二人の距離/竜舎の夜
その夜、巡回から戻った二人は、焚き火を囲んでいた。竜舎から少し離れた、いつもの見張り場所だった。ドランが、二人の間に体を丸め、火の温もりを分け合うように寄り添っていた。
「聞いてもいいか」
ラインハルトが、火を見つめたまま口を開いた。
「婚約を解消したとき、お前は、何を思っていた」
エリーゼは、少し考えてから答えた。
「怒りより先に、腑に落ちる感覚がありました。長い間、都合よく利用されていたことに、自分でも気づかないまま、耐えることに慣れていたのだと思います」
「耐える、か」
「強くなりたいと思いました。誰にもいじめられない、見下されない、そんな強さを手に入れたかったのです」
エリーゼは、火の粉が舞い上がるのを見つめた。
「ここに来て、初めて、本気でそう思えるようになりました」
ラインハルトは、しばらく口を閉ざしていた。やがて、言葉を選ぶように、自分のことを語り始めた。
「テオドールが死んだとき、俺は、誰にも弱音を吐かなかった。吐けば、竜舎が崩れると思っていた」
「団長」
「だが、この二年で、思い知った」
ラインハルトは、エリーゼを見た。
「一人で全部背負う必要は、なかったんだ。そう教えてくれたのは、お前だ」
火の爆ぜる音だけが、しばらく二人の間を埋めた。
「団長は」
エリーゼは、声を落として尋ねた。
「テオドール様のことを、今も悔やんでいらっしゃいますか」
「毎日だ」
ラインハルトは、即座に答えた。だが、その声には、以前ほどの重さはなかった。
「だが、悔やむことと、前に進むことは、両立できると知った。それも、時間をかけて学んだことだ」
エリーゼは、頷いた。焚き火の煙が、まっすぐ夜空へ立ち昇っていく。
二人の間の距離は、いつの間にか、随分と近くなっていた。言葉にはしないまま、それでも確かに、何かが変わりつつあった。




