最初の遭遇戦/小さな勝利と、大きな不安
裂け目から、初めて大規模な魔物の群れが姿を現したのは、辺境に来て二度目の冬の入り口だった。
「数、約五十。先遣隊とみて間違いない」
斥候の報告に、竜舎全体が緊張に包まれた。エリーゼは、フィリアスに跨り、出撃の準備を整えた。傍らでは、この一年ですっかり逞しくなったドランが、初めての実戦を前に、緊張したように喉を鳴らしている。
「ドランは、後方支援だけでいい。無理はさせるな」
ラインハルトの言葉に、エリーゼは頷いた。まだ、この子を最前線に出す覚悟はできていなかった。
戦闘は、思っていたよりも激しかった。魔物は統率された動きで襲いかかり、竜たちも防戦に追われた。二頭の竜が同時に横から迫られ、退路を断たれかけた瞬間、エリーゼは短く鋭い声を放った。散開、次いで挟撃。ばらばらに動きかけていた竜たちが、一拍遅れて陣形を組み直し、魔物の突進をいなす。それを合図に、戦況は、少しずつこちらへ傾いていった。団は大きな被害を出すことなく、群れを撃退することに成功した。
「やった、な」
戦闘後、荒い息を整えながら、団員の一人が呟いた。だが、その声には、喜びよりも困惑が滲んでいた。
「先遣隊、五十体を、これだけの規模で送り込んでくる理由は」
ラインハルトが、抑えた声で、しかし険しく言った。
「本隊が、この程度の規模ではない、ということだ」
エリーゼは、フィリアスの背から、裂け目の方角を見つめた。地平線の先、闇の奥に、まだ見えぬ脅威が潜んでいる。それを感じ取ったのは、エリーゼだけではなかった。
竜舎に戻る道すがら、団員たちの間に、これまでにない緊張が漂っていた。小さな勝利の裏に、抗いようのない不安が広がっていた。
「王都に、増援を要請する」
ラインハルトの言葉に、誰も異を唱えなかった。
その夜、エリーゼは、フィリアスの傍らで、声には出さずに願った。
どうか、間に合いますように。
裂け目の向こうの闇は、いつもより深く見えた。




