最終章
ララングストゥは、ドリガロンの研究室で手術台に横たわりながらカキザキユータに言われたことを思い出していた。
お前は能力も性格もつまらない・・
・・性格のことなど、どうでもいい。自分はドリガロン様にさえ認めてさえ頂ければそれで良いのだ・・
自慢の防御力を貶されたのは、ちょっとばかり癇に障りもしたが、それも2度と言わせない程度に思い知らせてやることは出来たはずだ。
ただ・・なぜか、あいつとの会話や戦いはやけに記憶に焼き付いている。
決して口には出せないが、自分はこれまで他の八傑の監視や成果の報告を使命としていたこともあり、方々から疎まれていたのには薄々気づいてはいた。
ドリガロン様の命とあらば優先してこなすことに疑問は懐かなかったが、かといってそれを面白いと感じていたわけでもない。
そんな中・・なぜか、あのカキザキユータという男からはそんな嫌な感じはしなかった。
口ではああ言っていたし・・自分もあいつもお互いに本気で相手を倒そうとは考えていたのは疑うべくもないのだが・・どこかもっと心の深い部分では戯れ合っていたような・・
事実、この時既にララングストゥは次に彼と相見える時のことを考えてばかりいた。
これからドリガロン様に頂く力をあいつが見たらどんな顔をするだろうか・・
それが、楽しみだという感覚であることもいまだ知らぬまま、腹の簀巻きを外されたララングストゥの意識はかき消える。
カキザキユータ・・貴様には目に物見せてくれるぞ。そして今度こそ跡形もなく屠ってやる・・早くのこのミグバルンへやって来るがよい・・
カッキーの頬の腫れも翌日にはすっかり引き、レーヌ一行は順調にミグバルン遺跡へ向かって進んでいた。
昨日のカッキーとララングストゥの遭遇は、敵側にも一行が侵攻を開始していると判断させてしまうことになっただろう。
ミグバルン遺跡がドリガロンにとって格好の要塞であり、ララングストゥが彼にとっての信頼のおける盾であれば、それしきのことで慌てて場所を移すことはないとは思うが、時はなるべく置かないほうが賢明だ。
そうは言うものの、カッキーが命がけで体感してきたララングストゥの防御力は聞くほどに厄介極まりない。
ドリガロンがミグバルンにいるとすれば、おそらくララングストゥは遺跡の入り口もしくは彼のいる部屋の前で一行の前に立ち塞がるはずだ。
いくつかのケース別に対策を練りながらゲートロールによる転移と、徒歩による移動を交互に繰り返す。
「絶対防御というのは、言葉の意味上『堅い』というのとは違います。」
「うん・・ヤツもこちらからの攻撃を『無』にするみたいなこと言ってたよ。」
「無か・・それって、その紫蘇に入ってる鳥の・・」
『鳥と呼ばれるのは嫌いでおじゃる。ペリノニムと呼んでたも。』
鳥じゃないか・・
「あ、ああ悪ィ・・で、ペリノニムの能力も確かそんなカンジじゃなかったか?」
『そうでおじゃるな。確かに衝撃そのものが存在していない状態に時間を戻していると考えれば、あの馬鹿げた防御力の高さも分からなくはないでおじゃる。』
だがの、カッパの娘。
「・・河童は別に構わないが、一応私にも彩奈という名があるんだがな・・」
『おお、すまんの。でな? カッパの彩奈よ。結論からいうとまずそれはない。』
「河童にこだわるなぁ・・で、何でそう言い切れる?」
『麻呂ら霊獣は、皆それぞれ司っているものが違うからでおじゃるよ。時を司っているのは麻呂でおじゃる。その麻呂でさえ、恵方巻きに宿り体内に接触して初めて僅かな範囲の時を進めたり戻したり出来る程度だからの。』
確かに魔獣体と合体すれば、リミッターが解除されて大幅にその力が増幅されることはあるようでおじゃるが・・
『属性の違いだけはいかんともし難いでおじゃる。スタグホーンのおっさんがいかなる者と合体しようとも・・火や水の属性を操れるワケではないのでおじゃるよ。』
本来『守護』を司るララングストゥには時を戻してダメージを無にすることは出来ない、というのがペリノニムの言い分だ。
もっと言えば、カッキーの恵方巻きというのは霊獣の力を圧縮して高い威力で出力するものであるらしい。
