(五十六)その正体は
老人の死体の左肩を蹴って仰向けにしたリリィーナは、左足で死体の右肩を踏み押さえて銀の剣の柄を握り、死体から引き抜いた。と、干からびた死体はカサカサと音を立てて、古びた紙のように崩れていった。
――――乾ききっている以外は人間の死体のようだが…………。
銀の剣を一振りして、リリィーナは玉座に向いた。
トイズマスター、と、玉座に向かって呼びかける。銀の剣を下げたまま、ゆっくりと玉座に歩み寄った。
「聞こえますか、トイズマスター。わたしは不思議探偵のリリィーナです。念のため、御自身の名前をフルネームでお答えください」
リリィーナはトイズマスターの反応を待った。
トイズマスターの、右肩に傾けられていた頭が少しばかり上向いた。そして、落ちかかった髪の隙間から、虚ろな目が覗いた。
「……ああ、リリィーナだね。酷い目に遭ったよ。私の名前は第二十三代カラクリ仁左衛門だ。早くこの縄を解いてくれ、気分が悪い……」
「少少お待ちを。確認しなくてはなりませんので、御協力をお願いします。貴方のご職業は白く寂しい通りの、魔法玩具師で間違いありませんか?」
「ああそうだ、私は白く寂しい通りの魔法玩具師だよ」
「店はどこにありますか。住所は言えますか?」
「ああ、私の店は、白く寂しい通りにある。住所は、第ゼロ次元、白く寂しい通り、十番地の一の九の……」
「白く寂しい通りの住所は正解です。あなたは匠の館でわたしと会ったトイズマスターで間違いなさそうだ」
トイズマスターの言葉を途中で遮り、リリィーナはうなずいた。
いかっていたトイズマスターの肩が落ちた。
「はあ、早く助けてく……」
れ、という最後の声は空中で消えた。
リリィーナが前触れなく、銀の剣を一振りしたからだ。
トイズマスターの首は、刎ね飛ばされた。
返す刀で、椅子に残った胴体の左胸を刺す。銀の剣はトイズマスターの心臓をつらぬき、玉座の背もたれにまで突き通った。
床に落ちた首は転がり、止まった。
その断面からは血が流れ出ている。
床に右頬を付けたトイズマスターの首が、カッと目を見開いた。
「なぜ……だ。……なぜ、君が、私を殺す、不思議探偵リリィーナ……?」
首が喋った。
リリィーナは首を振り返った。トイズマスターの体を椅子に縫い付けている剣を引き抜くと、振り返りざま、無造作に銀の剣を投擲した。
銀の剣は、風を切って飛んだ。
そして、床に転がっている首の顔面中央を刺し貫いた。
驚きにポカンと口を開けた表情で、トイズマスターの首は標本さながら、床に留め付けられた。




