第9章
ハッチが開くと、三人はゆっくりと管制室へ足を踏み入れた。
空間は思っていたより広い。
壁一面にコンソールが並び、いくつもの操作卓が半円状に配置されている。天井は高く、中央にはホログラム投影装置らしいリング構造が吊り下がっていた。
ただし、すべてが静かだ。
ディスプレイは暗く、椅子は整然と並んだまま。
人が慌てて逃げたような様子はない。むしろ、作業が途中で止まっただけのような整然さだった。
セレナが周囲を見回しながら言う。
「結構広いわね」
声がわずかに反響する。
オスカーが軽く鼻を鳴らす。
「軍艦に比べたらな」
壁際のコンソールをちらっと見る。
「だが施設の大きさと比べたら狭いもんだ」
巨大プラント全体から見れば、この部屋は頭脳というより神経節みたいなものだ。
本体はあくまで外の設備群だ。
セレナも頷いた。
「それはそうね」
視線を室内中央へ向ける。
そこには、少し変わった構造があった。
管制室の真ん中の一段高い場所に、小さな個室が設けられている。
管制室内を見渡せる位置だ。まるで指揮官席のような造りになっている。
オスカーが顎でそれを示した。
「だいたい重要な操作パネルは、プラント管理者の卓にあるからな」
歩きながら言う。
「たぶんあれだろう」
三人は中央の個室へ向かった。
近づくと、その造りがよく分かる。
内側に大型コンソール。
管理者用の椅子。
施設全体の状況を一望できる設計だ。
セレナがドア横のパネルを見る。
「……ここもロックなしね」
やはりだ。
オスカーは苦笑した。
「徹底してるな」
「というか、徹底してしてないな」
軽く肩をすくめる。
「まあいいさ」
「とにかく我々にとって楽なのは歓迎ですよ」
周囲を見渡しながらルカが言う。
セレナが操作パネルに手を触れる。
ロック確認。
やはり解除状態。
短い電子音とともに、個室の扉が静かに開いた。
三人は中へ入る。
中央卓のコンソールは、完全には落ちていなかった。
待機モードのようで、わずかな光がパネルの縁を走っている。
巨大プラントの心臓に、ようやく手が届く位置だ。
オスカーがゆっくり息を吐いた。
「さて」
コンソールを見下ろす。
「この工場がどれくらい生きてるか見てみるか」
中央卓のコンソールに、オスカーは迷いなく手を伸ばした。
指先でいくつかのパネルを叩き、端末を起動させる。
眠っていたシステムがゆっくり目を覚ますように、暗かったディスプレイに薄い光が走った。
画面の奥で、いくつものサブシステムがチェックを始める。
環境制御、構造安定、エネルギーライン。工場というのは、起き上がるだけでもやたら手順が多い。
オスカーは表示を流し読みしながら言った。
「やはりマナドライブは動いてないな」
当然だが、やはりそうだった。
「これが動かないとどうにもならん」
マナドライブはこのプラントの心臓だ。
魔力を流し、変換し、製造ラインへ送り込む中枢装置。これが止まれば、施設はただの巨大な箱になる。
オスカーは操作を続ける。
「セキュリティがかかってないといいんだけどな」
数秒、静かな時間が流れた。
セレナとルカは後ろから画面を見守っている。
やがて認証画面が一つ、二つと通過していく。
オスカーの口元が少し緩んだ。
「……ちょろいもんだな」
最後の確認画面が消える。
マナドライブの起動準備状態が表示された。
セレナは思わず画面を見直す。
「もう?」
オスカーは肩をすくめた。
「起動準備だけならな」
彼はコンソールから少し身を引いた。
「ここからは副艦長にやってもらわないとダメだ」
指で中央の起動パネルを示す。
「俺では魔術師レベルが足りなくて、プラントクラスのマナドライブを起動する事はできん」
マナテクノロジーの妙なところだ。
ボタン操作は技術者ができる。だが最後の起動は、魔術師の能力が必要になる。
セレナはパネルの前に立った。
「分かったわ」
少しだけ息を整える。
「どうすればいいの?」
オスカーは軽く笑った。
「簡単だ」
パネルの中央を指す。
「普通に起動させるだけだ」
セレナは一瞬ぽかんとする。
