4-5 「席で見ていろ!」と私の曲を一人占めした婚約者殿。…。フフフッアーハハハッ。婚約者殿のお陰で最高の曲が出来ました。
演奏前の張り詰めた空気の中。
会場の観客席の全員が、エリゼに注目し引き込まれていた。
独特の外見だけでも、一目見たら目を逸らす事などできない。。
───バイオリンの弓が弦に触れる。
バイオリンから奏でられた一引きで、全てが持っていかれる。
まるで、会場がエリゼに支配されたかのようだ。
激しい怒り、憤怒の感情が紡ぎだされる……しかし…愛……とてつもない愛。
ヴィブラードが…。心を震わせる…。
抗えない…涙が…、止めどなく流れる…。
リルダの栗色の瞳からも、涙が止めどなく流れるのだ。
(ダメだ!イヤ。いかん!あぁ……。脳まで筋肉の私が、バイオリンを聞いたたけでこんなにも心揺さぶられ、涙を流すとは。イヤ、ダメだ、仕事中だ!!!しっかりしろっっ!!)
気合いを入れて、自分の頬をパンッと叩くが全く効果はない。
もうダメだ、心が…、魂が…、あの素晴らしい音
色にズップリとハマってしまう。
!!!っっ…。
涙を流しながら周囲を見渡すと、皆リルダのように涙を流していた。
否…、仕事中故、感情にブレーキをかけているリルダですら、涙が絶え間なく頬を伝っている状態ゆえ、観客達は感情の赴くままに……、
とんでもない事になっているのであった。
涙は流れ、鼻水も流れ、体も震える。
エリゼの奏でる曲が、魂を震わす。
文官達の眼鏡は、更にキラキラしていたし、カルティアナ伯爵とサラナ様も涙と…。鼻水も出てしまっている。
キングもクイーンも、先程までの表情とは打って変わって、感情の赴くままに涙を流すのだ。
(鼻水も…。)
勿論…、側近も、護衛騎士も…このバイオリンの音色には抗えないようだ。
(はぁ。これは仕方ないようだ。)
リルダは、涙を無理に止めるのを諦め、頬に伝う涙を感じるのであった。
♢♢♢♢♢♢
すると、突然目の前に、大きな手と、クマの刺繍入りのハンカチが現れる。
一瞬、ハンカチで周りから遮断されるかのように視界が塞がれた。
アベルだ。
魔法課で仕事をしていたアベルが、リルダが泣いているのを察知し……平たくいえば盗聴と盗撮をしていたため、リルダが泣いていたのを察知し転移魔法で駆けつけてくれたのだ。
魔法課の黒色のマントがリルダを包み込む。
「大丈夫?リルダ。」
ハンカチで優しく涙を拭ってくれる。
「アベル!ありがとう。」
「あっ!」
アベルの顔を見たリルダが、ごそごそとポケットの中のハンカチを取り出し、お揃いのハンカチでアベルの目から流れている涙をそっと拭った。
「えっ!?」
「感動するよね。凄く良い曲だもんね。」
(どうやら俺は泣いているようだ。)
アベルは驚き喉が、ゴクンとなった。
リルダ以外の事で涙を流す自分に驚いたからだ。
(リルダ以外の事柄で、俺に人間らしい感情があった……のか!?)
少しの戸惑いはあったが、今はこの素晴らしいと思える曲に、愛しいリルダを自分のマントの中に入れて、暫し酔いしれる事にしたのであった。
♢♢♢♢♢♢
感情的で、官能的な曲が続く。
ブルートは、暗闇の中エリゼの曲を聞いていた。
涙も流れ、鼻水も流れ、体も震えていた。
魂が震える。
(この曲は…、エリゼは…、)
(神に愛されている。…芸術の神に。)
こんなもの見せつけられては………、
これまでの自分は間違っていたと、言わざるをえない。
自分の今まで決めつけていた薄っぺらい考えがバイオリンの音色でガラガラと崩れ去る。
女だとか、婚約者だとか、妻だとか………。
ハハハッ関係ない、関係ないのだな。
♢♢♢♢♢♢
一つに束ねられた美しい黒髪が、右に左に揺れ動き……。
『貴方の幸せ…』の、演奏が終了した。
会場は、一瞬しんと静まり返ったが、何処からともなくパチパチパチパチと拍手が聞こえると、それに続くように割れんばかりの拍手が会場に鳴り響いた。
エリゼはスポットライトの中、丁寧にお辞儀をした。
そして、暗闇の中にいたブルートに手を差しのべると、ブルートはエリゼの細く白い、しかし気高く神聖な手…。
芸術の神に愛された手を取り、2人は揃って舞台を後にしたのであった。
♢♢♢♢♢♢
エリゼとブルート
後日談
芸術祭の演奏終了後、ブルートはエリゼに今までの自分の行いを謝罪した。
エリゼは、水色の瞳で謝罪をするブルートを受け入れた。
負の感情だがそれをエリゼに与えた彼を。
新たな感情を教えてくれた彼を受け入れた。
エリゼの魂が欲している水色のアクアマリンの輝きを持つ瞳で、謝罪されたからには、受け入れるしかなかった。
結局、ブルート以外の者では良くも悪くもエリゼの魂を大きく揺さぶることは出来ないのだから。
そのままブルートは自分の両親を説得し、エリゼの両親に会いに行き、モラトニア家ではなくコーディアスの家門に入ることにした。
と、言っても元々伯爵家はお互いの長男が継ぐことになっているので、どちらの家門に入るということでもないのたが。
どうしてもコーディアス家の家門に、芸術一家の家門に、エリゼの家門に入りたかったのだ。
それがエリゼに対する強い想いの一部分として表したかったのであった。
♢♢♢♢♢♢
その後のエリゼは、芸術家として益々深みを増していった。
素晴らしい曲。素晴らしいバイオリンの音色。素晴らしい演奏を次々と紡いでいった。
素晴らしきかな、人生は。
そして、その傍らには、水色の瞳のブルートもいるのだ。
後日談の後日談になるが、芸術的で情熱的に過ごした末、2人は五男五女と沢山の子供を儲けた。
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引き続き、リルダとアベルをよろしくお願いいたします!




