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3-2 夜会の終盤は、聖女に婚約破棄をする小国の王子

メモリアル帝国から遠く離れた小国ハバス。

しかし、ハバスは小国でありながら他国では希少な資源が豊富に採掘出来る国だ。


それ故、帝国の1⁄10の領土の小国にも関わらず、メモリアル帝国は丁重にもてなしているのである。


無論、武力をもって簡単にはねじ伏せることも出来るのだが、他国との兼ね合いもある為、そのようなことはしないのであった。

♢♢♢♢♢♢



茶色い髪に緑の瞳の、第3王子サイノスの悪意を込めて指した指の先には、キングとクイーンがいる。


「あ?あっがーっピっっつく!?」

驚きと共に思わず変な声がこぼれた。


近くにいるだけで、その覇気に圧倒され、ひれ伏してしまいそうになる。流石は帝国の王と王女だ。


そんぞょそこらの王族とは格が違う。


キングが金色の瞳でギロりとこちらをみるのであった。

ドッ・ドッ・ドッ心臓の音がうるさい。


サイノスは動揺をかくしきれなかった。額からは汗が流れだし始める。


ハアハアと息も上がってきた。無様に尻もちをついてしまう。


「それで、貴方は帝国の王女にひどい仕打ちをした挙げ句、身勝手に婚約破棄をするのだね。」


キングの声は、帝国の王らしく威圧的だ。


サイノスの緑の瞳が世話しなく泳ぐ。


「ハッ!ヴえ、しょん、な。アハッアハハハッ」

話をしようにも震えて言葉がうまく出ない。

♢♢♢♢♢♢


黒猫がリルダにすり寄ってきた。「ニャーッ」

リルダは黒猫を抱き上げる。


(そうだ、映像を出そう!呪文は古代語だったよね。えっと…は?全然覚えてない。何でだ、私の頭の中の脳みそ!起動してないの?えっとニャンニャカニャンとしか。それしか出てこない、どうしてだー!?)


リルダが固まっていると何処からともなくアベルの声がした。


……どうやら胸元のルビーのネックレスから声が聞こえてくる。


「リルダ…、落ち着いて。呪文は『ニャンニャカニャンと』だよ。」

(えっ!?アベル…!ネックレスにはそんな機能が!?ありがとう。)


「ニャンニャカニャンと!」リルダが、抱き上げた黒猫に向かって唱えると首輪のチャームから、先程のサイノスとアリアのやり取りが鮮明に映し出された。


今度は、音声もバッチリ入っている。


これで言い逃れは出来ないであろう。


(さっき言い逃れしていた令嬢はいたけどね。今回は音声もバッチリ!しかも恐ろしいキングとクイーンも目撃していたのだから。)


キングが命令すると、騎士達がサイノスの元へ行く。

サイノスは、抵抗するこくなく大人しく騎士達に連れて行かれた。


リルダの目には、騎士達の隙間にアリアがチラリと見えた。


くすんだ金目と金髪が先程よりも輝いて映ってみえた。


騎士達に連れていかれたサイノスは軟禁状態ではあったものの、迎賓室にて丁重にもてなされた。


速やかに王の側近が書簡を持って転移魔法で、ハバスに向かった。


♢♢♢♢♢♢

【後日談】


ハバスとの話し合いの結果、メモリアル帝国はハバス王国の魔石の取れる山を譲渡された。


サイノスは、ハバスに引き渡した。


ハバスに帰還したその後の、サイノスは……。


廃嫡されたようだ。元婚約者共々廃嫡され平民落ちしたようだ。


当然の結果であろう。帝国の王女に対して酷い仕打ちをしていたのだから。


平民落ちした2人は今後どうなるのだろう。


どうなるかはわからないが、今まで贅沢な暮らしをしていた2人が、厳しい平民の暮らしをすることが出来るとは思えない……。


ちなみに王子の元婚約者の妊娠は嘘だった…。


「こんな筈じゃなかった!」「お前のせいだ!」と、お互いを罵り合う醜い声が聞こえてきそうだ。

♢♢♢♢♢♢


第3王女アリアのその後は……。


美しい金色の髪に、美しい金色の瞳のアリアが、とあるチャペルにいた。


ステンドグラスの光がキラキラとアリアを照らす。


アリアは元々は輝かんばかりの金髪に美しい金色の瞳の持ち主だった。


では何故?ハバスでは、アリアの全てがくすんでしまったのか?


