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2-1 『毒花』と呼ばれていた悪役令嬢『お義姉様はこれから先も私のドアマットでいてね。』

─ジャンとミーナの不祥事があった数日後。


今日は夕方から王宮で夜会が開催される日である。


朝早く、王宮近くのアパートメントの一室である。


朝が弱い為、眠そうな表情のアベルがいた。


アベルの胸元にはリルダの瞳そっくりのスファレライトのネックレスが輝いている。


そんなスファレライトの輝きに負けない位、朝早いというのに明るいオレンジ色の髪色と同じで、ハツラツな表情のリルダだ。


リルダの胸元にはアベルの瞳の色と同じルビーのネックレスが揺れている。


2人揃って朝食とお弁当を作りをしているのだ。


リルダは手際よく卵をボールに割りシャカシャカと溶いてバターを入れ温めたフライパンにジュワッと一気に流し入れた。それを大きめにかき混ぜフライパンをトントンとする。


流れるような動作で一品完成した。


黄色い色が美味しそうな美しいオムライスだ。

隣でスープを作っているアベルが思わず手を止め見惚れる。


(毎朝見ているというのに何て素晴らしい動きだろうか。思わず感動せずにはいられないよ。

この美しい幸せな瞬間で時が止まってしまえばいいのに。………。本当に停めてしまおうか?)


リルダの動作を隣でつまびらやかに見ていたアベルは幸せを噛み締めつつも、黒いことを考えていた。

♢♢♢♢♢♢


その後は、2人で手際よく食事作りをし、温かみのある木のダイニングテーブルに座り2人で朝食を食べた。


   ──朝食後


「今日は夜会があるね。」


「うん、そうなんだよね。今日は警備課は総出で警備にあたるから帰りは遅くなると思うんだ。アベル、先に帰っていて。」


「いや、大丈夫。待ってるよ、うちの魔法課も仕事が恐ろしいほどあるからねクククッ。」

少し壊れぎみにアベルが笑う。


無理もない。夜会に備えて魔法課も連日遅くまで残業をしていたため、普段よりオーバーワークになり、少しばかり壊れてしまっているのである。


それに加えて、帰宅後はリルダと連日イチャイチャとしているからである。


……因みにであるが、アベルはきちんと自制し挙式をするまでは行為をしないと決めているのである。


……が、逆にいうと、行為はしていないがそれ以外の全ての事を夜な夜なしている状態ではある。


それ故、アベルは疲れているのだろう。

「アベル…。ありがとうね。魔法課の人達が今日のために色々と魔道具を作成してくれたから、警備がより強固なものになったよ。お陰で無事に夜会が開催できそうだよ。」


髪を下ろした姿のアベルは色香を漂わせ、優しく微笑んだ。


しかし、大分アベルは疲れているのではないだろうか?朝から夜まで元気満タンの体力オバケのリルダとは違うのだ。


心配になり思わず、暫く夜は別々で寝てはどうかと提案する。


すると…それを伝えた途端に、アベルの頬にツーッと涙が伝う。


アベルが泣いた。泣かせてしまった。


「俺の癒しを取らないで。」切実に伝えてくる。


アベルが癒しだと思っているのならば良いのだ、無理させてなければ良いのだが…。リルダは立ち上がりアベルの傍まで歩み寄り跪いた。


アベルの手までセクシーな手を取り、手の甲にチュッとキスをする。


「では、今日もアベルの夜の時間頂戴致しますよ?」


アベルの頬がポッと赤く染まり、しおしおと頷いたのを確認すると、リルダは、ひまわりが咲いたような笑顔を見せるのであった。


(リルダはいつも俺の欲しい言葉を与えてくれるんだね。1回目の人生ではそんな者1人もいなかった。  リルダだけだよ。俺には、リルダしかいない。リルダ…リルダ、リルダ、リルダ。)


(クククっリルダ。リルダは、俺にとって唯一無二の存在だね。こんなに沼のようにずぶずぶと深くどろどろとした俺の感情に寄り添ってくれる。俺にとっては、リルダという存在が、全てだ…。)


(リルダがこの世界にいるから、この世界は壊れずに済んでいるんだね…。)

