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第53話 ギルドへの加入

 無事に申請書の受理が終わり、お姉さんが裏方の事務作業をしている間、私たちは三階へと向かった。だが契約書も同じような感じで簡単に受理された。それでいいのか、商業ギルド。そう思わずにはいられないのも仕方ない。

 二階に戻ってくると、もう少し待ってほしいとお姉さんが言ったので、私たちは受付の前にあるソファに座る。階が上がるごとに調度品の質も上がるのか、一階よりかは随分と良い家具がこの階にはあるんだと今頃気付いた。


「あ、そういえばガスパル。さっきの話の続きなんだけど……」


 先ほど尻切れトンボになっていた話題を私は持ち出した。商業ギルドに入る資格のある人間についてだ。ガスパルは待ち時間もあることだしね、と話してくれた。


「レノちゃんの言ってた通り、例えば、今回レノちゃんと一緒に来た連中も、村から荷物を持ってきて、それをお金に変えただろう? だから、彼らにも一応、加入の権利はあるんだ」


 予想通り、ロジェやマルタン、ジョルジュたちにも同じように、ギルドへの加入資格はあるらしい。だが、新規登録となると、加入には審査があり、時間がかかるらしい。だから一階はいつも混みあっているとのこと。


「審査がどれくらいの時間で通るかは、まちまちだからね……例えばこの街で生まれ育った人の素行なら早く情報を集めやすいけど、遠くの村で生まれ育った人だと、どんな人なのか情報を集めるのに時間がかかるだろう? ギルドに加入させたはいいが、それが危険な武器を取り扱う行商人だった、なんてことになれば、大変なことになるからね」


 つまり、ギルドに加入している人は、一定レベル信頼できる人間である、という位置づけになってくる。だからこそ加入には審査がある。その人の人となりはもちろん、商いの内容についての継続性、未来性等々、色々な側面から審査されるとのこと。


「でも、誰かの推薦や、すでに何かしらの実績を持っていると、この審査は随分と通りやすくなるんだ」


 特にこの街のギルドに入っている人との繋がりがあることが重要らしい。ギルドに推薦した推薦人は、推薦した人に対して一定の責任を求められる。変な人を推薦してしまえば、その人が加入後、何か事件を起こした時、一緒にギルド資格をはく奪されるのだという。だから皆、無責任な推薦は行わないらしい。


「……そっか。だから私の申請はすんなり通ったんですね。ガスパルさんのおかげで」


「僕のおかげじゃないよ、君の実力さ」


 そう言ってガスパルは微笑んだが、どう考えてもガスパルのおかげだ。……よくよく考えたら、これ、正しくは全部ガスパルさんの思惑通りになってるんじゃない? 契約書でガスパルの店との繋がりを作らせ、推薦しやすいような状況を作り出していて。


「普通、申請が受理されるまでどれくらいかかるんですか?」


「そうだな……早くて三日から、六日くらいじゃないかな。遅い人だと、十日近くかかる人もいるって話も聞いたことがあるな」


 それも、受理されるというよりかは、可否検討の結果が出るのにその日数がかかるらしい。当日中に受理されて加入できるなんていうケースは、そうそうあるものではないらしい。


「そうなんですね、それはすごく助かりました。明日には村に帰る予定でしたし、次にいつ来れるかの予定もまだ立てられてないので……」


「うん。そう思って、ちゃんと今日中にレノちゃんがギルドバンクルを受け取れるようにしたんだ」


 ガスパルは、ギルドバンクルとは、つまり私が欲していた金庫そのものだということを教えてくれた。そのバンクルを手首につけて、バンクル同士をコツンと合わせるだけで決済が出来てしまう代物らしい。


「な、なんですかその、すごく便利な道具は!?」


 頬を引きつらせて、思わず私は声を上げてしまった。しかもバンクルが盗まれても、生体に反応する機能なので他人には使用不可という、完璧なセキュリティ面も持っているらしい。また、この商業ギルドに来なければ現金をおろすことはできないが、村に戻ってもバンクル同士の決済は可能らしい。要は、デビットカードのようなもので、ギルドにお金を預けている分は決済が可能となる。


「す、すごい、すごすぎる……」


 一体どういう仕組みなんだろう、とギルドバンクルに思いを馳せていると、ガスパルは興奮した私を懐かしむような目で見ていた。


「レノちゃんに大銀貨みたいな大金をそのまま持ち帰らせるわけにはいかないからね。僕にも出来ることはさせてもらったんだ」


 ガスパルは腹黒なのかも、なんていう考えは頭から吹っ飛んだ。なんて良い人なんだろう。私は感激のあまり、ガスパルに思わず抱き着いた。





 そうこうしているうちにお姉さん……リアーナに名前を呼ばれ、私たちは窓口へと戻った。


「申請書類には特に問題もありませんでしたので、レノさんの商業ギルドへの加入手続きは無事に完了しました……ということでおめでとう! こんなにも小さな子の加入手続きなんて、私、初めて請け負ったわ! 書類そのものは大丈夫だと思ったんだけど、それでも本当に大丈夫なのか、ちょっぴりどきどきしちゃった」