「そうなの?」
ほんの少し拍子抜けしたような声だった。
オスカーは腕を組んで言う。
「まあな」
少しだけ真面目な顔になる。
「だが、プラントクラスのマナドライブを動かせるヤツなんて、そういない」
実際、巨大設備のマナドライブを起動できる魔術師は限られている。
軍の中でも、専門職のさらに上の層だ。
オスカーは軽く顎をしゃくった。
「それだけで、ある意味十分なセキュリティになるさ」
鍵を複雑にするより、
そもそも鍵を回せる人間をほとんど存在させない。
文明というのは、案外そういう乱暴な設計で動いている。
セレナはコンソールの中央パネルに手を置いた。
待機していた表示が、静かに彼女の魔力を感知する。
巨大プラントの心臓が、
今まさに目を覚まそうとしていた。
オスカーは中央卓の横で腕を組み、コンソールの状態表示を眺めていた。
「副艦長はマナドライブだけ起動させればいい」
画面を指で軽く叩く。
「後は俺がやる」
プラントの制御は機械側の仕事だ。
人間がやるのは、心臓に最初の鼓動を与えるところまで。
セレナはパネルの前に立つ。
巨大施設の中央制御卓。その起動キーに相当する部分だ。
「マナドライブ起動させるわよ」
少しだけ息を吐く。
「……緊張するわね」
軽く苦笑する。
「私に出来るかしら」
オスカーが肩をすくめる。
「できるさ」
簡単に言う。
「できなきゃ、ここまで来てない」
セレナはゆっくり目を閉じた。
コンソールの表示を見ない。
こういう操作は、むしろ視覚を切った方がいい。
意識を内側へ向ける。
魔術師が巨大装置を起動するとき、やることは意外と原始的だ。
複雑な数式でも、長い呪文でもない。
扉を開けるイメージ。
セレナの意識は、マナドライブの奥へと触れていく。
施設の深部。
巨大な機関の中心。
そこにあるのは、マナコア。
セレナは心の中で、ゆっくりとその姿を描く。
厚い扉。巨大な門。
そしてその前に立つ、自分。
静かに、手をかける。
――開ける。
次の瞬間。
マナドライブの奥で、何かが解放された。
見えない流れが動き始める。
解放されたマナが、堰を切った水のように装置内部へ流れ込んでいく。
同時に、管制室のコンソールが一斉に反応した。
低い電子音。
暗かった表示が次々に点灯する。
オスカーが思わず笑った。
「来たな」
マナドライブの起動シークエンスが走り始める。
管制室の天井に吊られていたホログラムリングがゆっくりと回転を始めた。
中央空間に、巨大な立体投影が浮かび上がる。
プラントの全体構造。
マナ導管。
変換炉。
製造ライン。
エネルギーが流れ始めていた。
遠くで、巨大機械が目を覚ますような振動が伝わってくる。
工場全体が、長い眠りから起き上がろうとしている。
そして管制卓の中央に、仰々しい表示が現れた。
MANA DRIVE START SEQUENCE
カウントが始まる。
冷却系起動。
マナ調整。
導管同期。
まるで宇宙船のエンジン始動のような、重々しい手順が次々に進んでいく。
オスカーは画面を見ながら呟いた。
「……本当に動いたな」
巨大プラントの心臓が、
今まさに本格的に鼓動を始めようとしていた。
管制室のホログラムに、プラント内部のマナ流路が次々と光り始めていた。
青白いラインが、血管のように施設の各区画へ広がっていく。
巨大な機械がゆっくり息をし始めた、そんな感覚だった。
その様子を見ながら、オスカーの表情が急に引き締まる。
「……おっと、こいつは忘れちゃダメだな」
コンソールを覗き込み、すぐに指を動かした。
「マナリンクは切っておかないとな」
セレナが振り向く。
オスカーは画面を操作しながら続けた。
「マナドライブが動いた事が本星にバレちまう」
オスカーは楽しそうだ。
マナドライブは単独装置じゃない。
普通はフェイズアンカーや外部観測網とリンクして、状態を同期する仕組みになっている。
つまりそのまま動かせば――
外から丸見えになる。
オスカーの指が素早くコンソールを走る。
同期管理。
遠隔観測。
マナリンク。
