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転生したら武器が恵方巻きで山  作者: 鼻ふぇち
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続・最終章

レーヌの魔力探知が、ララングストゥの足跡を蛍光ブルーに染めあげてゆく。


「これは、地上へ出た時のものですね・・ではこちらは・・?」


ララングストゥは足が小判形をしていたようで、その痕は前後の判別がしづらい。

だが、彼は頻繁にこの中と外を出入りしていたらしく、ほどなく遺跡の奥へと向かうものがいく筋か見つかった。


「奥へと向かっているものは、どれも同じ方向へと続いているようです。」


辺りにここ最近付いた他の者の足跡は・・見当たりませんね。


「ひとまずこれを追っていけば、ララングストゥがこの遺跡内で通っていた場所へたどり着くことが出来るでしょう。」


一度に探知するとドリガロンに居場所を探っていることを気付かれてしまうかも知れませんので、範囲を絞りながら繰り返して行きますね。


おそらくは、その行き着く先に一行の目指すドリガロンが潜んでいるのだ。

まぁ、もっともララングストゥが倒された時点で一行が遺跡内に侵入したことくらいは予想がついているかも知れないが。。

カッキーは、あの空中でのやりとりの最中にララングストゥが何者かと交信していた様子を思い出していた。


地下都市の一層は高さ5メートルほどの広い空間である。

広いとは言うが、ミグバルンはどちらかと言えば多層構造の縦に長い造りが特徴だ。

所々に元は居住区だったと思われる設えの跡があるものの、見渡せばその階層の端となる舗装された土壁が見える程度のものだった。


過去に行われてきた発掘作業の過程で、いくぶん解体や補修がされているものの、時代的には何千年と前の遺物である。その時代の技術力を考え、当時の姿を想像するとかなり高度な文明を持っていたことが窺えた。


「これで、下の階層に行くほどまだ未知の部分も多いからな。。ロストテクノロジーによる武器や調度品もほぼ当時のままの姿で出土されることがあるそうだ。」


まったく、スゲェもんだ。考古学をかじった者としては、ここへ来た目的を危うく忘れてはしゃぎ回りたくなってしまうくらいだよ。


まぁ、これは彩奈の冗談なのだが、カッキーにもこの遺跡の凄さ、歴史的・考古学的価値の高さというのは、足を踏み入れた時から肌で感じることが出来た。


「私、ぜんぜんこういうの興味なかったけど、なんか分かる! すごく神秘的でワクワクするカンジ!」


ウッキー! ウッキー!


いつも発言がズレまくっているくるみですら、ついうっかりこんなまともな感想を述べてしまうほどに、ここの空気は人のそれまで眠っていた感覚を呼び起こさずにはいられない何かを含んでいるのだった。


「それにしてもまだ地下一階とはいえ。。思ったより明るいんだね?」


「私も人から伝え聞いただけなのですが・・この明るさも、魔力によるものではないそうです。不思議ですよね、これ一つとってもどのような仕組みなのか未だに解明は出来ていないみたいなんですよ?」


「ああ。そして、それは出土する多くのものについても同じらしいな。」


「すごい! もしなんか拾ったら、もらっちゃってもいいのかな!?」


あ・・これは絶対に売っぱらって一儲けしようとしてる顔だ・・と、くるみ以外の誰もが思っただろう。


「まぁ、とは言え、こうして目に入る範囲のものってのはあらかた持ち出されてるからな。」


そういうのは、埋もれたり閉ざされたりしてまだ発見されていないエリアにしかないと思うぞ?


「えー! つまんない!」


「でも、くるみちゃん。興味があるようでしたら、考古学を学んで本格的な発掘隊に入るのもいいと思いますよ?」


・・レーヌは分かってなかったか。


「だから、ここから下の階層へ行くほどそういう区画も多いのだろうと言われていて。。早い話が今のところ深いところほど動き回れる範囲は狭くなっているんだそうだ。」


一行がそんな話をしながら足痕の軌跡を追って遺跡の奥へと進んでゆくと、そのうち下の階層へと続く階段に行き当たった。

降りてみると、そこから更に下へ続く階段が続けて造られているのではないようである。


確かに彩奈が言う通り、地下一階に比べると若干狭く感じるくらいの空間が、しかし同じような風景で続いている。

まぁ、構造的には上で一行が歩いてきたエリアの真下あたりを進むことになるのだが。。

ララングストゥの足跡も、階段を経由してその奥へと繋がっていた。


「交互に折り返すようなカンジで下への階段が造られているのかな?」


「え!? また、さっきと同じくらい歩くってこと!? かったるい!」


いやいや、くるみ・・同感だ。


「ミグバルンが地下要塞都市と考えられている由縁のひとつだな。下の層へ行くほど身分の高い者・・貴族や王族といった人間の居住区だったとされているんだ。」


かなりの精鋭で組まれた部隊でも、ここの下層までは攻めあぐねただろうな。


「歩き疲れたなら、回復しますよ? タカのリュックにはお弁当も入っていますので、どこか適当な場所でお昼にしましょう。」


「そうだ、くるみ。これをぶっさせば、一瞬で足の疲れや痛みなんてふっ飛ぶぞ?」


カッキーが、恵方巻きに干瓢スティックをセットして飛び出した何本もの円刃刀をチラつかせ、くるみをからかう。


「は!? いやいや、ないない! レーヌおねーさん、お願いします!」


「ハハ! お前それ、さっきカンピオーネにレーヌにはそんなこと出来ないからと断ってたヤツだろ。なかなかヒデェ奴だな。」


ウッキー! ウッキー!


そんなこんなで、一行はどんどんと地下深くの階層へと歩を進めて行く。道中は似たような景色の繰り返しなので・・早送り!


というわけで、もう十何層と下ったあたりでお昼休憩。足痕の通っている大路を見渡せる廃屋の陰に身を潜めてお弁当を広げる。


「あれ? レーヌこれって・・」


「あ・・さっきタカが地上で倒れた時にひしゃげちゃったんですね・・」


ウッキー・・


「まぁ、敵の攻撃による不可抗力だ、気にすんなよタカ。むしろ、この程度で済んでお前はよく昼飯を守ってくれたよ。」


ウッキー! ウッキー!


「いやだわ、私ったら・・タカ、そんなつもりで言ったのではないのです。」


ウッキー! ウッキー!


