5 芸術祭終了後~口程にもない当て馬が登場したみたいで、フラグを速攻へし折った。(無意識に)
エリゼの演奏が終了し、芸術祭も終わった後。
会場は席を立つ観客達で、ざわざわとしていた。
そんな中、ある一人の青年が、キョロキョロと辺りを見回しながら、必死になって人を探していた。
(あの方は…!いない、いない…、いる?いない…。いない、いない、いないわ。そんな…、王宮務めだけれど、この会場にいるとは限らないの!?)
大きな身長に黒髪でサイドには細い三つ編み。
赤い瞳の青年の名は、ソロモン。
美しい顔には隠しきれない焦りをにじませていた。
周囲を隈無く探す、探す。
長い黒髪が乱れる。
(今日、この日に会うの。あの方に。──そうすべきと僕の『勘』が告げていたのだから。)
(あっ!!)
大きく見開かれた赤い瞳が揺れた。
久し振りに見た彼の姿は、相変わらず神々しく色気も増していた。
ソロモンは、すぐさま駆け寄った、彼の元へ………!
「ア、アベル、アベル様!」
♢♢♢♢♢♢
【その頃のリルダは。】
小さなリルダは、すっぽりとアベルのマントの中に収まっていた。今日の勤務は先輩騎士と交替し、終了していた。
先程のエリゼの演奏の余韻を心地よいアベルのマントの中で噛み締めていた…ところであった。
♢♢♢♢♢♢
「アベル様!」
息を切らしアベルの元に駆けよる。
アベルが面倒臭そうに、虫けらを見るかのようにソロモンを見た。
「はぅばわ✕○✕✕…!!」
声にならない声が漏れる。
(嗚呼っっァアアアベル様っ。、なんてなんて麗しいお方なの……、やはり、やはり、あなた様しかいないのです。)
(この汚い世界をぶっ潰してくれるのは!)
「アベベ、ベル様。」
恐ろしい赤色の自分と同じ色の目がじっと自分を見つめる。
(嗚呼っ)
ソロモンは、片手を自分の額に添えアベルの冷たい視線にウットリする。
(僕と一緒に!…、世界を壊すの。貴方なら出来るから。)
「あの…アベル様、お話が…。」
「こんにちは!」
「…!!!」
視界にはアベルしか映っていない状況で、不意に真っ直ぐで優しげな声がする。
アベルの方からだが、随分下の方から声がする。
フッと下を見ると、尊き人のマントにすっぽりと収まっている、(…何!?なんだ、こいつは?)
(僕のアベル様に、こんなにも密着して。一体何者なの??こいつは。)
ソロモンは、アベルと似た赤い瞳でジロジロと目の前にいる小さくてふわふわのオレンジの髪のリルダを、穴が開くかのように見つめた。
(何、何よ!?こいつ…、、?こいつ…。あれ、れ。ちょちょっと待って…。あっ、、怖いかも。)
目の前でにこにことしているそいつは、全然アベルと相応しくない、釣り合ってない、…この場で排除してやろうか……そんな考えが頭にフッと思い浮かぶ。
ブルルッとソロモンの背筋がヒヤッと、本能が危険を察知したようだ。
(え、なん、ちょっっこわ、やだ、怖いわ…こいつ。)
ソロモンの心が直感した。思わず両手で自分をぎゅっと抱き締めた。
その時であった。
前方から大きな手で、ガシッと鷲掴みにされ、視界を塞がれ、そのまま体を持ち上げられる。
「あっ、、がっっ、、。」
(あっ♡アベル様の尊き手が、僕を包み込んでいる!?)
途端にハァハァと興奮し衝動的に想いが口の外に溢れ出る。
「アベベベル様っ。お久し振りです。お会い出来て嬉しいです。」
「何だ?お前は。」
アベルの色香漂う低い声が、ソロモンに突き刺さる。
片手で顔を塞がれ持ち上げられた体は、喜びでブルブルと震える。
「お久し振りです。僕はソロモンです。アベル様と長い間共に過ごした、あの……しゅうよ」
そこまで言いかけた途端、バッと手を離されその場にドサリと体を落とされる。
ガタ…ガタガタガタガタッッ
ソロモンは一瞬自分の体の震えかと思ったが、違った。
ガタガタと強い振動で地面が、揺れているのだ。
アベルが自分を射貫くように見ている。(あぁあぁあアベル様、アベル様のお力ですね。何と巨大で素敵なお力なの!)
「アベル!大丈夫?」
(何だ!?地震か?)
リルダは咄嗟にアベルのマントから抜け出して、ひょいっとアベルを抱き抱えた。
愛しい人を安全な場所に運ばなくては。
(ハァアー!?何してんの?こいつ。)
アベルの大きく偉大な力で、起こさせた現象であるのにも関わらず、小さいこいつは身の程知らずにもアベルを守ろうとするのだ。
……振動が瞬時にピタリと収まった。
リルダの小さな体の中に、すっぽりと収まったアベルは大人しく身を預け出すのであった。
(何だ何だなんなんだよ、こいつ。僕の尊きお方に、なんてことを!)
「あっ、収まった、良かった。」リルダは胸を撫で下ろし、大丈夫か胸の中のアベルに尋ねると、アベルは小さくコクンと頷いた。
そして、正面を向き「アベルのお知り合いの方ですか?私はアベルの婚約者のリルダ・メイソンです。」
にこりと眩しく優しげな笑顔を向けられるが、栗色の瞳の奥は強い光を放ち、まるで今にも獲物を仕留めるかのようなのだ。
ソロモンは思わず後ずさりした。
リルダに握手を求められる。
片手で大きなアベルを抱き抱えた状態で、だ。
(きけん、きけん、危険だ、危険だわ、こいつ。僕の『勘』がそう言っている。)
しかし、求められるままに握手を返したその手は、
(あっつ、何、熱い、厚い、硬い。ヒィィー。逃げっ……。)
直ぐ様その手を離し、ソロモンはその場から、なりふり構わず立ち去るのであった。
いつも、お読みいただき、ありがとうございます!
ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】を★★★★★にタップして評価していただけると、執筆の大きな励みになります……!
引き続き、リルダとアベルをよろしくお願いいたします!