絵面的にはまったくおかしいが、カンピオーネの力を恵方巻きを通して使えば、その武器で貫く一瞬で薬が効いた状態となり、範囲は限られるがあらゆる病気や怪我も瞬く間に治癒するのだと言う。但し、貫いた際のダメージはそれとは別にしっかりと負うので部位はよく見極めなければならない。
「じゃあ、ブァフウの桜でんぶの武器で脳をぶち抜けば、あっという間に寝ちゃうってことね!?」
まぁ、寝るのと同時にたぶん死ぬが・・そういうことだよな。
珍しく理解が早いじゃないか、くるみ。
各々から意見が出されつつも決め手に欠けたまま、ついに一行は目的地であるミグバルン遺跡へと足を踏み入れた。
今のところの最有力策は、これまでの経験の応用である。
つまり、まず先にララングストゥの簀巻きを剥ぎ取ることに全力を注ぎ、然るのちに彼の防御力をブーストしていると思われる霊獣を魔獣体より分離して弱体化したところを叩く作戦だ。
ただ、この作戦には一抹の不安も残っていた。あれだけの高度から落下して地面にめり込むまでしたというのに、あの簀巻きは砕けもしなければ縫合のひとつも解けてはいなかった。単なる偶然と捉えるにはいささか疑問がある。可能性として、彼の防御力は簀巻きにまで及んでいることも考えられるのだ。
一行は、地上に点在している建築物の残骸に身を隠しながら、地下都市への入り口を目指した。
・・いたぞ!
果たしてララングストゥはただ1人、両の目玉を全方向にくまなく動かしながら隙のない佇まいでその入り口を警護していた。
ミグバルンは地下20層あまりにも及ぶ変則的な古代地下都市だが、考古学者の間では地面の下に街を発展させていったのは、敵の襲来に対する要塞都市としとの側面が強かったからというのが通説である。
そのため、もとより全ての入り口は狭く造られており、現存しているのは後世になって発掘作業の為に掘り起こされたここだけとされていた。
ララングストゥもそれを承知で、ここの見張りに立っているのだろう。
「入り口にいるということは・・遺跡の中にドリガロンがいる可能性はより高いですね・・」
なぜレーヌがそう推察したかというと、ドリガロンはなにも遺跡内の一室にずっと閉じこもっているわけではないだろうという考えからである。
内部にまで侵入を許してしまえば、それだけドリガロンの地下での動きも制限されてしまうだろう。
それを踏まえて考えると、ララングストゥが遺跡の入り口を護っているということは、ここから先の地下全体にまでくせ者を通したくないということ・・
その理由が地下に潜むドリガロンならば・・
ララングストゥが何者をもあそこを通させないだけの実力を持っており、それを見込まれているとすれば十分にあり得る。
「それでは、どうしますか?」
「私、私! まずは私のファイヤーボールで!」
くるみは、この時ばかりは考え無しにそう言っているのではなかった。
ここに来るまでに話し合った作戦の中に、直接的な攻撃が効かないのであれば熱などで間接的なダメージを与えられはしないか? というのが含まれていたからである。
モチーフ的に水属性の攻撃だと効果は得られなそうだが、火や電気ならば意外とあっさりあの絶対防御を突破出来るかも知れない。
となれば、直接挑む前の小手調べとして、くるみの得意なファイヤーボールを初手とするのは悪くはない。
「よし・・じゃあ頼むな、くるみ。初弾ならじっくり魔力を溜める余裕があるから、出来るだけデカくて強力なのをな!」
「先刻承知! そう言うと思って、もう目一杯溜めてあるから! それじゃいくよ! マキシマムファイヤーボール!」
くるみが前へ突き出した両掌の先に小さな火球が生まれたかと思うと、次の瞬間それは大量のガソリンでもぶっかけたかのようにボゥ! と大きく膨れ上がった。
おお!? 思ってたよりすごそう! なんだかんだでこいつブァフウを倒してるからな・・
「アッチ! ヤバいこれ! エイ!」
デカくし過ぎて自分が耐えられんのか。。
危うく掌を焼かれそうになったくるみは、慌ててその大火球を遺跡の残骸の陰からララングストゥに向けて放った。
ちょっとしたくす玉ほどはある火球が、一直線に・・
え・・?