「で、やっぱりこれって・・」


「はい! エホーマキです!」


正確に言うと、巻かれているのは海苔とは香りが微妙に違う藻類みたいだし、米に近い別な穀物を使った似て非なるものではある。

が・・かなり再現度は高く、それは恵方巻きもとい太巻きと呼んで差し支えないものだった。しっかりと酢のような匂いもして、食欲を誘う。


「ん? エホーマキ? これって・・柿崎ゆうたの使ってる武器じゃないか。こんなの食えるのか?」


「フフッ。彩奈、あの時の私と同じこと思ってますね! 大丈夫、ちゃんとした食材で作ってありますので味も保証しますよ! それに・・」


これは、とても縁起の良い食べ物なんですよ? 今日、これをお弁当に選んだのもそのためですから。


「あー? なんか武器として見慣れてるからちょっと抵抗あるが、どれ・・お! 美味い!」


「ホントだ! すっごく美味しー! こんなの初めて!」


ウッキー! ウッキー!


「どれどれ・・? おー! すごいよレーヌ。具の再現度もかなりレベル高い!」


「ありがとうございます! ユータに褒めてもらえて嬉しいです!」


「え? これ、ひょっとして・・レーヌの手作りなの!?」


「はい! ユータと一緒に具材作りを学んできましたから! この味だけは、宮廷の料理人にも負けない自信があります!」


そうして微笑みながら、レーヌも丸のままの恵方巻きにハムっとありつく。


「んー! 美味しく出来ました! 気に入ってもらえたなら、私ユータのために毎日でも作りますよ!」


いや、毎日恵方巻きってのは・・え?

レーヌ、それってもしかして・・


「かぁー! ごちそうさま!」


「ん? 彩奈おねーさん、まだ残ってるけどもう食べないの? 私もらってあげようか?」


いち早く平らげたくるみが、物足りなそうに彩奈の食べかけを狙う。

いや、この場合のごちそうさまはそうじゃないだろ・・まぁ、まだ子供だな。


「くるみ。よかったらコレ食う?」


ジャギン! またもや円刃刀。


「いい、いい! もうお腹いっぱい、ごちそうさま!」


慌てるくるみの姿に、場が笑いに包まれる。


「そう言えば、レーヌにも言ってなかったんだケド、本来恵方巻きは縁起の良いとされている方角を向いて食べるものなんだ。」


「そうなんですね、なんだか楽しそうです! 今度食べる時はそうしてみましょうか?」


「で、縁起のいい方角ってどっちだ?」


「えーと・・それは、その時によってまちまちなんですが・・まぁ、この世界にはその風習今までなかったですし、その都度どんなことでもいいからめでたいと思った方を向いて食べたらいいと思いますよ?」


要はそうすることでいいことが起きる、的なおまじないみたいなものなんで・・


「ユータの故郷がある世界には、ステキな風習があったんですね!」


「ああ、それに面白いしな。行けるものなら行ってみたい気もする。」


「ホント! 遺跡の調査と同じくらい楽しそう! もし行けたらワクワクするね!」


ウッキー! ウッキー!


カッキーにも、あの世界での生活や家族のことを懐かしく思う時があるが・・

今ではそれに負けないくらい、このミリテスランという世界のことも好きになっていた。


今の自分には、こんなに心の底から笑い合うことの出来る仲間がいるし・・何よりもレーヌと巡り会えたことが・・


楽しい昼食のひと時はあっという間に過ぎ、一行は先を急ぐ。階層を降るほどに次の階段までの距離は短くなり、目的の場所に急速に近づきつつあることを誰もが感じとっていた。


そして・・


ついに一行は、それまでの風景とは一線を画す、階層そのものが燭台の立ち並ぶ薄暗い祭壇となっている場所に辿り着いたのだった。


その祭壇上には、1人の人物がこちらに背を向けて静かに佇んでいた。それが、かつての中央都市ダミナートの宰相を務めていたという男、ドリガロンであることを疑う者はいなかった。


男の背姿と向き合ってしばしの後、静寂を破ってしわがれた声が話しかけてくる。


「ようやく・・すべての事を成し遂げここへたどり着いたのか・・」


そう言いながら振り向いた老齢の男の顔を見るなり、レーヌが叫ぶ。


「!? あなたは一体誰です!?」


え? ドリガロンじゃないの!?

その予想外の叫びに驚きつつ、一行の視線はレーヌに集まった。


「さすがにこの姿・・顔貌では私だとは分かりませぬかレーヌ姫?」


「!? ・・やはり、あなたはドリガロン・・? でも、その姿は・・!?」


「どういうことなんだ、レーヌ?」


「ドリガロンは・・あのような老齢ではありません。行方をくらました時点でもせいぜいが20代後半くらいの・・才気に溢れた若き宰相だったのです。それが、確かに面影は残っていますが、あれではどう見ても・・」


レーヌの表情は恐ろしいものでも見るように、固くこわばっていた。


「不思議に思っておられますな? 無理もない。なんなら説明して差し上げてもよろしいが・・?」


「・・それでは聞かせてもらいましょう。あなたの本当の目的・・お父様を殺めたその訳も含めて・・洗いざらいを・・」


いつになく、レーヌの口調に怒気がこもっている。その言葉を受け、ドリガロンは再び一行に背を向けると静かに語り出した。


「よろしい。まず、この老いさらばえた姿だが・・この身から8体の魔獣を生み出したことによる代償です。」


あなた方が、各地の霊獣を解放する過程で倒してきた者たち。。彼らを生み出すごとに、私の身体は急速に老いていった・・


「そして、レーヌ姫。貴方の父を殺めた理由は、私にとっての長きに渡る因縁の一族の末裔であったため。」


「長きに渡る因縁とはどういうことです!? それに、ならなぜ私を生かしました!?」


「・・その因縁については、私の目的にも関係することなのでしばし。あなたを生かしたのは、その目的を達成する為の駒として必要だった為です。」


「なんですって!? それでは、あなたはずっと私を利用してきたというのですか!?」


「レーヌ姫、あなただけではない・・各地の祠に眠っていた霊獣たちも、結果としてあなたのその仲間たちも、すべては私の目的の為に動いていたのです。」


・・すべてが最初から仕組まれていたことだったというのか・・?

この男の掌の上で、みんな躍らされていたに過ぎないと・・


「そして、私の目的について。これだけは、そこの少年と2人きりで話したいのですが・・お許し願えませんかな・・?」


なんだと!?


