2-6 『毒花』と呼ばれていた悪役令嬢『お義姉様はこれから先も私のドアマットでいてね。』
大理石の柱の並ぶ回廊は、先程までの騒がしさとは打って変わり会場のガヤガヤとした音が聞こえる位、回廊は静寂に包まれていた。
「先程は助かったよ。君達ありがとう。」
キヌアが深々と礼をした。
「いえ、当然の事をした迄です。」騎士らしい所作でピシッと敬礼をする。
後ろの優秀な魔術師はルビー色の瞳で、リルダが敬礼をしている姿を目に焼き付けるのに必死な様子だ。
アリシアがおずおずと、だがしっかりとリルダの瞳を見ながら「ありがとうございました。」
(とんでもなく美しく可憐で儚げな人だ。そんな女性が今までスキャンダルまみれの『毒花』と呼ばれていたのは、不思議な話だ。多分…あの妹が何かしら関わっていたのではないだろうか?)
そんな風に思いながらも「いえ、無事で良かったです。」にこりと微笑む。
オレンジ色の髪の毛のリルダが微笑むとまるで太陽に明るく照らされたようだ。
このように気持ちの良い女性もいるのだ。思わずリルダの小さな手を取り「また、いつか是非お会いしたいです。」と伝えた。
リルダもアリシアの華奢な手を握り返し「はい!」と返事をする……。
すぐにズルズルと各々の両サイドにいるアベルとキヌアに引き剥がされたが。
(アベルは子供だろうと女性だろうと嫉妬する…。そんなアベルと似た行動をするキヌア様。キヌア様もですか?そういえば勝手にアリシア様のネックレスに盗聴機を仕込んでたな…。アリシア様は、大丈夫だろうか?)
確認するようにアリシアとキヌアを見た。
アリシアのアメシストのような紫色の瞳は強い光を放っており、キヌアは優しげな雰囲気を纏っていた。
(だ、大丈夫かな?……これから先の事は、わからないけれどお二人の幸せを陰ながら願っております。)
少し言葉を交わした後、アリシアとキヌアは会場に戻って行った。そんな2人の後ろ姿を暫く見送ったのであった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
【後日談】
アリシアの義母と義妹キャロラインは絞首刑となった。
様々な調査がなされ次々と余罪が浮かんだのであった。
義母は、前夫とアリシアの母を殺していた。
もっと遡ると義母の両親も不審な死を遂げていた。
義母は言葉の力を巧みに使い前夫に自死させていた。
アリシアの実母も、義母の言葉の力でシロノア家の使用人に馬車を細工させ馬車は事故に遭い、母は馬車の事故で亡くなった。
父は愛していた人を亡くし絶望の縁にいた。
不安定な心の隙をつき、言葉巧みに父の心の隙間に入り込み操っていった。
♢♢♢♢♢♢
アリシアの義母は、シロノア伯爵の事を一目みたときから、気に入り執着していたのだ。
特に紫色の瞳のシロノア伯爵の甘いマスクを気に入ったのであった。
普段のシロノア伯爵には、言葉の力は、通用しなかった。
言葉の力は通用しなかったが、いつか自分の物にしようとずっと機会を伺っていたのだ。
一つ一つの問題を片づけ、そしてついにはシロノア伯爵の妻の座を勝ち取ったのだ。
シロノア伯爵家では自分の天下だった。自分の分身のような娘キャロラインと共にシロノア伯爵家を牛耳る事が出来た。
しかし、一つだけとても気に入らないことがあるとすれば……。
そう、あの子供の存在だけだった。
燃えるような赤い髪と紫色の瞳。
しかも私の言葉の力が通用しないのも腹が立つ。
あの子供は…。なんて、人の神経を逆撫でする子供なのだろうか!??
私の愛する夫も、私の子供よりもあの赤い子供を目の端で一瞬だが慈しみ愛おしそうに見るのだ。
そんな時は「あなたの愛する妻と子供はこっちよ♡」愛を込めてそう囁くと、はい、元通り!暫くはこれで大丈夫ね♡
そして私は、夫と前の妻の面影のある、あの忌々しい子供を『躾』してあげるのよ。
そうすると幾分は私の気分も晴れるのだから。
ピンク色の髪の毛の、おぞましさをまとった黄緑色の目が笑う。
♢♢♢♢♢♢
アリシアへの虐待は日常的であり。とても目をあてられるものではなかった……。
♢♢♢♢♢♢
【刑の施行当日】
母と娘キャロラインは手枷と足枷。更には、口にチャックが取り付けられている。
処刑人と共に処刑台へと進んでいく。
ガヤガヤと民衆達の声が聞こえてくる。
「なんだー!?あの罪人どもは口にチャックがついてら~!?」
「あぁ。何でも言葉の力で相手を思うままに操っていたらしいよ。」
「前の旦那を殺して、今の旦那の奥さんも殺して、何なら自分の両親も殺したらしい!」
「ふぇぇ!そんな恐ろしい力もあるもんなんだな。恐ろしや~~。」
2人は処刑台に立たされた。
多くの野次が飛ぶなか、絞首刑は滞りなく行われたのであった。
♢♢♢♢♢♢
辺境の地でキヌアと、アリシアは結婚をし仲睦まじく暮らしたようだ。
時折暴走する旦那を妻は絶妙のタイミングで「旦那様、それはなりません。」と、笑顔で、しかしきぜんとした態度で諌めるのであった。
そのお陰で、使用人達や領民はとても過ごしやすくなった。
そして、辺境の地でありながらこの地は、益々発展していったのであった。
アリシアの父は…。
アリシアの父は、家督を一族の者に譲り、保養を名目に隠居生活を送っている。
アリシアとは対面でのやり取りはなんとなくお互いできず、だが手紙でのやり取りをしお互いの気持ちを徐々に確かめあえるようになったのであった。
♢♢♢♢♢♢
【隙間の番外編】
────魔法課
ある日の魔法課魔術師達のボヤき。
紫色の制服に黒いローブをまとった魔術師達が、仕事の合間に話をする。
「この前のあれ見ましたか?」
「あぁ…あれだろ?罪人の口にチャックを取り付けた錬金術と魔術を巧みに組み合わせた………って!こちらから言わさせてもらうとムチャクチャな錬金術の事かい?」
「はい、それです。」
「フフフフフッッハハハッあんなの初めて見たよ。私はね猫の首輪を通してリアルタイムで見ていたがね。ハハハッ術式も聞いたことない、魔方陣もなし!指先一つで何の物質もないところから、チャックを創り出すというね!…ハハハっ…。」
「実に素晴らしいよ。いやはや…。」
「そうですよね…。私は話を聞いただけだったのですが。にわかに信じられませんでした。それを魔法課の新人魔術師がやってのけたのですからね…。
いくら優秀とはいえ、いくら魔力量が多いとはいえ……、あんなことを成し遂げるには、加えて経験値もないと…イヤあったとしても僕では一生かかっても無理ですね。はい…。とてつもなく差を感じて少し落ち込むぐらいです。」
「ハハハハハハッ!!!大丈夫だよ、落ち込むな!恐らく仮にアベル君1人と魔法課の魔術師全員とで戦ったとしたら、瞬殺されるだろうからね。」
な、何ですかそれ~!?と、冗談だと思うが一瞬、ドギマギとしたのだ。既視感??
もしもアベルが悪の道に染まったとしたら大変なことになるであろう。
だが、なんとなくだが今の?アベルは大丈夫な気がするのだ。
何故ならリルダと話しているときのアベルは、とても人間的で優しげな表情をするからである。
ふっと魔法課の魔術師の脳裏にそんな考えが、浮かんだのであった。
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