第43話 説得不可能
未練をのこすと、後にずっと引いていく。
いつだったが、仕事で一緒になったマリオンが俺たちにそんなことを言ってきた。
救出作戦のさなかで、蝕から生き延びるために洞窟の中に逃げ込んだ人たちを探していた時だ。
変な動物がたくさん出てきて、キャロが悲鳴を上げっぱなしだった。
そんな中で、奥から人の声のようなものを聞いて、確かめるかどうか悩んだんだった。
もう数十人も救出していて、これ以上は守り切れなくなるという状況。
でも、声が気になったから俺とキャロだけで向かって無茶したんだっけ。
結果的には子供を保護することができてよかったけど、蝕に囲まれてしんどい思いをしたな。
大変だった。
でも、あの選択に後悔はしてない。
人を助ける、そのために組織で活動してるんだから。
マリオンにたまにはいい子というなって、感謝したな。
だから、俺は未練を残さないように意識してきた。
けれど、最善の行動をとっているつもりでも、それらはできてしまうんだ。
マキシム=ハイブに辿り着いた俺達は、隠密行動をとって町の中へ潜入した。
壊れかけた家々をみるのは、いつだってつらい。
野生化したペットなんかがいたから、まだ寂寥感はそれほどじゃないけど。
それでも、おいていかざるをえなかった人たちのことを思うと、また別に胸がいたむ。
「オルタさん、キャロさん。あなた方でしたか」
そんなさびれた廃墟が立ち並ぶ物悲しい景色の中で再会したのは、フィー達だった。
広い空き地の前で、まるでこっちが来るのをわかっていたみたいに待ち構えていた。
フィーは、周りにいる数住人の男女たちになにか指令を下しているところだった。
「撤退の準備」とか「負傷者を運び出す手はず」とか話している。
組織を束ねるものとしての顏。俺達が知らない姿だ。
「フィー、お前がまさか、敵に回るなんてな」
「何かの間違いでしょ? だれかに騙されてるとか」
ショックを受けた様子でキャロが話しかける。
だが、自分の意志でここにいるのだというように、フィーは首をふる。
「ここにいるのは僕の意思です。いくらオルタさんやキャロンさんでも、僕達の主張はゆずれません」
フィーは敵意を含んだ視線を向けて、指を鳴らした。
しると、地面に埋まっていたらしい檻がせりあがってきて、とじこめられていた触が解放される。
「んなっ」
「本気なの!」
信じられないという思いでいっぱいだったが、状況はまってはくれない。
フィー達は話し合いにやってきた俺達を、罠にかけたんだ。
俺たちが交戦していると、遠くで待機していた者たちが近づいてくる気配。
いつもの同僚もいるが、他所から派遣されてきた連中もいる。
後者は最初から手加減なしで暴れまわっていた。
「くそっ、フィーたちを殺す気かあいつら」
「オルタ、下がって! これじゃ巻き添えになっちゃうわよ」
交渉決裂とみたフィーたちも、だんだんヒートアップして場を収めることが、できなくなってしまう。
「あなた方の意思は分かりました、どうやらわかりあえないようですね」
「違うっ、話を聞いてくれっ!」
声を上げても、戦いの音ですべてかきけされてしまった。
「げほげほっ、っ」
咳き込み、痙攣するキャロの体を抱き上げて、頭を抱える。
煙幕に電流にトラップが立て続けにやってきた。
煙はなんとなかったが、電流を体に通してしまったせいで、キャロはうまくうごけなくなってしまった。
「医療班! キャロを頼む!」
俺は一時的に前線から下がらざるをえなくなった。
後方に待機していた仲間にキャロを預けて、離れたところから戦況を眺める。
(橋のほうで妙な動きがあるな)
町の外に繋がる橋の一つそこに、動く人影があった。
俺は予備の武器を掴んでそこへ向かった。
流れてきた煙の影響ですすけている町の中を走る。
先頭音を遠くに聞きながら、何でとばかり考えていた。
何でこんなことになってしまうのか。
まもりたいと思った人たちが一人ずついなっていくなんて。
橋の上に立つとちょうどフィーが通るところだった。
俺は腹の底から声を出す。
「この馬鹿野郎! なんでそこまでして、アーシェを助けるんだよっ!」
フィーは冷たい目でこちらを見つめ返してきた。
「アーシェさんだって、本当は一人だけ辛い思いをするのが嫌だったんです、友達なら気が付いてますよね」
「それくらい知ってたさ。でもそういうのをこみで、あいつは納得して犠牲になったんだ」
友達なら相手の意思を尊重してしかるべきだ。
でも、フィー達の意見は違うようだ。
「本心がわかってるのに、無理矢理犠牲にさせるなんておかしいですよ」
「っ!」
言葉が胸に突き刺さる。
ああ、そうだ。
本当はわかっていたんだ。
ホテルであった時、アーシェがどう思っていたかなんて。
でも、口に出せるわけがない。
人の感情は、行動は本心だけでなりたってるわけじゃないんだから。
「今のアーシェさんを見てもそんな事が言えるんですか!」
「一体なにを言って」
痛みをこらえるような表情。
フィーは何かを吐き出そうとしているように見えた。
けれど、それを詳しく聞く時間はなかった。
そうこうしているうちに、アース切断でマキシブ=ハイブが切り離される事になった。
遠くから仲間たちが叫んでいる。
「オルタ隊長! もう時間がありません!」
もうここから逃げなければならない。
さもないと、巻き添えになってしまう。
「くそっ、もうやめろ! これ以上やりあったら、本当に死んじまうぞ!」
「覚悟は決まってます! 例え命を落とす事になろうとも、僕達はっ」
「オルタから離れて! ライトニング・コール」
「キャロ!」
戦いの中、キャロの魔法で目くらましをした後、俺達は町から脱出した。
フィーが俺たちの背中に声をかけてくる。
「計画が始まろうとしています。何も知らないなら、どうか気を付けて」
フィーたちは、町の外には出なかった。
あの橋から俺たちの後を追ってくれば、それだけで助かったはずなのに。
背後を振り返って、轟音を耳にする。
真っ暗な深淵に落ちていくマキシブ=ハイブの様子はとても直視できるような物じゃなかった。




