第64話 穢れ
腕を組んだコスモスが、ずっと疑問だった事に答えていく。
「おぬしらには分かりにくいと思うからの、最初から説明してやるとするか。やれやれウチもかなり人間に染まって来たのじゃ」
「最初から?」
コスモスは指を立てて、そもそもの対立の始まりを言葉にする。
「なぜ、フィー達がおぬしの前に立ったのか、という事じゃよ」
「!」
息を呑む。
あの時は、いきなりフィー達と戦うことになって驚いた。
前触れも説明もなかった、だからそんな事になるなんて夢にも思わなかったからな。
よく、もくず屋で顔を合わせてたってのに、考えてみれば俺達ってそんなにあいつの事知らないんだよな。
フィーが組織を束ねていた事も驚いたけど、アーシェの決意を台無しにするような事をしたのが一番気になる。
そもそも、なんでフィーは何でそんなにアーシェの事を気にかけるんだ?
俺たちならともかく、接点だってないだろうし、善人だからって言葉じゃ片付けられない事柄だ。
目の前にいるコスモスは、混乱するとこから先に進めないでいる俺へと告げる。
「アーシェが行った魔法にはの、代償があったのじゃ」
「代償だって?」
魔法に代償があるなんて、そんな話聞いたことはない。
疲れるとか、魔力を使うとかそういうのとは違うのか?
「そうじゃ、といっても感情が具現化したものじゃから、ないといえばないのじゃが」
「?」
コスモスのその説明では理解できず、首をかしげるしかない。
「魔法はイメージを具現化するもの。普通なら便利な力を使えて素晴らしい考えるところじゃが、アーシェはそうではなかった」
「アーシェは謙虚そうな性格だったからな」
説明を聞いて少し納得。
その可能性は十分にあり得る。
便利な力をただ使うだけってのは、納得できない人間だったのだろう。
大きな力には何かしらの代償がある。
そう思ってしまうのは、人として自然なことだ。
「だから、その感情によって結界を維持する最中に苦痛を感じるという代償が発生してしまった」
「そんな……」
「それだけではないぞ」
まだあるのかよ。
俺達は知らない事ばっかなんだな。
何も知らずに平和な時間を過ごしていた事が悔やまれる。
そうなると分かっていたら、俺達は反対したかもしれないのに。
「これは、アーシェのイメージとは別の代償じゃ。別の世界に穢れが流れ出すというものじゃな」
「別の、世界……」
コスモスは説明していく。
この世界には、絶えず無数の穢れが生み出されている。
かつてはそれが虚無という形となって、この世界を押しつぶそうとしていた。
「けれど、それはアーシェが生贄になって食い止めてるわけだろ?」
「そうじゃ。だが、それは食い止めてはならんもんじゃった。いいか? 良く想像してみるのじゃ。絶えず穢れが生み出されているのに、そこに無理矢理蓋をしてみろ。閉じ込められた空間のなかで穢れが生み出され続けていたら、やがて破裂してしまうじゃろう」
「!!」
でも、とオルタは続ける。
そんな事はこの世界の偉い連中が想定しているはずだ。
何も考えずに魔法を行ったとは考えられない。
「さての? そこら辺はさすがにウチにも想像が及ばんのじゃ。いつの時代だって組織は一筋縄ではない。どこかに綻びが生じたのであろう」
「……」
とすると、その綻びが生じたのは、切羽詰まってたあの時代だろうか。
長い間眠ってた俺達がこの時代でそれを確かめるのは難しそうだな。
後で、クオンにでも聞いてみるしかない。
重大な疑問は他にもある。
それはそんな大変な事になっているのに、未だにこの世界が平和だという疑問だ。
「この世界は何ともなってない、よな」
「そこで別の世界じゃ。逃げ場を失った穢れはかすかな道を辿って別の世界へと流れ込んでいるわけじゃ。向こうの世界にとってはとんだ迷惑という奴じゃの」
「そんな事になっていたなんて……」




