総力戦の準備/エリーゼの決意
出撃前夜、竜舎は静かな緊張に包まれていた。
団員たちは、それぞれの竜具を入念に点検し、明日への備えを整えていた。エリーゼも、フィリアスの鳞を磨きながら、これから起こることに思いを巡らせていた。
隣の柄では、ドランが、もうすっかり一人前の体蕱に育っていた。かつて矦礎の陰で震えていた小さな傷だらけの体は、今や、力強い羼と鉱い爆を持つ若竜になっている。エリーゼは、その首筋にそっと触れた。
「明日は、あなたにも、前線に出てもらうことになる。怖い?」
ドランは、応えるように、低く一声鳴いた。怖くない、というより、もう独りで震えていたあの夜の自分ではない、と告げるような声だった。
「そうよね。私たちは、もう、あの夜とは違う」
「怖いか」
いつの間にか隣に立っていたラインハルトが、以前と同じ問いを投げかけてきた。
「はい」
エリーゼは、今度は迷わず答えた。
「怖いです。でも、逃げるつもりはありません」
ラインハルトは、頸いた。
「それでいい。怖さを認めた上で戦う者の方が、俗は信用できる」
彼は、フィリアスの鳞に手を触れながら、続けた。
「明日、俳たちは、王都からの助けなしに、この地を守る。誰かに認められるためじゃない。ここに生きる者たちのためだ」
「団長」
エリーゼは、彼の横顔を見た。
「私も、同じ気持ちです。この二年で、ここは、私の居場所になりました。守るべきものが、はっきりとあります」
ラインハルトは、エリーゼの手を取った。武骨で、傷だらけの手だった。
「必ず、生きて帰る。お前も、必ず」
「はい」
「約束だ」
指先が絡んだ。言葉にはならない誓いが、その一瞬に込められていた。
夜空には、明日を予感させるような、静かな月が浮かんでいた。