「俺のことを言っているのか!?」


「そうだ、君だ。この奥に部屋がひとつ設えてある。そこで、君と2人だけで話がしたいのだ・・」


「どうするレーヌ・・!?」


「ダメです! それだけは許しません! もし、どうしてもというならば、私だけでも同行します!」


私は、ユータとは最後まで寄り添うべき関係です! 私たちはあの日の誓い、そしてあの日の約束を経て今は一心同体も同然! ドリガロン、私をユータの一部として共に連れていきなさい! これだけは絶対に譲りませんよ!


「・・ああ、そうだとも! 俺も同じ気持ちだ! 行くならレーヌと一緒に! それが受け入れられないなら、お前の目的など知らないままでいい! このまま倒す!」


「本意ではないが・・仕方がないようだ・・では、2人で着いてくるがいい。」


ドリガロンはそう告げると、そのまま先に立って歩き出した。


「お、おい・・レーヌ・・柿崎ゆうた・・」


「大丈夫なの? あいつの誘いに乗って?」


ウッキャー・・


心配そうな顔で2人を見送る仲間に、カッキーとレーヌは揃って笑顔で応える。


「十分気をつけるよ! 武器も取り上げられちゃいないし心配しないでいいさ!」


「1人で行けば不安ですが、2人ならば怖くはありません。」


「よし・・わかった行ってこい。後で何を聞いたか詳しく話せよ。」


2人は頷くと、踵を返して先行するドリガロンの後を追った。


祭壇の奥の突き当たりにひとつのドアがあり、カッキーとレーヌはその向こうに作られた部屋へ招き入れられた。

中は思いのほか簡素な造りで、カッキーはどこか古びたアパートの小部屋のような印象を抱く。


調度品も、木製のテーブルといくつかの椅子があるだけである。

ドリガロンは2人に隣り合う椅子をすすめ、自らも向かい合う形で腰を下ろした。


「茶でも出せればいいのだが、ここも物資を得るにはなかなか不便でしてね。」


水くらいは用意出来るが・・と言いかけたドリガロンの言葉をレーヌが遮る。


「あなたの出すものは口にしません。さあ、話すことがあるのなら、早々に始めてください。」


「よろしい・・ただひとつ、レーヌ姫。これから話すことはあくまで私とこの少年の間のことです。あなたが、この少年と一心同体だと言われるほどの気持ちには敬意を表した上で、それでもお願いしたい。」


私とこの少年が話している間、あなたはただ黙って聞いているだけにして欲しいのです。

これから話す内容は、この少年にとっても驚きや戸惑いもあるでしょう。

故に、どうかその間は口を挟まないでおいて欲しいのです。


「わかりました。約束します。」


「では・・早速だが少年、名は柿崎ゆうただったな。突然で驚くだろうが、実は私と君はもともと1つの存在だった・・」


驚くというより、唖然としてしまうようなことを、ドリガロンは平然と話し出した。


「私の本当の名はドリガロニウス。本体はこの身体の中にあるエネルギー体・・君たちが霊獣と呼んでいるその者たちと等しき存在だ。」


!? 8本のスティックに宿る霊獣に気づいていたのか!?

いや、そんなことよりも・・なんだって!?


『ドリガロニウス? お前が、本当にあのドリガロニウスだというのか?』


「おっと、久しいなスタグホーン。だが、すまない。今はお前たちも全員、黙って私に話を進めさせてくれ。」


霊獣たちが沈黙を決め込むのを確認して頷いてから、ドリガロン、いや霊獣ドリガロニウスは話を続けた。


「もう何千年もの昔・・この世界が出来て間もない頃、我々霊獣は生まれた。私は9体の霊獣の中ではもっとも後に生まれたのだ。そして、それからしばらくして、人間たちが世界に溢れるようになった。」


我々からすれば、そのような表現で済むが、人間の感覚で言えばこの世界の創造から数えてかなりの時が経っていた頃・・

突然のようにこの世界の空が裂け、そこから覗いた時空の狭間をこじ開けて、あいつがやってきたのだ。


あいつは、心というものを持っていなかった。いや、悪意と言えば悪意の結晶のようなものだが、それでもこの世界に来た当初、あいつはただの物体、心は持たないただの巨大な不定形の塊だったのだ。


だが、その塊は世界の全てを腐敗させる力を有していた。歩みこそ遅かったが・・その悪しき力は少しずつ、だが確実に、このミリテスランの大地を、自然を、人を始めとする多くの命を汚し、貶めていった。


ついに我々霊獣は、このミリテスランに最初に生まれた者として、そして人々に崇拝され彼らを見護る者としてあいつに戦いを挑んだ・・だが、当時まだ強大な力を持つ者としての奢りがあったのだろう・・私を含め、誰もが共に力を合わせてあいつに立ち向かうということを考えなかった。

それぞれが勝手別個に戦っては、目の前の惨劇をかろうじて食い止めたり、時にはあいつを退けはしたものの壊滅的な結果を避けられずに実質的な敗北を喫したり・・長い間そんなことを繰り返した。


我々が、いや、彼らがようやくとそれに気がついたのは・・今もまだあの土地の地下に廃墟として眠る旧ダミナートに・・そう、私が祀られ見護っていたこの世界の中心に、あいつが侵攻を開始し、激戦の末に私があいつに取り込まれ力を支配された後だったのだ。


今であれば、そこにいる8名の霊獣たちにも分かるだろう。自らの意識はありながら、望まぬ破壊、蹂躙、殺戮、そういうことに己の力を利用され、更に悪しき意識を生み出してゆくことの苦しみと悲しみが。

私はあいつの中で、死を選ぶことすら叶わない絶望の中でそれから更に長い年月を過ごすハメになったのだ。


そして、あの日。私を除く8体の霊獣たちはたった1振りの剣に身を寄せ・・ひとりの人間の騎士の手に握られて、私の前に・・正確には私を呑み込んだ『敵対因子』と後の世で語り継がれた存在の前に立ちはだかったのだ。


確かに、今思えばあれはやむを得ない選択であっただろう。そして、やはり今思えばそれは我らにとっても最初に思い至っておくべき方法だったのだ。

最後の瞬間、リトロマインと名乗ったその若き騎士の手によって振り下ろされた私の兄弟たちとも言える霊獣たちの宿るその剣で、あの身体は一瞬にして千々となり・・同時に背後で切り裂かれた時空の裂け目へ、意識を失った私ごと吸い込まれていった。


