第10章
GC320.7.25
管制室の照明は落とされたまま、機器の光だけが静かに明滅している。
低く一定の振動音が、施設全体の鼓動のように響いていた。
その中央で、セレナはゆっくりと意識を戻した。
マナドライブとの接続を、完全に断つことはしない。
深く潜っていた意識を、表層へと引き上げる。
それでもなお、感覚の一部は向こう側に残っている。
星系に満ちる流れの名残が、微かに指先に触れているようだった。
小さく息を吐く。
「……」
言葉がすぐには出てこない。
背後で足音が止まる。
ミレイが、少し遠慮がちに声をかけた。
「副艦長、大丈夫ですか?」
その声音には、心配と好奇心が半分ずつ混じっている。
セレナは数秒だけ沈黙してから、ゆっくり振り返った。
「……見たわ」
短い一言。
けれど、それだけで空気が変わる。
「アニマ」
その名を口にした瞬間、さっきまで見ていた光景が、鮮明に蘇る。
ミレイの目が、はっきりと見開かれた。
セレナはコンソールに手を置いたまま続ける。
「プラント級のマナドライブが、こんなに凄いとは思わなかった」
視線は、今いる場所ではなく、どこか遠くに向いている。
「正直……想像してたのと全然違う」
少しだけ苦笑する。
「あなたに見せてあげられないのが惜しいわね」
ミレイは一歩近づいた。
抑えきれない興味が、そのまま態度に出ている。
「えー、どんな感じなんですか?」
セレナは少し考える。
言葉にしようとすると、どうしても足りない。
「……惑星そのものを、なぞる感じかしら」
慎重に言う。
「観測っていうより……接続に近いわね」
ミレイは息を呑む。
セレナは続ける。
「環境がそもそも地球と似ているからかしらね」
記憶を辿るように、ゆっくりと。
「植生が……似てるの」
「形は違うのに、結果としては同じように見える」
ミレイはすぐに頷いた。
「なるほど……」
思考が一気に回り始める。
「地球でも、接点が無いにも関わらず似たような進化を遂げる例はありました」
少しだけ身を乗り出す。
「収斂進化ですね」
セレナが小さく頷く。
ミレイはさらに続けた。
「それが宇宙規模で実証されれば……」
一度言葉を切る。
「確かにテラⅡでも似たような報告がありました。ただ、ろくな検証もせずに惑星改造に踏み切りましたから。」
ミレイの言葉に力が入る。
「テラⅡなんて名前は人類の傲慢の象徴です」
声に抑えきれない熱がこもる。
観測主任としての本能が刺激されていた。
だがセレナは、少しだけ現実に引き戻す。
「でも、あくまでマナで見ただけだから何とも言えないわ」
静かに言う。
「視覚情報じゃない。感覚に近いものよ」
「解釈を間違えれば、いくらでも歪む」
ミレイもすぐに頷いた。
「確かに……データとしては弱いですね」
それでも――
セレナは、もう一度小さく呟く。
「アニマ……」
その名前を口にするだけで、胸の奥が少しざわつく。
「こんな貴重な惑星が」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「今後、見つかる保証はないわ」
本格的な外宇宙探査歴150年で地球型惑星2つ発見というのは、当初想定されていたよりも多いともいえる。しかし今後もそれに続くとは思えなかった。
環境。
生態系。
そして、あの“感触”。
ミレイも、今度は軽くではなく、はっきりと頷いた。
管制室に静かな沈黙が落ちる。
機械の音だけが、規則正しく響いている。
二人とも、同じ事を考えていた。
あの星は――
人類が踏み込むべきではない。
GC320.7.27
ブリッジの照明は通常よりも一段落とされ、各コンソールの光だけが静かに浮かび上がっていた。
機器の低い駆動音と、時折流れるステータス更新の電子音が、閉じた空間に規則的なリズムを刻んでいる。
ステラ・ヴィアは依然としてフェイズアンカーの近傍に静止したままだ。星系を孤立させない為、フェイズアンカーの側から離れられない。
