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第49話 騎士団はいつでもヒーロー

 開かれたままになっている扉をくぐると、わっと活気ある声のボリュームが上がった。雰囲気は居酒屋のそれと似ているが、もっとオープンな感じがした。それぞれの客で楽しむのではなく、カウンターの隣の席の人や、隣のテーブルの人、少し離れたテーブルの人、みんなが一体化となってワイワイと楽しくやっているのが見えた。楽器を弾いている人、陽気に歌う人、酒を酌み交わす人、大皿を次々と平らげる人。

 私はジョルジュに引かれるまま歩きながらも、みんなの楽しそうな姿を見てなんだか楽しい気持ちになった。やっぱり、飲みニケーションって良いよね! もちろん、そういうのが好きな人同士の飲みニケーションが、という意味だけどね!

 人と人、そしてテーブルとテーブルとの間をすり抜けて、カウンターへとやってきた。若いチャラそうなお兄さんがカウンターに立っていて、私たちを見ると、微笑ましそうな顔になった。


「何をお求めだい?」


 ジョルジュはカウンターに頭が出ているが、私はカウンターに近寄りすぎると全く店員さんの顔が見えなくなってしまう。私はジョルジュの後ろに立つようにして少し距離を取りつつ背伸びして、なんとかカウンターの上の状況を把握しようとした。


「ジュースが欲しいです!」


 ええと、とジョルジュがテンパっているのを見て、私はサッと挙手して声をあげた。しかし当然ながら『ジュース』では伝わらなかったらしく、店員さんはじゅうす? と小首を傾げている。私の言葉を聞いてか、ふっとジョルジュは笑った。その表情が、使命を帯びた面持ちから、心優しい兄の顔へと変わる。


「果実を絞った飲み物が欲しいんですが、どんな味のものがあるんですか?」


「ああ、それね。そうだねぇ、色々取り揃えてるんだけど……どんなのが好みかな?」


「はいっ! わたし、甘いのがいいです!」


 食後のデザート感覚だ。またもやサッと挙手して声をあげると、店員さんは了解、と頷いた。ジョルジュはさっぱりしたものが良いと言って、店員さんはそれに合わせて果実を選んでくれた。

 コップに並々と注いでくれて、カウンターに置く。ジョルジュがお金と交換にそれを受け取って、ひとつを私に手渡してくれた。表面張力に頼ったくらいコップに並々だったので、私はその場でコップに口を付けた。


「レ、レノ! 席に戻ってから飲まないと……!」


 慌てたようにジョルジュが私の行動を窘める。だってそうしないと途中で零しそうだったし、零すくらいならここで運びやすいように量を減らしておくべきだろう。そう反論しようかと思ったのだが、ごくりと飲んだジュースの甘さに、顔がほころぶ。まるで完熟マンゴーのような甘みに、食後のデザートを求めていた私もにっこりだ。


「おいしい!」


「分かった、分かったから、残りは席で飲もうね?」


「うん!」


 店員さんは兄妹を見るような、温かい笑みを浮かべていた。


 ジョルジュは並々と入ったジュースを零さないように、恐る恐る、でも出来るだけ早いスピードで歩いていた。とはいえ、亀並みな速度だったとしか言いようがないだろう。一口飲んじゃえばいいのに、と言ったのだが、生真面目なジョルジュは私の提案を聞き流していた。

 私はそんなジョルジュを先導してあげようと思い、先を歩いた。ジョルジュが遅れてしまわないように配慮してなるべくゆっくり歩いていたのだが、私の注意力がジョルジュと、ジョルジュの持つコップに注がれていたのが悪かった。

 私がテーブルとテーブルの隙間を縫って歩いていると、背を向けていた方に座っていた客が、突然手を振り回したのだ。どうやら話に夢中になって、身振り手振りが大きくなってしまったらしい。その手がコツンと私の手に当たり、意図せぬところから衝撃が来た私の手からコップは離れ、飛んでいく。……その隣、つまり今の私の正面に座る、大男の頭へ。


 バシャン!