だが、話はそこでは終わらない。次に私が意識を取り戻すと、そこは辺りにあいつの身体の破片が漂う闇の次元だった。そのひとつを手にとってみると、それはすでに命の抜けたただの肉塊であった。あいつは、心こそ持たないがひとつの命ではあったため、それを失ってしまってはもはやただの物体に過ぎなかったのだ。

他に目につくものは何もない寂しい空間かと思われた。。しかし、そこにたった一つ、小さな光の差し込む場所があったのだ。ほんの、人の指の先ほどの大きさの穴だ・・エネルギー体といえど私ではそこから穴の外へは出られない。しかも、その穴は次第にその大きさを狭めてゆく。


そこで、せめてその先には何があるのか見てみたいという衝動に駆られた私は、穴に近づいて外の様子を伺った。

するとどうだ? その向こうでは、まさに一つの命が誕生しようとしているではないか・・

だが、私には同時にその人の子の悲しい運命すらも分かってしまった。。その子は生まれつき身体に欠陥を持っている。

このまま生まれても、すぐにその命の灯は消えてしまうことだろう。

私はなんとかしてその命を救いたい、そう考えた。だが、このような状況にある自分にしてやれることなど・・

その時だ、その子に対する情けと、私自身の潰えぬ光ある世界への欲望とがふいにひとつに混ざり合ったのは。


迷っている時間はなかった。私は、近くに漂っていた手頃な大きさの肉塊をつまみあげると、そこへ可能な限り私の分身ともいうべきエネルギーを注ぎこみ・・今にも消えようとしていた穴の向こうで、母親の胎内より生まれ出でようとしているその子の中へと送り込んだのだ。

穴が完全に閉ざされようとした瞬間、私は聞いた。確かに私の一部をその身に宿して高らかにに上げられたその子の産声を・・


長い独白の末に、ドリガロニウスはそこで言葉を置いた。

そして、しばしの沈黙。


「それじゃあ、その時生まれた子というのが・・?」


「その通り、他でもない君ことなのだ、柿崎ゆうた。君は異世界生まれの少年柿崎ゆうたであると同時に、私と同一の存在・・つまり霊獣『ドリガロニウス』でもあるのだ。」


「そんな、でたらめなことが・・」


「でたらめなどではない。君はペリノニムの祠で覚えのある体験をしたのではないか?」


「あ・・」


「そう・・なぜ、君だけが過去の時間で存在し得たのか? それは、この世界のあの時代にも、君は霊獣ドリガロニウスとして確かに存在していたからなのだ。」


この世界と君が生まれた世界、そして私が追放された闇の次元では時の流れ方が違う。だが敵対因子として私と共にあいつの中に存在していたというのは紛れもない事実だ。


「それが本当のことだとして・・なぜ、俺はこの世界に来た・・いや、戻ってきたんだ。まさか、それすらも全て・・」


「分かってきたようだな。そこにいるレーヌ姫の類い希なる魔力、それを利用して君がこの世界に来るよう仕組んだのも私だ。ダミナートの宰相という立場に潜り込み、準備を済ませるにはそれなりの時を費やしたよ。」


レーヌ姫が君を召喚する際に使った古代魔法の書も私が書いたものだ。

レーヌ姫は、どことも知れない世界からどんな者がやってくるのかも分からないまま、あの儀式を行ったことと思うが・・最初から君をこの世界に呼び寄せるようになっていた。

ただ、方法論は確立出来ても、それを実行することが出来る見込みのあるのはレーヌ姫だけだった。そう、このミリテスラン中を探しても、光の騎士リトロマインの末裔にして稀代の魔法使いであるあなたしかいなかったのだ。


「ドリガロン・・いいえ、ドリガロニウス。もう、私も話していいですか?」


「心苦しい思いをさせてしまいましたな。それも、私がこの少年と2人きりで話をしたかった理由でした。大方の前置きは話し終えましたので、どうぞお話しください。」


長い、前振りと呼ぶにはあまりにも長い・・

とはいえ、その全てが耳を傾けないわけにはいかない内容だった。


「私は父を殺め、ダミナートを裏切ったあなたを許すことは出来ません。が、あなたの話は理解しました。ショックじゃないと言えばそれは嘘になります。ですが、あなたがいい加減な戯言で私やゆうたを惑わそうとしているのでないことだけは分かります。」


「・・痛み入ります。」


「それでは、あなたが各地の霊獣を眠りから覚まし、魔獣体に縛り付けて支配に当たらせた理由はどういったものなのですか? そして、そもそもあなたの本当に目的としているものは何なのです?」


レーヌの問いかけに、ドリガロニウスは一旦カッキーを横目で見やり、その後視線を2人の間・・いや、虚空に定めると静かに目を瞑った。


「それはこれから話すつもりでした。まず、霊獣たちを魔獣体に縛り付けて各地の支配を進めさせようとしたのには2つ理由があります。」


ひとつは、霊獣たちを魔獣体に馴染ませるため。もうひとつは、レーヌ姫・・あなたがその少年を伴い、各地でそれを撃破していくこと。。霊獣たちが皆あなたたちに付くことを見越していたからです。


私は、その少年がこの世界に来る際、身につけているものが一つ霊獣の力を宿してそれを様々な能力へと変えることが出来る武器に変化するよう計らいました。

そして、そこへ最初に宿るのが、私がその少年に渡した私が私たるためにもっとも重要な部分。私が本来司っていた能力であるようにと・・


「!? 最初に装填されていた卵焼きスティック・・雷・・電気の力・・そうか、そういうことか!」


カッキーの言葉に、ドリガロニウスはその目を閉ざしたままで深く頷く。


「その通り。最初に君の雷の剣を受け解放されたスタグホーンも、そこに自らの力を込めることが出来ると本能的に感じたことだろう。その力を宿すべきが魔獣体の一部であることも。」


その雷の力を宿したものは、私が私の一部を込めて君に渡したあいつの身体で出来ている・・そして、その力は君の中にある私の一部と常に繋がっているのだ。

そして、私が今宿っているこの身体も、この身から別れた8体の魔獣たちも、全て同じあいつの身体から創られたものだ。


結論から言うと。全ては柿崎ゆうたという少年の手で8体の霊獣を解放すると同時に、自らの意志で魔獣体の一部へと宿らせ、更にはその少年と共に私の前に集めるために行ったこと・・そういうことになる。

最後に残ったララングストゥも、役目を終えたならば君に倒してもらわなくてはならなかった。そこで、君へのとどめを止め、完全無欠の防御力にもわざわざ隙を作ってやったのだ。


「何の為に!? 一体あなたの最終目的は何なのですか!?」


「それは・・私がその少年と再度融合することで本来の霊獣ドリガロニウスとして蘇るため。更には8体の霊獣全てをその身に取り込み、ひとつの存在となってこのミリテスランに在らんがためだ。色々考えたのだが・・力を失っている今の私が全てを手にするにはその方法が一番だった。」


我らがすべて絶対的なひとつの意志、ひとつの力となることが出来れば・・たとえこの先、あいつのようなどんな脅威がこの世界を襲ったとしても打ち破ることが出来る。

ミリテスランは、完全となった私の誕生とともに永遠の平和を得た世界となるのだ。


カッキーが恵方巻きを抜いて椅子からガタリと立ち上がる!

