第11章
GC320.8.7
柔らかな静寂が、部屋全体を包み込んでいた。
照明は落とされ、壁面に埋め込まれた間接光だけが淡く揺れている。
その光が、乱れたシーツや、まだわずかに熱を残す二人の肌を静かに照らしていた。
セレナはレオンの腕の中に収まり、ゆっくりと呼吸を整えている。
胸に耳を当てると、規則正しい鼓動が伝わってきた。
そのリズムに合わせるように、自分の呼吸も次第に落ち着いていく。
「……ねえ、レオ」
小さく呼びかける。
レオンはすぐに応じた。
「なんだ」
低く、穏やかな声。
「ちょっとだけ、このままでいていい?」
確認するような、甘えるような声音。
レオンは視線を落とし、彼女を見た。
「好きにしろ」
短い返事。
だが、その腕はわずかに力を強める。
それだけで十分だった。
セレナは安心したように、もう一度目を閉じる。
「……あったかい」
ぽつりと零れる。
「そうか」
「ええ」
少しだけ笑う。
「プラントにいるとね、ずっと“繋がってる”感じなの」
「でもこういうのとは違うのよ」
指先で彼の胸をなぞる。
「こっちは……ちゃんと現実って感じ」
レオンはしばらく何も言わなかった。
ただ、彼女の髪をゆっくりと撫でる。
その手つきは、不器用なようでいて優しい。
「まぁ確かに繋がってるな」
やがて、ぽつりと呟く。
セレナは真っ赤な顔で。
「そ、そういう意味じゃないのよ。そうかもしれないけど、違うの」
すぐに返すが、どこか弱い。
レオンはセレナの顔をじっと見つめる。
「いい顔だ」
「……バカ」
「間違ってないだろ?」
セレナは真っ赤になって少し黙る。
「……そうかも」
素直に認める。
そして、小さく息を吐いた。
「でも、これとは違うの」
「分かってる」
即答だった。
セレナは少し驚いたように顔を上げる。
「分かるの?」
「何となくだけどな」
レオンは視線を逸らさずに言う。
「お前、そういう顔してる」
「何それ」
少しだけ笑う。
「どんな顔よ」
「……夢中になってる顔だ」
その言葉に、セレナは一瞬言葉を失う。
それから、ふっと表情を緩めた。
「……ずるいわね」
「何がだ」
「ちゃんと見てるんじゃない」
レオンは肩をすくめる。
「見てないと困るからな」
当たり前のように言う。
セレナはその言葉を、しばらく噛みしめるように黙っていた。
やがて、再び彼の胸に顔を預ける。
「……ねえ」
少し間を置いて、静かに言う。
「私、あの星を守りたい」
レオンはすぐに答えなかった。
「見てるとね、すごく綺麗で」
「でも、それだけじゃなくて……」
言葉を探すように、ゆっくり続ける。
「“触れちゃいけないもの”みたいな感じがするの」
「壊したら、取り返しがつかない気がする」
部屋の空気が、少しだけ変わる。
甘さの中に、現実が入り込む。
セレナは小さく息を吸い、はっきりと言った。
「アニマに、人類は干渉すべきではない」
沈黙。
レオンは天井を見上げたまま、静かに息を吐く。
そして、低く答えた。
「あの星は、もう人類が見つけてしまった」
その一言で、流れが変わる。
「本星がどう考えてるかは分からないが……」
「意向には従うべきだ」
現実的で、冷たい判断。
セレナは何も言わず、続きを待つ。
「それに――」
レオンは少しだけ視線を落とす。
「俺達は、なるべく早くこの星系から離れるのがベストだと思う」
セレナがわずかに顔を上げる。
「……そんなに危険?」
レオンは迷わず答えた。
「危険だな」
そして、静かに続ける。
「火星連合評議会は、地球統合政府の干渉を受ける前に、この星系を掌握したいと考えている節がある」