 まるで私が男の頭にコップを逆さまにしたかのように、綺麗に男はジュースで水浸しになった。しかも中身は甘ったるいジュースだ。糖分で当然ネチャっとする感じだ。


「な、何しやがるッ!?」


 男が怒り狂った目で私を見た。私は頭が真っ白になりつつも、なんてことを、と後ろを振り返った。だが私に手をぶつけたヤツは、テーブルの仲間と立ち上がり、ワイワイしながら退店していくところだった。なんてこった。

 大男は、私がそうやって巨悪の根源を確認するために顔をそむけたのが気に入らなかったらしく、勢いよく立ち上がった。ガチャン! と食器のぶつかる音が聞こえる。


「このチビ! いい度胸してんじゃねェか……!」


 身体が宙に上がった。大男が私の襟首を掴み、持ち上げている。大男の凶悪の面構えが目の前にドアップで映り、私はあわあわと頭を下げた。


「ご、ごめんなさい! そんなつもりはなかったんです、不慮の事故というか、」


「うるせえ! 俺にこんなモンひっかけるたぁ、いい度胸だ! 一体誰の差し金だ、アアン!?」


 この大男、この辺で有名なワルの一人らしい。そのため、私がやった行為は、誰かからの宣戦布告、もしくは開戦宣言くらいの感じで解釈されてしまった。もちろん、私にそんなつもりは全くない。誤解としか言いようがない。だが、私の謝罪や説明を聞き入れる様子もなく、大男はギラリと瞳を怒りに燃やして、周囲を見渡した。

 一瞬だけシンとしていた室内は、すぐにまた盛り上がりを見せていた。自分とは関係ないから飲みなおす者、こちらにヤジを飛ばす者。嬢ちゃんが可哀想だぞー! いいぞーやっちまえー! などと、適当な言葉が行きかっていた。

 ちらりと下を見ると、ジョルジュが真っ青な顔でこちらを見ていた。


「おいチビ! お前に指示したヤツは誰だって聞いてんだよ! さっさと答えやがれ!」


「す、すみません、本当に私の不注意でひっかけちゃったんです。私が全面的に悪いんです、ごめんなさい。クリーニング代出したら許してくれますか?」


「わけわかんねえこと言ってんじゃねえぞ! このガキャぁ、庇い立てするつもりか!?」


「いや庇うも何も悪いのは私で……」


「分かった、よぉっく分かった。てめえの覚悟はよ……だったらお前にこの代償、払ってもらなきゃなァ?!」


「はい、あの、だからクリーニング代を……」


「お前が幾ら貰ったかは知らねえが、後でお前の主人に伝えとけ! 俺が女子供にも手を挙げねえと思ってんなら、そりゃあ甘すぎる考えだってなァ!」


 話が通じないんですが。


「ご、誤解です! これは私の不注意で、」


「アァ? 随分と庇うじゃねぇか……まあいいだろう。だったら余計にお仕置きが必要だなァ、嬢ちゃん?」


 凶悪面な男と向き合う私の足の下を、ジョルジュが走り去っていくのが見えた。コップからジュースが零れているが、それに構うことなく、テラス席の方へと駆けていく。ここにいても巻き込まれるだけなので、自分から安全地帯に行ってくれたことは私にとって有難い行動だった。


「あの、弁償しますから、この場はおさめてくれませんか?」


 クリーニング代っていくらくらいだろう? 食事代と合わせても、大銅貨一枚渡せばこの人も黙るんじゃないかな? そう考えつつ、冷静に答えると、その態度がまた気に入らなかったらしく、大男はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「金で解決しようたぁ、良い判断だ……だがな! お前の躾が先だ! 悪いことをしたらどうなるか、きちんと学ばせねぇとな……!」


 大男の空いている方の拳が握られた。え、待って、殴るつもりなの!? 真っ青になってもがいたが、襟首を掴まれていてはどうしようもない。そのうえ、この体格差だ。私が手足を伸ばしても、相手の身体に到達することはなかった。私が焦っている姿を見れるのが楽しいのか、大男はニヤニヤと笑っている。


「歯ァ、食いしばれよ、嬢ちゃん……!」


 嘘でしょこんなか弱い幼女に暴力働くの!? てかヤジ飛ばすだけで誰も助けてくれないわけ!? この世に救いは無かった!! 私は覚悟して、奥歯を噛み締めて身を強張らせ、細い腕でなんとか自分をかばおうと、両手で顔を覆った。



「……子供相手に、何してんだ」



「い、いでででで!!」


 ぎゅっと瞑った瞼の向こう側で、低い声がした。と思えば、襟首を掴まれている感覚がなくなり、今度はお腹と足に大きな手が添えられて、誰かに抱きかかえられた感覚があった。大きくて、しなやかな腕。もたれがいのある胸板。それになぜか、安心できるような、懐かしいような感覚に陥った。