一つ一つを切断していく。
「よし」
短い操作音。
「フェイズアンカーとの同期、オフ」
表示が灰色に変わる。
相対性理論が提唱されてから数百年経つが、現在でも「情報」や「物質」が空間を移動する速度としては、真空中の光速 が宇宙の絶対的な最高速度だ。しかし、人類はマナテクノロジーを利用してこの壁を越える事に成功している。
マナリンクと呼ばれるフェイズアンカーを利用した通信だ。これによりほぼタイムラグのない通信を可能にしている。太陽系から1500光年離れたこの宙域でも例外ではなかった。
巨大プラントは、今この瞬間から外部ネットワークから切り離された。
宇宙のどこにも存在しない、孤立した工場だ。
「何だかオスカーが凄く悪い人に見えますね」
ルカが笑いながら言った。
「こういうのは誰だって楽しいもんだろ」
オスカーは次の画面を呼び出した。
「次だ」
表示されたのはエネルギー系統。
セレナが画面を見る。
「まだ完全稼働じゃないの?」
オスカーが頷く。
「マナドライブはあくまで制御用だ」
中央の表示を指で叩く。
「主動力じゃない」
名前のせいで勘違いされるが、マナドライブは発電機ではない。エネルギー源として利用もできるが、常に高レベル魔術師が張り付いていなければならない。インフラとして利用するには危なすぎる。
オスカーが言った。
「融合炉を起動させるぞ」
少し肩を回す。
「でないとマナフィールドは使えない」
ルカが補足するように頷く。
「そうですね」
どんな機械も同じだ。
安定したシステムを動かすには物理エネルギーが必要になる。
オスカーがコンソールを切り替える。
画面に巨大な構造図が現れた。
プラントの下部区画。
そこに並ぶ円筒型の設備。
「主動力は核融合炉だ」
淡々と言う。
「どんな機械もマナドライブだけじゃ安定稼働できない」
マナは人間にとって非常に都合の良いものだったが、マナ理論発表から150年経ってもその本質が完全に理解された訳でない。基本的には謎エネルギーのままなのである。
オスカーが起動コマンドを入力する。
「融合炉起動」
数秒の沈黙。
そして――
遠く、施設の奥深くから低い振動が伝わってきた。
最初は小さい。
だが確実に大きくなる。
ホログラムのエネルギーラインが一斉に点灯した。
FUSION CORE IGNITION
管制室の照明が明るくなる。
停止していたコンソールが次々に起動していく。
施設全体に、電力が流れ始めた。
巨大プラントが、ようやく本当の意味で目を覚ました。
管制室の中央ホログラムに、プラント外周の構造図が表示されていた。
その周囲を、薄い光の層がゆっくり広がっていく。
オスカーが操作卓を叩く。
「よし」
「マナフィールド展開するぞ」
起動コマンドが走る。
その瞬間、施設の外壁に沿ってマナ導管が反応した。
見えないが確実に存在する力場が、プラントの周囲にゆっくりと広がっていく。
宇宙空間の中に、透明な殻が形成される。
マナフィールド。
宇宙放射線から巨大設備を守るための、防護フィールドだ。
ホログラム表示が緑に変わる。
FIELD STABLE
オスカーが満足そうに頷く。
「いいな」
次の表示を確認する。
「与圧も問題なさそうだな」
空調系のグラフが正常範囲に入っていた。
「与圧服は脱いでも大丈夫そうだ」
ルカが空気センサーを確認する。
「酸素濃度、正常」
「有害ガスなし」
セレナもゆっくりヘルメットを外した。
わずかに乾いた空気の匂いがする。
長く使われていない建物特有の、静かな空気だ。
オスカーはすでに次の画面を操作していた。
指が軽快にパネルを走る。
機械いじりをしている人間の顔というのは、妙に楽しそうになるものだ。
「あれ?」
少し声が弾む。
「これは凄い」
画面を拡大する。
「本格的な食料プラントもあるぞ」
セレナが覗き込む。
表示されていたのは巨大な水耕栽培区画。
培養槽。藻類生産ライン。栄養合成設備。
完全な閉鎖型農業システムだ。
オスカーが笑う。
「こいつはステラ・ヴィアよりよっぽど快適だな」
