第4話 森に到着
小一時間ほど歩くと、やっと森の入り口に到着した。だいぶへとへとだが、これからもう一仕事あるのだ。頑張らねば、と気合いを入れていると、サロメがにこりと笑って言った。
「まずは休憩にしましょ」
サロメに教えてもらった赤い小さな実や、手のひらサイズの黄色い果実を木からもぎって、水辺に近いところにある樹の根に座った。腰を下ろすと、どっと疲労感が出てきた。私の隣にサロメが座り、その隣にリアムが座る。向かい側にジョルジュが座った。なぜかヒューゴだけは少し離れたところに一人で立っている。
「まずはこっちから食べましょう。こうやって皮を剥くの」
薄い皮を剥くと、中から果汁が滴ってきた。がぷりとかぶりつくと、ほんのり甘く、水分たっぷりな琵琶のような味がした。疲れた体に程よい糖分だ。美味しくて、思わず頬がゆるむ。それを見たサロメは嬉しそうに微笑んで、先ほどお手本で剥いた果実をリアムにあーんしてあげていた。
こんな小さいの一個じゃ……と思っていたが、よく考えれば私の身体のサイズも子供サイズになっているのだ。一つ食べるだけで、空腹感がなくなり、そこそこ満足することができた。
「果実を採るのは今日だけ? 毎日やるの?」
自分の分を食べ始めたサロメに尋ねると、サロメはもぐもぐしながら答えてくれた。
「毎日じゃないわ。今日から何日かは果実採りの日。それで、そのあとは狩りの日が続くの。狩りの日の後は処理が色々あるから、それが中心になって、それが落ち着いたら次は山菜の日になるの。そのあとが果実採りの日。季節によってはそればっかりでもないけど……今はとりあえず、そういう予定になっているわ。もう少し季節が進んだら、川の日もあるわよ」
「川の日?」
「川に魚がたくさんいるようになるの。今はまだ、子供がたくさんいるから、採っちゃダメ。この次の季節ならいいって、母さんが」
「その予定を決めてるのは、おばさんなの?」
「うーん……たぶん、ずーっと前から、そうなんだと思う。母さんの母さんの母さんの、ずーっと前の母さんの時から、ずーっと。だから、様子を見て時期を選んだりはするけど、母さんはたぶん、自分が自分の母さんに言われた通りにやってきてるんだと思うよ」
代々この辺りを治めてきたのはサロメの家で間違いないらしい。女系一家なのかと思ったが、サロメの言葉の綾なのだろう。少なくとも、今回の跡取りはジョルジュらしいわけだし。
「拾った果実とか、山菜とか、狩ったお肉とか、そういうのは全部みんなのものなんだ。だから今日採ったのも、みんなに配って回る。山のものは、みんなのものだからね」
サロメの話を聞いていたジョルジュが付け加えるように言った。みんなって誰だろうと思いつつ、今朝おばさんが言っていた、農地を手伝ってくれてる親戚筋というところなのかなと当たりをつけた。
会話がひと段落したので、手のひらで持て余していた赤い実を口の中に放り込んだ。これはどんな味がするんだろう? 木苺のような甘酸っぱさを期待しながら奥歯ですり潰すように噛み締めた途端、わたしは全身を強張らせた。こ、これ、め、めちゃくちゃ酸っぱい!?
「………!!?」
「すごい味でしょ? でも、これを食べると、すぐに元気になるのよ! 疲れた時にはこれが一番なの。熱が出たときも、お腹を壊した時も、疲れて歩けなくなったときも、いっつもこれで、ぜーんぶ治るのよ!」
そんなバカな。サロメが自慢げにそういうのを聞いて、私は内心疑った。そんな便利な食べ物があれば、すでに薬の原料として超高価でやり取りされているだろう。こんな気軽に食べられるものでもないはずだ。レモンの五倍くらいの酸っぱさに顔をしかめながらそう考えていたが、みるみるうちに、足の疲れを感じなくなっていった。それどころか、全身がぽかぽかしている。力がみなぎるような感覚に、私は唖然とした。
「サロメ、なんだか変だよ。元気になっちゃった」
茫然とそう呟くと、サロメはくすくす笑った。
「当然よ。そういう食べ物だって言ったでしょう? これでもう一仕事出来るわね!」
「ねえ、なんだか身体がぽかぽかするんだけど、サロメもする? 食べるとそうなるの?」
ぽかぽか、と表現してみたが、本当はどう表せばいいのか分からなかった。酸っぱさが落ち着いてきた頃には、全身に力がみなぎっているような、血流がめちゃくちゃよくなりすぎているような、そんな感覚があった。身体中に血液がみなぎり、ドクドクと音を立てているようだった。……これ、やばいクスリみたいな効果があったりしないよね?
