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深緋色の指輪  作者: 胤巳尺
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第三幕

 わたしが思った贈り物として、すぐ、そして安価にと考えると一つ思いつくものはあった。それはディアマント島固有の黒曜石から切り出され磨き上げられたという首飾りだ。どこか生物的なそれはよくディアマント島の船の船員が売りさばいていただから、安価で手に入ることは請け合いだったが、しかしその形状があまり気に入らなかった。

 それはあまりにも宗教的すぎる形状で、まるで二つの手を合わせた様な、異国風なかつ繊細に造形された首飾りであるにもかかわらず生物的すぎる気がしたのだ。

 また、良く富裕層で取引されるものを考えるとそれもなかなか難しいと感じられた。彼らの求める物とは、かつて世界が正常であった時につくられた宝飾品などのやり取りだったからだ。例えば、美術品にもなるような黄金の仮面や王冠。そういったものがカイルにふさわしいとは思えなかったからだ。


 こういうとき、わたしは一つ情報を得ようと考えたが中々そういった庶民的な(あるいは一般的な)美的感性の持つ知り合いがいない事に愕然とした。

 なんとわたしの交友関係の狭さか。自身が顔が広いなどと思っていたのを呪いたい気分になって少し憂鬱になった。それはそう、あの取り調べを受けた時の様な。


 ふとその時、一人だけ脳裏に浮かんだ。それは一般的には忌み嫌われる教会の情報組織に身を置くもの、『鴉』の姿であった。オーブルにある鴉の組織には、実は酒の関係でお世話になったことがあった。


 それはディアマント島から安く仕入れられるとのことで、確かに相場の半額程度でやり取りができるため、わたし達商人にとっては旨い話ではあったが、五二年に大規模に規制を食らっているため、商人達は。公にはしないで取引を行っていた。わたしはその様な卑屈なやり方が許せなかったため、「酒が同じなら、全部教会に売ってやるから教会からみんなに安く売ってくれ」と申し出たのだ。そしたら鴉の取り調べをされる羽目になったのだが、ふと、その時取り調べをした鴉の男の後ろに、まるで絵画から出てきた可能様な美しい金色の髪をした給仕服(メイド服だと誇らしげだったが)を来た女性が居たことを思い出した。


 なぜ彼女を思い出したか。それは彼女が思いのほか饒舌に言葉を話したことと、何よりその当時には珍しい、様々な宝飾品をさりげなく服にあしらい、とても一般の給仕とは思えなかったからだ。あれはおそらく鴉の情婦かとも思ったほどだ。尤も言動だけで見るなら同僚程度なのだろうが。彼女であれば、どういったものを贈られると喜ぶのか、なぜか明確に回答してくれるのではないか、そういう思いがしてならなかった。


 さっそく鴉を訪ねようと思ったが、そもそも相手は教会の情報部門であるから拠点すら分からない。


 これは困ったと思って、頭を整理するために、遅めの昼を取ることとした。

 屋台で買い食い(オーブルは食料が比較的裕福なため、麺の屋台はある)をしている時、屋台の店主から、鴉なら、日に一度はここの細い通りを入って、オンユーク病院の方へ抜けて行くことを聞いた。今日はまだ通ってないらしい。そこでわたしは店主に頼んでちょっとだけ待たして欲しいというと、「鴉に会いたいなんて珍しい」と愉快そうに笑いながらおまけで大盛にしてくれた。


 思い通りに行くこと。


 それはきっと、神によって定められた運命によって描かれているという者もいるだろう。しかしわたしはこう思っている。「その者の願いが世界を動かしたからだ」と。今わたしの願いはあの青年の想いも載せているのだ。


 夕刻に差し掛かる頃、わたしの前にとても目立つ黒い姿があった。この夏の蒸し風呂のようなドームの中であっても、意に介さないその黒い羽を集めた外套を着込んだ男が通ったのだ。


 わたしは叫んだ。


 お代をテーブルに置き、走り寄ると、その黒い外套の男はゆっくりと、こちらに振り向いた。

 その顔には、かつてこの世界のどこにでもいたであろう鴉の顔を模した面をかぶっていた。ただ、その目だけが本人の物であろう、とても艶のある黒々として、漆黒のそれは、わたしを見つめ返した。

 気圧されるというのが正しい表現であったと思うが、この感触を受ければ、そう思うだろう。すべてを見透かしたかの様な漆黒の瞳がわたしをとらえて離さない。それでいて谷底に叩き落されるような視線は。

 わたしは意を決して言葉を紡いだ。


「四年前、わたしは貴方に取り調べを受けた者で、きっと覚えてはいないと思われます。しかし、どうしても合わせていただきたい方がいらっしゃるのです、あの時の給仕服を着た女性、その方にどうかお目通りさせていただくことはできないでしょうか!」


 その言葉を聞いて鴉は、わたしを品定めするようにわたしの目を覗きこんできた。とても身長の高い男性であるようで、すこし窮屈そうではあったが。


 鴉の息遣いが聞こえそうなほどに近い。


 じっと見つめられるその行為だけでわたしは背に汗をかくのを感じる。確かにそうだ。あの取り調べの時もこの鴉はずっと人の動きを見ているのだ。まるで獲物を見る様に。

 臓腑に響くような低い声で、一言「ついてこい」というと背を向け歩きだした。

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