遅っせえ!? おい、なんだアレ!?
確かに火球はララングストゥに向け一直線に進んでいるものの、そのスピードはせいぜいが幼児の漕ぐ三輪車並みだ。
「てへ! 大き過ぎて鉛みたいに重かったみたい!」
ドジっ子気取ってんじゃない! 理由も嘘くさいし・・そら、流石に気づかれたぞ!
『・・・』
ララングストゥはしばし、のろまな火球を見つめていたが、急にフッと笑うと両の鋏を顔の高さまで持ち上げ、それが目の前まで来るのをわざわざ待ち構えていた。
『フン!』
そして、両手を大きく広げるとなんとその火球をガッシリと受けとめ、その身体に押し付けるようにして抱き潰してしまった。
『ようやく来たか、カキザキユータ。待ちかねたぞ・・早々につまらぬ技を使ってくれるじゃないか!』
言われてしまった・・まぁ、おかげであれしきの熱ではヤツに火傷も負わせられないことはよく分かったが・・つまらん技だったわ、くるみ・・
・・仕方がない・・
カッキーは腹を決め、遺跡の残骸の壁から躍り出る。
その瞬間だ。カッキーがまるで予測していなかった光景を目の当たりにしたのは。
ララングストゥの頭部がまるで装填時のリボルバーのシリンダーのようにガコンと横へ倒れこんだ。
チュン! という音が聞こえると同時に、そのズレた頭部の断面から熱線が発射されたのである。
「な!? うぐっ!?」
熱線はなんとか殺砲のように渦を巻いてカッキーの脇腹を抉ると、はるか背後の壁に当たって爆発を起こす。
「ユータ!?」
「ぐふっ・・出るなレーヌ!」
カッキーは脇腹が焼ける痛みに堪えて、レーヌたちのいる壁から急ぎ離れた。
「エアロシールドを壁の表面に張っておくんだ! 出来るだけ何重にも!」
カッキーは息を止めて素早く干瓢スティックを恵方巻きにセットする。
念を込めると、その断面から何本もの白い円刃刀が現れた。
「クッ・・ヒーリング恵方巻きスカルペル・・!」
カッキーは意を決して、その切っ先を負傷した脇腹に突き刺す!
顔を苦痛に歪ませるほどの激痛が患部に走ったものの、一瞬の後には抉れた部分は綺麗に完治していた。
「ふう・・なるほど・・強力ですねカンピオーネさん。でもこれ、やっぱりすげえ痛いことは痛いんだ・・」
確かに一瞬で完璧な治癒は可能だし、痛みも即座に消えはするものの、傷に直接刃を突き立てる行為というのはそう何度も体験したくはない。それに、やはり激しい痛みを堪える為かいくらか体力も消耗してしまう。
『むう・・実戦では初めて撃ったが・・思っていたより動く標的には照準が合わせにくい・・』
そう呟きながら、ララングストゥは首を元の状態へ戻す。
・・アレ連射は効かないのか・・? 1発撃つごとに充填時間が必要!?
それに・・レーザー自体は一筋の槍のようなものだった。スピードは滅法早いが・・
照射し続けながら横に焼き払うようなマネは出来ないと考えていいのか!?