それは加護によるものだったからだ。

帝国の聖女、癒しの力を持つアリアはこの帝国でこそ力を発揮していたのであった。


それが、あの考えなしのチャランポラン王子に見初められ、ハバスに行ったものだから、加護がうけられず全てがくすんでしまったのであった。


勿論、事前にサイノスには、加護の話はしてある。きちんと理解できていたかは別として、サイノスは説明は受けていたのだ。


「何とも軽薄な王子だ。ハバスの王は年老いてから出来た末っ子の王子を甘やかさせ過ぎたのだな。」

キングが呟く。


「私達もそうなのかもしれませんわね。」クイーンがそう言った。


キングは少しギクリとなり、咳払いをする。


サイノスがアリアに求婚した時、この話は断ることは出来たのだ。だが、どちらかと言うとキングよりも、アリアが乗り気になり婚約の話が進んでいったのである。


「言い出したら、聞かんからな。」

片手で額を押さえる。

「貴方も余計なことを言ったからですよ。」


「ああ、あれな…しかしこんな事になるとは思っとらんかったわ。あそこまで自分の身を半年間も犠牲にするとはな……。」


アリアへのあまりにも酷い仕打ちを知り、もう少しでハバスごとき小国など壊滅させてしまう所であった。


「ハァッまぁ、そうですわね。アリアは思い込んだら突っ走りますから。…一体誰に似たのかしら?

アリアは、帝国に富をもたらせた後、自分の一番欲しいものを周囲が納得するかたちで手に入れたのですから……仕方ないのですわ。」


♢♢♢♢♢♢


ある領地の小さなチャペルで、アリアはヴェールを被り背中の部分が少し開いた、レースや刺繍をふんだんに使用したキラキラと輝く美しいウェディングドレスに身を包んでいた。


腕を組み隣を歩く新郎は子爵家の長男だ。


元々は、アリアの護衛騎士だった。


最近家督を継ぎ、子爵となり領地で過ごしている。


♢♢♢♢♢♢


アリアは『真実の愛』を知ってしまったのだ。

初めて、この騎士を見たときから、目が離せずどんどん引き込まれ、好きになっていったのだ。


しかし、アリアは帝国の王女。片や恋した相手は子爵家の長男。


あまりにも身分が違いすぎた。


何度も諦めようとした。

しかし、それは無理であった。


そんな時、父王がポロリと『己の更なる価値を証明してみろ。さすれば、お前の望みを叶えてやろう。』と言ったのだ。


そこにタイミングよく軽薄な男が、アリアに一目惚れしたとかなんとかで言い寄ってきたのだ。


その男は、他国も喉から手が出るほど欲している魔石を保有している国の王子だ。


利用する手はないと思った。


しかし帝国を離れ、ハバスに行ってしまうとアリアの身がどうなるのかは正確にはわかっていなかった。


帝国の地に深く関係した加護をうけていたため、長期間帝国から離れると自分の身がどうなるのか、書物や話でしかわかっておらず実際にはどうなってしまうのか、正確にはわかっていなかったのだ。


だが、実際は予測していた通りで、ハバスに行くと徐々にアリアの見た目に影響がでた。


そうして、熱烈にアプローチをしていたあの軽薄な男はアリアがみすぼらしくなってしまうと、見放し冷遇した。


その軽薄な行動は、こちらにとっての思惑通りの動きとは微塵も思わずに……。

♢♢♢♢♢♢


この婚約破棄によりメモリアル帝国はとんでもない恩恵を受けた。


なんせ、譲り受けた山の魔石は他国で取れる所も少なく、その魔石は今のメモリアル帝国の生活を支える物のほとんどの物に使われているものだからである。


しかし、今回の婚約破棄は、相手の醜聞によるものではあったが、理由はどうあれ他国の王子、王族との縁談を破談にさせたと言うことで、その責任を取るということなった。


格下の相手と結婚をする事になった……。


というシナリオで周囲の者を納得させたのであった。


王族が『真実の愛』を貫くのには、それ相応の代償が必要だったということだ。


♢♢♢♢♢♢


【隙間の番外編】


───ある日の夜の出来事


リルダは黒いモヤの中にいた。


どんなに逃げようとも振り払おうとも、赤い目の黒い角の生えた巨大な『魔王』はリルダに覆い被さってくるのだ。


「おかしい。」こんなに抵抗しているのに『魔王』は全く離れないのだ。


それどころかどんどんと重なりあい、まるで一つになろうとしているかのようだ。


リルダの頭の辺りが、スーハースーハーと吸い取られていく。


スーハースーハースーハー


このままでは魔王と一つに融合させられる。

(そうはさせるか!!)


