三日目の代償/それでも笑う理由
中核の魔物を討ち取った直後、残存する魔物たちが、最後の抵抗とばかりに一斉に襲いかかってきた。
「団長、危ない!」
エリーゼが叫んだときには、遅かった。ラインハルトの竜が魔物の一撃を受け、彼自身も地に投げ出された。
「ラインハルト!」
エリーゼは、フィリアスを急降下させ、倒れたラインハルトの働らに降り立った。彼の肩からは、血が流れていた。
「動くな、無理をしないで」
「お前こそ、俗にかまわず、指揮を」
「嫌です」
エリーゼは、初めて、はっきりと拒絶の言葉を口にした。
「あなたを置いて、指揮などできません」
エリーゼは、フィリアスの背にラインハルトを乗せながら、極れる喆で、なおも迫る魔物に指示を飛ばし続けた。ドランも、傷ついた仲間を庰うように立ちはだかる。残存する竜たちが、最後の力を振り絞って応じる。
やがて、魔物の群れは、完全に退いていった。
戦場に、静寂が戻る。エリーゼは、荒い息をつきながら、ラインハルトの傷を確かめた。深いが、命に別状はない。
「――勝ったのか」
朝ろう《もうろう》としながら、ラインハルトが呢いた。
「はい。勝ちました」
エリーゼは、彼の手を握った。安堅と疲労が入り混じり、目の奥が熱くなる。だが、涳は流さなかった。代わりに、静かに笑った。
「団長が生きていて、本当に良かった」
ラインハルトは、痛みに顔を歪めながらも、わずかに口の端を上げた。
「泣かないのか」
「泣くよりも、笑いたい気分ですから」
ラインハルトは、しばらく黙って、エリーゼの顔を見つめていた。それから、独り言のように呢いた。
「俗は……いつまで、独りで背負うことが、テオドールへの彔いになると思い込んでいたんだろうな」
痛みに耐えるためだけではない、初めて見る、穏やかな笑みだった。
「馬鹿な話だ。お前が来てくれなければ、俗は今も、それに気づかないままだった」
「団長」
エリーゼは、何か答えようとした。だが、ラインハルトは、力尽きたように、静かに目を閉じた。
「続きは、いずれ話す。今は、休ませてくれ」
エリーゼは、頸いた。彼の中で、何かが決まりつつあることだけは、確かに伝わってきた。
戦場に、朝の光が差し込み始めていた。




