第3章 魔法の授業
フレイが衝撃を受けたグレイグ魔騎士防衛学校の入学式から2ヵ月が経とうとしていた。
フレイは、選別の時間〈とき〉の決断を受け止め、魔騎士になるべく日々鍛錬に励んでいる。
やはり、学校の鍛錬は想像を絶するほど厳しく、連日、何人かは、気絶をするほどだ。
フレイも例外ではなく、ウィズエレメンタル〈魔法を使うための力〉を使い果たし、何度も気絶をしていた。
しかし、フレイは、弱音を吐く事もなく、鍛錬を続けていた。
現在、教壇では魔法学 歴史の講師スクリユ・ドノヴァンが教壇から生徒に向けて話しをしていた。
「魔法には、5つの基本的要素と2つの古代要素がある」
と、スクリユが生徒に話す。
フレイは、早朝に剣技の自主鍛錬をし、筋肉痛になった右手をさすりながら、講師のスクリユ・ドノヴァンの話しを聞いていた。
このスクリユ・ドノヴァンは、〈ザ・コレクター〉ジュノ・サイラスの左側に並んでいた講師だ。
呼び名は、〈全能の魔導士〉で、全てのジャンルの魔法を高いレベルで発現でき、また一度見た魔法はその場で覚える事出来る能力を持っており、多くの敵と戦えば戦うほど強くなると言う。
また頭も非常に良く、研究者としても、サン・イル・トマレイ国では有名だった。
見た目は丸眼鏡が特徴的な30代半ばで、細身のスラッとした体型である。
頬に縦一文字に引かれた傷があり
その傷が話す度に、うねうねと形を変える。
今もぐにゃりと形を変えていた。
「その5つの基本的要素と言うのが、水、火、緑〈木〉、風、土と言うもので、それぞれに特徴がある。そして、その特徴から、相性がいい魔法と悪い魔法がある」
そうスクリユは言うと、黒板に水火緑という風に基本的要素を書き始めた。
5つの要素を全て黒板に書き出したスクリユは、生徒の方に向き直り再び話し始めた。
「例えば、水の魔法は火の魔法に強いが、土の魔法に弱い」
そう言うと、黒板に今度は縦に5つの基本的要素を書き出し
線を引き出した。すると、縦横5マスずつ空白の表が出来上がった。
縦の水の基本的要素の空白マスをずっと横にたどり横の火と書かれた空白マスが交わる部分に○と書き、続いて、土と交わる部分に×マークを書いた。
「で、土は、水には強いが風には弱い」
スクリユはそう言うと、今度は、土の横欄に、水の部分には○、緑には、×を書き出した。
そのような感じで話しながら次々に表を埋めて行く。
表は下記のようになった。
水→火○、土×
火→緑○、水×
緑→風○、火×
風→土○、緑×
土→水○、風×
その表が出来上がると、スクリユは一度確認し、
生徒の方に向き直り、再び話し始めた。
「このように、それぞれの要素は、得意不得意があり、得意な要素には、比較的強いが、不得意な物には弱い。
だが、だからと言って、必ずしも不得意な要素に負ける訳ではなく、その魔法の強さによっては、不得意な要素に打ち勝つ事も多分にある。
例えば、水は土には弱いが、魔法の強さによっては土の魔法に打ち勝つ事があると言うことだ。
分かるかな」
と言い、一度、生徒達を見渡した。
そして、なんとなく理解をしてもらっているのが分かったのか
一度頷き、再び話し始めた。
「そしてもうひとつ、君達は生まれつき得意な基本的要素がある。それは、各々が覚えやすい覚えにくいで判断してくれればいい。しかし、得意な基本的要素があるからと言って、他の魔法を覚えられないかと言うと必ずしもそうではない。
練習次第では、得意な基本的要素よりも強くなる事もあるし、複数の基本的要素の魔法を覚える事もある。」
と、スクリユはそこまで言うと、一度話しを切り、少し生徒を見回した。
皆が真剣に話しを聞いてくれているのを確認すると、
「ちなみに、僕は、水の魔法が得意だが、全種類の魔法をフェーズ9のレベルで、発現する事が出来る」
スクリユがそう言った。
すると生徒からおおーと感嘆の声が漏れる。
魔法は基本的要素の魔法の威力によってフェーズ10まで数値が
あり、数字が上がれば上がるほど強い。
