第56話 いじめっこたちと直接対決!?
久しぶり……といっても三日ぶりくらいだが。鈍った身体に肉体労働が堪える。ただ今日、とても疲れているのは、それだけが理由ではなかった。
ジョルジュが今日から成人見習いとして、大人に混じって働き始めることになったのだ。どうやら大人たちと本人の間では以前から取り交わされていた約束らしく、今朝、当然のようにジョルジュは大人たちと農地へと向かっていった。サロメたちは家族内なので、情報伝達は早い。だが私は部外者なので、知ったのは今朝だった。
……子供が大人の世界へ入るための必要な期間だと分かっていても、単純に子供用仕事の頭数から成長した男の子が抜けるのは痛い。
ということで、今日からはジョルジュの開けた穴埋めをするために、より一層力を入れて働き、さらに言えばリアムを育てることになったのであった。
あー腰痛い、なんて言いながら、夕暮れの中、私は今日の分の分配分を籠に詰めた。今日はバクダンが採れたらしく、籠の半分がそれでいっぱいになってしまった。母と二人暮らしだとバクダンを食べきるのはなかなか苦労するので、そんなに頻繁に貰ってもあまりうれしくはないのだが、放っておくと爆発してしまうので処理するより仕方がない。食べるものがあるだけ感謝せねば。
今年も去年と同じくらいの量を分配されているので、どうやら村としても、今年も豊作らしい。何にせよ、お腹いっぱいになれるのは幸せなことだ。
せっせとバクダンの上に根野菜を置いて、葉っぱ類を潰さないようにセッティングしていると、影が差した。
「レノちゃん! 今日も一日ご苦労さま!」
バン! と背中を叩かれた。衝撃で噎せながらも、声の主を見上げる。サーラおばさんだった。まあ、こんなことを悪意なくするのもおばさんくらいのものだろう。背中が痛い。
「お疲れ様です、おばさん」
「今日は大変だっただろう? ま、そのうちリアムもあっという間にジョルジュみたいに育ってくさ」
子供の成長なんてあっという間だからねぇ、とおばさんが豪快に笑った。おばさんから見たらそうかもしれないが、同じ子供目線だと毎日の仕事で精いっぱいだ。環境に慣れるまではまた大変な日々が続くだろう。
「そんなことより、お土産、ありがとうね。街は楽しかったかい? ジョルジュは頼りないところがあるからねぇ、本当に大丈夫かって母ちゃんとしては心配してたんだけど。疲れてたみたいだけど、ジョルジュも夕飯の時には興奮して街の様子を話してくれてね? ヒューゴと喧嘩になっちまったから、最後まではまだ聞けてないんだけど……」
ヒューゴが羨ましがって、ジョルジュの話の腰を折る姿は目に見えるようだった。ま、今夜にでも続きは聞かせてもらうさ、とおばさんがカラカラと笑っていると、視界の端で、私の籠にルミュールが追加された。ロジェだ。
「ジョルジュは良く動いてくれたよ。初めての街で緊張しただろうけど、色々なことを経験出来て、成長に繋がっただろうさ」
「そうかい? あんたも、そう思うかい? 実は私もね、帰ってきたジョルジュを見て、ああこの子、こんなに大きくなってたんだねぇって思ったんだよ」
今頃気付くなんて変な話だろうけど、と言いつつも、おばさんは遠くの農地の方で、大人に混じって何かを話しているジョルジュの姿を目を細めて眺めていた。
「子供ってのは、知らないうちに育つもんだねぇ」
「……僕はまだ子供はいないからわからないけど。きっと、そんなものなんだと思うよ」
ロジェは、今回の街行きではお土産だけではなく、硬貨も残して帰って来れて良かったという話をした。もちろんおばさんも感心したようにロジェを褒めちぎっていた。
「そんなこと、滅多にできるもんじゃないからね。ロジェ、アンタには才能があるんだよ」
「そんなんじゃないよ」
ちらりとこちらを見てから、ロジェは続けた。
「豊作の年が続いてるからね。食べるものにも困らなくて、売れるくらい残っているっていうのは有難いことだと、今回感じたよ」
おばさんも、確かにその通りだと頷いた。
そうやって雑談していると、ぱたぱたと足音がした。振り返ると、そこにはもじもじした様子のサロメがいた。私と視線が合うと、さっと私の影に隠れつつも、こちらへと一気に近付いてきた。
「どうしたの? サロメ」
「ううん、私……」
おばさんとロジェは雑談を続けていて、サロメが近づいてきたことに気付いていないようだった。きょとんとサロメを見つめていると、もじもじしている様子だったサロメは意を決したように、一歩私の影から出て、ロジェの前に立った。
「ああ、サロメ。今日もお疲れさま」
「うん、お疲れ様……じゃなくて。ロジェ。その……お土産、ブローチ、ありがとう」
ぶつぶつと単語ごとに区切った変な喋り方で、サロメが言った。よくよく見れば、サロメの胸にはロジェが買ってきたブローチがつけられていた。夕焼けを受け、きらりと石が輝いている。ロジェもそれに気づいたらしく、にこりと笑った。
「つけてくれてるんだ。喜んでもらえてよかったよ。サロメがどんなものが欲しいかよくわからなくてね。ジョルジュにも相談に乗ってもらいながら選んだんだ」
「そ、そう……綺麗なブローチだったから、結構嬉しかったから」
だから直接お礼を言いたくて、ともごもごサロメが言うと、ロジェは頭を悩ませて選んだ甲斐があったよ、と嬉しそうに微笑んだ。サロメはそれを見て、言葉を詰まらせた後、それだけだから、とぼそぼそ言ってその場を離れていった。後日リアムから聞いたのだが、サロメはこの夜から、貰ったブローチを大切に枕元に飾り、寝る前に見てはふふふと笑みをこぼしているらしかった。
結果として、薬は効いた。
……効いたのだ!