「ぽかぽか?うーん、私はしないけれど……」
サロメが困惑したように言った。どうやらこんな状態になるのは私だけらしい。他の三人も疲労回復はするが、発熱したような状態になることはないと言っていた。まあ、変な感じはするが、元気が百倍になったことには変わりはないので、良しとしよう。
心配をかけたくないので、私はこれ以上それについて言及することはなく、気を取り直してみんなで果実の収穫を始めた。
木登りは男の子の役目らしい。ヒューゴやジョルジュが猿のようにするすると木に登っていき、枝まで移動していろんな果実を背中の籠へと放り投げていた。私も同じことをしようとしたらサロメに全力で止められ、私とリアムとサロメは、三人で木の実を拾ったり、先ほど食べた回復用の赤い実を背の低い茂みから採取したりした。あっという間にヒューゴとジョルジュは籠をいっぱいにしたので、私たちの籠と交換して、またその籠の中身もいっぱいにしてもらった。
みんなの籠がある程度いっぱいになったので、そろそろ家へ戻る頃合いだ。思ったよりずっしりと感じる背中の重みに、これは回復用の赤い実を森に来るたび数個必要になるな、なんて考えていると、ジョルジュが先頭になって歩き始めた。
「あれ? サロメお姉ちゃん、帰らないの? こっち、帰り道じゃないよね?」
地理感覚があるわけではないが、山を降りているような感覚がなかったため、不思議に思った私は後ろを歩いているサロメに声をかけた。ちなみに、ジョルジュが先頭を歩き、その後ろをヒューゴ、私、リアム、サロメの順番で歩いている。リアムが心配そうな顔で、私と一緒にサロメを振り返った。私とリアムが同じような不安そうな顔をしていたのだろう、サロメは面白そうに少しだけ笑った。
「私、まだ帰るなんて言ってないよ? 今日はこれから向かうところが、一番大事なところなんだから」
含みを持たせた言葉に、私は首を傾げた。どういう意味なのかと聞いても、サロメはニヤニヤ笑うばかりで教えてくれそうにはなかった。まあ着けばわかるか、と私は気を取り直して、山道を歩くことに集中した。
「着いたよ」
ジョルジュが言った。そこは、先ほどまで生い茂っていた木々から抜け出したように開けていて、中心に一本の大きな樹がどっしりと構えていた。樹齢何百年だ? というレベルで太い幹。この幹の太さ、私が十人分くらいじゃないだろうか。
「すごい、大きな樹!」
はしゃいで側に駆け寄りながら、大きく手を広げたような枝に目を向けた。赤い実がなっている。これも食べ物だろうか? これを採りにきたのかもしれない。リンゴくらいのサイズで、ところどころにはまだ小さい青い実もちらほら見える。熟すとリンゴサイズまで成長して、赤色になるのだろう。
「これはヌーロの木っていうんだ。この村で一番大事な木だ」
ジョルジュはそう言って、籠を一度地面におろした。みんなもそうしたので、私もみんなに倣って一度おろす。背中に羽が生えたように身体が軽くなったような気がした。
「どうして一番大事なの?」
御神木みたいなものだろうか? そう思って尋ねると、隣に立ったサロメが話してくれた。
「あの赤い実が、ヌーロっていうの。ヌーロが生るから、ヌーロの木。ヌーロは私たちにとって一番のご馳走の中の一つなんだよ。すごく美味しいんだけど、放っておくと、リモロが全部食べちゃうから、こうやってたまに来て、リモロをやっつけるの」
リモロってなんだ。サロメの視線を追うと、そこではジョルジュとヒューゴが、何やらヌーロの木の幹にくっついたものを取っていた。なんだろうと目を凝らしながら少し近寄って、それが何かに気付き、ひっと小さく声を上げてしまった。リモロというのは、どうやら青虫の名前らしい。サロメによれば、この青虫は放っておくとヌーロだけでなく、ヌーロの木自体を食べ始めてしまう害虫らしく、定期的に駆除しなくてはならないらしい。
だが、ヌーロにとって害虫とはいえ、意外とその活用方法もあるらしい。この青虫を潰すとかなり粘り気のある液体が出るらしく、その液体で壊れた家具を修理することもあるらしい。そのうえ、リモロを油でさっと揚げれば、外はサクサク、中はねっとりとした美味しいおかずになるとのこと。
「油はとっても高いから、揚げ物をするほどの量は、なかなか手に入らないの。だから、リモロは意外にご馳走のひとつなのよ。滅多に食べられないんだから。私だって、まだ四回しか食べたことないの」
そんなの一生食べられなくていいよ! 青虫がカラッと素揚げされて夕食に並んでいる様子を思い浮かべて、私は顔を青くした。もしうちがお金持ちだったら、あの青虫をご馳走として食べさせられるところだったんだ。貧乏でよかった、なんて。生まれて初めて思うのであった。
「おい」
リモロを取り終わった後、木登りをして何個かヌーロを採っていたヒューゴが、いつの間にか地面に降りてきていた。そして、私にヌーロをぶっきらぼうに差し出した。すっかり熟しているようで、真っ赤に熟れた果実は太陽の光を浴びて、キラキラと光っていた。
「これはお前のだ」
「え? わたしの?」
てっきり帰ってから分配なのだと思っていたが、ジョルジュもヒューゴも乱獲するわけじゃなくて、二人合わせても六個しかもぎっていなかった。ヌーロは貴重品みたいだ。六個では各家庭に人数分配布することはできないだろう。もしかして、帰ったら半分サイズに切り分けられての分配予定だったのかもしれない。それで、ヒューゴは私に一個丸ごとあげるという融通を効かせてくれたってわけかな?