レオンは艦長席に深く腰を沈め、肘掛けに腕を預けたまま組んでいる。
視線は正面スクリーンを向いているが、その焦点は明らかに別の場所――思考の奥底にあった。
しばしの沈黙の後、ふと口を開く。
「我が副艦長が、あの惑星に御執心のようだよ」
軽く流すような言い方。
しかし、その声の奥には微かな探りが混じっていた。
シグが手元の端末操作を止め、ゆっくりと顔を上げる。
「でしょうね」
短く、だが迷いのない返答。
「むしろ、あれを見て何も感じない方が不自然でしょう」
続けて、淡々と付け加える。
その横で、イーサが腕を組みながら静かに頷いた。
「確かに、貴重な惑星ではある」
視線を落とし、言葉を選ぶ。
「研究者としては……テラⅡの二の舞にはして欲しくないな」
その一言で、空気の温度がわずかに下がる。
単なる感想ではない。
過去への明確な警戒だ。
シグが小さく肩をすくめる。
「でも本星は、惑星改造する気満々でしょうね」
少し皮肉を含んだ口調。
ヴァルグレンは明言していないが、対応を見ていれば雰囲気は伝わってくる。
端末を軽く叩きながら続ける。
「都合のいい環境があれば、使わない理由がない」
それは非難というより、現実認識だった。
一拍、間が空く。
レオンはその間を測るように、ゆっくりと息を吐いた。
「火星では最近、拠点移転の議論が出ているらしい」
その言葉に、二人の視線が自然と集まる。
レオンは姿勢を変えず、淡々と続けた。
「火星も惑星改造を行ったが……やはり低重力というのは大きな壁だ」
指先で肘掛けを軽く叩く。
「大気が定着しない」
「維持し続けるには、常に補填と制御が必要になる」
イーサが即座に応じる。
「重力制御で惑星全体をカバーするのは、理論上は可能でも現実的じゃない」
少し前に出る。
「エネルギー効率が悪すぎる上に、どこか一箇所でも破綻すれば連鎖的に崩れる」
さらに静かに付け加える。
「長期安定性という意味では、根本的な解決になっていない」
レオンは小さく頷いた。
「そうだ」
短く肯定する。
「そこで白羽の矢が立ったのが、テラⅡなのだが……」
一瞬だけ視線を落とし、かすかに苦笑する。
「地球統合政府との軋轢で、思うようにいかないみたいだ」
言外に含まれるものは多い。
政治。利権。主導権。
シグが鼻で軽く笑う。
「まあ、当然でしょうね」
「テラⅡは火星連合評議会と地球統合政府両方が権益を持ってますからね。」
肩をすくめる。
「むしろ警戒されて然るべきです」
イーサも静かに同意する。
「地球統合政府は簡単に手放さないだろう。資源として価値が高いからな」
設立から現在に至るまで、火星連合評議会は地球統合政府の影響下にある。外宇宙探査を主導しているのは火星連合評議会だが、依然として地球と火星は共依存関係にあった。
レオンはその言葉を受け止めるように、わずかに目を細めた。
そして、ゆっくりと続ける。
「そんな折に、今回の惑星発見だ」
声は落ち着いているが、重みが増す。
「地球統合政府の影響を何としても排除したい上層部としては渡りに船ということだ」
ほんの一瞬、間を置く。
レオンはゆっくりと背もたれに体重を預け、視線をわずかに上へ向けた。
「火星連合評議会にとって、居住可能惑星の確保は特別な意味を持つ」
ブリッジに静かな沈黙が広がる。
「何としても早急に航路を構築したいだろう。今回みたいな強硬策をとってもな」
太陽系から遠く離れた未踏の星域。
豊富な資源。
そして――居住可能な地球型惑星。
シグが低く呟く。
「……次はどう動きますかね」
レオンは小さく頷く。
「とにかく調査団派遣を急ぎたいだろう」
調査団の分散派遣。次の調査団がいつ出発するのかはOEDから追って連絡が入るだろう。もしかすると、既に出発しているかもしれない。
イーサも腕を組み直し、視線を落としたまま言う。
