1-4 『婚約者と悪役令嬢(親友)の浮気現場を目撃する伯爵令嬢。』
文官の制服に前のシャツのボタンを多めに開けて胸をチラリとのぞかせている。
自慢の赤い巻き毛をジャンの肩にそっと寄せ潤んだ黒色の瞳で甘く囁く。
「ウフフッ今日のジャン。すっごく良かったわ。仕事が終わったら、また続きをしましょうね。もっとゆっくりと楽しみたいわ。」そっとジャンの肩に自分の指をピッタリと絡ませるように添える。
「んっ、何だ。物足りないのか?わかった。たっぷり楽しませてやるよ。ハハハッ。」
ハハハッと、笑いながら咲き乱れる花の生け垣を通りすぎた瞬間であった。
ジャンの青色の瞳が大きく見開くのであった。
♢♢♢♢♢♢
水色と青色の美しい花の前で、冷ややかな水色と焦りをにじませた青色と、悪を含んだ黒色の瞳が揃った。
「なっ!あっ。サラナ、サラナじゃないか?どうしたんだい?こんな時間に、こんな所に。」
あまりの驚きと衝撃に早口になる。そしてさりげなくミーナとは距離をおいた。
思いもよらないタイミングで出くわした婚約者はいつもより冷たい雰囲気をまとい、カルティアナ伯爵家を象徴する鷹の扇子をかざしている。
まるで鷹に睨まれているようだ。身動きが思うように取れず背中からは変な汗が出たした。
ジャンは焦った。(まずい…。非常にまずい。一体いつからいたんだ?まさか…!)
しかし…。愚かな獲物ジャンは、明らかに圧倒的な力を持つ鷹に確実に仕留めるられるというのに、考えなしに鷹に向かうのである。
「こ、こんなところに部外者が来てはいけないだろ。さぁ、門まで送って行くから。」
まるで何事もなかったかのように、この空間にはジャンとサラナの2人しかいないかのような素振りで話し、サラナに近づいていく。
そんなジャンを虫けらでも見るかのように見つめる。
「わたくしは所詮、『家の事しかやって』おりませんから。貴方の大切な書類を届けに来ましたの。」
ニッコリと微笑む。
ジャンは顔がひきつり焦ってたじろいた。(まさか、まさかだろ。もしかして…。最初からそこにいたのか?)
サラナはジャンをじっと観察するように見つめると、ジャンは視線をあちこちへ動かす。目玉がキョロキョロとしだした。
そんなジャンの表情を確認するとサラナは流れるような綺麗な所作で、バスケットを一旦足元に置き、手に持っていた茶封筒を思いっきり物凄い速度でジャンの顔にバシンと投げつけたのだ。
「あっ。クリティカルヒットですね。」後ろにいたリルダが思わず小さな声で呟いた。
「痛っ。なんだぁっ!?投げることないだろ!」茶封筒を投げられ思わず反射的にサラナの方にズカズカといき衝動的にサラナの手を掴みかかるかのような勢いで自分の手を伸ばそうとした。
すると、今まで後ろにいたリルダが、すかさずサッと前に出てきたかと思うと綺麗な寝技『袈裟固め』でジャンを締めた。
美しい絞め技にほぉっと感嘆の声が上がる。勿論、警備課長の声だ。
今でこそ騎士であるが、流石は前世柔道界の『最強の猛獣』といわれただけの事はあるのである。
サラナの後ろで立派な上腕二頭筋の持ち主の警備課長は腕組みをしながら感心していた。
(他の騎士は武器なしの接近戦に弱いところがあるが、流石はリルダ君だ。いつも通りとても素晴らしい惚れ惚れするほどのキレのある技だよ。出来ることなら、そのキレのある寝技で絞められたいものだなっっ!!!)
技は勿論軽くかけられただけであるが強靭なリルダにキュッと締められた為、強烈な痛さがあった。
「痛ッ!なっ、何だぁー、お前はっっ。こんのっチンチクリンがっ!何をする。」バタバタと抵抗すればするほど絞まるのだが痛さのあまり闇雲に手足をばたつかせる。
「ジャン・ミハルド君。うちの大事な騎士にチンチクリンとはなんて事を。君こそチン…を惜しげもなく勤務中に晒していたのではないかな。」
警備課長が低い声で突っ込みをいれた。
(警備課長。ナイスです。)リルダの手に力が少し余分に入った。仕方ないのだ身長の事は少し?気にしていることなのだから。
思わず力加減を間違えるほど力が入ってしまうのも仕方のない事だろう。
ジャンから「グェッ」と小さく変な声が出た。
サラナはそっと眉をひそめジャンを見下ろしている。
ジャンは途端に頭の中が真っ白になった。(な、なん。まさか…。まさかだろ??全てバレてしまったのか?)
サラナを覗き見ると、今まで見たこともない冷たい表情だ。お尻の辺りがヒュッとした。
サラナと自分の間には亀裂が入り大きな隔たりがあるのを感じた。
リルダの寝技が解かれ、その場で愕然とうなだれる。
…、とそこに赤い髪を揺らし、ついでに胸も揺らしながら、ミーナがジャンの側に駆けつける。
黒い瞳の、美しいが毒々しい。
見た目も振る舞いも、正に『悪役令嬢』そのものである。
「ヒドイわ!なんて酷い事を。ジャンが可哀想!!」
そっとジャンにピッタリと寄り添いサラナをジロリと睨み付ける。
(あぁぁ。酷いのは明らかにジャンさんとミーナさんだよ。いけしゃあしゃあと。わかっているんだろうか?婚約者のいる男性と行為をしたということを。しかも伯爵家の婚約者だ。そして、自分達はあろうことかその行為を勤務中にしたということを。)
サラナの横にいたリルダは汚れた制服をパンパンとしながら思わず思ってしまうのであった。
「私達の関係を知ってしまい怒っているのね!」
自分の手をピッタリとジャンの肩にまわし寄り添いながら捲し立てる。
「だからこんな酷い仕打ちを。酷い!あまりにもジャンが可哀想だわ!突然物を投げつけて、騎士に攻撃させるだなんて!可哀想な、ジャン。大丈夫?とっても痛そうだわ。」
得体の知れないドス黒い光を放った瞳で、水色の清廉な瞳を強く睨み付ける。
自分達の事は棚に上げて、「ジャンがっっっ!可哀想だとは思わないの???それでも婚約者なの!?」
容赦なくサラナを責めるように捲し立てるのであった。
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