「ありがとう、ヒューゴ」
私はにこりと笑ってそう言って、受け取ったヌーロを籠に入れようとした。するとヒューゴは慌てたように私の手を掴んだ。
「なあに?」
「ち、違う! お前、そうじゃないだろ!」
「なにが?」
……くれたわけじゃないってこと? わけがわからなくて、じゃあ返せばいいの? と差し出すと、ヒューゴは混乱したように困った顔をした。そのやりとりを見て、サロメは悪戯っぽく笑った。
「ヒューゴ。ダメよ。レノは何も知らないんだから。リアムは小さい頃から私たちと一緒にいたけど、レノは今日、初めて外に出たのよ? ちゃんと一から教えてあげなきゃ」
「……し、仕方ねーな。今日は特別だからな。俺、そういう面倒なの、もう絶対やらねーから……」
ぼそぼそとヒューゴが呟いて、少し顔を赤らめた。一体なんだろう。私はヒューゴから何を言われるのか首を傾げて待った。
「お前がそれを食うんだ。まずはがぶっといけ。一口だ」
「食べていいの? これ、大事なものじゃないの?」
「いいから。さっさと食べろ!」
皮は剥くのかと尋ねると、いいから食べろ! とヒューゴが怒鳴った。ちらりとサロメを伺うと、サロメは笑ったまま頷いたので、私はボロ布ではあるが一応服の袖でヌーロを擦ってから、かぷりと一口かじりついた。
思ったより、皮が薄い。ぷつりと張りつめた薄い皮が破れ、内側からじゅわりとあふれ出る果汁と共に、口いっぱいに芳醇な果実の香りが広がった。まるで、桃だ。味は桃で、見た目はリンゴで、触感は洋梨に似ている。熟しているからか、先ほど食べた琵琶みたいなのと比べれると全く違うほどの強い甘みを感じて、私は思わず頬をほころばせた。
「おいしい!」
心の底からそう思った。思わずその言葉を漏らすと、ヒューゴは安心したように笑った。
「馬鹿だな、レノムシは。ほら、べたべただぞ」
ヒューゴはそう言って、私の口元を自分の服の袖で拭った。拭われて、初めて気付いた。果汁が真っ赤だったのだ。手に持っている、かじりついたヌーロを見ると、どうやら皮だけでなく、中身まで真っ赤だった。これ、口の中まで真っ赤になってたりしないよね? っていうか、普通に果汁を服にこぼしちゃったんだけど、……水洗いで落ちるよね?
