第60話 拡張図書館
目が覚めたら見慣れない図書館だった。
情けない話だが、虚無に向かって落下した後、あまりの落下時間の長さに、意識が途切れてしまっていた。
キャロがいたら「たるんでるわよ」、なんて叱られそうだ。
落下している最中に一瞬だけ、早まった事をしてしまったと思ったが、どうやら無事にコスモスに回収されたらしい。
体を起こすと、視界にはたくさんの本棚が並んでいる光景。
以前訪れた時の記憶は曖昧だけど、ところどころ造りが変わっている様にみえるし、余計な装飾も増えてる気がする。
自分が今まで寝ていた所に視線をおとすと、花柄の可愛らしいソファーだった。金と銀の色が特徴的で、どこか気品のようなものを感じさせる。
前はこんな物はなかった気がする。記憶にあったのは、もう少しおとなしい感じの家具ばかりだった。
(全体的に高級感のある家具が増えたような気がするな。何でか知らないけど)
他にも花瓶が乗っている棚とか、ティーセットが並べられている棚とかが目に入る。
足元に目を向けてみたら、以前より毛が長いふかふかの絨毯が敷かれていた。
前は全体的に無機質で、ところどころ人が住んでいる気配がする……くらいだったけれど、今はかなり生活感があった。
そんな風に周囲を見回しながら寝起きの頭を起動させていると、懐かしい声がした。
子供特有の高い声だ。
これもなんだか違って聞こえる。
以前は大人びた、とか神秘的なとかいう装飾がついていたが、今はただの子供の声といっても不思議ではなかった。
その声は、誰かに向けられているようだ。
「いい加減ウチをお嫁さんにしてほしいのじゃ」
「うっせぇ、離れろチビ」
「いーやーじゃ! ミナトがウチを嫁にするまで一生離れるつもりはないのじゃ」
「その愛の重さで相手から引かれてるって気づけよ!」
聞こえてきたのは、気の置けない間柄を伺わせるやりとりだ。
顔の知らない男と、その男にくっついている少女がやってくる。後者は顔の知ってる方だ。
いろいろ変わってるこの場所だが、彼女の見た目だけはまったく変わっていなかった。
その少女が、こっちの様子に気づいた。
うざったそうにしている男から離れて、近寄ってきた少女はこちらの顔をのぞき込んできた。
「ん? 起きたかオルタ。久しぶりじゃのう。少しふけたかの?」
「お前と比べれば、少しは変わったかもな」
彼女の名前はコスモス。
そのはずだ。
はず……なんだが、何と言うか。
知らない間にえらく性格が変わってしまったようだ。
「くくっ、それはそうかもしれぬのぅ」
愉快気に笑う目の前の少女を思わずまじまじと見つめてしまう。




