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静かな帰路/もう証明はいらない
竜舎への帰路、フィリアスの背に負傷したラインハルトを乗せながら、エリーゼは手綱を握っていた。ドランは、疲れ切った様子ながらも、二人から離れず、すぐ隣を飛び続けていた。
「ここに来て、後悔はないか」
ラインハルトが、掠れた声で尋ねた。
「一度も」
エリーゼは、迷わず答えた。
「婚約者に賭けの道具にされていた頃の私には、想像もできなかった居場所を、ここで見つけました」
「証明する必要も、もうない、というわけか」
「はい」
エリーゼは、辺境の景色を見渡した。荒野の向こうに、竜舎の灯りが小さく見え始めていた。
「あの人たちに、もう何も証明する必要はありません。私は、私のために、ここで生きています」
ラインハルトの喉が、小さく動いた。それから、噛みしめるように言った。
「その言葉を、聞けて良かった」
風が、二人の間を通り抜けていった。血と汗の匂いの中に、微かに、竜舎の干し草の匂いが混じり始める。
「団長」
「何だ」
「生きていてくれて、ありがとうございます」
ラインハルトは、答える代わりに、エリーゼの手に、そっと自分の手を重ねた。言葉はなかった。だが、それだけで、十分だった。
竜舎の灯りが、少しずつ近づいてくる。




