第37話 平和の礎
聖域結界魔法の礎にはアーシェが選ばれた。
よりによって、俺達の友人が。
他にも立候補者や候補はいたらしいけれど、彼等では駄目だったという事だ。
彼女の力はそれだけ強かったのだろう。
ノラの依頼で、猫やほかの動物たちを引き寄せた手腕を見ればそれも納得だった。
で、
「その作戦の選抜メンバーに俺達が選ばれるとか、どういう皮肉だよ」
こんな嫌な現実が目の前に横たわっていたりする。
作戦会議室から出てすぐ、息を吐く。
キャロが不安げに、こちらを見つめてくる。
ついさっき、上司から直々に告げられた仕事内容をおもいかえすと、やるせない思いがこみあげてきた。
それは、ペアで活動しているキャロももちろん同じだろう。
部屋から出た後、休憩室に立ちよって、二人で話をする。
「オルタ、この作戦。降りても良いのよね」
「らしいけどな。でもそうなると……」
俺達の活動は、あくまでも個人の意思が尊重される。
俺達が参加しなくても別の人間が代わりに役割をこなしてくれるだろう。
だが、そうなるとすでに保護されて、どこかに隔離されているアーシェと会うタイミングがなくなってしまう。
行き場のない感情をこめて、廊下の壁になぐりつける。
「くそっ、こんなのってねえよ! せっかく仲良くなれたのに」
「オルタ……」
そこに、使い終わった会議室の施錠をするためにクオンがやってきた。
部屋の前を通った彼女がこちらに気づいた。
誰かが扉を開けっ放しにして出ていったらしい。
廊下から風が入ってきていたが、しれに気づかないほど考え込んでいたようだ。
彼女が心配げな表情ウィこちらに向ける。
「二人共、まだこちらにいたのですか」
「クオン!」
俺は彼女に話したいことがあったのだ。
「な、なんですか一体」
肩をつかむと、彼女にたじろがれる。
女性に乱暴するのはさすがに気が引けたので、少し冷静になった。
謝ってから手をはなす。
「私は大丈夫ですけれど、何かあったのですか?」
「アーシェは、今回の作戦に立候補したのは、俺達の友達なんだ」
「そうだったのですか……」
クオンは「だからそんな顔を」とつぶやく。
俺は、顔をふせるクオンに尋ねた。
「お前なら、どうする」
大切なことなんだ、と伝わるように彼女の瞳を真剣に見つめる。
クオンの瞳の光が彼女の心情を示すように、大きく揺れた。
「わ、私に聞いているのですか? あなた達が……」
「お前見て行ってるんだから、そうでしかないだろ」
どこか間の抜けたやり取りに、少しだけ力が抜けた。
肩をつかんでいた手を離す。
クオンはうろたえるように視線を揺らしつつも、こっちの言葉に応えた。
「今の私だったら。助けますね。けれど、友人が確たる意思で事にのぞんでいると分かったなら、覚悟の深さが十分にあると測る事ができたのなら、止めません」
「そうか……」
聞いてみるつもりでいたけれど、たぶんアーシェは引かないんじゃないだろうか。
あいつはきっと自分で決めたことを簡単に曲げたりしない。
そういう人間だと思う。
たった少ししか接していないのに、不思議とそんな人間だとわかるのだ。
なら。
未来はもう、決まっている様なもんだった。
会議室に置かれた椅子に座り込んで、頭をかきむしる。
これが無理やりやらされていたものなら、俺達は色々な物を敵にまわしてでも、友人を守ったのに。