 不思議に思って目を開くと、最初に飛び込んできたのは、先ほどの大男の腕を、真っ黒な服を着た、さらに大きな男が捻りあげている光景だった。私を殴ろうとした男はマッチョで大柄だったのだが、黒服の男はそれよりも一回り以上大きかった。きっと、私が普通に地面に立っていたら、まるで巨人のようなサイズ感に感じられただろう。身長も二メートルくらいはあるんじゃないだろうか。


「嬢ちゃん、ケガはないか?」


 ぽかん、とその様子を見ていると、後ろからぽんぽんとあやすように背中を撫でられた。聞き覚えのあるその声にハッとして振り返ると、そこには釣り目の青い瞳をまんまるにした、ユベールがいた。


「ユベールさん?」


「レノちゃん?」


 きょとんとしているユベールの顔は面白かったが、きっとユベールから見れば、私の顔も同じように間の抜けた顔をしているのだろう。唖然とした様子でお互いにお互いをまじまじと見ていたが、やがて我に返り、ユベールは眉根を下げて笑った。


「まーた厄介ごとに巻き込まれてたのか?」


 そのからかうような口調に、私はムッと頬を膨らませた。


「ち、違います! たまたま肘が当たって、その衝撃で飲み物がすっ飛んで、あの人にぶちまけちゃって、謝ったんだけど許してくれなくて……」


「レノちゃんは面倒ごとに巻き込まれるだけじゃなくて、自分発信でも面倒ごとを起こす才能があるんだな……」


「ちょっと!」


「……ユベール、終わったぞ」


 ユベールの軽口に私が胸板を叩いていると、低い声が聞こえた。先ほどの二メートル男がすぐそばに立っていた。二メートル男の後ろでは、先ほどの暴力(未遂)男が他の黒服に店外へと連れ出されているところだった。


「そっか。お疲れ、ランメルト」


 ランメルト、と呼ばれた男はユベールの言葉を聞き流しているのか、その視線は私に注がれていた。私も初対面であるランメルトを観察していたので、ばっちりと目が合う。ユベールに抱きかかえられていても、私はランメルトをしっかりと見上げる必要があった。その顔は無表情で、とにかく顔が怖い。薄緑の目は私を映していた。


「……知り合いか?」


「ああ。ちょっとな。で、レノちゃん。怪我は?」


「無いです。寸前で、ランメルトさんが助けてくださったので……あの、ありがとうございました」


 抱きかかえられた状態だが、お礼は早い方が良いだろう。私はぺこりと頭を下げてお礼を言った。ランメルトの表情は変わることなく、無表情のままじっと私を見ている。


「怪我がないなら良い。それに、これは俺の仕事だ」


 礼を言われる筋合いはない、と言わんばかりにランメルトはそう言って、スイと視線を店内に移した。それを見て、ユベールは苦笑混じりに言った。


「悪いな、ランメルトは悪いヤツじゃないんだが、どうも愛想が無くてな」


「気にしてないですよ。それより、どうしてユベールさんはここにいるんですか?」


 普段、騎士団って何してるんだ? 収穫祭などで各地の農村に派遣されているようなイメージはあるが、それ以外のシーズンを、ずっと暇を持て余しているわけでもあるまい。単純な疑問をユベールに投げかけると、ユベールは店内を見渡しながら言った。


「見回りさ。ここは領主様のお膝元だが、同時に栄えた街だから外部からの出入りが多い。放っておけば、どうしたって治安は悪化していく……だから俺たち騎士団が、順番に毎日見回ってるってこった」


 街の治安維持活動も騎士団の仕事なのか。私は頭の中で、騎士団はほとんど警察組織なのね、と呟きつつ、ユベールの視線を追うようにして店内を見渡した。店内のわりと真ん中のあたりで騒動を起こした私たちを避けるようにして客たちは座り直したらしく、少しだけしらけてしまった空気をかき消すように飲み直しをしているようだった。次第に店内が先ほどまでの活気を取り戻し始めていく。


「さっきのような男は、潰しても潰しても必ず次が出てきやがる。俺たちがああやって見つけ次第退治はしているんだが、キリがなくてな。レノちゃんもこの街を出歩くときは、気を付けるんだぞ」


