第8章 闘技演武大会 開催
あの首なし事件から1ヶ月が経とうとしていた。
グレイグ魔騎士防衛学校では、首なしの死体が発見されてから、一時、生徒達の間で動揺が広がっていたが
今ではそれも少しずつ収まって来ていた。
また、様々な噂も流れたが、噂の範疇を超える事はなく、結局のところ国防警備局に任せていれば事件を解決してくれるだろうと皆が思い始めていた。
そして、学校の授業も通常通り行われた。
死体が発見された池は今も封鎖されている。
今、グレイグ魔騎士防衛学校の全校生徒が、グレイグ魔騎士防衛学校に併設されている、トマレイ・コロッセアムと呼ばれる巨大な闘技場に整列していた。
今日は、グレイグ魔騎士防衛学校で年に一度の大イベント
闘技演武大会が行われる。
一般の人も入場する事ができ、普段から、生徒達がどんな勉強をし、どれだけ強くなったかを見物する事が出来る大会である。
コロッセアムは横に細長い楕円形をしており、真ん中が闘技場で周りに観客が座る椅子が階段状に設置されていた。
収容人数は7万人で、この大会が行われる時は、いつも満席になり、立ち見が出る程だった。
観客席と闘技場の間には、結界が張ってあり
万が一、呪文が観客席へ飛んだとしても、結界が打ち消してくれた。
闘技演武大会は、3日間行われる。
少しずつ見応えのある演目が行われるのだが、この学校の技術は他校に比べ飛び抜けて高いので、毎度1日目から、満席になるのだった。
フレイは、闘技場で、初年度魔騎士学科の列に並んでいた。
背の高い、フリスレスは、列の後ろの方に並んでいる。
ちらりと、フレイは横を向く。
魔道士学科の方に、小さくキュリオスの姿が見えた。
キュリオスはじっと、舞台の方を見ていた。
舞台の上ではダンボラス・スメリが真ん中に立ち、その後方に入学式と同じ並びで講師が並んでいる。
ダンボラスを挟み、右、左に各7人ずつ講師が立っている。まず右の魔騎士学科は、カーロス・デュメイ、ドン・バッチ、〈疾風の剣士〉カイロ・グアテ、〈火炎の竜剣士〉ナンボジーク・クレイネ 、〈地獄の使者〉サンディー・ドラン、〈クラーケン・スレイヤー〉ニュート・カイザス、〈ソウル・イーター〉ドレイク・ゴルトーが立っている。左には、ユルガロフ・トルエン、ロメロ・スローン、ジュノ・サイラス、スクリユ・ドノヴァン、女魔導士の〈煌めきの魔導士〉カレア・ダイクラン、〈咆哮する獅子〉サンクド・ツッペリン、ソフラ・ナイトビークが並んでいる。
開会式は、静かに進み、器楽隊の音楽と共に、式が終わった。
と同時に、澄み渡る晴天の下、大会が始まる。
最初のプログラムは、初年度魔導士学科の魔法演舞だった。
これは、闘技場の舞台に上がった初年度魔導士学科の生徒達21人が5つの要素の魔法を駆使し、一定の音楽に合わせて、演舞を行うのだ。
魔法演舞が始まる。
始めに舞台の真ん中に立った男の生徒が、勢いよく右手を上げた。
そして、器楽隊による荘厳な音楽が始まる。
と同時に、その男の右手から巨大な水柱が上がった。
おおっと観客席から歓声が上がる。
続けて、向かって右側にいる10人が同時に右手を上げた。
その瞬間火柱が上がる。
再び歓声が上がる。
今度は向かって左側の生徒10人が、右手を上げた。
今度は、暴風が起こったかと思うと、生徒の頭上で竜巻が起こり始めた。
そしてその三つの柱は、真ん中で融合し、見事に螺旋を描きながら
上空へと舞い上がる。
フレイは、それを闘技場の入場門の所で見ていた。
「すげーな」
フレイは独り言のように素直な感想を述べた。
すると、隣にフリスレスと、コレブンがやってきた。
コレブンは、至って平均的な魔騎士学科の生徒だが、そのひょうきんな性格と明るさで、クラスのムードメーカー的な存在だった。
「すごい客だなあ。なんかすごい緊張してきたぜ!」
とコレブンは言いながら胸の辺りをさすっている。
「確かに、緊張はするけど俺の方はわくわくするぜ」
とフリスレスが言う
「だって、そりゃあフリスレスは、フェーズ5の炎竜出せるし、強いから。
俺なんか、前に炎竜出したら、鰻みたいなのが出てきて、ろうそくの火みたいな炎を吐いて消えたんだぜ」
とコレブンがフリスレスの方を向き言う。
それを聞いてフリスレスは大笑いし、フレイも、吹き出した。
「見てみろよ、あれ」
フレイが、今も演舞が続いている舞台の方を見るように促す。
そこには、魔導士学科の生徒達が、協力して、巨大な炎帝ソラスを召喚していた。
炎帝ソラスは牛の顔に、筋骨隆々の身体で、魔導士学科の生徒達の頭上に発現している赤色の魔法陣から召喚されていた。
周りを、5本の火柱がまとわりついている。
真ん中の生徒一人が勢いよく手を下げた。
すると地響きでも起こさんばかりに低い音が轟き
次の瞬間、ソラスの口から巨大な炎が放たれた。
炎の光で目がくらむ。炎は、巨大な渦となり、天高く舞っていった。
闘技場の温度が、一瞬で上がったのが分かる。
続いて真ん中の生徒が、再び手を上げる。