母の具合は日に日によくなっていって、秋も深まる頃には、ちゃんと朝に起きて、夜に眠る生活にまで回復していた。もちろん、眠っていた期間が長かったので、今はリハビリ中だ。筋力も体力も衰えているので、すぐに仕事をするわけにはいかない。まずは一日中起きていられるかどうかの確認と、家事を手伝ってもらって、ゆっくりと元の生活に戻っていけるように見守っている段階だ。
私が外に出ている間に洗濯物を洗って干してくれたり、ご飯は一緒に作ったりして、私の生活の負担もだいぶ減ってきた。一応私は四歳にはなっているが、それでも私はやっぱりまだまだ子供で、身体が小さい。となると、出来ることにも限界があるので、大人の手を借りられるのは本当に助かると痛感した。洗濯物を干すのだって、私は台がないと高いところに干せないが、母だったら背伸びで届くところに紐をひっかけて干せばいいだけなのだ。
季節は秋になった。ということは、収穫祭があり、それが終われば大人たちが街へ行くシーズンだ。
私はみんなが街へ出発する前に、母に事訳を話し、家にある貯蓄から銀貨一枚を貰って(私のお金はギルドバンクルじゃないと決済できないし、ギルドに行かないと現金をおろすこともできない。こんなことなら多少の現金は持っておくべきだった)、ロジェに手渡しておいた。
ロジェなら、前回私が行ったお店を知っているし、何より信頼できる。銀貨をくすねたりなんてしない人だ。一応残り少ない粉薬の一部をロジェに渡して、これと同じ薬を処方してもらってきてほしいとお願いした。
本当は私が街へ行ければ全部が手っ取り早いのだが、せっかく母が回復しつつあるのに、それをほっぽりだしたくなかった。単純に、起きている母ともっとずっといたいという甘えた根性なのであった。……ご、ごめんね、ロジェもガスパルも……。つ、次の機会には、きっと行くから……!
放っておくと家事だけじゃなくて家の周りの土いじりをしようとする母に、無理は絶対にしないこと、と釘を刺して、私は朝早くに家を出た。無理するなと毎日口を酸っぱくして言っているのに、私が帰宅する頃、母は外に出て何やら土いじりをしているのだ。
本人曰く、ずっとやれていなかったから感覚を取り戻したいのと、気分転換のためにやっている、のだというのだが、朝夕はすっかり肌寒くなってくるこの季節。薄着で外に出ているところを見るに、昼過ぎからずっと外にいたのだろうというのは見て分かる。
私は毎日のようにぷりぷりと怒りながら、母と一緒に夕食の支度をするのがほとんど日課になっていた。これではどっちが親で、どっちが子供か分からないね、と母が笑っていたが、笑い事ではない。その言葉でより一層私が母に怒るのだが、母は私に怒られても、なんだか嬉しそうにするばかりで、あまり響いているようには見えないのが悔しかった。
収穫祭や狩りの日は特に問題なく終わった。特に収穫祭は、今度こそ私は並び順も間違えずに後ろの方に並んだので、前の方がどうなっているのかよく見えなかった。遠くからユベールやリュカっぽい人の横顔を見たような気もする。
本当はユベールにこの間の街でのお礼を言いがてら挨拶したかったのだが、ここで出しゃばってまた悪目立ちして面倒なことになるのは嫌だ。私が大人しく母と手を繋いで後ろの方に立っていると、向こうからも私の姿は見つけられなかったらしく、特に何もなく収穫祭は終わっていった。
その後の、ある日の朝。
収穫を終えて一度サロメの家に戻ったのだが、なんだか変な感じだった。というのも、いつもは農場の方に何人もの大人が作業をしている姿が見えるのだが、今日はまばらだ。去年もきっと同じ光景だっただろうが、あんまり記憶にない。自分にそれほど余裕がなかったからかもしれない。まじまじと農場の方を見ていると、サロメが不思議そうに私を見た。
「どうしたの?」
「いや、人が少ないなって思って。みんな街に行ったんだよね?」
そういえば、ダミアンおじさんも見かけていない。サーラおばさんは今朝会ったので、街へ行ってないのは知っている。となってくると、サロメ家の出稼ぎ部隊はダミアンおじさんなのか。
「男手がみんな行っちゃうと、それはそれで大変なのよね」