「はぁい」


「ったく、返事はいいんだが……っと。レノちゃん、一人で来たわけじゃねえよな? 連れはどこにいるんだ? ……というか、そもそもこんなところに、一体何しに来たんだ?」


 今度は私が質問を投げかけられる番だった。私は素直に、母が病気になったので薬を買いに来たこと、お金がないのでついでに稼ぎにきたことを伝えた。ついでにユベールから何か情報を得られないかと母の病状を話そうとしたとき、ふと視界にロジェの顔が見えた。テラス席からこちらに向かって歩いてきている。その足元には、ビクついた様子のジョルジュもいる。

 ユベールは見回りだと言っていたし、これ以上ここに拘束するのも悪いだろう。ああやって、現に理不尽に暴力を振るったりする、悪い人がこの街に潜んでいるとするならば、ぜひとも騎士団には一層のご活躍を期待したいところだ。私がロジェの顔を見ている姿に気付いたのか、ユベールは私を地面に下ろしてくれた。


「あの、ユベールさん」


 しゃがんで私を地面に置いてくれたついでに、私はユベールの腕を掴んだ。立ち上がろうとしていたユベールがもう一度しゃがんでくれる。


「どうした?」


「……その、あれから、大丈夫でしたか?」


 あの日。魔獣に襲われた私を助けてくれた日。ユベールはあの腕輪がなくなって、何かマズいことになっていたはずだ。リュカに厳しい口調で忘れろと言われた気もするが、ここにあの厳しそうなリュカはいない。とっつきやすいユベールだけにこっそり声をかけるくらいなら、誰からも叱られることはないだろう。地味に気になっていたのだから、私としてもあれからどうなったのか聞いてすっきりしておきたい。

 そう思って尋ねると、ユベールはきょとんとした後、まるで妹をあやすような優しい笑みで、私の頭を撫でた。


「……心配させちまって悪かったな」


「ちゃんとアレ、見つかったんですか?」


「………ああ、見つかった」


 そう言ったユベールの腕には、銀色の腕輪がついていた。どうやら嘘ではないようだ。私はほっとして、にこりと笑った。


「それなら良かった、私を助けてくれたのに、私のせいでユベールさんの立場が悪くなってたらどうしようって心配してたんです」


「ありがとな、レノちゃん」


 最後にくしゃっと私の髪の毛を乱して、ユベールは立ち上がった。こういう小さい悪戯がなければ良い人なんだけど、と内心イラっとしながら私は髪を手櫛で整えた。


 そうこうしているうちに、ロジェが私たちのところまでやってきていた。もちろん、その背中に隠れるようにして、ジョルジュの姿もあった。


「レノちゃん、……」


 ロジェが恐る恐る、といった様子で言った。その視線は私に向けられていたが、ちらちらと私の後ろにいるユベールやランメルトにも注がれている。よくよく見ると、ロジェもジョルジュも顔色が悪い。緊張したように表情が強張っている。


「一体、何があったんだ? ジョルジュからは、レノちゃんが大男に捕まって殴られそうになってるって聞いたんだが……」


 ロジェがそう言って、ジョルジュがコクコクと頷く。自分がロジェのところに報告に行った時の状況と、今の状況があまりに違っているからか、ジョルジュは僕は嘘はついてないよ! と必死な顔をしていた。


「どうして、その、騎士団の方々が……? レノちゃん、一体、何をしたんだ……?」


 その怯えたような声に、やっとわかった。ロジェやジョルジュは状況把握が出来なくてビクついているわけではなく、ユベールとランメルトに怯えているのだと。確か、騎士団員は魔法使いで、魔法使いは奴隷で、でも騎士団員はその中でも特別待遇で、領主様直属だから、かなり強い権力を持っているんだよね……? 魔法使いの権力者って、最強に聞こえるんですが。

 私はくるりと振り返って、ユベールとランメルトを見た。こういう態度を取られるのは慣れているのか、涼しい顔でその畏怖の視線を受け止めている。だが、私としては不本意だ。私は危ないところを助けてもらったのだから、感謝すれど怯えるひつようなど何もない。ランメルトがどんな人かは知らないが、少なくともユベールは気の良いお兄ちゃんという感じだし。


