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2-3 『毒花』と呼ばれていた悪役令嬢『お義姉様はこれから先も私のドアマットでいてね。』

キャロラインが短剣で切り裂いた左腕からは、止めどなく血が流れ、ドレスがジワジワと血の色に染まっていった。


アリシアの足元には血がついた短剣が転がっている。


(お義姉様、フフフッお義姉様。あんたに幸せは似合わない。あんたは一生私のドアマットよ。何度も何度も踏んであげる。…どんなにボロ雑巾のようにボロボロになったとしてもね。あんたにはそんな人生がお似合いなのよ。)


(さあ♡いつも通り、手筈は整ったわ!!)


…あ・と・は…。適当に悲鳴をあげれば、いつもどおり『毒花・悪役令嬢』の出来上がりっ♡


キャロラインは思いっきり息を吸った。そして悲鳴をあげようとした、が、その時……。

「ニャーッ。」


(ん?なぁーに?猫?やーね、しかも黒猫だわ。間の悪い。まぁ、いいわ。そんな物に今は気を取られている暇はないわ。)


キャロラインは黒猫をキッと睨んだ後、再度息を吸い悲鳴をあげようとしたが、「大丈夫ですか?」不意に声をかけられる。


回廊の隣、真っ暗な庭園の方からその声は聞こえてきた。

じっと暗闇の方を見ると、いつの間にかキャロラインの傍まで、息を弾ませた小柄だが確かに王宮の騎士の制服を着たオレンジ色の髪の毛の女性がいる。


(ん?何?誰?いつの間に……?)


「大丈夫ですか?血が…。」


(悲鳴を上げて誰かに来させようとしたのだけれど。急に?何?何処から?まぁ…いいわ、無理に悲鳴をあげなくっても、この光景を見せつけるのは誰でも良かったのだから……女騎士、随分ちんちくりんだけれど、フフフフフッ存分に私の役に立って貰いましょう。)


「すごく痛いですわ。急にお義姉様が私に襲いかかって来まして、その短剣で私を切りつけてきましたの!お義姉様がこんなことをするなんて…、お義姉様が!」


弱々しく儚げに声を震わせながら訴える。


見た目はさながら『ヒロイン』の儚げな黄緑色の瞳から、涙が流れだす。


(ウフフフッこれでいつも通り周りが信じてお義姉様を貶めだすわ。)


そう確信をしリルダの方を見た。


(このちんちくりんの女騎士が、お義姉様を非難し追い詰め攻撃するのよっ!さぁ、早く!早くおやりなさいよ。)


キャロラインはリルダがアリシアを激しく非難するのを待った。


しかし、普段周囲がするような行動をリルダはしなかった。

「そ、そうですか。大丈夫ですか?」


リルダはアリシアを非難することなくキャロラインにしどろもどろに声をかけた。


(ん?そこはなんて酷い令嬢だ!この『毒花』!!!でしょう?)


キャロラインは、何故?と首をかしげた。


リルダは、騎士らしく怪我人に声をかけたが、…が、リ内心はとても驚いていた。

(うっ!えぇっっー!?)


何故なら……リルダは常人では考えられないほど目が良い。並外れた視力を持っている。

100メートル程先の、暗い庭園の隅にいたのだが、先程のやり取りを、最初から事細かに見ていたのだ。


涙を流す黄緑色の瞳の、一見儚げなヒロインのような令嬢が自らの短剣で腕を切りつけているのをしっかりと見ていた。


(このご令嬢、自分で腕を切りつけておいて…。他人のせいにしている?しかもおねえさま?姉に罪をなすりつけようとしているのか。)


震えてなく儚げな令嬢…。この令嬢は見覚えがある。


確か、社交界では社交界の花『ペリドットの宝石』と呼ばれていた令嬢だ。


かたや、前に見た時とは随分と印象が違うが、呆然とし唇を震わせ、しきりにペンダントトップに触れている少しきつめの美しい令嬢は、社交界の『毒花』と呼ばれていた令嬢に違いない。


先程の出来事を見ていなければ、泣いている令嬢の言い分を信じてしまいそうなほどだ。


リルダは手早く手首に取り付けられている小型の通信魔道具で、まず所属の警備課長に報告をした。


「…はい。リルダです。お疲れ様です。えっ?ええ。魔法課から…、ええ。ご存知だったのですね。…ええ、かしこまりました。はい!ではお待ちしております、宜しくお願いします。」


魔道具越しにビシッと敬礼をする。


そして、キャロラインの手当てをしようと駆け寄った。


(あら?すぐにお義姉様を攻撃しないのね。何故かしら?まずはお義姉様に対してドブネズミを見るような目付きで見てから『なんて事を!この毒花めが!』で、その後に『可憐なお嬢様大丈夫ですか?』でしょ?

