不器用な優しさ/耳が赤い団長
夜の見回りを終え、竜舎の扉を閉めようとしたところで、ラインハルトと鉢合わせた。彼もまた、最後の点検に来たらしい。
「まだ起きていたのか」
「団長こそ」
二人は、しばらく無言でフィリアスの様子を眺めた。夜風が、乾いた干し草の匂いを運んでくる。
「団長は」
エリーゼは、半分からかうように尋ねた。
「私に竜語の才があるから、ここに置いているだけですよね」
ラインハルトは、珍しく、すぐには答えなかった。長い沈黙のあと、ようやく口を開いた。
「それだけなら、お前をここまで危険な巡回に連れて行かせはしない」
「では、なぜです」
「フィリアスが、お前を気に入っている。それだけだ」
「それは、答えになっていません」
エリーゼが指摘すると、ラインハルトは、わずかに視線を逸らした。
「なぜ、と聞かれても、うまく言えない」
彼は、フィリアスの鱗に手を触れながら、続けた。
「ただ――お前がいないと、竜も俺も、調子が狂う。それだけの理由だ」
不器用な言い方だった。だが、それで十分だった。
エリーゼは、思わず笑った。声を上げて笑ったのは、辺境に来てから初めてのことだった。
ラインハルトは、その笑い声に、耳を赤くしながら目を逸らした。
「何がおかしい」
「いいえ、何も」
エリーゼは、笑いを収めながら、フィリアスの首筋を撫でた。フィリアスが、満足げに喉を鳴らす。隣の柵では、ドランも、つられたように機嫌よく尻尾を振っていた。
夜空には、辺境らしい、澄んだ星が広がっていた。二人の間に流れる沈黙は、もう気まずいものではなかった。