「このままいけば、惑星はマーズⅡになるのだろうな。いち研究者としては副艦長の意見には賛成だ。だが、人類の一員としては不正解なんだろう」
冷静な分析だった。
善悪ではない。
レオンはその言葉を否定しなかった。
むしろ、ゆっくりと目を閉じる。
数秒の沈黙。
そして、静かに目を開いた。
「そうだな」
低く、しかしはっきりと。
「このままだと」
ほんのわずかな間。
調査団がどのような構成になるかは分からない。最悪や場合、調査団到着をもってステラ・ヴィアが排除される可能性もある。
「捨て駒にされる可能性もある」
その言葉は、驚くほど淡々としていた。
だが、重かった。
シグは即座に否定しなかった。
それが答えでもあった。
代わりに、短く息を吐く。
「……可能性、じゃ済まないかもしれませんね」
その声音には、これまでとは違う硬さがあった。
シグがわずかに口元を引き締める。
イーサも何も言わない。
レオンは指先で肘掛けを軽く叩きながら、淡々と続ける。
「問題は――次の調査団が到着した時にどうなるかだ」
視線は正面のまま動かない。
「第一陣の調査団。どのくらいの規模だったかは知らんが、少なくとも“軍艦”が派遣されていた」
その事実だけで、性質ははっきりしている。
「調査団が到着するまでは、俺達は“ここにいてもらわないと困る存在”だ」
わずかに間を置く。
「そして俺達は、“事故”も“惑星の実態”も知っている厄介者だ」
レオンは軍人である。本星の不利益になる行動は取るつもりはないが、この恒星系を確実に勢力下に置くまでは予断を許さない状況ではある。万が一地球統合政府に情報が漏れると厄介である。そして秘密の漏洩を防ぐには最も手っ取り早い方法があるのだ。
シグが目を細める。
レオンは短く答える。
「それに、第一陣が時間差で到着するかもしれん」
火星からの調査団の第一陣はワープに失敗した。実際到着したのはボロボロの軍艦1隻とマナドライブ製造設備だけだった。しかし全てが失敗したと決まった訳ではない。
レオンはしばらく黙っていた。
思考を言葉にする前に、一度“現実”の形に整えているようだった。
やがて、低く、はっきりと口を開く。
「何にしても、政治の駆け引きの駒として死ぬのはゴメンだ」
その言葉には、感情はほとんど乗っていない。
ただ事実としての拒絶だけがあった。
「できれば――帰れる状況を作りたい」
短く続ける。
「命令違反で勝手に帰っても、俺達に未来は無いからな」
シグが目を細める。
「……どうするつもりです?」
レオンが答える。
「どこかのタイミングでマナドライブ製造設備の存在を開示する。時間差で到着したとか、理由は何とでもなるさ」
一呼吸置く
「もし俺達の立場が危なくなるようなら破棄するだけさ」
シグが頷く
「上手くいきますかね」
レオンは天井を見上げながら答える。
「わからん。しかし、プラントが中央の制御を離れた状況で俺達に握られているのはマズい状況だからな。帰還の理由には十分だろう」
スクリーンの先にあるのは、まだ誰のものでもない星。政治的な思惑が見え隠れする中、レオン達にとっては生きて帰るための交渉戦だった。
GC320.8.6
セレナはここ数日、ほとんどの時間をマナドライブとの接続に費やしていた。
最初は恐る恐る触れていたが、今では呼吸の延長のように感じられる。
意識を沈めれば、すぐにそこに届く。
マナドライブ製造設備は、驚くほど順調に稼働していた。
停止していたとは思えないほど、各システムは滑らかに連動している。
その中心にいるのは、間違いなくセレナだった。
「……これ、私が動かしてるのよね?」
思わず呟く。
制御パネルに表示されるコード群。
再構築された制御フロー。
こんな知識をどこで覚えたのか、オスカーが
マナリンクへの依存を切り離し、半自律稼働するように組み替えられたシステム。