ソラスの口から炎が止まった。
すると、今度はソラスにまとわりついていた火柱5本が鳥の形になっていく。
首は長く、頭は小さい。
尾は長く、羽を広げたその鳥は、素晴らしく崇高で高貴に見える。
フェニックスだ。
フレイは思った。
そのフェニックスは、ソラスにまとわりつくように上空に舞っていく。
そして、雲に届くか届かないか程の距離まで昇ると急降下をし始めた。
5羽のフェニックスが地面目掛けてまっしぐらに降下していく。
どんどんスピードが早くなる。
それと同時に少しずつフェニックスの形が変形して行く。
細長く細長く身体が変化していった。
そして、もうほとんど線に近い姿になった時、フェニックスは地面に到達し、弾けて消えた。
それを見届けた後、ソラスは、最後に天に向け今までで一番大きな炎を吐き、そのまま萎んで消えた。
観客から割れんばかりの拍手がおこる。
「す、すげー。」
フレイ達3人はほぼ同時に言った。
そこで、初年度魔導士学科の演舞が終わった。
続けて、少し休憩の後、初年度魔騎士学科の25名による剣の型の演舞が始まった。
その型の演舞には、コレブンが出場しているが、フレイと、フリスレスは出場していない。
というのも、フレイとフリスレスはこの後、3日間続く、個人としては最大の見せ場である魔導魔騎士武道会に出場するのだ。
魔導魔騎士武道会は、初年度と、2年目の最終年度の合同で開催される。
ルールは闘技場の中で、1対1になり、今まで自分達が培ってきた剣術や魔法を思う存分駆使し、相手を戦闘不能にするというもので、各学級から講師に選ばれた32人のトーナメント戦になる。
選手はアーマーを装着し、極力怪我をしないようにしているが、それでも、レベルが高い攻防が繰り広げられるので、気絶したり怪我をする者が多かった。
勝敗は、気絶するか、アーマーの防御力が100から0になるか、ギブアップ宣言をするか、試合の持ち時間10分が経った後、どちらの防御力が高いかのいずれかで決まる。
いずれにせよ、鍛え上げた武力を思いっきりぶつけ合うので
その迫力は凄く観客から人気が高かった。
やはり、1年先輩と言う事で、ここ20年は、最終年度の生徒が優勝している。
そして、コレブンが出場していた魔騎士学科の型の演舞が終わった。
暫くして、唐突に器楽隊が荘厳な音を鳴らす。
それと同時に闘技場の至る所にいた魔道学科の生徒が、手を上に向け
花火のような魔法を使う。
とたんに、会場が幻想的な空間に染まった。
花火が忙しく飛び交う中、器楽隊の音楽が一番盛り上がった所で、選手達が入場を始めた。
選手が登場し始めるや否や、会場のボルテージが最高潮まで上がる。
「ふう。」
フリスレスが大きく息を吐いた。
選手達は、2つある入場門に2列になって並んでいた。
次々、選手が門から出ていく。
フレイは、フリスレスの後ろに並んでいた。
次にフリスレスが出場する番になり、一歩出ようとした時、横から何者かに押された。
フリスレスがよろめき、地面に手をつく。
即座に押された方を見る。
そこには、精悍な顔つきをした男が立っていた。
背は、フリスレスほど高く、身体は、かなり鍛えているのか筋肉が盛り上がっている。
「どけ」
その男が言う。
「何?!」
フリスレスが返す。
フリスレスが勢いよく立ち上がり、その男に迫ろうとした時
フレイが間に入った。
「やめとけ。フリスレス。」
フレイが言う。
その男は、ゆっくりとフレイの方を見ると
何もなかったかのようにフリスレスを一瞥し
入場門から外へ出て行った。
「なんなんだ。あいつ」
フリスレスが言う。
「あいつは最終学年のシュウトレスだ」
フレイが言った。
「シュウトレス?」
フリスレスが言う。
「ああ」
フレイがそう言ったあと続けて
「あいつは、強いぞ」
と言った。
フリスレスはそれを聞くと口角を上げ
「通りで、この俺がぶつかってもびくともしない訳だ」
と言った。
「フレイは、あいつの事何か知っているのか」
フリスレスが続けて言う。
「ああ。あいつは、ちょうどこの学校のエースとして先月の新聞に載っていたんだ。
去年のこの大会で準優勝し、そこから今まで個人戦では、一度も負けた事がないらしい」
フレイが言う。
するとフリスレスがますます口角を上げ
「ほう。そりゃすげーな。てかなんか面白そうじゃねーか。」
とフリスレスが言う。
フレイは、フリスレスを見ると、少し驚いた顔をしたが、やがて笑顔を返した。
「だな。この大会で俺達が何処まで通用するのか。試してやろう。さあ、入場だ。」
とフレイは言いながら、入場門から外に出た。
続けて、フリスレスが出る。
門を抜けた瞬間に、人々の喚声が大波のように迫り、二人を襲った。
一瞬二人の聴覚が奪われる。
歓声で何も聞こえない。
あっけに取られる二人を、そのままに選手が全て入場した合図の大きなホーンが吹かれる。
それを聞いた観客がこれまで以上に大きな歓声を上げた。
今コロセアムは地響きが起こるような大歓声と
異様な熱気に包まれていた。




