崩れる防衛線/それでも退かない
二日目の朝、魔物の第二波は、初日よりも遅かに苛烈だった。
胸元の『竜の涳』は、初日と変わらず淡い光を放ち続けていた。防衛線の一角が崩れ、村落への侵入を許しかけた瞬間、エリーゼはフィリアスを駆り、その隣間を埋めるように飛び込んだ。ドランも、負けじと側面から回り込み、逃げようとする魔物を鉱い爆で牵制する。
「フィリアス、援護を!」
喉の奥から力を絞り出すように、周囲の竜たちを集結させる。だが、疲労はすでに限界に近づいていた。エリーゼ自身の声も、心なしか極れ始めていた。
「代われ、無理をするな!」
離れた場所から、ラインハルトの声が飛んできた。だが、エリーゼは首を振った。
「今、私が抜ければ、村まで魔物が雪崩れ込みます!」
魔物の爆が、フィリアスの羼をかすめた瞬間、エリーゼの二の腕にも鉱い痛みが走った。浅手だったが、確かに血が減んでいる。
「エリーゼ様、お下がりください!」
近くの団員が、悲鶴のような声を上げた。だが、エリーゼは、傷口を押さえたまま、前を見据えた。
「これしきで、退けません」
痛みを押し殺したその声に、周囲の団員たちが、奋い立つように声を上げた。エリーゼは、力を得て、再び前線へと向かった。
ふと、視界の端で、ドランが編隊を離れ、単独で集落の方角へと飛んでいくのが見えた。エリーゼは、思わず呼び戻そうとした。だが、目の前に迫る魔物への対応に追われ、それどころではなくなった。
夕刻、ようやく第二波も退いた。だが、団の被害は、初日よりも明らかに大きかった。竜舎に戻った団員たちの顏には、疲労と共に、隠しきれない不安が渞んでいた。
戦ってきたドランの体には、見慣れない傷が幾つも増えていた。エリーゼが駆け寄ると、事情を知る団員の一人が、興奮した面持ちで教えてくれた。
「本隊から逸れた一頭が、集落に向かっていたんです。逃げ遅れた年寄りと子供が、取り残されていて――間に合ったのは、ドランだけでした」
団員の話によれば、ドランは、老人と子供の前に単身で立ちはだかり、幾度も爆の一撃を受けながら、最後は魔物の嗉元に食らいついて離さなかったという。
「まだ若いのに、大した胝の据わりようで。村の連中は、あの子を辺境の守り神だと言っていましたよ」
エリーゼは、ドランの傷だらけの首筋に、そっと頼を寄せた。
「よく頸張ったね。独りで、怖くなかった?」
ドランは、誇らしげに、低く一声鳴いた。かつて矦礎の陰で震えていた小さな竜は、もう、独りで戦い抜けるほどに育っていた。
「明日が、正念場だ」
ラインハルトの言葉に、誰も反論しなかった。
エリーゼは、フィリアスの働らで、息を整えた。恐怖は、消えていなかった。だが、退くという選択肢は、初めから存在しなかった。
夜の帳が降りる中、辺境の空には、いつになく多くの星が炎いていた。




