1-5 『婚約者と悪役令嬢(親友)の浮気現場を目撃する伯爵令嬢。』
自分の事しか考えていない欲望にまみれた人間というものは、顔つきも醜く歪むものである。
物凄い形相でサラナを睨み付ける。
嫌みったらしく散々汚い言葉で捲し立てた後、サラナに近づき上目使いでこう言った。
「なぁに?もしかして私とジャンの関係を妬いているのかしら?フフフッジャンはいつも私を情熱的に抱くのよ。やはりあなたじゃ物足りないのかしら?あぁ。あなた達はまだ結ばれてもなかったわね。フフッごめんなさいね。先に私があなたの愛する人の大事なものを貰っちゃって。フフフッ。これから先、何年も何度もあなたを抱くのでしょうけど、最初の女はこのわ・た・しになってしまったわね。」
自慢気にそう言い放つと文官らしからぬ長く綺麗に整えられた赤い爪を、サラナの顔の近くに近づけた。
自分達の関係をベラベラと喋るミーナの後ろでジャンは小さくなり更に深くうなだれる事しか出来なかった。
♢♢♢♢♢♢
淀んだ黒い瞳の奥で、ミーナは優越感に浸っていたのだ。
~あぁ、あぁ、見せてフフフッ見せなさいよ。
あなたのその澄ました顔が崩れていくのを。
どんな表情を私に見せてくれるのかしら?
生まれた時から全てを手に入れているあなたが、どんな風に崩れていくのかしら。
ジャンと私の関係を知ったあなたは、どう思ったのかしらね?…勿論とても悔しいわよねフフフッ。
だって、学生の頃から愛し合っていた愛しの婚約者が、自分てはなく、実は私を選んでいたとはね。
悔しいでしょう?
このまま感情に身を任せて怒るのかしら?それとも泣くのかしら?
学園時代、あなたは出会った時から、輝いていたわ。とても高貴で他を圧倒する存在だった。
周りの全ての生徒が貴女に注目し、憧れ尊敬していたのよ。
家柄もあなたが上。勉強もあなたは、とても優秀だったわ、上ね。魔力もあなたが上。
顔立ちも、そうあなたはとても美しいわ。上ね。
でもね、どうかしら?女としての価値は?女としての魅力は!
ジャンはすっかりこの私の、女としての魅力の虜なのよ。
ねぇ、悔しがりなさいよ。そして傷つき崩れ落ちていくのよ。フフフッそんなあなたを見れると思うと、とってもぞくぞくするわぁ。
早く私に見せて頂戴。あなたのそんな表情を。~
♢♢♢♢♢♢
優越感に浸りながら「ごめんなさいね。でも、こうなってしまったのは、あなたがジャンに構ってあげなかったせいなのよ。可哀想なジャン。だからどうか許して頂戴。私とサラナの仲でしょ?」
そう、結局は周りの者に優しい。友達に甘いサラナの事だ。最終的には許してくれるだろう。
ジャンと私の仲を認めるでしょう!?
私はジャンの正妻にはなれなくても愛人になら、なれそうじゃない?
そして私に子が出来て、ジャンとサラナに子供か出来なければ、…あわよくば私の子が伯爵家を継ぐことも出来るかもしれないわ。
そう考えながらニタリとほくそ笑むのであった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ひとつも表情を崩さず、それまで黙って聞いていたサラナが口を開いた。
「ジャン・ミハルド子爵令息。婚約破棄に関する書類は追ってカルティアナ伯爵家より正式な文書を作成し送付致しますわ。」
「なっ!」情けない声が漏れるが、その後はコクンと頷くしかなかった。
扇子越しのサラナの表情、これ以上反論をすると更に事態が悪くなるのをジャンは知っていた。
あれは、あの表情はまさにカルティアナ伯爵そのものだった。もしここで逆らってしまえば、後でどんな酷い抱腹が待っているかわからない。
仕方がない…。婚約破棄で済むのならば受け入れるしかないだろう。
ジャンは小さくなり力なく頷いたが、ニーナは違った。
サラナを学生時代のままの友人としてのサラナしか知らないからか、サラナの表情から事態がかなり深刻なものであるという事に全く気が付いていないようだ。
ミーナはワナワナと震え、顔をひきつらせながら「婚約破棄ですって?なぁに?サラナ、一体あなたは何を考えているの?何て勝手な、自分勝手な事を!これではあまりにもジャンが可哀想だわ!」
澄ました顔をしてよくもそんな酷いことを!いくら私とジャンの仲が妬ましいからってあまりにも横暴よ。
そう一気に捲し立てながら、サラナの美しい金色の髪に掴みかかろうとする。
(はぁ…。この人は自分がどれだけ非常識でとんでもない事を言っているのか全くわかってないみたい。)リルダは心の中でそう思いながら、ミーナの振り上げた手を素早く掴み、軽くひねり上げた。
「つぅっ痛!痛いわ!この澄ました顔で馬鹿にしやがって、許さないわ。」赤い髪が振り乱れる。
リルダに捉えられ身動きが取れないというのに尚も汚い言葉を言い放ち続けサラナに歯向かおうとするのだ。
「はぁぁぁ────────っっっ」
とんでもなく深く大きため息が、後ろの方から聞こえてきた。これは、文官長の溜め息だ。
こうも、他人の大きな溜め息を聞いたのはリルダは初めてである。
サラナの後ろにいる山のように大きな警備課長の後ろから、スラッとした一見ダンディーな風貌で、紺色の文官の服をきっちりと着こなしている、まさに文官長らしい文官長が人差し指で眼鏡を押さえながら、こちらに歩いてきたのであった。
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