何なのかしらこの騎士?それとも、美しく可憐な私が怪我をしているからかしら?確かに可憐で美しい私が怪我をしていたら心配になるわよね。それでかしら!?)


キャロラインはいつもと違う反応に、少し怪訝に思ったが美しい令嬢が怪我をし、血を流しているからだと勝手に納得をした。


リルダは傷口を確認した。キャロラインの白い腕からは多くの血が流れていたが、思ったよりも傷が浅かった。


ほっとし、腰の小さな携帯鞄から救急セットを取り出し手当てをしようとした。


すると、おずおずとした声で「騎士様。」

振り替えると真っ赤に燃えるような巻き髪が目に入る。


「はい、どうされました?」


優しい口調の栗色の目がアリシアを見た。

「あの、私…。」


もう一度サファイアのネックレスを確かめるように触り、意を決したように「私…治せます。」「えっ!?」


「その怪我治せます!」しっかりとした口調でそういうと令嬢が歩み寄る。


小花を散らしたドレスがふわりと動いた。


疑念の色を浮かべ、睨み付けているキャロラインに近付く。


傷口に手をかざすと、アリシアの手からポオッと暖かな光が出てくる。


すると、みるみる内に傷口が治ったのであった。


「おおっ!!素晴らしいです。」後ろで小さくパチパチパチッと拍手をする。


キャロラインは苦虫を潰した表情をしている。


そうこうしている内に連絡を受けた筋肉隆々の警備課長が駆け寄ってきた。


それと同時位に金髪に青い瞳の美麗な男性も、アリシアの元に到着し、隣で心配そうに寄り添っていた。


「リルダ君、遅くなって申し訳ない。えっとこのお二方の令嬢が先ほど連絡を受けた方達だね。…あっと、貴方はハーベスト辺境伯ではないですか?」


辺境伯はコクンと頷いた。リルダの方を見て、ありがとうと言うと「私はキヌア・ハーベストです。こちらの令嬢は私の婚約者の、アリシア・シロノア伯爵令嬢です。」


冷たい青い瞳の中に温かい表情が見て取れた。


「そして、あの者はアリシアの義理の妹でキャロライン・シロノアです。」


先程の温かな表情とは一転し冷たく、まるでゴミ虫を見るかのようにキャロラインをチラリと見た。


(ヒッ。こ、怖い。)リルダは内心どぎまぎしていたが背筋を伸ばし騎士らしい立ち居振舞いをする。


キャロラインをチラリと見るとポーッとした表情だ。


(えっ?なぁに?あの方がキヌア辺境伯様?なんて、なんて麗しい方なのかしら?確かに噂どおり冷たい感じはするけれど。そんなところも含めて、す・て・き。待って?そんな方がお義姉様の婚約者?)


(『毒花』のお義姉様には麗しい辺境伯様は全く似合わない、釣り合わない、分不相応…。正に!身の程知らずもいいとこよ。本当に、いつもいつもいつも、いまいましい存在だわぁ、お義姉様って。そうね……フフフッあのお美しい辺境伯様に相応しいのは、この、わ・た・しということを教えて差し上げましょう。あの、役立たずのお義姉様が腕の傷を治してきたのは想定外だったけれど…、いいわ、今に見てなさい。誰が辺境伯様に相応しいか。思い知らせてあげるわ♡お義姉様は私の下の下。『ドアマット』という存在だという事をね。何度でも思い出させてあげなくっちゃね。)


キャロラインは、心の中でそう叫ぶと、突然肩を震わせながらシクシクと涙を流し出したのであった。








最後までお読みいただきありがとうごさいます!


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