冗談ではなく、かなり本気の声だった。
プラントというのは、単なる工場ではない。
巨大な製造設備は、多くの人員を必要とする。
つまり――
一つの都市だ。
生活区画。
医療施設。
食料生産。
水再生。
宇宙で長期間稼働するために、完全な自活システムが備えられている。
ルカも画面を見ながら頷いた。
「数百人規模の運用を想定していますね」
「完全な居住設備です」
オスカーは操作を続けながら、ふと思い出したように言った。
「そうだ」
セレナを見る。
「俺達の中でプラント級のマナドライブを動かせるのは副艦長だけだ」
表示を切り替える。
マナドライブの状態は安定している。
「一度動けば、そう簡単には止まらんと思うが」
少し肩をすくめる。
「万一の事があったらマズいからな」
軽く顎で周囲を示す。
「副艦長はこっちにいた方がいいな」
そしてニヤリと笑う。
「艦長と離れるのは寂しいだろうがな」
セレナの顔が一瞬で赤くなる。
「だ、大丈夫よ!」
思わず声が上ずる。
「余計なお世話よ!」
顔を真っ赤にしたまま、視線をそらす。
管制室の静かな空気の中で、その反応は妙に目立った。
オスカーは声を上げて笑う。
「ははは」
手をひらひら振る。
「冗談だよ」
だが、その笑いの奥で彼はちらっとコンソールを見た。
巨大プラントの心臓は、今も静かに鼓動している。
宇宙のど真ん中で、
秘密の工業都市が動き始めていた。
探査艇が、ゆっくりとプラントの接舷桟橋から離れた。
外では、先ほど展開されたマナフィールドが薄い膜のように広がっている。
透明な殻の中で、巨大な工業都市が静かに動き始めていた。
その中に――今はセレナ1人だ。
マナドライブの状態は安定していた。
一度起動した巨大機関は、よほどの事がない限り簡単には止まらない。
それでも念のため、セレナが常駐する事になった。
探査艇は静かに加速し、やがてステラ・ヴィアの船影が視界いっぱいに広がる。
ドッキングを終え、三人はブリッジへ向かった。
レオンは腕を組んで、戻ってきた三人を見ていた。
オスカーが先に口を開く。
「副艦長は向こうに残した」
少し肩を回す。
「マナドライブは安定稼働してる」
レオンが頷く。
「そうか」
そして少しだけ笑った。
「そんなに快適なのか」
オスカーは苦笑する。
「正直言うとな」
「ステラ・ヴィアより生活環境は上だ」
ルカも小さく頷いた。
「完全な居住設備があります」
レオンは顎に手を当てた。
「長丁場になるからな」
窓の外の宇宙を一瞬見てから言う。
「使える物は利用させてもらうとしよう」
この宙域でいつまで足止めになるか分からない。
資源と設備は、多い方がいい。
オスカーはコンソールの端に腰を預けた。
「実際にプラントをフル稼働させるとなると、俺だけの手には余るがな」
少し笑う。
「でもまあ……まだ色々できそうな感じだ」
巨大設備というのは、触れば触るほど機能が出てくる。
完全に稼働するには、専門チームが必要だろう。
だが今は、そんな贅沢は言えない。
オスカーはふと真顔になった。
「でもどうするんだ?」
レオンを見る。
「調査団が来たら厄介な事になるぞ」
その可能性は高い。
必ず調査団は来る。
ここにはマナ製造設備は無いことになっているのだ。
レオンは静かに答えた。
「まだ当分先の事だろう」
声は落ち着いている。
「向こうからはどうせ確認できないからな」
そして淡々と言った。
「もし調査団が到着したその時は」
ほんの少し肩をすくめる。
「恒星に突入させて証拠隠滅するさ」
ブリッジに一瞬、静かな空気が流れる。
巨大プラント。
国家機密級の工業設備。価値は計り知れない。
オスカーは呆れたように笑った。
「せっかくのプラントがもったいないな」
技術者らしい反応だった。
国家秘密級技術の塊である。
それを簡単に燃やしてしまうのは、やはり少し惜しい。
だがレオンは、特に表情を変えなかった。
「命とは天秤にかけられないさ」
フェイズアンカーの近傍で静止している以上、ステラ・ヴィアの航行業務はほとんど発生しない。
