4-4 「席で見ていろ!」と私の曲を一人占めした婚約者殿。…。フフフッアーハハハッ。婚約者殿のお陰で最高の曲が出来ました。
「続きましては、ピアノ奏者。ブルート・モラトニアです。曲名は『貴方の幸せ…』
司会に案内され、舞台袖から舞台中央のピアノまで歩いて行く。
カツカツカツ……。
黒い革靴の踵の音が鳴り響く。
王族に一礼をし、続けて観客席に向かって一礼をした。
スポットライトが眩しい。
この輝くスポットライトに照らされ、俺が演奏を終えた後、俺の才能が帝国中に轟くのだ…。
ピアノ前の席に着席し、両手をふわりと鍵盤の上に掲げる。
そして、一呼吸した後、美しいメロディーを奏でていく。
『貴方の幸せ…』曲名通りの明るく優し気な音が並ぶ……が、曲のアクセントなのか絶妙のタイミングで♭(フラット)が混じりこむ。それが不協和音にも受け止められるのだが、作曲の上手さ……!?
俺の弾き手のテクニックでそれらを全て上手くまとめ上げるのだ。
観客席から、感動と感嘆の溜め息が届いてくる。
(そうだ…!そうだろう!この曲は…。この曲はとても素晴らしい。)
(否…。素晴らしくはあるが…。それを弾く俺は…俺は、芸術の神に愛されている!素晴らしい音を奏でる素晴らしい弾き手だ!…この曲は、俺が奏でることによって生きる曲だ…。俺の心に…指に…とても馴染んでいる。)
醜い思い上がりを綺麗に心の中にしまい、まるで全てが自分の物であるかのように美しい『幸せ』を奏でていくブルートであった。
♢♢♢♢♢♢
ピアノの演奏の中、リルダは会場を注意深く見ていた。
注)リルダはとても目が良い。
壇上には王キングと王女クイーン。厳かな雰囲気を纏っている。その隣にはカルティアナ伯爵と……。
伯爵令嬢のサラナ様は…何故だかとても冷たい表情で、じっとりと奏者ブルートを見ていた。
『幸せ』を感じる曲が流れる中で、とても厳しく冷たい表情である。
(何かあったのだろうか。…この奏者は、確かエリゼ様と揉めていた男性だ。何か関係あるのか?)
(いや、どうなんだろうか!?周りのお三方もこんなに素晴らしい曲だというのに、一切表情を崩していない。とても厳かな雰囲気だ。)
(帝国内で最も位の高い王族と、伯爵家の中で最上位格式の家門。それ故、あまり表情を表に出さないのだろうか?…流石…というかなんというか。私は仕事でなければ、きっと観客席の人々のように曲に酔いしれていただろうな。)
勿論、側に控えている側近達や護衛騎士達も、少しも表情を変えずにいた。
(観客席は…と。特に異常ないようだ。…ん!?)
リルダの視線の先には、紺色の制服をきっちりと着こなし眼鏡をかけた数人の文官達がいる。
(先日の不祥事から、更に忙しく仕事をしていると聞いている。…。文官長お痩せになられたな。…今日は皆、芸術祭を満喫しているようだ。良かった。)
リルダはキリッとした表情をしているが、内心は文官達のキラキラとした表情を見てほっこりとしていた。
「ジャジャジャーン。チャララララ…。ジャーン。」
曲が終わったようだ。
観客席からは大きな拍手が鳴り響いた……。
……拍手が鳴り止まない中、ブルートを照らしていたスポットライトが、突然消えたのであった。
♢♢♢♢♢♢
『貴方の幸せ…。』を弾き終え拍手と達成感のな
中にいたブルートの周りが一瞬で暗闇に包み込まれた。
舞台袖にはけていない状態で、明るいスポットライトから放り出され、暗闇の中に突き落とされる。
(ん!?…何だ??)
ブルートは一瞬何が起きたかわからなかった。
観客席もざわつき始める。
すると、司会からアナウンスがあった。
「続きまして最終奏者になります。特別ゲストのバイオリン奏者エリゼ・コーディアス。曲名は、『貴方に捧ぐアリア』」
( ……!!!)
─────観客席がざわめく
あの天才バイオリニストのエリゼ?
ここ数年パタリと表舞台から姿を消していた、あのエリゼ?
まさか、今日あのエリゼの演奏が聞けるなんて…、なんてラッキーなの!?
♢♢♢♢♢♢
パッとスポットライトが、暗闇の中唯一神々しくエリゼを照らす。
バイオリンを鎖骨に乗せ背筋を伸ばし佇んでいる。
(なっっ!???エリゼ、。エリゼーー!!!)
暗闇の中、水色の瞳が揺れ、唇がわなわなと震える。
キング、クイーン等の観客がいなければ、直ちに舞台から引きずり出していただろう。
(俺を。この俺を、婚約者を、未来の夫を差し置きやがって!)
(エリゼっっっ!!!君は!君はこの俺の婚約者だろ?俺の未来の妻だ。…そして、女だ。女だろ?女なのに。、女の癖に、でしゃばりやがって!後で、仕置きをしてやらないと!)
スポットライトで明るく照らされたエリゼからは、物凄い気迫を感じる。
艶やかな黒髪は、高い位置でピッシリとひとつにくくり赤い大きな花の髪飾り。
長くバサバサの睫の奥にはアメシストのような紫色の瞳は輝いていて、唇には真っ赤なルージュ。
胸元にはアクアマリンの宝石が揺れているが、服装はガラリと変わっている。
黒のノースリーブのドレスは、肩周りに大きなフリルがついていて、中央には深めのスリットが入っている。
足元は高いヒール靴だ。
一般的な楽器を演奏する者の衣装とは、かけはなれた衣装だ。
舞台に立つエリゼは正に唯一無二の存在。
『天才バイオリニスト エリゼ』であった。
♢♢♢♢♢♢
エリゼの気迫が、会場にいる者全てに伝わっていく。
演奏前だというのに会場にいる全ての者が、エリゼの世界に引き込まれていくのであった。
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引き続き、リルダとアベルをよろしくお願いいたします!