「こんなのはな、ちょっと興味があれば分かるもんさ」
オスカーは言う
オスカーはマナドライブ製造技師を目指していた時期があったようだ。しかし学校は中退したらしい。
しかし、ここまでシステムを理解していること自体、学校中退レベルではないような気がするのだが、深く詮索するのは止めよう。色々あったのかもしれない。
「……動いてれば問題ないわ」
小さく息を吐くが、不安よりも先に来るのは高揚だった。
マナドライブの製造ライン自体は、まだ完全ではない。
本来は多くの技術者が動かすものだ。いくらオスカーが凄腕の裏技を持っていたとしても設備を動かすのは不可能だ。
しかし、それ以上に重要なのは――
「生活系、ほぼ全部生きてるじゃない」
食料プラント、環境制御、居住ブロック。
すでに一つの都市として機能している。
さらに調査を進める中で、セレナは思わぬ発見をする。
「医療区画……?」
表示を切り替えると、詳細な設備リストが並ぶ。
再生医療ユニット。
細胞再構築装置。
ナノレベルでの組織修復システム。
「ここまで揃ってるの……?」
思わず息を呑む。
単なる作業プラントではない。
長期滞在、あるいは“完全な自給自足”を前提とした設計だ。
「さすがプラントね」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく零れた。
巨大なプラントを運用する為には必要な設備なのだろう。しかしその規模はそのまま拠点と呼んでも差し支えないものだった。
「このままここで生きていけるわ」
呟きはセレナの無意識な感想だった。
再び意識を沈める。
マナの流れが、静かに広がっていく。
星系全体へと。
視界が変わる。
物理的な視覚ではない。
だが確かに“見えている”。
アニマ。
青と緑が混ざり合う、美しい惑星。
大気の流れ。
海の揺らぎ。
生命の気配。
四足歩行の生物が、大地を駆ける。
樹木のような植生が風に揺れる。
「……やっぱり、似てる」
地球と。
だが、完全に同じではない。
骨格の構造。
動きのリズム。
微妙な“違和感”。
それでも、全体としては驚くほど近い。
環境が似ていれば、生命も似た形に落ち着く。
理論としては知っていた。
美しい。
純粋に、そう思った。
時間を忘れる。
ただ見続ける。
感じ続ける。
「私が守らないと」
気がつけば、どれくらい経ったのか分からない。
意識を戻した瞬間、身体の重さが一気にのしかかる。
「……っ」
軽くふらつく。
指先が震える。
長時間の接続は、確実に身体を削っていた。
「やっぱり……きついわね」
苦笑する。
だが――
それでも。
「……でも、私がやらないと」
疲労の奥にあるのは、明確な充実感だった。
未知に触れている実感。
理解が広がっていく感覚。
制御卓の前で、セレナはわずかに肩を落としていた。
意識はまだマナドライブの深層に引きずられている。
現実に戻ってきているはずなのに、どこか焦点が合っていない。
その様子を、少し離れた位置からオスカーが眺めていた。
「……なあ、副艦長」
軽い調子で声をかける。
「ちょっと休め」
セレナは反応が一拍遅れた。
「え……?」
ゆっくりと振り返る。
「大丈夫よ」
その返答に、オスカーは即座にため息をついた。
「ダメな奴は大抵そう言うんだ」
間髪入れず、少し強めの口調。
「碌に食べてもいないんだろ?やつれてるぞ」
そう言うと、懐から何かを取り出し、無造作に放り投げた。
「ほら」
セレナは反射的にそれを受け取る。
「……何これ?」
手の中に収まったのは、無機質なパッケージ。
〝ニュートリバー・β”
人類史上最も不味いと評判の軍用レーションだ
セレナはまじまじとそれを見つめる。
「食べ物……?」
少し不安そうに顔を上げる。
「美味しいの?」
オスカーは一瞬だけ間を置いてから、ニヤリと笑った。
「癖になる味だ」
「……本当?」
「栄養バランスは完璧だ」