続けてレーヌも席を立つと、彼の後方に飛び退って杖を構えた。


「冗談じゃない! そんな好き勝手な言い分、聞いていられるか! ライジング恵方巻きブレード!!」


!? 雷の剣が出ない!?


「そうだろうな・・いくら同一の存在とはいえ、別な生をそこまで歩んだのだ。簡単に私の望みを受け入れてくれるとは、さすがに思ってはいなかったよ。」


この部屋には、魔獣体に作用する結界を張らせてもらっている。すまぬな、君たちを罠にかけた形になる。

だが、これも・・完璧な世界を作るためだ。


『!? 外に出られんでおじゃる!?』


『ワシもじゃ! いざとなったらと思いながら聞いてきたらヤラれたわい!』


ドリガロニウスは纏っていたケーブをバサリと脱ぎ捨て、その簀巻きで縛られた老体の上半身を露わにすると、自らの手でそれを剥ぎ取った!


「長い試行錯誤の果てに、なんとか次元の壁を引き裂いてこの世界へ戻ってくる時に使ったあいつの残骸ともこれで決別だ!!」


!?


ドリガロニウス、いや彼が宿っていた老体が砂のように崩れ落ち、中から卵型のエネルギー体が飛び出す。それは、まっすぐにカッキーの口へと飛び込んできた!

カッキーの瞳孔がまるで爬虫類のように縦に絞られてゆく!


「ようやく、ひとつに戻ることが出来たぞ! さあ、お前たちも来い! これが今日から我々の新しい身体だ!」


カッキーの姿をしてはいるが、その意識は完全にドリガロニウス! しかも先ほどまで老体に宿っていた者とも違う真のドリガロニウスは、次々と霊獣たちの宿るスティックを丸呑みしてゆく。


「ユータ!?」


あっという間の出来事に、立ち尽くしていたレーヌがハッとした表情でカッキーの名を叫ぶ。と、同時に部屋の扉が開け放たれ、彩奈たち3人が中へなだれ込んできた。


「何があった、レーヌ!? 柿崎ゆうた!?」


ウッキャー!?


仲間たちの目の前で、カッキーの姿がみるみるうちに変化してゆく。


全身に赤い甲殻状の装甲が形成され、露わになっている部位の体表は緑色の鱗で覆われた。その背中には骨状の翼とトビウオの鰭羽根が計4つ突き出している。

また、頭部には鋭い二本の角が生え、ブロンドの長髪がバサリと伸びてきた。


まさしく、『悪魔』のような出で立ちである。それでもまだ、カッキーの面影はそのままに新生ドリガロニウスの肉体は完成した。


え? キノコ要素とキュウリ要素がない。。?

いや、それはたぶんジーンズに隠れたあのあたりに・・どうなっているのかはお見せするワケにもいきませんが・・


と、閑話休題を挟んでいる場合ではないのである。カッキー、いや新生ドリガロニウスはレーヌとたった今部屋に転がり込んできた面子をゆっくりと見回すと、満足そうにこう言った。


『素晴らしい。分かるぞ、かつてあいつと一体化していた時よりも・・ずっと強大な力を感じる。これならば、どんな者が攻めてこようと負けることはない!』


やはり、最初から我らはこうするべきだったのだ。太古の昔に気がつけてさえいれば、今ごろこのミリテスランはどんな世界にも負けない楽園となっていた!


「プ・・プチミニマムリトルタイニィスモールファイヤーボール!!」


くるみが放った鼻くそほどの火球は、新生ドリガロニウスの指先であっさりとつまみ潰されてしまった。


「・・ツ・・ツッコミが来ない! あんたなんかユータおにーさんじゃない!!」


「・・どうやらそのようですね! ドリガロニウス! ユータの身体から即刻出て行ってください!!」


『レーヌ姫・・あなたにはこの身体、この力の素晴らしさが分からないのか? 所詮はあの日、私をあの暗黒の世界に追いやった愚かなる騎士リトロマインの末裔か・・』


「愚かですって!?」


『そうだろう? せっかく手にした大いなる力を、たった一度の目的を達成しただけで手放してしまったのだから!』


例え、脆弱なる人の身であろうとも、霊獣を8体も従えればこの世界を一変し歴史にその偉業を記すなど造作もなかったろうよ。


『そうだ、これだけの力ならば・・ただ向かってくる脅威を迎え討つだけではつまらん。都合の悪いものはなんでも捻じ曲げなかったことにしてしまう人の歴史になど興味はないが・・私はこれからこの世界を思う様変えてゆけるのだ!』


「ドリガロニウス、あなたは間違っています! たった1人で思い描いた世界が・・本当の平和になど辿り着けるはずがありません!!」


リトロマインは・・独りではそれが決して成し得ないと分かっていたからこそ、霊獣たちと協力し・・だからこそまたそれぞれの道に別れたのです!


本当は、彼も霊獣たちも、あなたのことだって救いたいと思っていたはず! それが出来なかったことが辛かったからこそ・・彼はこのペンダントにそんな悲しみの記憶を残して後世には伝えたくはなかったのだと・・そんな風には考えてもらえないのですか!?


『ハッ! 数千年もの昔にこの世を去ったあいつと会ったこともあろうはずのないただの子孫に・・なぜそう言い切れる? 私に言わせれば、なぜそれが自分に都合の悪いことを闇へ葬った証だと考えられないのか?』


まぁ、いい・・人間と多くを語り合う必要などない。安心するがいい、私はあくまで素晴らしいユートピアを創りたいだけなのだ。お前たち人間も私が護るべきこの世界の一部! ここで無為に命をとったりはせん。さぁ、どことなりでも去って新しい世界の幕開けを楽しみにしているがいい!


