(六十一)魔法玩具店の日常へ
トイズマスターは、多次元管理局で最後の報告を済ませた。それから白く寂しい通りへ戻って来ると、我が家の前で、足を止めた。
凝った木彫りの魔法玩具店『カラクリ』の看板が頭上にぶら下がっている。
この風景が、なんとも懐かしい。この木製看板を自作したのは、もう何十年も昔のこと。白く寂しい通りに店を構えると決めた時に、決心を彫り込んだ。こうしてよくよく観察すると、縁飾りの金色模様が剥げかけていた。
「そろそろ寿命だな。塗り直しをしなくちゃ」
しばし感慨に耽っていると、
「るーっぷっ、ご主人さまーっっっ」
いきなり店のドアが開いて、シャーキスが、頭からトイズマスターに突っ込んできた。ぬいぐるみだから、ぶつかった衝撃は柔らかく、トイズマスターはシャーキスを胸に抱きしめた。
「やあ、ただいまシャーキス。心配をかけてすまなかった」
「るるるいーっぷ、よくぞご無事で!」
シャーキスはしゃくり上げていた。黒ボタンの目からは涙こそ出ないが、濡れたようにツヤツヤと輝いている。シャーキスはトイズマスターのシャツの胸に、頭をギュウギュウ押しつけた。
トイズマスターは、ふるふる震える背中を軽く叩いてやった。
「リリィーナに知らせてくれて、ありがとう。長いこと留守にして、本当に悪かったね。君が留守番してくれたおかげで、店はそのままだ」
シャーキスは黒いボタンの目にトイズマスターの顔を映し、何度も首を上下に振った。
「ええ、ええ、長い長い、お留守でした。お店は休業していましたが、お部屋もアトリエもいつも通り、きちんと片付けてあります。それから、エクメーネにお夕食の注文もしてあります。いつもの塩鮭定食おひつご飯付き」
「やあ、嬉しいな、ありがとうシャーキス、それじゃあ夕食前に、さっそく新しい仕事にかかろう」
「今日くらい、ごゆっくりされては?」
「命の恩人のラリゼル姫に、すてきなオモチャをプレゼントしたいんだ」
「それなら喜んでお手伝いします」
トイズマスターはシャーキスを左手で抱え、自分の店のドアを開けた。