ちなみに、先日入学した生徒達の魔法レベルは大体フェーズ2の中でも低いレベルである。
「そして、もう一つの特徴は、魔法は器用にレベルを高めると複合して使う事が出来る。」
そこまでスクリユが言うと、前に右手を伸ばす。
そして、おもむろに古代語を唱えた。
スクリユの右手に水色の魔法陣が現れる。
スクリユが右手を一度グッと握ると、人差し指だけ前に突き出した。
その瞬間、魔法陣が人差し指の先に圧縮されたかと思うと、
ドゴンと言う鈍い音と共に煙の渦が現れた。
それが消えると、手のひらサイズの全身が鱗で覆われた何やら二本足で立っているワニのような生物が現れた。それは、教壇の机の上に立ちつくしている。
「これは、召喚獣リヴァイアサン……
の縮小版だ。」
とスクリユが言う。
すると、フレイの後ろの席から
「か、かわいい。」
と言う声が聞こえた。
フレイがビクッとして後ろを振り向く。
後ろの席には、魔騎士クラスで一緒の
カリン・ソルダが座っていた。
カリンは、フレイともう2ヶ月程一緒にいるが、
いまいち、よく性格の分からない不思議なオーラをまとった女で、顔は整っており、髪の毛は黒髪の美人な部類に入るとは思うが性格がいまいち読めないため、フレイはカリンと話す事を苦手としていた。
「か、かわいいか?」
とフレイが聞く。
するとカリンが、目だけこちらに向け、
「かわいいもん。」
と言った。
その後、どちらも言葉を発しない。
二人は目が合った状態で暫く変な空気が流れる。
フレイはゆっくりと前を向いた。
やっぱりこの子とは合わないような気がすると心の中で
思った。
すると
「今、やっぱりこの子とは合わない気がすると思ったでしょ」
と後ろの席から聞こえた。
ええー!と思い
フレイは後ろを振り返った。
そこには不適な笑みを浮かべたカリンがいた。
「そして、ええー!と思った」
「な、なんで、分かるんだ」
フレイが驚愕を隠せず言った。
「だって顔に書いてるんだもん」
とカリンが言う。
フレイはすかさず自分の顔を触れるが自分では顔が見えないためよく分からない。
カリンが、ニヤニヤと笑い始める。
あ、遊ばれてる。
フレイはそう思い、もう気にしないでおこうと考え前に向き直った。
「このリヴァイアサンは、水の属性の召喚獣だが」
とそこまでスクリユが言うと
右手で前の床を素早く指差す。
すると、リヴァイアサンが空気を吸い込み
指差された床に向かって、火柱を吐き出した。
低い音と共に、火柱は床を焦げ尽かせる。
一瞬にして、炎の熱い温度が周りを包み込む。
炎を吐かれた近くに座っていた生徒は慌てて飛び退いた。
「ごめん。ごめん。力の加減が上手く出来なかった。」
と言いながら、スクリユは申し訳なさそうな顔をしている。
「今見た通り、このリヴァイアサンは、水の属性を持ちながら、火を吐いた。つまり、火と水の魔法に対する耐性を持ちながら、火の魔法の攻撃をした。」
スクリユはそこまで言うと生徒の反応を見る。
生徒は、リヴァイアサンに釘付けになっている。
「そして……」
とスクリユが言うと、また古代語の詠唱を始めた。
今度は茶色の魔法陣が浮かび上がる。
それをまた人差し指に集約すると、
勢いよく、リヴァイアサンの方に向けた。
その瞬間、リヴァイアサンが再び煙に包まれた。
煙が消えると、そこには、サン・イル・トマレイ国特有の鎧を
身に付けたリヴァイアサンが現れた。
鎧の胸の部分には大きく獅子の紋章が彫られている。
「土の魔法の防御力も手に入れた」
とスクリユが話し
続いて茶色と青と赤の魔法陣を出し、リヴァイアサンの方へ指を差した。
するとその3つの魔法陣が瞬時に細長く伸びたかと思うと、一斉にリヴァイアサンめがけ、飛んでいく。
そして、リヴァイアサンに当たると、閃光を上げ、消える。
生徒からまたしても歓声が上がる。
「こんな感じに、水と火と土の防御力が上がる。」
とスクリユは言った。
「ちょー、かわいい」
とまたフレイの後ろから声が聞こえる。