サロメが仕方なさそうに肩を竦めた。基本的に街へ出稼ぎに行くのは男性らしい。そういえば、そういう話を以前聞いた気もする。もう一度農場を見渡すと、そこには女の人ばかりが作業しているのが見えた。
「かあさん、たいへんだっていってたよ」
相変わらずサロメにくっついているリアムがぼそぼそと言った。喋ってばかりはいられないと、私たちは荷物を持って井戸へと移動する。今日はタイミングが合わないのか、はたまたどの職場も人手が足りずに忙しいのか、マルタンたちは来なかった。
「いつもは作業の方は父さんが見ててくれるし、収穫量や人間関係については母さんが見張ってるし、それでうまくいってたみたいなんだけど。父さんがいない間は、母さんが一人でやらなきゃいけないじゃない? だから母さんもてんてこまいみたいなの」
井戸水が堪える季節になってきた。ひんやりと冷たい水が身体の芯を冷やすようで、私はぐっと奥歯を噛み締めて我慢しながらも、水を溜めた桶の中でごしごしと野菜の泥を落とした。
「でも、男手はみんな街に行ったんだよね? だったら見てなきゃいけない人の人数も減ってると思うんだけど……いや、だからといって楽になるわけじゃないか」
人手は減ったが、農地が減っているわけではない。休ませている農地はそのままでもいいが、単純に農地に対して作業員が足りていないのだ。毎日と同じ作業をするのは不可能なので、せめて水やりなどの欠かしてはならないことだけをやるのだろう。その指揮官を担うおばさんは大変だろうな、とぼんやり想像した。
「そうなの。みんながすんなり言うことを聞いてくれる人ばかりならいいんだけどね。目を離すと勝手にサボったり、やらなくていいところに水やりしに行ったり、指示と違うことをしたり……そういうのがあるみたいで」
軍師のように、地図を開いてここはお前、ここはお前、と指示しているおばさんの姿を想像していたが、私はすぐさまその想像をかき消した。サロメの言葉によって、塀の外に出た動物を、塀の中に追い込むように追いかけるおばさんの姿が頭の中に浮かんできて、なんだか同情してしまった。
「なかなか大変なんだね、おばさんも」
……男手が出て行ったってことは、女の人は村に残ってるってことだよね? ってなると、私らを虐めたいじめっ子お姉さんたちも残ってるってことだよね? 隙を見つけてはサボろうとする彼女らをどうにか動かして仕事をさせなくてはいけないおばさんの気苦労を考えると、なんだか同情だけじゃなく、肩でも揉んであげたい気持ちになった。
「レノ」
遠い目をして薄っすら笑っていると、リアムに呼ばれた。顔を上げてそちらを向くと、リアムはいつもハの字にしている眉をキッと吊り上げ、珍しく凛々しい顔をしていた。
「ぼくも、がんばる」
「……うん。一緒に頑張ろうね」
リアムの可愛らしい宣言にほっこり癒された私は、再び気合を入れて冷たい水に負けない心でごしごしと野菜を洗った。
だがすぐに問題は勃発した。
ヒューゴを先頭にした私たちが森から戻ってくると、いつもの分配分を整理しているはずのサロメの家の前が騒がしかった。
なんだなんだ、と私たちが足早にそちらへ向かうと、そこにはサーラおばさんとジョルジュ、そしていじめっ子お姉さんたちがいた。サーラおばさんとジョルジュは疲れた顔をしていて、いじめっ子お姉さんたちは怒った顔をしている。(ちなみに、ジョルジュは今回街へは行かず、貴重な男手として農場を手伝っている)
だが何より驚いたのは、そこにうちの母が居合わせたことである。
一体何が、と私たちは困惑しつつも、声をかける前にいじめっ子お姉さんのうちの一人がが声を荒げた。名前は分からないが、四人の力関係ならなんとなくわかる。おそらくは仲間内でNo,3くらいの発言力のある人だろう。
「いい加減目を覚ましてよ、サーラ! この女とその子供が、この村に悪影響だっていうのは、目に見えて明らかじゃない!」
No,3はビシッと母を指差してそう言い放った。私たちは思わず顔を見合わせた。No,3の言葉を誰も否定しなかったことで、いじめっ子お姉さんたちの勢いは増した。……まあ、単に、そこにいるメンバーが呆気に取られて言葉を失っていただけなのだが。