「今だに火星は地球の影響下にあるってことだ。」
セレナの表情がわずかに曇る。
レオンはさらに言葉を重ねる。
「このまま留まれば、俺達はいずれ何らかの監視対象になる」
「あるいは――」
ほんの一瞬だけ間を置く。
「下手をすれば、消される」
その言葉は、あまりにも静かだった。
だからこそ、重い。
セレナはしばらく何も言わなかった。
外では何も変わらない。
状況も、危機も、そのまま進み続けている。
それでも――
この短い時間だけは、確かに二人のものだった。
GC320.8.8
メイがプラントの管制室ハッチを開ける。
内部の空気はわずかに乾いていて、機械の低い唸りが常に響いていた。
作業端末に向かっていたオスカーが顔も上げずに言う。
「お前はあっち――ステラ・ヴィアのシステム担当だろ」
「えー。だって来たかったんだもん。いいじゃん」
メイは軽い足取りで近づき、そのままオスカーの腕に絡みつく。
わざとらしく体重を預け、上目遣いで覗き込む。
「ね?」
「変な色目を使うな」
オスカーが軽く、しかし迷いのない動きで頭を小突く。
「いたっ」
メイは額を押さえながらも、まったく懲りた様子はない。
「大丈夫だよ。私こう見えても優秀だから。
ちょっといなくなるくらいでどうにかならないよ」
それは事実だった。
実際にメイが管理しているステラ・ヴィアの制御系は問題なく動作している。システム担当が常に常駐する必要はない。
だが――
「“ちょっと”で済まないから言ってるんだ」
オスカーが視線を上げる。
その目には、ほんのわずかな苛立ちが混じっていた。
メイは一瞬だけそれを読み取るが、すぐにいつもの調子に戻る。
「で、問題なしってことで!」
「話をすり替えるな。艦長には言ってきたのか?」
「まだであります。サー・オスカー」
メイはぴしっと敬礼してみせるが、口元は完全に笑っている。
「代わりに連絡お願いします。てへ」
「“てへ”じゃないバカヤロウ。自分で言え」
オスカーは間髪入れずに返す。
だが声の強さほど、本気で突き放しているわけではない。
「嫌。怒られる」
メイは即答する。
オスカーはため息をひとつ。
短く、だが深い。
「……俺が用事があって呼んだことにしてやる」
メイの表情がぱっと明るくなる。
「ありがと。愛してる」
くるりと身を離し、わざとらしく投げキッス。
オスカー
「ふん、報告は自分でしろよ」
鼻で笑うように返しながらも、完全には無視しない。
メイは満足げに背を向け、メインコンソールへ近づく。
メイの視線が、ふと一つのログに引っかかる。
指先でスクロールを止め、目を細めた。
「……ん?」
「これ知ってる」
少しだけ声のトーンが落ちる。
さっきまでの軽さが、ほんの一瞬だけ消えた。
「重要インフラとかに、たまに付いてるやつ」
メイはコンソールを指で叩く。
「マナリンク自動再接続プログラムだよ」
「……なんだそれは?」
オスカーは怪訝な表情を浮かべる。
「もちろん名前の通りだよ。」
メイはオスカーを見る。
一拍。
「何だと? そんなの聞いたことないぞ。
それにマナリンクは――」
「“切れてるように見えてるだけ”」
メイはあっさりと言い切る。
「これ、結構深い所に仕込まれてるんだよ。
表のインターフェースじゃ絶対見えない」
指先が高速で走る。
ログ、サブプロセス、監視フラグ――層を剥がすように潜っていく。
「ほらね」
表示されたのは、微弱だが確かに存在するリンク信号。
「細ーく、ずっと繋がってる」
オスカーの表情が険しくなる。
「こんなシステムが組まれてたのか」