フレイは少し後ろを振り向いた。
カリンはそんなフレイを見ると、不適な笑みを浮かべた。
フレイはそのまま何事も無かったように前を向く。
「この基本的要素は鍛練をすれば誰でも身に付ける事が出来るが、古代要素は持って生まれた才能か、古代語によって洗礼を受けた者しか使う事が出来ない」
そこまで、スクリユが言うと、黒板に、古代要素と書き出す。
そしてその下に光と闇と書き出した。
「古代要素はこの2つから成る。光と闇だ」
スクリユがそう言いながら、黒板の光と書かれた部分と、闇と書かれた部分を順番に軽く叩いた。
「基本的要素の5つに関しては、研究が進み、草木などの自然界が発しているウィズエレメンタルや、人体から溢れ出てくるウィズエレメンタルを使用し、起源が自然にあるのに対し、この古代的要素は、何処に起源があるかが実はまだ分かっておらず、その力は、何故発現出来るのか。また何故特定の人物にしか使えないのかなど謎が多い要素である」
そこまで言うとスクリユは一息入れる。
「この2つは、お互いに正反対の力を持っているが、どちらも同時に覚える事が出来、どちらも複合して使う事が出来る。例えば、光で攻撃を行ったり、魔法を無力化したりするのが光の属性で、毒や、人を騙したり、闇の力を使う物が闇属性になる。その二つを組み合わせ、光による攻撃で毒を打つ事も出来るのだ」
スクリユが、そこまで話すと光と闇と書かれた間に矢印を両方向へ引いた。
「しかし、基本的要素とは、協調性がなく、両要素とも同時に習得する事は出来るが複合して使用する事は出来ないとされている」
そこまでスクリユは話すと、一度生徒を見回し言った。
「大体、ここの講師陣は光と闇のどちらの魔法も使用できる。
その中でもダンボラス学長は、光と闇の魔法をフェーズ10のレベルで使用できる」
そこでまた、生徒から歓声が上がる。
とその時、不意に授業終了の鐘がなった。
今が3時間目なので3回鐘が鳴る。
「お、もう終わりか、では今日はここまで。
次回はもう少し基本的要素と古代的要素の歴史に触れつつ、魔法自体を掘り下げてみよう」
と言いながら、スクリユは分厚い教科書を閉じた。
フレイは、すかさず後ろを振り向いた。
カリンは席を立とうとしている所だった。
「今のは、なんなんだよ」
とフレイが言う。
「なにって?」
カリンが答える。
「さっきのやつだよ。心を読めるのか?」
とフレイが聞く。
するとカリンが少しうつむく。
長い髪がふいに顔を隠す。
そしてカリンの口角が上がる。
「さあ」
とカリンが言った。
そしてそのまま机の上に出されていた教科書を片付けると
席を立ってどこかに行ってしまった。
「フレイ!次は、最悪の授業の剣技だ、アーマーに着替えに行こうぜ!」
といつも通りの調子がいい声がフレイの方に向かって飛んでくる。
フレイは、カリンが去っていった方を見ていたが
しばらくして声が飛んできた方をみた。
そこにはフリスレス・ノメイがいた。
「ああ!フリスレス!!」
フリスレスはその長い手をフレイに向かって振っていた。
フリスレスは、背が高く、手足が長いすらっとした体型だが
身のこなしは早く、魔騎士学科の中でもスピードはトップクラスだ。
フレイも急いで教科書などを片付ける。
その時、コトリと音を立て、父の形見のネックレスが机の上に落ちる。
それを、フレイはゆっくりと拾い上げ見つめた。
そのネックレスは、いつも希望に満ちたオーラのようなモノが出ているように感じていたのだが、今日は違っていた。
何が違うかは、フレイ自身にも上手く説明は出来ないが
何か暗く、深い闇のようなモノが感じられたのだ。
一言で言えば不吉なモノと形容出来るようなモノがネックレスから溢れ出ているように思える。
なんだ……。
いつもと違うような気が……。
フレイはそう思いながら、しばらくネックレスを眺めていたが
答えが出そうになかったので、すぐに制服のポケットにしまうと、フリスレスの方へ向かった。
そして……
事件は唐突に起こった……。