「ロジェ、ジョルジュ。ジョルジュの言う通り、わたしはあの男に殴られかけてて、そこをユベールさんとランメルトさんに助けてもらったんだよ。お二人とも、危ないところを助けてくださって、本当にありがとうございました」


 改めて二人にお礼を告げる。ユベールは抱き上げてくれてただけだが、ランメルトはその腕力を持ってきっちり助けてくれたのだ。例え、ランメルトの顔を見るためには数歩下がって目いっぱい首を上に上げなきゃいけないとしても、ランメルトには深く深く感謝しているのだ。

 ランメルトは私の言葉を受けても無表情でちらりとこちらに視線を送っただけだったが、ユベールはニカッと太陽のように笑った。


「ま、これからはもっと気を付けることだな。もう面倒ごとに巻き込まれるんじゃねーぞ? ……ああ、面倒ごとを、起こすんじゃねーぞ?」


「ちょっと! 起こしたくて起きてるわけじゃないんですけど!」


「結果が全てだろ、起きる前に対処しろってこった」


 ユベールに、おでこを人差し指でつつかれる。慌てて私がおでこを隠してぎろりと睨み上げると、ユベールは楽しそうにカラカラと笑った。


「んじゃ、俺たちは仕事に戻るとするか。行くぞ、ランメルト」


 楽しそうに笑ったまま、ユベールはランメルトを従えて店から出て行った。

 ロジェたちの方へと振り返ると、二人はいまだに少し青い顔をして、茫然とユベールたちの出て行った扉の方を見ている。私はそんなロジェの手を取って、にっこり笑った。


「ねえねえロジェ。わたし、新しい飲み物が欲しいな」


「あ、ああ、そうか……」


 考えがまとまってないロジェに銅貨を貰い、私は無事に新しいジュースをゲットした。




 席に戻り、心配顔のマルタンにも事情を話した。マルタンは私に怪我がないことを確認して、ほっと胸を撫でおろしていた。


「ねえ、レノ。もしかして、あの人って……この間、魔獣から君を助けた人……?」


 まだ顔色がよくないジョルジュが言った。私がそうだよ、と頷くと、ロジェが深くため息をついた。


「相手は領主様直属の騎士団隊隊員なんだ。レノちゃん、失礼のないようにだけは気を付けないといけないよ」


「うん、気を付けるよ」


 といっても、何を気を付けたらいいのだろうか。普通に相手を尊重する態度を取るのは、対人関係において騎士団だからとか、貧民だからとか、そういうの関係なく当たり前の話だろう。助けてもらったとはいえ抱き上げてもらったまま冗談言い合って胸板をぺちぺち叩くのは失礼に当たるのだろうか?

 まあ、ユベールが失礼だ! と思わなければ問題ないだろう。思ってもなさそうだったし。あの時は周りの目があったわけでもないし。……ランメルトはいたけど。


「それにしても、レノちゃんがいると気が休まる時がないな……マルタンの言っていたことを、やっと理解したような気がするよ」


 ロジェが疲れたように頭を抱え、すっかりぬるくなってしまったビールをちびちび飲んでいた。酔いも吹っ飛んでしまったらしい。そんなロジェの言葉に、マルタンは疲れたように笑っていた。




 食事を終え、お腹いっぱいになった私たちは宿へと戻ってきた。

 この日は疲れていたので、皆、部屋に戻ってくるとさっさと布団に潜り込んでいた。私もさっさと潜り込みたかったが、どうしても日課である歯磨きや身体の清めをせずに眠ることに抵抗感があった。かといって、誰かに手伝ってもらうわけにもいかない。当然部屋の中にシャワールームがあるわけではないし、水道もない。となると、外から水を汲んでこなければいけないということで。

 私は仕方なく歯磨きだけして、ベッドに上がった。すでにジョルジュとマルタンは眠っている。私も大きなあくびをしながら、ランプの火を消して、タオルケットのような薄手のかけ布団をお腹にかけて横になった。


 母以外と眠るのはこの人生では初めてだったので、気になって眠れないかと思ったのだが、思いのほか身体は疲れていたらしい。吸い込まれるように、私は夢の世界へと飛び立った。に、私は夢の世界へと飛び立った。


遅くなりましたが、評価・ブクマありがとうございました!

一章の後半戦にさしかかってきました。

スロースターターなシナリオなので、

そろそろ色々なものが軌道に乗るようになります!……多分。

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