている。


ミレイはその前に立っていた。


手のひらに汗が滲む。


何度もシミュレーションした。


セレナから説明も受けた。


やるべきことは理解している。


だが理解していることと、実際に実行することは違う。


フェイズアンカーを停止する。


その意味を考えるたびに胸が重くなった。


ミレイはポケットに触れる。


そこには小さなメモリーチップが入っていた。


ここへ来る前。


出発直前にメイから渡されたものだ。


あの時のことを思い出す。


「これ」


メイは何気ない調子でチップを差し出した。


ミレイは首を傾げた。


「何?」


「アンカーのセキュリティ対策」


さらりと言った。


「これを使えば一時的に麻痺させられるよ」


ミレイは思わず固まった。


「え?」


「でも時間はそんなにないから気をつけてね」


まるで昼食の話でもしているような口調だった。


「ちょ、ちょっと待って!」


メイは振り返る。


ミレイは混乱していた。


なぜ知っている。


誰にも話していないはずだ。


セレナと自分だけの計画だったはずだ。


「どうして知ってるんですか?」


メイは少し考える仕草をした。


「どうしてだろうね」


「誤魔化さないで」


「まあ色々?」


余計に怪しい。


ミレイは真顔になった。


「もしかして最初から全部知ってたんですか?」


メイは笑った。


否定もしない。


肯定もしない。


それが余計に恐ろしい。


そしてミレイは一番気になっていたことを尋ねる。


「メイさんは……味方なんですか?」


その瞬間。


メイは片目を閉じた。


そして唇の前に人差し指を立てる。


「ひみつ」


いたずらっぽい笑顔。


それだけだった。


結局何も教えてくれなかった。


味方なのか。


敵なのか。


あるいはどちらでもないのか。


今でも分からない。


だが一つだけ確かなことがある。


このメモリーチップがなければ、ここまで来ることはできなかった。


ミレイは小さく息を吐いた。


そしてチップを取り出す。


コンソール側面の保守スロットへ挿入した。


数秒後。


画面が切り替わる。


《管理者権限取得》


《セキュリティレイヤー停止》


《停止猶予時間 14分32秒》


数字を見た瞬間、背筋が冷えた。


十四分。


思ったより短い。


副艦長が言っていた通りだ。


時間との勝負になる。


ミレイは通信端末を起動する。


「こちらミレイです」


通信の向こうでノイズが走る。


そしてセレナの声が聞こえた。


『接続確認』


「セキュリティ突破しました」


『予想より早いわね』


「メイのおかげです」


通信の向こうで、一瞬だけ沈黙が生まれた。


『……そう』


その反応にミレイは少し違和感を覚える。


まるで驚いていない。


まるで最初から予想していたような。


だが今は考えている余裕はなかった。


『アンカー制御中枢への接続を開始するわ』


「了解」


モニターに次々と情報が流れ始める。


フェイズアンカー。


人類とこの星系を結ぶ唯一の架け橋。


その心臓部へ、セレナの干渉が始まる。


ミレイは無意識に拳を握った。


もう後戻りはできない。


そしてその時。


管制室入口の警告灯が、一瞬だけ赤く点滅した。


《外部アクセス検知》


ミレイの顔から血の気が引く。


見つかった?


でもここまでよく持ったほうかな。


残り時間は十三分を切っていた。


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