♢♢♢♢♢♢


その後、片付けをしリルダは腕立てを軽く百回ほどしてから身支度をした。


2人で王宮に向かったのであった。


♢♢♢♢♢♢


王宮に到着すると従者やメイド達が忙しなく夜会の準備をしていた。


リルダ達警備課の者達も、警備の配置を確認したり会場内に怪しい物がないか等、徹底的に確認をした。


そうこうしている内に夜会の開催時間となっていったのであった。


♢♢♢♢♢♢


───夜会も中盤に差し掛かった頃


真っ赤に燃えるような赤い巻き髪をハーフアップにし、パステルカラーの小花の髪飾りをしている。


ドレスも髪飾りに合わせた色とりどりのパステルカラーの小花を散らしたエレガントでふんわりとした可愛らしい物だ。


胸元には、品の良いサファイアのネックレスを身につけている。


そんな風貌の紫色の瞳の令嬢が、会場近くのトイレから専属メイドと共に出てきた。


令嬢の名前は、アリシア・シロノア。


シロノア伯爵家の長女で、最近婚約をした辺境伯のキヌア・ハーベストと共に王に婚約の報告も兼ねて夜会に出席しているのである。


アリシアは帝国内の令嬢の中でも、非常に美しい。美しいが、美し過ぎる顔立ちが少しきつい印象を与える。


実はアリシアは最近まで、帝国の社交界では『毒花』と呼ばれていた。


その名の通り今までのアリシアと言えば、けばけばしいというか毒々しいというか、とても派手な装いをしていた。


胸元がザックリと大胆に開いた、赤や黒のドレスや大ぶりの派手な装飾品を身に付けていたのだ。


少しきつめの美しすぎる顔立ちと、社交界ではそぐわない派手で『下品』な装い。それらだけでも社交界の『毒花』悪役令嬢と呼ぶに相応しいものであった。


さらに、色々な淫らな噂も飛びかっていた為に、アリシアは他の貴族達から社交界の汚点『毒花』と呼ばれていたのであった。


会場の入口付近にいる婚約者のキヌアと落ち合うために足早にキヌアのもとに向かっていく。


本当はキヌアは心配し、一緒に付い来てくれると申し出てくれたのだが、出入口付近でキヌアの仕事で関わりのある貴族に捕まってしまい、アリシアもトイレをどうしても我慢する事できなくなってしまった為、トイレに行くことを伝えてから専属メイドと共に、トイレに行ったのであった。


大理石の広い通路に、カツカツとアリシアのヒールの音が鳴り響く。キヌアを心配させないようになるべく早く戻ろうとしているのだ。


……すると、前方の大きな大理石の柱から黒い影が……。



突然「ニャァー」と可愛らしい猫の鳴き声がした。水晶のようなチャームのついた赤い首輪をしている毛並みの良い綺麗な黒猫だ。


黒猫が柱の影からこちらに歩いてきた。


「ニャーッ」あまりの可愛さに思わず立ち止まり頭を撫でる。「あっ、ダメ。駄目だわ。」早く戻らなくてはキヌアが心配してしまう。


撫でるのを我慢し、「ごめんね、ねこちゃん。」そういうと再び会場に向かって歩き出そうとした…。


その時であった。


「お義姉様。」刺々しく、こちらを蔑むような声色でアリシアを呼び止める者がいた。


この声は、よく知っている。


義妹のキャロラインの声だ。その声を振りきり会場の扉まで行こうとするが体が動かない。その場に立ち止まってしまった。


伯爵邸にいた頃、常にムチ打ちなどの虐待をしてきた義母の声にそっくりだ


扇子越しに話しかけられる。


「フフフッ。これは、これは。」


「お義姉様じゃないかしら。」


義妹は一見すると物語のヒロインのようなピンク色の髪に、黄緑色の瞳の可憐や顔立ちだ。


見た目だけでいうならば、あちらは純真無垢で可憐なヒロイン。


こちらは刺々しい『毒花』悪役令嬢だ。


「あら、随分見ない内に…。なぁに?その格好?あまりにも分不相応ね。」


バシッと大きな音を出し、扇子を閉じたかと思うと、扇子の先で胸の中心をトントンと叩かれる。


「調子に乗っているようね。また、いつもようにお母様に『躾』をして貰おうかしら?」


その様子を見たメイドが間に入り込む。


「あら、もしかして専属メイドまでついているのかしら?本当にお義姉様は身の程知らずね、」ギリギリとアリシアを睨み付ける。


そして、今度はメイドに向かって低い声で「お前はあちらにお行きなさい。そうね…。廊下を、ずっとひたすら歩くと良いわ。」


パンッと扇子を手で叩くと、コクンとメイドは頷きキャロラインが指示した通り廊下の先を、真っ直ぐに歩き出した。


そう……。キャロラインの言葉には強い力があるのだ。


誰にでも効果がある訳ではないが、自分より魔力が下の者であったり、魔力が上の者でも、その者の心が不安定な時など、心の状態のよっては術にかかりやすくなるのだ。


メイドの場合は、キャロラインよりも魔力量が少なかった為、言いなりになってしまった。


アリシアの場合は義母がアリシアに虐待をし、アリシアの心を折って、言いなりにさせていた。


長年キャロラインの母親から酷い虐待を受けていた為、身体が萎縮してしまい逆らえず、義母や義母にやく似たキャロラインの術に簡単にかかってしまうようなのである。


(何故?キャロラインがここに?招待はされていない筈だわ…。それは確かに確認した筈なのに。)


「フフフッ私がここにいるのがそんなに不思議なのかしら?」


「私はね、どんな手を使ってでも、お義姉様を決して逃がしはしないのよ。」


歪んだ表情をし黄緑色の瞳で、憎しみを込めてギョロリとアリシアを見る。


キャロラインは持っていた扇子をドレスの腰元に差し込むと、今度は袖口に仕込んであった短剣に持ち替えて不敵な笑みを浮かべながら。


「ウフフフッお義姉様。これからも私のドアマットでいてね。」


そう言うと……。


短剣を自分に向けて、今にも振り下ろさんはかりに構えるのであった。











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