第40話 友達のいない世界
もう俺達のいる世界は壁に押しつぶされて圧殺されることはない。
人類が緩やかに衰退していくまでは、平和を保つだろう。
けれどアーシェは、気が遠くなるような年月を一人で耐えなければならない。
彼女は誰もいなくなった世界で、たった一人で世界の終わりを見届けなければならなくなったのだ。
いつも通り朝食を作りに来たキャロが、食卓の向こうで呟く。
「ねぇ、オルタ。私達のした事、これで本当に良かったのよね」
「……」
正しいか間違っているかで言えば間違ってるだろう。
一人の少女の犠牲の上で平和に過ごすなんて。
けれど、他に方法がなかった。
最高ではないし、理想的ではないけれど、そんなのを探していたら人類は滅んでしまう。
だから、現状ではまちがいなく最善の道だった。
「アーシェだって、分かっててやったんだろ。そんな顔してたら、意味ないじゃないのか?」
「そうだけど」
理屈では理解できる。
でもキャロは、感情では納得できない、と言った様子だった。
俺も難しい事は分からないけど、こういうやり方は好きじゃない。
だけど俺達以外の皆は比較的この事に心の整理をつけたみたいだ。
いつも通りの日常が過ぎていく。
仕方がなかった。
本人の希望だったから。
そう言って。
彼等が特別薄情だとは思わない。
そいつらはアーシェの事を何も知らない。
実際に言葉を交わした事も触れ合った事もない人達がほとんどなのだから。
だけどな。
俺達は、もうあいつと知り合ってしまったから。
聖女なんかじゃなく、救世主なんかじゃなく、ただの少女だって知ってるから。
あの決断をしたあいつの覚悟が少しは分かるから。
だから、こんなにも苦しんいんだ。
静かな食卓の中、向き合う俺たち。
そこに、チャイムが鳴り響いた。
「? 今日って、誰か来る日だったかしら」
首を傾げるキャロが、玄関に向かっていく。
俺もついていくと、開いた扉の向こうには知り合いたちがいた。
「んな、なんだ?」
商店街のおばちゃんとか爺さんとか、同僚もいた。
「オルタ君が最近元気がないって聞いてね」
「うちの梨でも食って元気だしな!」
「キャロちゃんとしっかり二人でやってくんだよ」
知り合いたちは好き勝手にしゃべって、それぞれ食べものだとか商品券だとか、ちょっとした品を置いていく。
「ははっ」
力が抜ける思いがして、笑いがこみあげてくる。
「オルタ?」
「うじうじすんのはやめだ!」
頬を叩いて気持ちを切り替える。
大量の見舞い品を抱えて、目を丸くしているキャロの肩を叩いた。
「さっさと食って見回り行こうぜ、俺たちは立ち止まってる暇はねぇんだから」