重要な施設において、マナリンク切断を防ぐ為のものだ。マナリンクと切り離されるとシステムのアップデートやトラブル監視が出来なくなる為、一種のセキュリティプログラムである。通常の自動接続プログラムと異なり、システムの最奥部に仕込まれている。あまり知られていないプログラムだ。
メイが何故プログラムの存在を知っているのかは謎だ。
メイは肩をすくめる。
「それはマズいな」
オスカーは低く吐き捨てる。
「うん、そうだね。しかもこれ」
メイは少し楽しそうに笑う。
「触るとログ飛ぶタイプじゃないかな?たぶん」
オスカーは間の抜けた声を出す。
「は?」
「向こう――本星側で監視してたら、
“あ、誰かいじったな”って分かる仕組みだよ」
メイはあっけらかんと言う。
機械の低音だけがやけに大きく聞こえる。
「で、どうするの?」
メイはくるりと椅子を回し、オスカーを見る。
「優秀な私が、何とかしてあげてもいいけど」
「何? お前、そんな事できるのか?」
驚いた表情でオスカーが言う。
一般的なシステムではない。オスカーが知らないのも無理はない。
「お前まさかハッカーとかやってないよな?」
「ひ・み・つ」
メイは舌を出す。
「それに、こんなプラント1人で動かしちゃうオスカーに言われたくないね」
次の瞬間にはもうキーボードを叩いている。
迷いがない。
手順も確認もなく、システム中枢に潜っていく。
メイ
「……やっぱり繋がってるね。」
数値が変わる。
擬装されたプロセスが一つ、露出する。
一拍置く。
「でも、向こうからアクセスされた形跡は無い感じだね。」
「私が見える範囲内で、だけど」
メイはオスカーを見る。
オスカーは一瞬だけ考える。
現状OEDからはプラントについて指摘されている訳ではない。調べればわかる事だが、調べていない可能性もある。何しろ大規模なワープ事故や第二次調査団派遣でゴタゴタしている状況だ。こちらがマナドライブ製造設備を動かしたことを知っているのか。
メイは言う
「多分、向こうは“完全に切れてる”って前提で見てるから、逆に油断してる可能性もあるけど」
リンクが繋がっている限り、何らかの監視が入る可能性がある。オスカーが腕を組んで考え込む。
「艦長に報告だ。システムを切る事はできるのか?」
「私を誰だと思ってるの?」
メイは胸を反らして偉そうに言う。
「お前、まさか犯罪には手を出してないよな?」
オスカーはジト目でメイを睨む。
メイはペロッと舌を出して明後日の方向を見る。
そしてわざとらしく口笛を吹いている。
「そんな物が仕込まれてたのか」
オスカーからの報告を受けたレオンは思考を巡らせる。
「深層に自動再接続プログラムが仕込まれているようだ。通常の手順では検知できない類のな」
本星側の仕込みか?元々あった仕様か?
詳細は不明だが、向こうは気付いていない可能性もある。
「切断自体は可能だ。ただし――」
「切った瞬間に、逆探知が走る可能性がある」
マナドライブ製造設備を動かしたのは間違いだったか?いや、今更後戻りはできない。
レオンは静かに思考を巡らせる。
本星からの通信。
マナドライブ製造設備についての言及は――ない。
一度も。
偶然か。
見落としか。
それとも――
今回のワープ事故で本星側は混乱している。
何しろ近年では発生していなかった規模の事故だ。
マナドライブ製造設備も喪失したことになっている。
詳細調査が漏れている可能性はある。
だが――
可能性はそれだけではない。
既に把握しているが、泳がせている可能性。
意図的に触れていない可能性。
レオンはその全てを並べる。
そして、切り捨てる。