「その通りよ。ご覧なさい、この女はこんなにも元気なのに、仕事に戻りやしない。変だと思ってたのよね、なかなか病気が治らないって言って、薬が効かないなんて! 自分の娘を街に行かせる理由づくりでもしてたんでしょ?」
「そうよそうよ。子供は行ってはいけないと村の風習で決まってるのに、それを破らせるために仮病までするなんて!」
No,2の発言の後押しをするように、No,4が声を上げた。三人とも、親の仇でも見るような顔で私の母を睨みつけている。No,1だけはゆったりとした笑みを浮かべて、矢面に出ている三人の一歩後ろで成り行きを見守っているようだった。
「……でも、街にはロジェが行ってるんです。確かに子供だけでの街行きは禁止されてますけど、誰かがついてきてくれるなら、大丈夫だって…」
ジョルジュが言った。No,4の発言が引っ掛かったのだろう。彼女たちが私の母を糾弾するのは、まあ分からなくもない。確かに傍から見ていたら、いや元気になったら働けよ、と思うのだろう。
ただ、あの街行きを糾弾するとなると、それは私だけじゃなくて、一緒に行ったロジェやマルタンどころか、サーラの長男でありこの村の次期要になるジョルジュまで批判していることになるのだ。
ジョルジュの苦言によって少し頭が冷えたらしい彼女たちはちらりと仲間内で視線を合わせ、No,2がとりなすように言った。
「そう、問題ないの。そこがずるいところなのよね。私たちに文句をつけられないように、完璧に理由づくりをしてるんだもの」
でも、とNo,2は続けた。
「私たちは騙されないわよ。あなたがどれだけうまくサーラたちを騙せたとしても、私たちはあなたの本音を見逃さない……この村を乗っ取ろうと、そう考えてるんでしょう!?」
「さもなくば、こうしてこの村の人を分断させて、潰そうとしてるのね」
「なんて恐ろしい!」
四人衆は興奮したように、口々に話した。完全になんのこっちゃ、という状態である。サーラおばさんはそれを聞いて、やれやれ、と言わんばかりの表情をしている。ただでさえ旦那がいなくて一人で農地の管理をしなきゃいけないと忙しい時に、こういうのの扱いもしなくてはいけないというのは、とんでもなく疲れるのだろう。ジョルジュも困った顔をして、サーラおばさんといじめっ子お姉さん、そしてうちの母の顔を伺うように見回していた。
「私たち、見たのよ」
No,2が憤然と言った。
「この女はすっかり元気なのよ。朝起きて、昼間にはその辺を散歩して。暇で暇で仕方ないんでしょうね。それで? 夜には? 私たちが汗水垂らして作り上げた大切な食料を我が物顔で食べるのよ。そんなの、ほとんど盗人じゃない。自分がどこぞのお姫様だとでも思ってるんじゃないかしら」
「……でも、マリアンヌさんはつい数日前までずっと寝込んでいたんですよ? 長い間寝込んでた人は身体が鈍って体力が落ちているから、すぐに無理するのは良くないって父さんから聞いたことがあります」
ジョルジュは、これは父さんから聞いたんですが、と話した。以前、狩りの日に大怪我をしてしまった人がいて、一年くらい寝込んだことがあるらしい。その後、無事に回復して狩りには戻ることはできたが、すぐに前と同じように動けるわけではなくて、衰えた力や能力を取り戻すためには相応の努力と時間が必要だったと教えてくれたことがあるらしい。
「だから、マリアンヌさんはもう暫く家で療養して体力をつけて、それからお昼の間だけとかいう形で仕事に戻ってきてもらえればいいと僕は思っています」
そうジョルジュがはっきり言うと、サーラおばさんも、いじめっ子お姉さんたちも少し驚いたようにジョルジュを見た。今まで、ジョルジュが何かをはっきり言ったり、意見を大人に対して述べたりすることはほとんどなかったのだろう。いつも誰かの意見の調整役で、自分が何かを引っ張っていくような発言はほとんどしてこなかった。
そんなジョルジュが今、胸を張って自分の意見を述べている。隣にいるヒューゴがごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
「……ジョルジュの話も分かるけど、それは大怪我して、動けなかった人の話でしょう? この女は単純に仮病でずっとうたたねしていただけなのよ。同じ話になんて、出来ないわ」