それにしても、せっかくこちらがみんなで一生懸命立ててきた作戦をあっさりフイにしてくれる・・
基本的にヤツの防御をいかに破るかということしか考えていなかったのは甘かったか・・
しかし、何故? あの防御力に絶対の自信を持っていたララングストゥが・・あれではヤツらしくないじゃないか?
それに、ヤツ自信もあの能力について慣れてはいない様子だが・・?
「あの強力な光の矢は一体・・!?」
その頃、壁に何十枚というエアロシールドの重ね張りを終えたレーヌも、ララングストゥが使った予想外の攻撃について分析を始めていた。
ここへ来る途中のペリノニムとの会話の内容を考えると、守護を司るララングストゥの能力にはどうしても見えない。
「・・魔力のかけらも感じない・・あれは魔法ですらありません!」
「落ち着けレーヌ・・あれはおそらく・・ロストテクノロジーウェポンだ。」
「それって・・古代に存在し、滅びた文明で生み出されたというアレのことですか?」
「そうだ・・このミグバルンでもいくつか発見されたことがある・・これまで人の手が入っていなかったエリアから掘り出したんだろうな・・」
「そんなものが、ララングストゥの中に埋め込まれているということは・・!?」
「ああ、そんなことが出来るヤツ他にはいやしないだろ・・どうやらお前の読み通り、やっこさんはこの下にいるようだ・・」
「ですね・・でも、まずはララングストゥをなんとかしないと・・」
「ここは柿崎ゆうたに任せるんだ。ララングストゥはここに私たちがいるかどうかまではまだ確証が持てていないだろう・・連射が効かないのなら、無駄撃ちはしてこないはずだ。」
悔しいが、攻撃力で考えればこちらは柿崎ゆうたに頼るしかない。それなら、全員でうろちょろしても危ないし、彼に余計な心配はさせない方がいい・・
レーヌは一瞬心配そうな顔をカッキーのいる方向へ向けたあと、彩奈を振り返って頷く。
「だが、いつでも補助魔法、回復魔法は使える準備はしておくんだ。いいな?」
「勝負だ! ララングストゥ!!」
カッキーは恵方巻きのスティックを卵焼きに差し替えると、雷の剣を斜に構えてララングストゥへ走りかかった。
あの技の充填にどれだけの時間を要するのかは知らないが、そうとなれば近接戦闘に持ち込み手数で押す。そして、作戦通りにヤツの簀巻きを狙うのみ!
光のプロミネンスがほとばしるライジング恵方巻きブレードのから竹割り!
ララングストゥは、悠然と鋏を持ち上げると顔のやや上でそれを受ける。
雷の剣はその防御を無視して、ララングストゥの身体を切り裂いたかのように見えたが、振り抜いた後にはほんのわずかな傷さえも残ってはいなかった。
実際には雷の刃はララングストゥの装甲をまるで貫けず、その体表の形に沿って遮られていただけだったのだ。
最強の攻撃力を誇ってきたライトニング恵方巻きブレードでも、まるっきり歯が立たない。感電すらしないところを見ると、この装甲は電気も熱も遮断している。その力はやはり、簀巻きの部分にまで及んでいたのだ。
まさに、完全無欠の絶対防御!
『どうした? カキザキユータ、もう手詰まりなのか!? ならば、もうすぐさっきのをもう1発お見舞いしてやるぞ!』
「一体どうしたっていうんだ、ララングストゥ!?」
『!? なんのことだ!?』
「戦いの最中に、しかも敵のお前にこんなことを言うのも変だけど・・それじゃ、どうにもお前らしくないじゃないか?」
『何を言い出す、貴様!?』
「昨日のお前は、あんなに防御力に誇りを持っていたのに・・正直、あの技は恐ろしかった・・だが、俺はどこか関心もしてたんだぜ? こんなにも自分の持ち味を活かしたスゲェ戦法を使うのかって・・」
『・・そうか、それは悪かったな・・』
ララングストゥは、正直なところこの時少なからず後悔していた。
この男は、ちゃんと本来の自分のことを認めてくれていたのだ。
ドリガロン様の言葉に感じた僅かな違和感は、つまりこういうことだったのかと理解した。
ララングストゥは、新たに強力な攻撃力を手に入れたと同時に昨日までは確かに持っていた誇りを半分どこかへ見失ってしまったのである。
『だが、もう後へは引けん・・!!』
至近距離で再び、あのレーザーの発射形態へ変形するララングストゥ!