 リアーナはそう言って、興奮したように頬を赤らめた。ガスパルもおめでとうレノちゃん! と抱き上げた私を抱きしめてきた。この体勢では全く威厳もクソもないのだが、うれしいものはうれしい。やったー! と私もガスパルの腕の中で小躍りした。


 引き続き、リアーナはギルド加入特典について、かいつまんで説明してくれた。商業ギルドに公式に加入できたことにより、今後はギルドの利用が可能になるとのこと。つまりそれは、例えば商売の相談だったり、資金の相談だったり、街に店を建てる時の土地の相談だったり、そういった相談について色々受け付けているとのことだった。また、契約書の管理・保管・必要に応じてその遂行、といったことも担ってくれているそうだった。


「では、こちらがギルドバンクルになります」


 ……き、きたきたきたーっ! 一番欲しいやつ!

 リアーナに利き腕の反対を出してください、と言われたので、私は左手を出した。その手首に、銀色の輪っかのようなものが嵌められる。思ったより細く、何もつけていないような軽さがある。シルバーの金属でできたシンプルなバンクルに見えるが、触れた部分がひんやりすることもなく、何かが嵌まっているという感覚のみが手首に感じられた。そのうちこれも気にならなくなるだろう。


「バンクルについての説明はさっき僕からレノちゃんに伝えたから、魔力の方の説明をしてあげてくれないかい? 彼女、そっちには全然詳しくないみたいだから」


 ギルドバンクルに興奮して手をかざしたりしていると、頭の上をガスパルの言葉が飛んだ。……はて。今、魔力って言った? 私が怪訝そうにガスパルを見ると、ガスパルはそれにウインクで答えてくれた。


「ギルドバンクルは魔道具なんだけど……それは分かる?」


 リアーナが私の認識を伺うように言った。

 まどうぐ。なんとなく、魔力とか、魔法とかに関係のある道具なのは分かる。超便利なのは魔法関係の道具だからなのかと微妙に納得してしまった。

 私が小難しい顔をしているのを見て、リアーナは子供に教えるように優しく丁寧に話してくれた。いや、事実子供なので、その教え方は間違ってないか。


「魔道具っていうのは、魔法使いの力……魔力を使った道具なの」


「僕の店でオーブンや水道を見ただろう? 早い話が、あれも魔道具のひとつなんだ」


 リアーナの説明に付け加えるようにガスパルが言った。そのおかげで、私はストンと理解した。単なる家電製品が魔道具と言われるとどうしても違和感はあるが、それらには共通するものがある、


「つまり、魔力を定期的に購入して、魔力の入った容器をこれにくっつけなきゃいけないってこと?」


 オーブンと同様に、このギルドバンクルもそうなのだろうか。だが、電池を付けられそうな場所も、電池を内蔵してそうな雰囲気もない。もしかすると、めちゃくちゃ高性能でめちゃくちゃ小さくて長細い電池が埋め込まれてるとか? でもそうなると交換が難しいよね。んー? と私が自分のバンクルをまじまじと見ていると、リアーナは微笑ましそうににこりと笑った。


「発想は合ってるわ。ギルドバンクルは魔道具だから、定期的に魔力を補充させてあげなきゃいけないの。今回は初回だから、特別にここで補充させてあげるわね」


 リアーナは小さな石ころを奥の金庫のようなところから取り出して来た。綺麗な色をした石ころだ。不思議と、ぼんやりと光っているようにも見える。それを私のバンクルにこつんと当てると、まるで本来の石ころに戻ったかのように色をなくした。


「これで終わりよ。こうやって魔力を補充させるの」


 当然のように言われてしまったが、私には疑問が幾つもある。気になってたまらない私は、うずうずと身体を動かしながらリアーナに尋ねた。


「その石はなんですか?」


「これは魔石よ。魔力が溜まった石をそう呼ぶの」


 電池石みたいなものだろう。つまり、あの灯油缶みたいなのを買わなくたって、こういう可愛らしい石ころを買えばよいということか。


「その魔石はどこで買えばいいんですか?」


「基本的にはギルドで取り扱ってるから、一階で買っていく人が多いわね。もちろん、他の店で買ってもいいのよ。ただ、このバンクルの魔力補充に丁度良い大きさで売ってるお店は少ないの。だからギルドを利用する人が圧倒的に多いわね」


「魔石っていう単位で取り扱ってる店は多くないんだ。ほとんどの店が、僕の店で見た形の容器での販売をしているからね。容器ごと買って、持ち帰って、空になったらまた補充しに来るっていうのが普通なんだ。でも、レノちゃんみたいにこの街の外から来る人達には、それこそ不便だろう? だからここでは、バンクルに魔力が充電される程度の魔力だけを売ってるんだ。こうやって窓口で魔力補充してもらったら、魔石はギルドで回収して、また使えるしね」


