(幕間)王都の返答/増援なし
王都からの返答書を、ラインハルトは執務室で何度も読み返した。
「現在、王都財政は逼迫しており、辺境への追加増援は困難である。各自の裁量にて対処されたし」
その一文を、ラインハルトは、無表情のまま二度読み返した。
「予算がない、か」
同席していた副官が、苦々しげに言った。
「聞くところによると、来月、王都では大規模な夜会が予定されているそうです。かねて発表のあった侯爵家のご令息の、婚約披露の祝いだとかで」
ラインハルトは、何も答えなかった。ただ、返答書を握る手に、力がこもった。
貴族たちの見栄と浪費のために、辺境の民の命が後回しにされる。この構図は、今に始まったことではない。だが、これほどまでに露骨な形で突きつけられたのは、初めてだった。
「団長」
エリーゼが、執務室に入ってきた。手には、団員たちの装備一覧が握られている。
「返答は」
「増援なし、だ」
エリーゼの表情は、動かなかった。だが、その静けさの奥に、確かな覚悟が見えた。
「では、私たちだけで、やるしかありませんね」
「そうだ」
ラインハルトは、地図を広げた。
「全竜、全団員を動員する。裂け目の本隊が動く前に、こちらの守りを固める」
「私も、先頭に立ちます」
「わかっている」
ラインハルトは、エリーゼを見た。かつて、王都から来た貴族の令嬢に過ぎなかった彼女は、今や、この辺境になくてはならない存在になっていた。
窓の外、竜舎の方角で、フィリアスとドランの鳴き声が、揃って響いた。まるで、来るべき戦いを、すでに察知しているかのようだった。