艦橋の仕事は、定常監視と機器管理くらいになっていた。
レオンはその状況を見て、静かに判断を下す。
マナドライブ製造設備――あの巨大プラントを、少人数でも運用しておいた方がいい。
結局、数名がプラントへ常駐する事になった。
とはいってもステラ・ヴィアとプラント間は探査艇やリムでも1時間弱くらいの距離だ。目と鼻の先である。
操舵士のエヴァ。
観測主任のミレイ。
観測補助のアイリ。
通信補助のリナ。
そして艦橋システム担当のオスカー。
プラントの機構を一番理解しているのが、結局オスカーだったからだ。
準備をしていると、後ろから元気な声が飛んできた。
「私も行きたい」
メイだった。
腕を組みながら言う。
「あっちの方が快適なんでしょ」
ステラ・ヴィアはとりあえず不自由なく暮らせるとは言っても、あのプラントは小さな都市みたいな広さだ。快適性は比べるまでもない。
オスカーが振り返る。
そして、ため息を一つ。
「俺とお前が行ったら」
指で壁を軽く叩く。
「ステラ・ヴィアのシステム担当がいなくなるだろ」
艦内システムの保守は地味だが重要だ。
生命維持、制御系、通信ライン。宇宙船は放っておくとすぐ機嫌を損ねる。
オスカーは軽く笑った。
「たまに代わってやるから我慢しろ」
メイは一瞬だけ口を尖らせた。
それから大げさに敬礼してみせる。
「イエス、サー」
言いながら、わざとらしくそっぽを向く。
いかにも不満です、という態度だった。
オスカーは思わず笑う。
宇宙船というのは妙なもので、
何千トンもの機械が集まった塊なのに、最後は人間の機嫌で空気が決まる。
そしてその頃、巨大プラントの心臓部では――
セレナが一人、
静かに鼓動を続けるマナドライブを見守っていた。
マナドライブの中枢と接続したまま、セレナは静かに椅子に身を預けていた。
目は閉じている。
だが意識は、管制室にはなかった。
――不思議な感覚だった。
ただ機械を操作しているわけではない。
むしろ逆だ。
何か巨大なものに、触れている。
そんな感覚。
マナドライブを通じて、周囲に満ちるマナの流れが“知覚”されていた。
それは視覚でも聴覚でもない。だが確かに感じ取れる。
星系そのものが、ゆっくりと呼吸しているようだった。
これまで扱ってきたクラスとは、まるで違う。
「……こんなにも、凄いものなの?」
心の中で呟く。
「素敵」
これほど高度なマナコアを操作した経験は、セレナにはなかった。
高度な設備には高度で希少な天然物の中でもとびきりのマナコアが使用される。フェイズアンカーにも比較的高度な物が使用されるが、それよりも更にハイレベルな物である。一般的なマナコアとスケールそのものが違う。
意識をさらに深く沈める。
すると――
視界が、開けた。
それは“見る”というより、“接続する”に近い。
アニマ。
あの惑星の姿が、断片的に、しかし鮮明に浮かび上がる。
大地。
空。
流れる風。
そこを歩く影。
四足歩行の生物だった。
地球の動物にどこか似ている。
だが、決定的に違う。
骨格の比率。
動きのしなやかさ。
何より、その存在感。
同じ進化の延長には見えない。
セレナは息を呑む。
植生も見える。
広がる緑。
葉の形は違う。構造も違うはずだ。
それでも色は――緑だった。
「光合成……してるのかしら」
思考が自然に流れる。
恒星から光を受け、エネルギーに変える。
それは生命にとって、最も効率的な方法の一つ。
だから――
似るのか。
環境が似ていれば、
選ばれる形も、似てくる。
セレナの中に、一つの言葉が浮かんだ。
収斂進化。
異なる起源でも、
同じ環境に適応すれば、似た形に辿り着く。
宇宙規模でそれが起きている。
その事実が、ただただ圧倒的だった。
「……凄い」
思わず声が漏れる。
「……綺麗」
理屈ではない。
ただ、美しいと思った。
セレナは、しばらくその光景に見入っていた。
時間の感覚が曖昧になる。
自分がどこにいるのかも、一瞬わからなくなるほどに。
巨大プラントの中心で――
一人の魔術師が、
宇宙の生命の姿を、静かに見つめていた。




