4-2 「席で見ていろ!」と私の曲を一人占めした婚約者殿。…。フフフッアーハハハッ。婚約者殿のお陰で最高の曲が出来ました。
先程、銀髪の男性に怒鳴られていた女性は、依然としてうつ向きカタカタと震えていた。
女性は艶やかな黒色の髪の毛を、シルバーのリボンでハーフアップにし、リボンと揃いのドレスを着ている。
胸元にはアクアマリンのネックレスが揺れている。
リルダは駆け寄り、女性に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「……。」
しかし、女性からは返事がなく下を向き思い詰めた表情で、ブツブツと何かを呟いている。
(顔色も悪いな。医務室にお連れしようか。)
そう考えていると後ろから声が掛かる。
「リルダ様ごきげんよう。」
「あっ、サラナ様。こんにちは。」
「あらっどうかなさったの?…と、そちらの方は……もしかしてエリゼ様?エリゼ様ですわね。」
(エリゼ?もしかして『稀代の天才バイオリニスト』エリザ・コーディアス様か。新聞でしか見たことないが、随分印象が違う。)
以前、新聞で見たエリザ・コーディアスといえば、自信に満ち溢れていて、とても個性的な出で立ちが印象的であった。
しかし、リルダの目の前にいるエリザ・コーディアスはとても清楚な格好で、具合が悪いのもあるのだろうがうつ向き加減で、以前のような自信に溢れた雰囲気は感じられない。
サラナの声に反応したのか、エリザがサラナをじっと見てボソボソと呟いた。
「その、美しい水色の瞳は…。サラナ・カルティアナ様…、相変わらず美しい瞳ですね。ごきげんよう。」
エリザが美しい所作で挨拶をした。
サラナは少し驚いた表情をした。
エリザは、天才的なバイオリニストとして有名であり、人の名前と顔を覚えないことでも有名であったからだ。
サラナとエリザはメモリアル学園の同じ学年ではあったが、1度も同じクラスになったことがなかった。
「あっ…。ごきげんよう。」
サラナも美しい所作で挨拶をした。
「あの…大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」
また、うつ向きボソボソと返事をする。
リルダは念の為医務室へ案内しようとしたが、エリゼはうつ向き頑なに首を横に振る。
「でしたら…。よろしければ、わたくしの控え室でお休みになりませんか。」
今日の芸術祭は、サラナの父カルティアナ伯爵が協賛しているため、カルティアナ家専用の控え室が設けられているのだ。
エリゼはうつ向きながら、コクンと頷いた。
リルダは、手首に取り付けられている小型の通信魔道具で、警備課長に手短に報告をした。
「では、お連れ致しますね、エリゼ様。」
そう言うと、エリゼよりも小さなリルダが、横からヒョイとエリゼを軽々と抱き抱え、スタスタと歩き出す。
エリゼは思わずリルダの栗色の瞳を見ると、頬を赤く染めた。
「…王子…様…?」
傍にいたサラナも、思わずこの前の事を思い出し、一緒に頬を赤らめるのであった。
♢♢♢♢♢♢
リルダに抱き抱えられ、心地良い揺れの中、先程の震えるような怒りは治まっていく。
そして、様々な思いが頭の中を駆け巡るのであった。
騎士の瞳の色は何の変哲もない茶色。ありふれた平凡な色だ。
それがとてつもない強い光を放っている。
強い光を放つ栗色の瞳を見ていると、感じる…!
内から沸き上がる情熱とパッションを…。
♢♢♢♢♢♢
エリゼは、昔から生き物の眼に強く惹かれていた。
身近な動物の眼。馬、犬、猫…、
生命力を感じる…。
人間…人間は苦手…。顔も名前も覚えられない。
けれど…水色の瞳!これは、この色は、なんて美しいのだろう!
引き込まれる…手元に置いて大事に飾っておきたい位。
サラナ様の瞳…とても美しい!…ファンタスティック!吸い込まれるよう……好きっっ、すきすきすきすき…
婚約者殿…。
貴方事態はともかくも、貴方の瞳は美しい、。
一日中じっくり、じっとりと見つめる位には、好き、すきすきすき
♢♢♢♢♢♢
ブルート、ブルート・モラトニア子爵家の次男。
私が関心を強く寄せる瞳を持つ婚約者殿。
婚約者殿と私は同じ日に産まれ、その後直ぐに、私と婚約者殿との婚約が結ばれた。
コーディアス子爵家とモラトニア子爵家は、両親同士がとても仲が良かった。
何なら兄同士も同じ日に産まれ、唯一無二の親友とお互いが豪語する程、とても仲が良い。
その上、お互いそれぞれの家に男の子と女の子が産まれた。
しかも……!またしても、同じ日に…だ。
これはもう結婚させるしかない!…と、思ったらしい。
モラトニア子爵家は芸術一家だ。
私は恵まれた環境に溢れる才能を持って生まれた。
バイオリンを弾くために生まれてきた私。
周囲に溶け込めず溶け込もうともしない。
他人の事は知らない、顔も名前も覚えれないし…。
けれども家族は……。私をとても深く深く愛してくれている。
家族は大事。
家族が大事にしているモラトニア家。
家族が大事なモラトニア家なら、私もモラトニア家は大事だ。
家族とバイオリン以外は何も持たない私だから。
♢♢♢♢♢♢
婚約者殿……。
嗚呼っっ、婚約者殿。
美しい水色の瞳と家族との繋がりだけで繋がっているだけの男。
婚約者たるものはなんなのか、妻とはこうあるべきだ!!!と、ひどく片寄った考えを強要してくる男。
家族とモラトニア家の関係を保つため、婚約者殿の言う通りにした。全て…。
婚約者殿は、私の恵まれた環境、恵まれた才能。
幸せの中で、唯一『嫌な物を』与えてくる男だ。
♢♢♢♢♢♢
学園を卒業し、正式に婚約が結ばれた。
それと同時に婚約者殿の私への指示や、小言か多くなっていった。
私は壊したくない大事な物を保つ為、全て婚約者殿のいう通りおとなしく従った。
表舞台には出ない。作曲は全て婚約者殿の為に。
……。
その結果が先程のアレだ。
「だからっっ!俺のピアノがあってこそなんだよっっっ!!!俺のピアノが評価されたのさっっっ!君の曲ではないんだよ!君の曲は取るに足らない物なのだよ。君は…。君は観覧席で見ているんだ!!」
───婚約者殿は、私の魂の入った曲を冒涜した。
♢♢♢♢♢♢
カルティアナ家の控室に到着した。
室内に入り、赤い絨毯の真ん中に置かれた金色の猫足の赤いソファーに、エリゼをソッと降ろした。
降ろされた途端、閉じていたエリゼの瞳が「カッッ!!」と見開いたかと思うと、ガバッと勢いよく立ちあがった。
傍にいたサラナがビクッとし、リルダも反射的に身構えた。
エリゼの瞳孔が大きく開いた。
「フフフッアーハハハッッ!!!」
紫色の瞳で狂い咲くように笑うのであった。
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引き続き、リルダとアベルをよろしくお願いいたします!




