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ちょっと刺激が強いですおにいさん

 朱羅がこのあたりは岩があちこちにあるせいで苔が多く、食べられる植物を探すには向いてないと言ったので、現在移動中である。


「まずな、人間は弥生から皐月の間に生えた新芽のヨモギを食べる。確かそれ以外の時期は葉が硬いらしい」

「へ〜、なるほど」

「それからヨモギは葉の裏が少し白っぽいんだ。毛が生えてるからな。トリカブトにはそれがない」

「あー、だからヨネさんが葉の裏見てたのか!」

「匂いでわかるやつもいるがな」


 せっかくだからとヨモギとトリカブトとの見分け方を聞いてみたら、朱羅は簡単に違いを教えてくれた。

 ひとつ言うたびになるほどと頷く私を見つめる朱羅の瞳は、これでよく山菜採りしようと思ったな、という呆れと驚きの色が滲んでいた。


「この時期に採れるもので、わかりやすいのはヤマモモとかヤマグワだな」

「桃?」

「都で好まれている桃とヤマモモは違う。ヤマモモは赤く、表面が粒状にざらついている。華の考えている桃は薄桃色に色づく甘い香のものだろう?」

「たぶんそう!産毛が生えてて、甘い匂いで、食べても甘くて美味しいの!」


 モモの部分に反応して、地元でよく食べていた桃をイメージしながら返答する。それを見抜いたらしい朱羅はヤマモモと桃は別のものであると訂正したので、ちょっとだけ残念なきもちになった。


「その様子を見る限り、ヤマグワの方が華は好きそうだな。ちょうどいい。ヤマグワの木が生えてた場所に行くか」

「ちょうどいい、ってなんで?」


 ヤマモモが生えている場所が辺鄙な場所で行きにくいとかなのだろうかと聞き返すと、朱羅は嫌そうに顔を顰めて。


「桃が苦手なんだ。俺は邪気払いの気がある植物は好かんのでな。桃は鼻が使い物にならなくなるし、触れるとびりびりする。近寄るだけで頭が痛くなる。他にもそういう植物はあるが。基本邪気払いとして扱われるものは苦手だ。死にはしないがな」

「へー、弱点ってこと?」

「そうだ。お前だから信用して言ってるんだ。悪用するなよ」


 そう言って苦笑いを浮かべた朱羅。出会って片手で数えられるほどの日数しか経っていないのに、そんなに簡単に弱点とも呼ばれる部分を教えてくれるなんて。


「朱羅が思ってるより悪い人間だから、弱点を他の人に言っちゃうかもよ?」

「核心がないだけで、普通の人間はそれくらい知ってるんだ。それにそうしたら……そうだな。華のことを後悔させてやるよ。もしそうなったら、あのときに真名を名乗った自分を恨むんだな」


 ちょっとからかってみるつもりが、朱羅にニヒルな笑みを浮かべながらそう言われて、背筋がふるりと震える。そんなことをするつもりは毛頭なかったけれど、故意的に言うことは絶対にしないように心に決めた。


「お、あったな。これがヤマグワだ」


 雑談を交わしながらも朱羅はちゃんと目的地に向かっていたらしい。示された木には、赤っぽい実と黒っぽい実がついていた。実の形はブラックベリーみたいに見える。


「どっちが食べ頃かわかるか?」

「おそらく!黒い方!」


 その実を見つめながら、朱羅が問いかける。ブラックベリーみたいだから、おそらくは黒い方だと思う。そう答えると、朱羅は小さく笑って。


「熟していると思う方を食べてみたらいい」


 そう言うので、恐る恐る黒っぽい方を口に入れてみた。

 噛むとぷちゅっという音がして、果汁が口に広がる。

 感じたのは甘さとわずかな酸味。特有の香りみたいなものはあるものの、それすらも美味しさにかわる。


「おいし〜!!」

「ふ、赤い実を食べたときの微妙そうな顔も見てみたかったんだが。お前がそこまで喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ」


 吐息のような笑い声を漏らした朱羅は、優しげな眼差しで私を見ていて。それがなんだか恥ずかしい。少しでも朱羅の気を逸らせないかと考えて思いついたのは。


「朱羅も食べてみてよ!」

「?!」


 ヤマグワの実を朱羅にも食べさせることだった。俺はいい、なんて言われるかもしれないと口元に押しつける。強く押し付けられると、実が割れ果汁が滴って汚れると思ったのか、朱羅は薄く口を開いて。そこに押しこんだ。薄らと開かれた口元からは、人のものよりも鋭そうか犬歯がチラリと見えた。


「おい華」

「ひぇ、はい」

「やられっぱなしってのは、良くないと思わないか?」


 嫌な予感がした。ズサッと音を立てて後退る。朱羅から逃げるように取った距離を、朱羅は笑顔で詰めてくる。目は笑っていないけれど。


「ほら、口開けろよ。あー、って。食わせてやるから」

「ごめんなさい出来心でした!」


 謝って許されるんなら、警察はいらないんだよな。と脳内で現代に染まった私が反論している。脳内の私、まさかの朱羅の味方。あわあわとしていても、現実は一向に変わらない。


「あー、って言ってみろ。な?いい子だから」


 朱羅がそう言って詰め寄ってくる。朱羅の顔は見上げなければならない位置にあるので、じっと見つめることもなくあまり気にしないでこれた。でも、朱羅はものすごい美形なので。ほぼ正面から見ることになると、威力が違う。しかも宥めるように出された穏やかな低い声が、なんだか甘く聞こえて。おそらく今の私は顔が真っ赤になっていると思う。


「諦めろよ」

「…ぁ」


 この一回だけ我慢すればいいのだと、羞恥心を殺して目をぎゅっとつむると、そっと口に先程食べたヤマグワの実の感触が転がり込んできた。指先は口を閉じるように優しく唇をふにりと潰す。私そんなことしてないんだけど!と心の中で絶叫しながら噛むと、やっぱり甘くて美味しい。けれどその味に集中することはできそうになくて。


「ま、満足ですか…?」

「いや?華を見てたらもっとしたくなってきた」

「勘弁してください」


 これ以上は恥ずかしさとかのあまりで記憶が朧げで。でも残念ながら、無駄な抵抗だったとだけ言わせてもらう。

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