今、判断に使えるのは一つだけだ。
“言及が無い”という事実。
それは安全を意味しない。
だが――
少なくとも、確定していない。
ならば。
監視され続ければ、いずれ露見する。
確実に。
だが今なら。
まだ“見つかっていない側”にいる可能性がある。
ならば選ぶべきは――
時間を与えないこと。
レオンの思考が静かに収束する。
「マナリンクを切断する」
レオンは短く告げる。
「本星はまだ把握していない可能性に懸ける」
「りょーかい。サクッと切っちゃうよ」
メイの返事は軽かった。
だが、その直後にはすでに指が動いている。
コンソール上に重なっていた層が、ひとつずつ剥がれていく。
通常の監視では触れられない領域に潜り込み、
偽装されたプロセスを無理やり引きずり出す。
一瞬、手が止まる。
見つけた。
痕跡は薄い。
だが確実に、マナリンクは“まだ繋がっている”。
メイは何も言わず、次の操作に移る。
軽い声とは裏腹に、指はすでに深層へ潜っている。
マナリンクには触れない。
先に狙うのは、その周囲に張り付いている監視プログラム。
切断と同時に逆探知を走らせる、厄介な仕組み。
「こういうの、好きなんだよね」
独り言のように呟きながら、構造を開く。
迷いはない。
必要な部分だけを抜き出す。
逆探知の発動条件。
監視停止時の処理。
「はい、ここ」
素早く書き換える。
余計なことはしない。
“実行する”を、“何もしない”へ。
それだけ。
「これでよし」
確認もそこそこに、次へ進む。
監視プログラムを停止。
キーを叩く。
プロセスが落ちる。
何も起きない。
「ほらね」
軽く肩を揺らす。
そのままマナリンク本体へ。
接続を切る。
あっさりと、繋がりは消えた。
画面の表示が切り替わる。
未接続。
「はい、おしまい」
手を離す。
だが、その目はまだ画面を見ている。
マナドライブ製造設備を稼働させてから20日弱経過している。その間にOEDがこちらをモニタリングしていればプラントを稼働させたことがバレているだろう。
メイがやったのは稼働そのものを無かった事にしているだけだ。
ただし、ログは残る可能性はある。
数秒。
何も起きない。
警報も、通信の変化もない。
「実際上手くいったかどうかは、わからないよ?」
振り返らずに言う。
「普通こういうのは見た目は変わらないんだからね」
メイは小さく伸びをした。
「ま、あとは運でしょ」
管制室は静かなままだ。
何も変わらない。
それが安全なのかどうかは、誰にも分からない。
GC320.8.9
通信が入る。
OED ヴァルグレン局長。
回線は安定している。
通常通りの通信だ。
昨日マナリンク自動接続プログラムを切ったのだ。何というタイミング。何かに気づいたのか。
レオンは一拍だけ間を置き、応答を開く。
立体映像が展開される。
ヴァルグレン局長の姿は、いつもと何も変わらない。
「こちらでモニタリングしている限りでは変化はないようだが、そちらの様子はどうだ?」
表情も、声の調子も、完全に平常だった。
「事故により、第一次調査団は帰還不能と見ているが、万一の事もある。到着を示す兆候はあるか?」
淡々とした確認。
責任の所在を問うでもなく、圧力もない。
ただの“状況確認”。
レオンは即座に応答する。
特変なし。
監視継続中。
簡潔に、余計な情報は乗せない。
ヴァルグレンは頷き、一切の間を置かずに次へ進む。
「マナドライブ製造設備の喪失は痛手だった。議論の結果、無人艦によるテストを先行する。実施は一週間後」
一瞬だけ。
レオンの意識が、その一文に引っかかる。
――喪失?
そう認識している?