新生ドリガロニウスは、そう叫ぶがいなやダンと地面を蹴って空に舞った。


「危ない! みんな、早く部屋を出てください!」


レーヌの呼びかけに応えて、全員が部屋の外にある祭壇まで避難する。

その時既に、新生ドリガロニウスは4枚の羽根で羽ばたきながら凄まじい回転をその身に加え、部屋の天井つまり上の階層の床をぶち抜いてあっという間に姿を消した。


しばらく後、地震のような衝撃が収まってみると、思ったほど部屋の中へは残骸が残っていない。再び中へ入って一行がその穴を見上げると、はるか上の方に一際明るい光が射しているのが見えた。


「ムチャしてくれるよねー! なーにが危害は加えん、よ!? あったまきちゃう!」


「なあおい・・あれ地上までイってんじゃないのか?」


「たぶん、そうですね! 私たちもここからまっすぐに彼を追いますよ! ゲイルレビテーション!!」


レーヌが呪文を唱えると、下からものすごい突風が吹き上がり、一行の体をエレベーターのように上へと押し上げていく。


「少し狭いので、みんな端に身体を打ちつけないよう避けてください!」


「マジか!? ヨッ! ハッ!」


「なんか楽しー! 最高のアトラクション!」


ウッキー! ウッキー!


次々と階層の床を突破しながら、レーヌはこの遺跡が先ほどの衝撃にも大した地崩れを起こさなかった訳を目の当たりにした。

この床は一見岩盤のように見えるが、実は思っていたよりも薄い表面のカムフラージュの中には金属の板が収めらている。その所々に赤や白の紐が走っており、その切り口からは銅色の糸のような束が覗いていた。


「なんか、スゲェ発見してないか私たち!? やっぱり遺跡ってのは掘るだけ掘ってみるもんだなぁ!」


「それは後です! 絶対に逃がしませんよ、ドリガロニウス! 私の大切な人は必ず取り返します!!」


上の方の階層の床は普通の岩へと変わっていったものの、通過に支障は特になし!


レーヌ一行は、最短距離を無事くぐり抜けて太陽の下へと飛び出した。


「お待ちなさい! ドリガロニウス!」


地上へ彩奈たち3人を下ろし、レーヌはそのまま上空で羽ばたく新生ドリガロニウスを追った。


『ほう・・よく追いついてこれたな。レーヌ姫・・やはり、飛び抜けて高い魔力を持っているようだ。』


だが、それでも人の魔力には限界がある。私を捕まえることが出来るかな?


新生ドリガロニウスがそう考えていると突然目の前に、疾風のごとく速さを増したレーヌがギュン!と現れる。


『速い!? 今のは明らかに私の最高速度を超えていた・・全ての霊獣の力を得た私を凌駕するだけの魔力が人間などに!?』


「ユータを返しなさい!」


空中で掴みかかってくるレーヌを、新生ドリガロニウスはいとも容易く躱してゆく。


『そうかと思えば、今度は取るに足りないスピードか・・分からんな・・』


「私は! 約束したんです! ユータと一緒に平和な世界を取り戻して! そして、共に生きると・・!」


『だから、言っただろう? それは私が成し遂げてやると。残念ながら、柿崎ゆうたの身体を返してやるワケにはいかんがな・・この身体は既に私のものだ!』


それ以外ならば、お前は人間の中ではなかなか見所があるようだ。色々と与えてやってもいいぞ?


「いらない!」


『ほう、愚かな。』


「愚かでもいい!」


ハァ! ハァ!


次第にレーヌの息が大きく乱れ、身体を支える風の魔法の力も弱まっていく。


『悪いことは言わん、その辺りが人間の力の限界だ。残りの魔力は地上へ戻るのに使うがいい・・このままではじきに力尽き、地面に叩きつけられるぞ。人の身でこの高さでは助かりはせん!』


「そうなったって構わない!」


レーヌの長い髪が黒い炎のように逆立つ!


「ユータを! 返せぇー!!!!!」


次の瞬間、風の矢のように向かってきたレーヌの正拳突きが、新生ドリガロニウスの顔面にクリーンヒットした!


『・・・!?』


信じられないものを見たという目つきでレーヌの身体を引き離し、呆然と彼女の顔を見つめる新生ドリガロニウス。


身体のダメージはない。むしろ、目の前のこの満身創痍な少女の方が拳を痛めたのではないのか?


少女は怒りの形相から一転、今にも泣き出しそうな顔をして唇を噛み締めていた。

そして、空中でフラつきながらも、懸命にその手を伸ばして訴えかけてくる。


「ユータ・・帰ろう、一緒に。私・・独りじゃ・・もう・・お願いユータ・・!」


憐れな・・この少女は私にではなく、もはやここにはいない柿崎ゆうたへ言葉を投げかけているのか・・


だが、待てよ・・?


確か、この光景・・いつか見た気が・・


ーーーーーーー


ドリガロニウス! 諦めるな! 私たちは一緒に帰るんだ!


鎧を血に染めた騎士が、その手をいっぱいに自分の方へ伸ばしている。


『剣を放すのだリトロマイン!』


『両手を使ってもっと前へ出るでござる!』


『片手じゃ届きませんわ!』


ダメだ・・! 今この手を離したらお前たちがあの裂け目に飲み込まれてしまう!


『そんな! なんとかならないのでおじゃるか!?』


くっ・・こんなことになるなんて・・すまない・・すまない! ドリガロニウス!


もっと早く、お前たちと出会えてさえいれば・・


ーーーーーーー


これは!? あの時薄れゆく意識の中で目にしていた記憶・・?

あの冷たく暗い世界で、怒りにかき消され忘れていた私の記憶なのか!?


ハッ!?


新生ドリガロニウスを現実に引き戻したのは、あの日のリトロマインの姿と重なっていた目の前の少女が、ついに魔力を使い果たしグラリとその身を傾ける姿だった。


パシッ!