リルダは相手の隙をつき、下に回り込むと『魔王』をつかみ綺麗な一本背負いを決めたのであった。


ドシーン!!!と、すごい音がした。


『魔王』を倒すことが出来た。

「ハハハッこのリルダが入る限り魔王の好きなようにはさせない!ハハハッ!」


目をつむりパジャマ姿でベッドの上に立ち上がり笑いだす。


ビシッと綺麗な敬礼をした後、そのままパタンと寝転がりスヤスヤと寝息を立て眠るのであった。

♢♢♢♢♢♢


アベルはリルダに吹き飛ばされていた。寝ているリルダの頭の匂いをスーハーと匂いを嗅いでいたのだ。


吹きとばされたアベルは、ベッドの下にいた。


ベッドの下で胸の奥から沸き上がる興奮に酔いしれソクゾクとしていた。


(クククッハハハッ、リルダ、リルダ、リルダ。

さっきの攻撃は魔法で衝撃を和らげてなければ、即死していたよ。クククッなんてすごい衝撃だ。素晴らしい…。とても素晴らしい投げ技だよ。)


(君は本当に奇跡みたいな存在だね、リルダ!他の人間がどれたけ束になろうとも俺を止めることはできなかったというのに。)


(リルダ…君は、いとも簡単に俺を吹き飛ばすんだ。この俺を。世界を壊滅させたこの俺を!

クククッ……そういえば誰かに『魔王』と呼ばれたこともあったかな。君は何も知らされずこの世界に来たと言うのに。本能で見破ったんだね!俺がただのどす黒い存在だという事を。)


暗闇の中、すくっと立ち上がり、スヤスヤと眠っているリルダを恍惚とした表情で見つめながら。


「リルダ。リルダは、これから先もどんなことがあっても、俺を愛するリルダでいてね。」


そうでないと、うっかり世界を滅ぼしてしまうから…。


赤い瞳が暗闇で暗く光る。




【隙間の番外編②】


────魔法課


「んっ?どうしたのかね。」

魔法科の魔術師の視線の先には、アベルがいる。


「いえ、あの…アベル君が転移魔法でこちらに戻って来てから様子がおかしいんですよ。」


「んっ???」


魔法課のディクスで、顎に手を置き神妙な面持ちで、ぶつぶつと呟いている。


何かとてつもなく悩んでいるようだ。


「雰囲気が恐ろしいが非常にいい男だな、彼は。」


「そうですね…。天才魔術師アベル。暗い雰囲気はあるものの、あのように美丈夫ですしね。とんでもない魔力量と膨大な知識がありますし……。

しかし、天才故に彼の考えていることは、我々にはわからない…ですね。あんなに非の打ち所のない完璧で素晴らしい間道具を開発したアベル君。

新しい魔道具の映像をテストも兼ねて確認していたのですが、途中で急に転移魔法で現場に行き、戻ってきたと思ったら、ずっとあんな調子で何かを悩んでるんですよ。」


「はっ!もしかしてまた何か凄い魔道具が閃いたのですかね!」


アベルが、この王宮の魔法課に所属されてから、世紀の発明ではないかと思うような魔道具が次々と開発されているのだ。


依然としてアベルはあれでもないこれでもないとブツブツと言っている。


職員の一人がゴクリと唾を飲む。「あの真剣な眼差し。次はどんな魔道具を産み出すのやら……。」


……気になりつつも、2人の魔術師はそれぞれの仕事に取りかかり出した。


暫く時間が経過し、アベルが突然勢いよく、ガタンと椅子から立ち上がった。


「これだ、これしかない…もうこれしかないな。」


鬼気迫る表情である。何やら呪文を唱え高度な遠隔操作の術式を繰り出す。


何とも圧倒される、近くで仕事をしていた魔術師達が思わず手を止めて見惚れてしまう。


フーッ

どうやら一通り終わったようだ。


アベルが満足気に頷き、トスンと椅子に座った。


(な、何だ、、何をしたんだ。だが、しかし、とても美しい術式だった…。)


♢♢♢♢♢♢



リルダは、黒猫の首輪から映像を映し出そうとしていた。


しかし、どうしても古代語の呪文が思い出せなかった。

そこに、アベルと同じ瞳の色のルビーのネックレスから甘やかな声で新しい呪文が告げられた。


「ニャンニャカニャンと」


その後、この呪文のお陰で、他の警備課の騎士達はもう誰一人として映像を映し出す呪文を間違えるものはいなかった……とさ。


      

               チャンチャン
















いつも、お読みいただき、ありがとうございます!


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引き続き、リルダとアベルをよろしくお願いいたします!





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