 ガスパルの補足に、私はなるほど、と頷いた。ギルドの加入やバンクル配布に一円もかからなかったことを不思議に思っていたのだが、他に稼ぐところがあるからこそ、入り口は広く設けているのだろう。こうやってリアーナのような人たちが働いているわけだし、慈善事業でもない限り、必ず費用は発生する。一体何を収入源としてギルドが動いているのかと思ったのだが、魔力で動いているのか。


「魔石は買えないんですか?」


 長い間この街に来れない! とかいう人もいるんじゃないだろうか。私だって、次にここに来られるのがいつになるか分からない。充電がどれくらいの期間持つかもわからないので、ストックは合ったほうが安心だ。電池感覚なら、それこそ持ち歩きたい。そう思ったのだが、ガスパルは首を横に振った。


「買おうと思えば買えるだろうけど、普通、買う人はいないね。魔石に入れた魔力は、特殊な場所に保管しておかないと、日に日に魔力が放散されていってしまってね」


 魔法使いが持っていれば、魔法使いから自然に溢れる魔力を吸って、その魔石はどんどん価値の高いものになっていくらしいけど、とガスパルが言った。


「オーブンにくっついていた容器は、特殊なものから出来ていてね。ああいう特別なものじゃないと、魔力っていうのはどんどん零れ落ちていっちゃうらしい。だからせっかく魔石を何個も買ったとしても、使ってないうちにただの石に戻っちゃうんだ」


「ただの石に戻るってことは、その辺の石に魔力を注いだら、魔石になるってこと?」


「いや。基本的には自然が豊かなところに生まれるらしい。大地の力を吸い取ることで、魔力を溜め込む石に変化するって話を聞いたことがあるなぁ。その溜め込まれた力が全て使われると、石に戻るらしいんだけど……実は『力をすべて使われた魔石』を、僕も見たことはないんだよね」


「溜め込む力さえ失った魔石なんて、聞いたことがないわ。ガスパルの話を全部信じちゃだめよ、レノちゃん。彼ったら、いつも難しいことばっかり言って、現実的な話はなかなかしてくれないのよ」


 リアーナがため息交じりにそう言うと、ガスパルは乾いた笑いを零した。この二人、何かあったな。


 リアーナによると、キラキラしている状態が魔力がある魔石、単なる石ころに見える状態が魔力がない魔石、だそうだ。だから他の石ころに混ぜるとパッと見て分からなくなっちゃうので、管理はきっちりやっているらしい。

 ……川の日にリアムが拾って、私にくれた石。あの石と、この魔石とは、種類が違うのかな。私は自分の首に下げている袋の中身のことを思い出した。リアーナの持っている魔石は、小さくて、石がキラキラしているだけだ。でも、私が持っている方は、どっちかっていうと、見た目が宝石みたいにすごく綺麗。やっぱりこれも魔力に関係する石だったりするのだろうか。

 もし、魔力と関係してたらと思うと、なかなか話題に出すことは、やっぱりできなかった。どこで手に入れたかとか、どうしてずっと黙ってたのかとか聞かれると、困ってしまう。だって、例えば、あの森であの宝石みたいな石が採れるよという話が広がって、採掘場として村の職業が変わってしまうかもしれないし、それを狙って悪い人がやってくるかもしれない。自分の発言で、どれだけ何を変えてしまうかが分からない。

 しかも、あの宝石みたいな石は、拾った時は黄色で、今は深緑の色になってしまっている。これがもし、私の魔力関係での効果だとすると、墓穴を掘る結果になってしまうだろう。

 ……そういえば、魔力ってどれくらいの価値があるんだろう。高価だというイメージだけはあるのだが。そう思って、私は口を開いた。


「魔力っていくらくらいするんですか?」


 私の質問には、ガスパルが答えてくれた。あの灯油缶は魔容器と言うらしい。小魔容器ひとつで銀貨1枚、中魔容器ひとつで大銀貨1枚、大魔容器1つで金貨1枚が必要になるらしい。つまり、どのサイズの魔容器が家に何個あるかでその家がどれだけ裕福かが分かる。それこそ、電灯くらいならば小魔容器ひとつあれば暫く良いらしいが、水道や冷蔵庫に使おうと思えば、それだけ魔力が必要となり、それだけお金が必要になってくるそうだ。……ガスパルさん、やっぱりめっちゃ金持ち?


「さあ、レノちゃん。早速バンクルを使うんだろう?」


 何かもやもやしたものが頭をよぎった瞬間、それをかき消すようにガスパルが声をかけてきた。ハッとした私は、リアーナに早速バンクルを使って、大銀貨を入金したいと話した。


「……本当にガスパルのお得意様なのね」


私が懐から大銀貨を取り出してカウンターに置くと、リアーナの頬が引きつった。ガスパルはそんなリアーナの様子を見て、朗らかに笑った。


「もちろん。僕が見つけた、大切なお得意様さ」

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