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境海の不思議探偵リリィーナ『夜の遊びの国』  作者: ゆめあき千路


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(二十三)迷子たちの行方

 ドアの隙間から光が漏れている。

 ラリゼルはそうっと覗いた。

 四角い箱が所狭(ところせま)しと並べられていた。縦横は一メートル前後だ。箱の側面には鉄の格子がはまっているらしい。

「何の箱かしら……?」

 人気(ひとけ)は無いようだ。ラリゼルはドアノブを回した。鍵はかかっていなかった。


 ラリゼルが室内に足を踏み入れるや、無数の視線がいっせいにラリゼルに突き刺さってきた。異様な雰囲気に足が竦んだ。頭だけを動かし、室内を見回してみる。

 視線の主たちは箱の中にいた。


 その正体を目の当たりにしたラリゼルは、全身が凍りついた。箱は、檻だ。側面に鉄格子のはまった頑丈な檻なのだ。中にいるのは動物たちだ。


 だが、普通の動物ではなかった。


 ラリゼルの左側の檻には、全長五十センチ足らずの水色の竜が寝そべっていた。目は金色のビー玉のようで、全身の鱗はガラスのよう。透明でキラキラしている。その黒い瞳がラリゼルと視線が合うと、針のように縦に細くなった。


 しばらくして驚きと恐怖心が薄れると、ラリゼルは忍び足で歩きだした。

 ピエロを警戒するよりも、このどんよりとした静けさを破る方が、なぜだか恐ろしい。ここは倉庫だ。反対側の壁際まで歩いて、広さは上階にあった舞踏室ほどだとわかった。

 大小取り混ぜた檻に入っているのは魔法の生き物だ。


 人間の住まう国にはめったにいなくて、魔法の伝説やおとぎ話の中でしかお目にかかれない、幻獣と呼ばれるものたちばかりだ。

 たまにありふれた家畜らしい馬やロバ、牛らしい四足獣も見かけたが、なんだか顔つきが動物らしくない。黒い目には知恵が宿り、臆病な性質のはずがラリゼルを見ても怯えず、いななきひとつあげずに、目でラリゼルの動きを追っている。


 額に一本角を生やした小さな一角獣がいる。

 ラリゼルは屈んだ。このすばらしく美しい生き物をもう少し、間近で見てみたかった。目が遭った。微笑みかけてみた。一角獣は首を左右に振り、プイとそっぽをむいた。

 なによ、あなたは。興味本位に見ないでよ。

 と言わんばかりの、つんとした顎の動きだった。


「まあ、私のことがわかるのかしら?」

 彼らの目はきれいで、とても賢そうだ。

 一角獣だけでなく、向こうに積まれた鳥かごから見下ろしているインコも、あちらの片隅に繋がれたロバも。

 ラリゼルの後方の檻で寝そべっている水色の鱗をした竜でさえ、針のように細まった瞳の奥に高い知能を秘めているようだ。彼らの澄んだ目の光はラリゼルの胸を()く。その目にはもうひとつ、痛いほど感じられるものがある。それは知性と同じくらいにはっきりした、哀しみの色だった。


「かわいそうに。いったいどこから連れてこられたのかしら。上の遊園地は子供ばかりで幻獣なんている場所は無かったのに、これからどこへ連れて行かれ……!」


 突然、自分の言葉の中から、ラリゼルは理解した。

 理屈も何もない直感だったが、正しい答えが閃いた。


 彼らは移動した順番が違うのだ。


 どこかで捕獲され、この島へ連れて来られたのではなく、この島にいたものが連れ出されるために、ここへ集められた。


 彼らはこの島に住んでいた。

 この島で新しい姿に生まれ直したのちに囚われ、拘束されてしまった。


 二度と元の姿には戻れない呪いによって。


「これが、子どもたち!?……そんな!」

 ラリゼルはじりじりとドアの方へさがった。

 一角獣の檻から目を離せない。そっぽを向いていた一角獣が振りむいた。

 その黒い目から大粒の涙がこぼれ落ちた瞬間、ラリゼルは身を(ひるがえ)して、ドアの外へ駆け出していた。

 あれが真実。遊園地からいつの間にか姿を消した子供たちの、なれの果て。


ラリゼルは来た通路を全力疾走して戻った。



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