思わず、新生ドリガロニウスは気を失い地上へ落ちゆかんとしていたレーヌの腕を掴む。


『バカな!? 私はいったい何をしている!? 私の忠告を無視して力尽きた愚かな人間の娘ではないか!?』


その時、新生ドリガロニウスの装甲を貫き、8体の霊獣たちが優しく彼とレーヌを包み込んだ。


『おめでとう、ドリガロニウス。いや、ユータ。』


『大切なものを思い出せたようじゃの。』


『それが、愛というものでござる。』


『さすがは、同じ存在同士でおじゃるな!』


『・・・(カッコいいでちゅよ!)』


『まったく、見せつけてくれるぜ!』


『でも、彼女にはいいとこ見せそこなっちゃったわね。』


『なに、彼女ならばきっと夢の中でだって彼の温もりを感じていますよ。』


『さぁ、柿崎くん。霊獣たちがあなたたちを地上まで連れて行ってくれます。楽にして、でも決してレーヌさんを離さないように・・それから・・彩奈にどうしても伝えてもらいたいことが・・』


カッキーは、レーヌの身体をお姫様抱っこにかかえあげた。ホントのお姫様を抱っこしてお姫様抱っこか・・考えてみればこの場合のみ変な言葉ではあるな。


温かい霊獣たちのエネルギー体に包まれたまま、レーヌを抱きかかえたカッキーの足は静かに地上へと降り立った。


レーヌの目がうっすらと開かれて、ユータの頬を撫でる。


「鱗・・ありますね。でも、分かりますよ・・ユータ・・」


その端から熱い涙が流れ、幸せそうな微笑みを見せると、レーヌは再び気を失った。

そう、カッキーはドリガロニウスと意識を重ねた上で、カッキー・・いわば新生カッキーとして蘇ったもののその身体は未だに異形のままである。


彩奈、タカ、くるみが2人に駆け寄り、恐る恐る声をかけてきた。


「おい、ドリガロン・・お前・・何レーヌをお姫様抱っこしてんだ?」


あ、こっちの世界でも普通にその言葉使われてるんだ!?


「もしかして、レーヌおねーさんのこと好きになっちゃったの!? ラブラブなの!?」


ウッキー! ウッキー!


「あ〜・・いや、ゴメン。この姿で言っても説得力ないと思うけど俺だよ。柿崎ゆうた・・」


やはり、レーヌのようには簡単にカッキーであることを信じてもらえず、そこからはカッキーがこれまでみんなとしてきた冒険トリビアクイズ大会みたいになって盛り上がってしまった。


「ふむ。どうやら、本当に柿崎ゆうたのようだな・・じゃあドリガロンのヤツは何か? 死んじまったみたいなもんなのか?」


長い長い前置きを聞いていない連中に、この説明をするのがまた大変だった。


「・・というワケでして・・もともと俺たちはひとつの存在でしたから・・さっきまではドリガロニウス寄りで、いまは俺寄りになったというか・・」


心の中の天使と悪魔がどちらも天使になっただけというか・・

あーもう、うまい説明の仕方が見つからない。ここであの緑色の神と大魔王を引き合いに出せたらどれだけラクなことか。


「まぁ、だいたいは分かった・・しかし、やはりその姿だとなんかやりづらいぞ、元には戻れないのか?」


「ええ・・なんせ、俺の身体の中に魔獣体の元になったヤツの欠片が8つも残ってますんで・・」


「え? いいんじゃない? 悪さしないならけっこうカッコいいし、怪獣みたいで!」


人のこと指差して怪獣みたいとか言ってんじゃない! カッコいいと言えば許されると思ってたら大間違いだぞ!


「あ! 心の声のツッコミ! やっぱりユータおにーちゃんに間違いないや!」


人の! 心のツッコミを読むんじゃない!


「え? ちょっと待て、霊獣たちがみんな外出て・・スティックがぜんぶお前の身体の中に混ざってるってことは・・悟浄はどうなったんだ!?」


「烏丸さんは・・霊獣たちと一緒に俺の中から解放されましたが・・エネルギー体を持たないので、俺に彩奈さんへの言伝を頼んだ後・・消えてしまいました・・」


「そんなまさか!? ・・・! 変身が・・」


俯いた彩奈だったが、すぐに気丈に白い歯を見せてカッキーに向き直る。


「それで? あいつ・・なんだって?」


「今消えようとする身であっても、変わらずあなたを愛していると・・」


「・・・」


「愛しているから、あなたが幸せを見つけてくれることを願うと言っていました。」


「かーっ! クサい! てめえの女遺していっちまうって時にそのセリフかよ・・イケメンも過ぎるとどうだろうな!?」


「彩奈さん・・」


「ん・・まぁ、あいつの気持ちは受け取った。メッセンジャーありがとな柿崎ゆうた・・」


あとは、今夜思いっきり泣くわ!


そう言うと、彩奈はひと筋の涙を頬に伝せてまたニカっと笑顔を貼り付けた。


「なんだか・・彩奈さん見てたら、俺も怖くなっちゃったな・・」


「どういう意味だ・・?」


今のカッキーにはドリガロニウスとひとつになったことで分かることがあった。


「これから、闇の時空へ赴いて、この身体の魔獣体の部分を捨ててこないとならないんです。俺の中の俺・・ドリガロニウスだったあたりがケジメをつける為にどうしても行くと。」


それに、このまま存在していると、この世界にも悪い影響が出る可能性も高いらしく・・

あと、そうすれば俺も元の姿に戻れるそうで、実際のところそれが一番デカいというか・・


「分かりました。それでは早いところ済ませてしまいましょう。」


不意に下から声が聞こえるのでカッキーが視線を下ろすと、レーヌの切れ長の目がパッチリと開いている。


「あ、目が覚めてたんだ? どこいら辺から聞いてたの?」


カッキーはレーヌをそっと下ろしてやる。


「これから闇の時空へ赴いて・・の辺りからですね。今日は記念すべき日です。これからやらなければならないことがたくさんありますから・・」


すぐに戻ってこられるんですよね?