発射の瞬間、反射的に横へ飛んで躱す!
だが、カッキーには自分の後方に何があるのかまで、その一瞬では気を回すことが出来なかった。
彼を捉え損なったレーザーは、レーヌたちが身を潜めている遺跡の壁へ命中し、それを一撃でこなごなに粉砕してしまう。
「しまった!! レーヌ!! みんな!!」
砂煙が晴れた後には4つの影が地面に転がっていた。エアロシールドの効果があったのか、壁で威力が半減したのか・・
直撃ではあったものの、まだみんな地面を這うように動けてはいる。しかし、ダメージはかなり深刻そうだ。やはり、あのレーザーの破壊力は尋常ではない。但しあんなもの、血も誇りも通わないただの殺戮兵器である。
「すぐに助けに行く! みんなガンバれ!」
倒れた4人の元へ向かおうとしたカッキーの前に、ララングストゥが立ちはだかる!
『どこへ行こうというのだ、カキザキユータ? ・・ふん、なるほど。やはり、仲間はあそこに隠れていたか・・』
「どけ! あんなやり方が、本当にお前の望む戦い方なのか!? それで、本当にいいのか!?」
『無論。私はドリガロン様に貴様らをここで始末するよう申しつかっている。その為ならば・・手段は問題ではない。』
「くそッ! 今のお前ときたら・・ホントにつまんねー野郎になっちまったな!」
『ふん・・なんとでも言うがいい。ならば、ひとつくらい楽しませてやるか。』
!?
『次の充填が完了するまであと50を数えるほどだ・・それまでに私を倒せたならよし・・そうでなければ、再びあそこへレーザーを撃ち込む。少しはスリリングだろう?』
「!? もういい、好きにしろよ!」
その前に・・必ず・・
「お前をこの地に叩き伏せる!!」
カッキーは、恵方巻きのスティックをヴァフウの宿る桜でんぶへと換装した。
たちまち、その断面から半透明なピンク色の鞭が伸びる!
「ウィップラッシュ恵方巻きナイトメア!」
『・・ほう、ヴァフウの鞭か・・なるほど、確かにそのスピードはもちろん、動きの読みづらさでもなんでなかなかの武器だな・・』
だが、それは・・
ララングストゥが、ピーカーブースタイルに構える。
『そのダメージが相手に通ればこそ有効な選択! この私の絶対防御に対してはあまりにも愚かな判断だ! さぁ、思う存分打ってくるがいい!』
カッキーは答えない。そして、ピンク色の大蛇が奇妙な舞いでのたうつような怒涛の連撃がスタートした!
『さあ、どうした! この身体の内部にダメージを通さんことには、せっかくのヴァフウの力も宝の持ち腐れだぞ!』
ララングストゥは音速を超える重い鞭の一撃一撃にも、後退すらせずに真正面からすべて耐えきる。
カッキーの体力が尽きるのが先か、ララングストゥのカウントダウンが終わるのが先かといった状況だが、カッキーが最後まで打ち続けたとしてもその後のレーザーの発射を阻止出来る訳ではない。依然として、圧倒的にララングストゥが有利であった。
それでも、カッキーはその手を一瞬も休ませない。
3、2、1・・
『残念だが、タイムアップだ!』
充填を終えたララングストゥが、発射口を露わにしながら両の鋏の構えを解く、と同時に発射体勢に入った。
!?