少なくとも、この宙域に“存在している”とは思っていない。
表情には出さない。
「テスト艦がHD-4721に到達するのは約半年後となる見込みだ。それまでの間、引き続きモニタリングを継続せよ」
「了解しました」
形式通りの応答。
それで通信は終わる。
切断。
映像が消える。
静寂が戻る。
レオンはしばらく何も言わない。
不自然な点はない。
だが――
何もなさすぎる。
マナリンクの切断。
その直前まで存在していた接続。
それに対する言及は、一切なかった。
気づいていないのか。
それとも。
意図的に触れていないのか。
判断材料はない。
レオンはゆっくりと息を吐く。
だが警戒は解かない。
情報がないことは、安全の証明にはならない。
むしろ逆だ。
“見えていないだけ”の可能性は、常に残る。
すべてが、通常通りに動いている。
それでも。
レオンの中で、何かが引っかかったまま離れなかった。
星系に到着してから、四ヶ月が経過していた。
最初の緊張や混乱はすでに過去のものとなり、今では“異常な状況”そのものが日常に溶け込んでいる。
それが良いことなのか、悪いことなのか――誰も口にはしない。
やるべきことは、ほぼ終わっていた。資源採掘用の小惑星からマナコアを採掘するという事も可能だが、採掘機材が無いと効率が悪い。マナコアがすぐに必要な状況でもなかった。
マナドライブ製造設備は製造設備としての機能こそ稼働していないものの、生活場所としての機能はほぼ完全な状態である。
本星には報告していないが、プラントはすでに“拠点”として成立していた。
そして――
メイは勝手に行き来していた。
「知ってる?プールあるんだよ」
オスカーが呆れたように振り返る。
「お前な……仕事はどうした」
「やってるよー。気分転換も大事じゃん?」
まったく悪びれない。
セレナは苦笑するしかない。
「まあ……人手が足りてるなら、いいんじゃない?」
オスカーが肩をすくめる。
「統制ガバガバだな」
「今は仕方ないんじゃない?現にやる事無いんだから」
セレナはさらりと返す。
実際、その通りだった。
この状況で“厳密な規律”を維持する意味は薄い。
むしろ、緩やかに回している方が全体は安定している。
プラント側には、他にも人員が配置されていた。
ステラ・ヴィアでは特にやる事が無いのだ。
エヴァとリナは、プラント内の整理だ。何しろ広大なので、それなりにやる事はある。たまにメイが手伝っている。
ミレイとアイリは、アニマおよび星系全体の観測を続けている。
それぞれが役割を持ち、だがどこか“余裕”を持て余している。
やるべき仕事はある。
だが、緊急性がない。
その状態が、じわじわと精神を削る。
一方――ステラ・ヴィア。
こちらは逆に、張り詰めた空気が続いていた。
艦橋にはレオン、シグ、イーサを中心に、最低限の人員が残っている。
補助航法士のノアは航法データの再計算を繰り返し、
センサー主任のルカは異常検知に神経を尖らせ、
通信主任のマルコは、いつ来るか分からない通信を待ち続けていた。
「……暇ですね」
ぽつりとノアが漏らす。
シグが即座に返す。
「それを口に出すな」
「暇な時ほどロクなことが起きない」
ノアは肩をすくめる。
「もう十分ロクでもない状況ですけどね。4ヶ月も待機中で、しかも帰還の見込みも不明。そしてやる事も無いときたもんです。」
イーサが静かに口を挟む。
「私の研究を手伝ってくれてもいいんだが」
「無理です」
ノアは即答する。
「単なる考え過ぎであって欲しいものだな」
ルカがセンサー画面から目を離さずに言う。
「何も無いのが逆に不気味ですね」
マルコも苦笑する。
「本星からの通信も普通の業務連絡だけですよ」
レオンは何も言わず、前方スクリーンを見ていた。
その視線の先には、変わらない星系の光景。
美しく、そして何も語らない。
「……やる事がない、か」
ようやく口を開く。
だがその言葉に、安堵はない。
「違うな」
静かに訂正する。
「“待つしかない”だけだ」
その一言で、空気が引き締まる。
シグが小さく頷く。
「受け身ってのは、気分が悪いですね」
「そうだな」
レオンは短く言う。
「何も起きないなら、それでいい」
「だが――」
わずかに間を置く。
「起きた時に、何もできないのが一番まずい」
誰も反論しない。
その通りだからだ。
プラント側は“満ち足りている”。
ステラ・ヴィア側は“張り詰めている”。
同じ星系にいながら、まるで別の世界のようだった。
そして両者に共通しているのは――
「調査団、いつ来るんでしょうね」
ノアの呟き。
誰も答えない。
答えられない。
ただ一つだけ確かなことがある。
帰還するためには調査団の到着を待つ必要があるのだ。