答えになっていない。
セレナは苦笑しながら頷いた。
「ありがとう。あ、後で頂くわ」
そのまま端に置こうとする。
だが――
「後でじゃない」
オスカーの声が、少しだけ低くなる。
「とにかく一度ステラ・ヴィアに戻れ」
視線を外さずに続ける。
「ここは俺が見てるから大丈夫だ」
軽くコンソールを叩く。
「ここまで安定してりゃ問題ないだろ」
一拍置いて、少しだけ柔らかくなる。
「さすが副艦長だな」
その一言に、セレナはわずかに言葉を詰まらせる。
「でも……」
反射的に出た言葉。
まだやれる。
まだやらなければ。
その思考を、オスカーが遮る。
「戻れ」
短く、はっきりと。
「疲れてると正常な判断が出来なくなるもんだ」
視線を少しだけ逸らし、観察するように言う。
「肌も荒れてるし、クマもできてるぞ」
「えっ?」
セレナは思わず自分の頬に手を当てる。
「嘘?」
目の下を指でなぞる。
その仕草に、オスカーは吹き出した。
「ははは」
軽く笑う。
「鏡見てこいよ」
少しだけ間を置いて、改めて言う。
「とにかく、一度戻れ」
今度は先ほどよりも穏やかだが、揺るがない口調。
「お前が倒れたら、何かあった時に再起動できなくなる」
その現実的な一言が、静かに刺さる。
セレナはしばらく黙り込む。
視線を落とし、手の中のニュートリバー・βを見る。
そして、小さく息を吐いた。
「……分かったわ」
ようやく頷く。
「少しだけ、戻るわ」
オスカーは満足そうに頷いた。
「それでいい」
セレナはレーションを持ち直す。
「これ……本当に食べられるの?」
最後にもう一度だけ確認する。
オスカーは肩をすくめた。
「あ、ありがとう」
恐る恐る手の中のレーションを眺めながら、セレナは踵を返す。
出口へ向かうその背中を見送りながら、オスカーはぼそりと呟いた。
「……無茶しやがって」
そしてすぐに表情を切り替え、コンソールへ向き直る。
「さてと」
指が軽快に動き出す。
「副艦長のいない間に、やれることやっとくか」
プラントは静かに稼働を続けている。
その中心にあった緊張が、ほんのわずかだけ緩んだ。
セレナはステラ・ヴィアへと帰還した。
レオンに逢うのは、何日ぶりになるのだろうか。
指折り数えようとして、途中でやめる。意味がない。
ここ十日あまり、彼女はプラントに閉じこもり、昼夜の感覚すら曖昧なまま、マナドライブと接続し続けていた。
あの空間には、温度がなかった。
重力すら、意識しなければ消えてしまう。
肉体はそこにあるのに、自分がどこまで「自分」なのか分からなくなる――そんな感覚。
広がるのは、膨大な情報と、静謐すぎる意志。
星を動かすための理そのものに触れているようで、同時に、何かに溶かされていくようでもあった。
忙しさの中では、それでよかった。
余計な思考は削ぎ落とされ、ただ機能として存在すればいい。
だが――
プラントを離れた瞬間、急に「何か」が戻ってきた。
自分の身体の重さ。
呼吸のわずかな引っかかり。
そして、胸の奥に溜まっていたもの。
(……逢いたい)
唐突に浮かんだその言葉に、セレナは小さく息を飲む。
今まで考えないようにしていただけだ。
意識を向けた瞬間、それは抑えきれないほどの渇きになって溢れ出す。
レオンの体温。
指先の、あの不器用な触れ方。
言葉にしなくても伝わってくる、あの確かな存在。
思い出すだけで、胸が締め付けられる。
(どうして、今……)
分かっている。
あのマナドライブに触れたせいだ。
あまりにも巨大で、多くの情報に接続した反動。
だからこそ、自分を「人間」に引き戻す何かを、無意識に求めている。
――いや。
セレナは、かすかに首を振った。
違う。そんな理屈ではない。
ただ、逢いたいのだ。
探査艇のモニターに映るステラ・ヴィアが次第に大きくなっていく。
操縦桿を握る手に力が入る。
その先にいるはずの温もりを、確かめるために。