レーヌたちが倒れている場所の地面の爆破を狙ったレーザー射出の瞬間、ララングストゥの身体がグラリと後方に向け倒れ込んだと思うと、一筋の渦巻く光の矢が青空の彼方へ飛んで行くのが見えた。
『そうか、その為だったか・・貴様最初からそれが狙いで・・』
ララングストゥの足にピンク色の鞭が幾重にも絡みついている。発射体勢に入った瞬間を見切り、あのバカのひとつ覚えのようなラッシュから一転、カッキーはララングストゥの足元を狙い鞭を巻き付け思い切り引き倒したのだった。
体表の全体で絶対防御を誇るララングストゥが、それでも相手の攻撃を受ける際にピーカーブースタイルを取るのはなぜか?
カッキーには、それが相手の攻撃が途絶えた時に攻撃へと転じる戦法で最も懸念される、なんらかの方法で視界を塞がれるのを防ぐための癖であることを見抜いた上でこの戦法をとったのだ。
倒れる瞬間まで、ララングストゥは自分の足元にまで注意がいってはいなかっただろう。
面白い戦い方をする、とララングストゥが思った時だった。倒れた彼の身体に、間髪入れずにカッキーが覆い被さった。
『!? 貴様*・ここまで計算していたのか!?』
カッキーは既に右腕をララングストゥの横へ倒れた頭部とレーザー発射口の間へ挟み込んでいる。
そして、素早く残る左腕と口を巧みに使い、無言のまま桜でんぶスティックから卵焼きスティックへと換装した。
ララングストゥの足首を縛り上げていた鞭が一瞬で消え、代わりに恵方巻きの先に現出したのは・・
荒ぶる雷のプロミネンス『ライトニング恵方巻きブレード』!
必死に頭部を元の位置に戻そうと喘ぐ姿が、ここに至っては痛々しい。カッキーは、右腕を締め付けてくる痛みよりも強く、胸に込み上げてくる熱くて悲しい痛みを感じていた。
「ララングストゥ・・お前、気づかなかったってのか・・本当に・・?」
どこか泣き出しそうな声でそう語りかけながら、カッキーはララングストゥのレーザー射出口からまっすぐにその身体の奥深くへと雷の刀身を沈めてゆく。
この世界に自我を持ってから、すべてが初めての感覚がララングストゥの体内に満ちた。これが、痛み・・熱さ・・悔しさ・・
それにしても、この激しい痛みを超える悔しさは、何に対しての悔しさなのか・・
そうか・・私は・・この男に唯一鉄壁ではなかった部分を見抜かれ、そこを貫かれて敗れたことがこんなに悔しいのだ・・
心の弱さ、寂しさを・・たったひとつの誇りの綻びを・・完敗だな・・
『カキザキユータよ・・最期の頼みだ。私の首を元に戻してくれ。』
その首に埋め込まれた機械は慌ただしく火花を散らし、それを突き抜けて身体の奥まで雷の刃に焼かれたララングストゥは既に虫の息だった。
カッキーは黙ってその望み通りにしてやる。
『・・この期に及んでようやくわかったよ。本当は、あんな力などに頼らず、貴様と正々堂々と・・グフッ・・貴様と戦いたかったのだと・・』
「もういい、それ以上喋るなララングストゥ・・だが、そうしていたなら、お前の勝ちだったかもな・・」
『言わせてくれ・・いくら後悔してもし足りないが・・ただ1つ礼を言いたいのだ・・』
「礼だって・・?」
『ああ・・最期に・・誇りを思い出させてくれてありがとう・・さあ、あと少しで私の身体は爆発する・・今すぐこの場を離れるんだ・・早く仲間のところへ行け・・!』
カッキーは、ララングストゥの身体を静かに地面に横たえると、最期の別れを告げた。
「お前の誇り、確かに感じた! ・・さようなら、ララングストゥ。お前と会えて良かったと思ってる!」
微笑みかけて、身を翻し駆け出すカッキー。
『・・私も・・だ・・』
ゴッバァ!! ドドドド・・
直後にカッキーの背後で、ララングストゥが大爆発を起こした。
ようやく仲間の元へ駆けつけることが出来たカッキーは、1人1人の安否を確認する。