No,2が苦し紛れのように言った。その言葉に続け、と言わんばかりに、No,3やNo,4が口々に文句を噴出させる。
「どうせお金は持ってるんでしょう? だったら私たちが食糧の面倒をみなくたっていいじゃない。放っておけばいいのよ、こんな女。以前は何年もそうだったじゃない!」
「っていうか、どうしてレノは街に行けたのよ。あんな子供が街へ行って、一体何をしてたっていうわけ? それこそ、ジョルジュやロジェの脚を引っ張っていたとしか思えないわ。そもそも馬車で送り迎えされていたみたいだけど、それって一体誰のお金だったわけ? もしあれも村のお金で行ってるなら許せないわ! それに、もしそれが自分のお金で行けてるんだったら、それもそれでおかしな話よ!」
「そうよ! そんなお金があるなら、わざわざこんな女のために食料を分配する必要なんて、全然ないわ!」
「その通りよ」
ギャアギャアと文句を垂れていた三人が、その一言で突然黙った。ついにNo,1が矢面に出てきたらしい。三人が一歩下がると同時に、No,1が一歩前に出る。穏やかな笑みを浮かべながらも、その姿は腕を組んで堂々としていた。
「私たちの希望はただひとつ。この女とその娘を、この村から追い出してほしい。それだけよ」
「……なんだって?」
サーラおばさんが呻いた。No,1はにっこりと笑ってもう一度同じ言葉を繰り返した。
「この村から追い出してほしいの……いいえ、それだとサーラに負担があるわね。あなた、出て行きなさいよ。自分の意志で」
No,1はそう言ってうちの母を見た。母は困ったように眉根を下げていた。
「わ、私が働けないのは、申し訳なく思っています。すぐに復帰できるように努力するので、もう少しだけ猶予を、」
「猶予なら十分与えたわ。それでもあなた、仕事に戻らなかったじゃない。あなたの娘だってまだロクに働けないでしょう? この村にとって、あなたたち二人は重荷で、迷惑な存在なのよ」
どうして自分で気付けないのかしら、とNo,1は肩をすくめてため息をついた。
「この村にはこの村のやり方があって、今まで私たちはそうやって代々生きてきたの。だからこの村は今まで廃れることなく続いて来たのよ。……それなのに」
No,1はぎろりと母を睨む。
「あなたたちが来てから、この村では変なことばかりが起こるようになったわ。引っ越して来た者がいたら挨拶の宴が開かれるはずだったのにそれもなかったし、すぐに村のために働くべきなのにあなたは家から出てきやしない。かと思えば突然村の仲間にならせてくださいなんていうように、唐突に私たちの仕事の中に混じってきて。そんなあなたたちのことを迷惑だって思っている人が、この村に何人いると思ってるの?」
母は顔を青ざめさせた。俯いて、すみませんでした、と小さく呟いている。
それでもNo,1は納得がいかないらしく、サーラおばさんと向き合った。
「サーラも気付いているんでしょう、この二人がこの村にいるのは良くないって。悪影響しかないのよ。村の役にも立てない奴らを養う必要なんてどこにもないわ。即刻、追い出すべきよ」
……村の役にも立てない? 悪影響? ふつふつと、私の中に怒りが蓄積されていくのが分かった。これは大人たちの話し合いで、私が出て行っても話がこじれるとしか思えない。だから、私は黙ってここで行方を見守ろうと思っていた。きっと、サロメやジョルジュ、リアムも同じ気持ちだったのだろう。だからここから動かなかったし、話に割って入ろうともしなかった。四人とも、なるべく姿を見られないように物の陰に隠れて、話を盗み聞きしていたのだ。
でも、もう限界だ。
母の青い顔を、このまま黙ってみているわけにはいかない。そもそも、陽も暮れ始めて、周囲は少し冷えつつあるのだ。母をあんなところに突っ立っていさせたら、また体調を崩してしまうかもしれない。いじめっ子四人組が、どうして私たちをそこまで敵視しているのかはなんとなく理解できたのだが、かといってこのまま村を追い出されるのは困る。私は意を決して立ち上がった。
「その話、ちょっと待」
「ふざけんなッ!」