「レノムシ。それ、こっちに渡せ」
そう言ってヒューゴは、私の手からヌーロを取り上げた。と思えば、ヒューゴは私が食べたところと同じところにかぶりついた。あ、全部くれるわけじゃなかったんだ? 一個丸々食べたら晩御飯が食べられなくならないだろうかと思っていたので、ちょっと安心した。
「なんだ、レノムシ。全部食べたかったのか? ばーか、レノムシには早えーよ!」
もぐもぐしたヒューゴがニヤリと小ばかにしたように私を嘲笑い、にっと歯を出して笑った。その歯が赤く染まっていなかったので、私は胸を撫でおろした。
「じゃあ次は私ね」
ヒューゴの手に会ったヌーロを、今度はサロメが奪い取る。一口食べて、リアムに渡して、リアムが食べたらジョルジュに渡った。どうやら回し食べをするらしい。貴重な食べ物だもんね。しかもこんなにも美味しいなら、一口だけでも分けてもらえてありがたかったよ。ここまで甘い食べ物なんて生まれてこの方一度も口にできなかったので、もうヌーロを見ただけでパブロフの犬みたいによだれが出てきそうだ。
ここにいる全員が一口ずつ食べれば、ヌーロはあっという間に小さくなっていって、中から丸い種が出てきた。種が半分見えている状態で、ほとんど食べかすのような形になったヌーロが私に元に戻ってきたので、私は笑ってジョルジュにヌーロを差し出す。
「ジョルジュ、全部食べちゃえばよかったのに」
一番働いてくれたのも、一番身体が大きいのも、年長者なのもジョルジュだ。大した役にも立てていない、一番下っ端で新参者の私はなるべく控えめにしておいた方が良いだろう。差し出されたヌーロを見て、てっきり私はジョルジュが、じゃあ……と喜んで受け取ると思っていた。だが、ジョルジュは困ったように笑っただけだった。え? と思って一番近くにいたヒューゴを見ると、意地悪な笑みを浮かべているかと思えば、ヒューゴは真剣な顔で私を見ていた。
「それはレノムシが食べなきゃいけねーんだ」
「え、う、うん……ありがとう……」
じゃあ俺がいただき! って言うイメージだったんだけどなあ。私は不思議に思いながらもぺろりと最後の一滴まで食べ尽くし、手に残ったのは手のひらに収まる五センチくらいのサイズのころりとした丸い種だった。これ、どうするんだろう?とサロメを見ると、サロメはにっこりと優し気な笑みを浮かべた。きょとんとしていると、ジョルジュが一歩私に近付いた。見上げると、ジョルジュもにこにこと笑っていた。
「レノ……改めて、僕たちの村へようこそ。歓迎するよ」
「え……?」
「レノムシは知らねーだろうけど、これはすげー大事なことだったんだ。俺たちと一緒に色んなことして、森に来て、仕事をして、村にとってガイの無い人かどうかをハンベツする、ジュウヨウなことだったんだ」
「レノも、レノの母さんも、なかなか村と交わろうとしなかったでしょう? だから、私たち、二人の色んな事を、どうしても知りたくて……でも、レノはすごく良い子で、頑張り屋さんで、しっかりしてて、……良い子過ぎるくらいだった」
多分、レノの母さんも、今頃私の母さんに村の一員として認めてもらってると思うわ、とサロメは説明してくれた。……確かに必要なことだよね。ご近所づきあいも一切なかったのだとすると、ご近所さんたちからすれば、もしかしたら超我儘人間が住んでるかもしれない! って思われて、警戒されるのも当然だ。悪く言えば閉鎖的だが、村の中の人間を守り、互いに助け合って共生していくためには、外から来た人間が敵ではないかを確認するのはどうしても必要なことになる。田舎あるあるだ。
「そっか……わたし、認めてもらえたんだね? よかった。わたし、これからもがんばるからね」
村の長であろう一家に、村の一員として認めてもらえたのだ。今後はある程度のご近所付き合いを欠かさないことで、住みやすくなるだろう。
「……レノ」
私が晴れ晴れした笑顔を見せたというのに、みんなの表情は暗かった。あれ、私、最後の最後で何か間違えたかな!?慌てて自分の言った言葉を反芻していると、サロメは苦しそうな顔で私をぎゅっと抱きしめた。
「確かに私たちはレノを試したわ。でも、レノを歓迎するっていう気持ちは本当なの。レノが大変な状況で、それでも一生懸命に頑張ってるって、私は今日いちにちで、いっぱい知った。……レノ。今日までも、いっぱい頑張ってきたんだね」
サロメの薄い胸の中で、私は目を白黒させた。どうして抱きしめられているんだろう。どうしてサロメは、ヒューゴは、ジョルジュは、難しい顔で私を見ているんだろう。