タカとくるみは気絶・・だが、息はある。
レーヌ、彩奈は上体を起こすことくらいは出来るようだ。
「回復魔法をかけたいのですが、エアロシールドの使い過ぎで魔力が・・」
「カンピオーネさん。あなたの力でレーヌの魔力を回復させることは出来ますか!?」
『もちろんだ。魔力というのはその者の体力と連動しているからな。お前のエホーマキとやらでちょちょっと刺せば・・』
「ちょっとダメですよ! あんな痛いの、俺がレーヌに出来るワケないでしょう! 少しくらい時間かかってもいいんで、昨日俺がやってもらった方でひとつお願いします!」
『そうか・・? まぁ、最近は注射よりも長く薬を飲み続ける方を選ぶヤツも多いからな・・まったく昔に比べて根性のあるヤツが減ったな、嘆かわしい・・』
そこ、一緒に根性論で括って欲しくないなぁ・・まぁ、そんなこんなで時間はかかったものの全員行動可能なまでに回復することが出来た。
「お疲れさまでした、ユータ。あのララングストゥによく勝てましたね!」
「ああ・・ギリギリだった・・」
「最後に何を話したんですか・・?」
「ん・・?」
ああ、それはね・・
カッキーは、レーヌに微笑いかけてから、先ほどまでララングストゥがいた場所へと歩き出す。
レーヌがタッとその後を追って、カッキーの腕に自分の腕を絡ませ頬を寄せた。
「最期に、俺たち友達になれたんだ。」
吹き去った爆炎の跡に、エビ型のエネルギー体が待っていた。
『初めまして。私霊獣ララングストゥと申します。あの者の中で一部始終を感じていました。彼のためにも、私も惜しみなく協力いたします。』
なんとなく、杓子定規というか融通の効かないお堅い印象のある霊獣だな・・
声には少し似た響きがあるが・・やはり、あのララングストゥとは別の存在か・・
『彼が形見に残しました、そこのエビすり身スティックに宿ります。』
見ると、確かに地面に加工済みのエビすり身のスティックが転がっているではないか。
サービスしてくれちゃって・・
「よし、それじゃ、みんな心の準備はいいかい? 1度戻ることは出来ないから、このまま行くよ?」
エビすり身スティックを拾い上げたカッキーが、振り返ってメンバーに確認する。
「ああ、おかげで体調は万全、むしろ良くなったくらいだ。いつでも行ける!」
「私、あとはミニマムファイヤーボールくらいしか隠し球ないケド、ここまで来たら進むしかないよ!」
ウッキー! ウッキー!
「よし! いいかい、レーヌ?」
「はい! いよいよ最後ですね。これが終わったら平和な世界であなたと・・」
「うん・・! さあ、掴みに行こうか。俺たちの明日をこの手で!」
一致団結、心を一つに。一行はついに最後の決戦の舞台への入り口をくぐった。
ー後日談ー え!? 最終章なのに後日談!?
「いいのですか、ユータ? こんなところで終わっても・・?」
「よくはないよね・・最後あたりの台詞回しも、これじゃ連載打ち切りだよ・・」
「まだセーフだ! 滅びの言葉『本当の戦いはこれからだ!』は言っていないぞ!」
「私、まだプチファイヤーボール撃ってないよ! このまま終わるなんてまっぴらゴメン!」
ウッキー! ウッキー!
「だよな・・ところで、くるみ。お前本編ではミニマムファイヤーボールっつってるからな。」
「え!? そうだっけ!?」
「まぁ、スモールでもリトルでもタイニィでも好きにしろ。ただ、撃つチャンスがあるとしても次で本当に終わりだからな? どれか1発に絞っとけよ!」
「えー!? 悩むー! いっそのことここでみんなに1発ずつぶちかま・・」
ビシッ!←恵方巻きナイトメア
ドクドク・・ZZZ・・うーんうーん・・
「というわけで、次回、これがホントの最終回!」
「続・最終章」乞うご期待!




