4-3 「席で見ていろ!」と私の曲を一人占めした婚約者殿。…。フフフッアーハハハッ。婚約者殿のお陰で最高の曲が出来ました。
「フフフッアーハハハッッ!!!」
エリザは、両手の手のひらを上にあげ、のけ反り大声で笑いながら、くるくると回りだした。
その姿は狂喜じみている。
一通り笑い終えると、フーッと息を吐き、うつ向いた。
うつ向いたまま……勢いよくシルパーのリボンを引きちぎると、頭を大きく左右に振るのだ。
艶やかな黒髪が左右に流れるように揺れる。
バッと顔を上げると、紫色の瞳が煌めく。
リルダの方にスタスタと歩き、リルダの手をしっかりと握りブンブンと振りながら、ボソボソとした声だが、しかし、はっきりと「騎士様。ここまで運んで頂いて、ありがとうございました。」
「いえ、当然の事をしたまでです。」
ひまわりが咲いたような清々しい満面の笑顔が返ってきた。
手をしっかりと握ったまま、ズイズイとリルダに近よる。眼と眼が……睫毛が、触れ合いそうな距離だ。
「騎士様。騎士様の眼は大変大変素晴らしいです。非常に強い光を放つ茶色の瞳…魅入られて魅せられて吸い込まれていく。フフフッ。周りの者があなたに魅入られ、吸い込まれるのです。まるで、暗闇の中の光のように。」
「あなたは……あなたという人は、どんな大きなものでも、温かく包みこみ、大きな困難があっても大きく飛び越えていく…(ゴクリ)。…なんとも強い輝きなのでしょう。」
そう言うと、パッと手を離し今度はサラナの、細く令嬢らしい手を取り、両手で包み込むようにしっかりと握る。
「サラナ様…あなたは、あなたの瞳は出会った時から、美しい。とてもとても高貴な色です。周りのものは皆あなたに憧れる。…ん!?……。それに加え…悲しみを乗り越えてより一層美しさに磨きがかかっておられますね!?」
パッと手を離すと宙を見上げる。
「アハッアハハッッ。すごいすごいすごい。
…すごいすごい…。私に唯一負の感情を与えたあいつが…。婚約者殿が引き合わせた、美しい2つの宝石達!!!」
「いいっ、非常にいいーっっっ!」
一点を見つめボソボソと呟いていたが、深く深呼吸をすると、キリッとした表情で「サラナ様。すみませんが紙とペンをお借りしてもよろしいでしょうか。」
「はっ!?ええ、ええ。とうぞお使い下さい。」
サラナからペンと紙を受け取ると、正に水を得た魚のごとく生き生きとスラスラと楽譜を書いていくのだ。
暫くその光景を見ていたが、リルダは、サラナに了承を得て持ち場に戻っていくのであった。
♢♢♢♢♢♢
──数時間後
リルダは、会場の中にいた。
(エリゼ様は、あれからどうなっただろう。一心不乱に作曲をしていたが…。よし!警備に集中、集中だ!!!)
リルダは、自分の配置されている位置から、会場の
隅々まで隈無く見ていく。
広いホールに、演者を囲むように観客席が配置されている。
壇上には王キングと王女クイーン、カルティアナ伯爵と、隣にはサラナが座っている。
今回の芸術祭は、若い芸術家達を応援する意味合いもこめて開催されている。
壁には様々な絵画が飾られている。
演奏だけでなく、絵画も幾つか展示されており、とても芸術的な空間となっていた。
♢♢♢♢♢♢
何人かの演者が次々とステージに立ち、様々な楽器を演奏する。
フルートやトランペット、サックスなどの管楽器。ピアノやバイオリン…オペラを歌う者もいた。
流石は、帝国内で頭角を現している若い芸術家達だ。
観客達は、芸術的で非常に優雅な時間を過ごしている。
うっとりとする観客達の中でリルダは、気を張り巡らし警備に集中していた。
♢♢♢♢♢♢
オペラ歌手のテノールの響きが会場を包み込み、声の響きが心にも響く。
歌が終了すると、観客は割れんばかりの拍手をするのだ。
舞台の袖で水色の瞳がじっと舞台を見つめている。
エリゼの婚約者、ブルート・モラトニアだ。
銀髪をきっちりと黒いリボンでひとつにまとめていて、シルバーのタキシードに、ネクタイは紫色、ネクタイピンもネクタイに合わせた綺麗なアメシストの宝石だ。
椅子に姿勢良く座り、膝の上には拳を置いている。
割れんばかりの拍手の中、拳にギュッと力を入れた。
今日の芸術祭の演奏が成功したら、帝国でのピアニストの地位が、より磐石な物となるであろう。
もう間もなくしたら結婚する、夫となる。
一家の大黒柱になるのだ。
俺とエリゼは、お互いの兄たちが爵位を継いだら傍系になる。
少しの領地などは譲り受けるが、そんなの長男が引き継ぐ莫大な財産にに比べれば、比ではない程、僅かなものだ。
自分達の力で生きていかなくてはならない。
特に俺は男だ、夫になるのだ。妻を養わなくては。
そう…、妻は養われる存在だ。表舞台には出ずにしっかりと家を守る。
それが妻の勤めだ。
婚約者のコーディアス家は、芸術一家で一風変わった家だが、結婚後はモラトニア家に入るのだ。
常識はずれなことをしてもらっては困る。
妻は妻らしく、夫を甲斐甲斐しく支えるのだ。
幸い、エリゼは正式に婚約をしてからは、人が変わったように俺の言うことは、全て従うようになった。
どこからどう見てもゆくゆくは貞淑な妻、母になる、それに相応しい者だ。
それでいいのだ。
妻は妻らしく夫を支える。
妻の物は俺の物。俺の物は俺の物なのだから。
心の中で呟き、再度拳をぎゅっと握りしめたのであった。
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引き続き、リルダとアベルをよろしくお願いいたします!