ふと、裾を引っ張られる感覚があった。がっしりと抱きしめられているので身動きは取れなかったが、視線だけを逸らすと、そこにはリアムがいた。私の裾を引っ張っているのはリアムだった。
「……レノ」
初めてリアムの声を聴いた。まだまだ声変わりからは程遠い、可愛らしい舌っ足らずな声だ。
「いまはだれも見てないよ」
「………?」
リアムはそう言って、私の背中にぎゅっと抱き着いた。
「だから、泣いていいんだよ」
背中からくぐもった声が聞こえた。何を言ってるんだ。っていうか何をしてるんだ。サロメは同性だからいいとしても、リアム、お前は同い年の男だろう。といってもまあ、三歳児だけど。全く、何を勘違いしてるのやら、と笑おうとして、笑えなかった。口元を釣り上げようとして、引きつってしまう。
「……よく、がんばったね」
サロメがそう言って、私の背中をぽんぽんと叩いた。その拍子に、ぽろりと瞳から涙がこぼれた。一度こぼれてしまえば、次から次へと溢れてきて。
母に愛されている実感はあった。だから、貧しいけど、飢えているわけではないし、ホームレスなわけでもないし、虐待されているわけでもない。私は不幸じゃないはずだ。でも、父のことを考えると心が苦しかった。母に優しくされるたび、息苦しかった。何か母のためにしなくちゃいけないような焦燥感があって。私は『私』じゃなくて、私として生きなきゃいけないんだから、何かしなきゃいけないんだって、そういう強い思いを持っていた。
でも、まだ私はたったの三歳児で。不慣れな生活に、不慣れな文化に、不慣れな体型に。ひとりぼっちで、寂しくて、心細くて、つらかったんだ。だから、こんなにも今、胸が熱くなっているんだ。年の近い子たちとたくさん喋って、自分が頑張ったことを評価してもらえて、歓迎するって言われて。嬉しかった、うれしかった。
私は考えないようにしていた自分の気持ちに気付いて、ぼたぼた泣いた。声を押し殺して、歯を食いしばって、耐えるようにぎゅっとサロメの服を握りしめた。そんな私の頭をサロメは優しくなでてくれて、リアムはぐりぐりと私の背中に顔を押し付けた。
「まあ、さ。オトナたちは好き勝手いってたけど、それはレノムシに会ったことがねーやつらのハナシじゃん? 俺は今日いちにちで、レノムシは馬鹿でひ弱でチビだって思ったけど、ちゃんと村のために働くんならさ、別に歓迎しなくもねーよ」
リアムシよりはマシだしな、とヒューゴはリアムを見て鼻で笑った。
「……言いたいこと、好き勝手に言うやつらは、どうしたっているんだ。そんなやつらの話なんて、聞かなくていい。レノは頭が良いけど、それを知らない奴らは、レノが子供だからって、分からないだろうって、好き勝手言うだろうけど……僕は、今日一日、レノと一緒にいて、レノが悪いヤツじゃないってわかった。だから僕は、レノの味方だから」
ジョルジュが複雑そうな顔で言った。ジョルジュにもいろいろあるのかもしれない。それを聞いて、ヒューゴはケラケラと笑った。
「ジョルジュが味方になったってしょうがねーだろ! ただでさえレノはチビで、一人じゃなーんにもできないんだから! 果物もとれねえし、狩りなんてゼッテー無理だよな!」
「狩りはそもそも男の仕事でしょう? 木登りだって、ジョルジュやヒューゴがやればいいじゃない。わたしだってそんなことできないもの」
サロメがとりなすように言ったが、ヒューゴはうるせーサロメ! と顔をしかめた。そしてサロメの胸に抱かれている私をちらりと見て、口を尖らせた。
「……ま。お前みたいなチビは俺の後ろを歩いてりゃいーんだよ。バーカ」
「………ヒューゴ」
私は驚いてヒューゴをじっと見つめた。ヒューゴはムッとした顔をしてすぐにそっぽを向いたが、耳が真っ赤だ。どうやら、慰めてくれているらしい。ヒューゴの素直すぎる素直じゃない一面を見て、私は思わず笑ってしまった。その拍子に、涙も止まっていることに気付いた。
「わ、笑うんじゃねーよ! レノムシのくせに! 生意気だぞ!」
「ふふ……ごめんね、ヒューゴ。ありがとう」
くすくす笑ってお礼を言えば、ヒューゴはまた顔をしかめてそっぽを向いて、突然青虫に興味を持ったようにヌーロの幹のところへと走り出した。……もう青虫はいなさそうだよ、ヒューゴ。
「みんなもありがとう。わたし、明日からもがんばるからね。できることはすごくすくないけど……たくさん勉強して、みんなのやくに立てるようにがんばるから。よろしくおねがいします」
打算じゃなくて、純粋にそう思った。こんなに可愛らしくて優しい子たちに囲まれているのだ。出来る限りのことはしたいではないか。そういう気持ちを込めて深々と頭を下げた。