「うん・・まぁ、霊獣たちに次元の裂け目を開いてもらって、ちょっと離れたところで分離するだけみたいだから。」


「それなら、念のためにロープで身体を括っておきましょう。万が一何かあってもすぐに手繰り寄せますから。」


ということで、最後のお務めはさっさと済ませてからダミナートへ凱旋する運びとなった。


「じゃあ、霊獣さんたちも、最後の一仕事お願いします!」


8体の守護霊獣たちは一斉にうなづくと、空間にそれぞれの鋭い一撃で傷をつけてゆく。

最後のララングストゥが空を切り裂いた時、カッキーの目の前には8方に切れ目の入った別次元への入り口が出来上がっていた。


「それじゃ行ってくるよ。なんかあったら合図として思いっきりこのロープ引くから、みんなよろしく!」


腹に長くて丈夫なロープをくくり付けたカッキーは、そう言い残すと闇の渦巻く時空へと足を踏み入れた。


中はその名の通りの闇の世界。音も掻き消され、じっとりとした冷気が身体にまとわりつく。おせじにも居心地がいいとは言えないが、ドリガロニウスの記憶があるのでそれはまぁ・・来る前からわかってはいた。


意外となんてことのない世界だな?と思いながら進む自分と、時空乱流の発生エリアとそうでない部分との違いだと教えてくれる・・というか知っている自分がいて、なかなか変な気分だ。


「この辺でいいかな?」


この独り言も、実際は自分の耳にも届かない。またもや、ここまで来れば十分だと頭の中で囁く自分がいたりする。


カッキーは、既に知っている方法を発動させ、体内の魔獣体・・かつての『あいつ』の身体を分離していった。


真っ黒な空間に、8つの不定形の塊が漂った時、カッキーの姿は以前通りの人間のそれに戻っていた。


さて、それではこのロープを辿って帰るか・・とカッキーが振り返ると・・


そこには、暗闇の中にあって尚深い闇を思わせる漆黒の渦が待っていた・・



カッキーが次元の入り口を潜って闇の狭間へ赴いたあと、レーヌは彼を括って送り出したロープの表面に指を這わせながら、これからのことを考えていた。


やらなけばならないことは山ほどある。リヴィンのキケルや、ドラグドラドの龍尾にも報告しなくてはならないし・・

封鎖中の転移ゲートの解放もやらなくてはならない・・

早く、みんなの安心する姿や喜ぶ顔が見たいものである。

各地の祠もなるべく早く建て直して・・霊獣たちにも再び安住の場を与えてあげなくては・・それまで何かに宿ってもらうことは出来るのだろうか? エネルギー体とはいえ、なかなかの大所帯・・小さなものがいいな。ヌイグルミとか・・


だが、それは明日からでも構わないかな、とも考えていた。

今日は、まず久しぶりに贅沢な香油をたっぷり入れたお風呂に浸かって・・

ちょっと豪勢な夕食で旅の目的が無事遂行されて終わったことへの検討を仲間と讃え合おう・・

そして、それから・・今夜、疲れて泥のように眠ってしまう前に・・ユータの部屋へ行こうかな・・悪いけれどタカにはちょっとどこかへ出てもらって・・怒るかしら・・?


そんなことを徒然なるままに思い巡らしていると、突然弄んでいたロープに異変が起こった!


中からグイグイと引っ張られるどころか、蕎麦通が麺をたぐるような勢いでズルズルと飲み込まれていく。

思わず摩擦によって感じた熱さと痛みに手を離しかけたが、レーヌはそれをグッと堪えた。だが、ロープは彼女や仲間たちの手を無情にもすり抜ける。


「なんだ!? ものすごい速さだぞ!?」


十分に余裕を持って用意しておいたはずのロープが、あっという間に残りの長さを感じるまでになっていた。


『時空乱流でござるか!?』


『しまった。ユータが入る前に周囲の様子は探ったのだが・・』


『まったくツイてない男でおじゃるな!?』


レーヌは、霊獣たちの会話を耳にして悟った。ここで躊躇ったら、もうユータには2度と会えないかも知れない。


考えるよりも早く、レーヌは残ったロープの端をしっかりと自分の身体に縛り付けた。


「レーヌおねーちゃん! なんてことするの!? それじゃあおねーちゃんも!」


ウッキー! ウッキー!


「ごめんなさい、くるみちゃん、タカ・・」


「・・どう止めようと聞かないってツラだな・・?」


「はい! まずは、お別れです! もし、また会えたなら、その時はまた・・」


あとは頼みますね!


「恵方巻き、広めてやるってあいつに言っとけ!」


彩奈の最後のみやげ文句に一瞬の笑顔で応え、レーヌは時空の入り口へ飛び込んだ。


『さあ、みんな下がれ! 時空乱流がここへ来ないうちにここを塞ぐぞ!』



カッキーは漆黒の闇の中を漂っていた・・

まさかの時空乱流に飲まれ、出口を目指すこともかなわずに翻弄され、意識も薄れかけていた・・この感覚・・覚えがある。。

そうだ、あの時も・・こうやってしばらく闇の中をさまよって・・それから・・


ぼやけた視界に小窓のような光が見えてきた。そうだ、あの時もこうやって謎の光に引き寄せられて・・


そこで、カッキーの意識は深淵へと落ちていった。



再び物心地がついて目を見開いた時、カッキーの目の前にはレーヌがいた。


だが、目の前のレーヌは動かない。それに・・よく見ると目鼻立ちが違う。一瞬錯覚したものの、今のカッキーがレーヌの顔を見間違えることはない。

すぐにそれが、他人であることに気がついた。しかも、それは平面に印刷された、かつては大ファンだったグラビアアイドルの薄っぺらいポスターだったのだ。


ポスターの中で悩ましげな顔を向ける彼女の口の部分には、自分で押し付けた覚えのある恵方巻きの断面が張り付いている。


こんな・・こんな結末なんてないだろ・・


カッキーは信じたくなかった。あの時、ブァフウの占いによる幻で見せられた未来そのものだ・・信じたくはなかったのに・・


ウッ・・グッ・・


とめどない涙と嗚咽が溢れて止まらない。あのミリテスランでの毎日は、しっかりとこの記憶に焼き付いているというのに・・


タカや彩奈・・くるみのことも、こんなにはっきりと覚えているというのに・・


・・レーヌ・・


その時、不意に横からカッキーの顎に添えられた指があった。その手の動きに誘われるままカッキーはそちらへ顔を向ける。


ハムっ!


宙ぶらりんとなった恵方巻きの端を、受けとめるようにかぶりつく本当のアイドル、本当の天使の顔がそこにあった。


・・!?


ハムっ ハムっ!


カッキーの涙まみれの顔を愛おしそうに見つめながら、少女は一心不乱に食べ進んでくる。


お、俺も・・!


ハグっ! ハグっ!


カッキーも急いで齧る、飲み込むを繰り返した。少女の目にも次第に涙が滲む。


ハグっ! ハグっ!


ハムっ! ハムっ!


そうだ、恵方なんて決まっているんだよ。

俺にとっては、いつだって君のいるところが・・


ハグっ! ハグっ!


ハムっ! ハムっ!


私にとっての『エホウ』は、あなたがいる場所のことです。この気持ち、永遠に変わりません・・


・・・


・・・


ハグっ・・


ハムっ・・


・・・・・チュ♡



ー完ー

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