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魔道戦記  作者: taka@
2/20

第1章 入学式

 五大国暦1110年1月8日ーー


 サン・イル・トマレイ国最大の都市グレイグ市は、新年度を迎えるに当たり

朝早くにも関わらず、大きな賑わいを見せていた。


 そんな中で、詰め襟型のすね近くまであるコートのような白い制服に身を包んでいるフレイは

ウィズ・エレメンタルというエネルギーで走る円筒状の電車に揺られていた。


 ああ眠たい……。

 そう思ったフレイはつり革を持ちながら、少し切れ長の目をこする。


 電車が心地良い揺れを演出する中で、、フレイは眠気と必死に戦っていた。

 電車の窓から見える空は、これ以上はないであろうと思わせるような鮮やかな青い色をしている。

 

 まさに晴天だな。

 フレイは、そう思った。


 街は、線のように住宅街の風景から露天商、小規模な店が多くひしめく地域の風景へと

移ろいゆく。


 やがて露天商や小規模な店が少なくなり

代わりに巨大な円筒状の建物や、花のつぼみのような建物が見え始めた。


 市の中心部だ。


 そこで電車が止まる。

「エンビロン駅ー。 エンビロン駅に到着します」


 車内放送がスピーカーから少し低音の声を発する。


 着いたな。


 フレイは、つり革から手を離すと、外に出る扉の方へ向かった。

その駅で降りる人が多く

座っている人や立っている人、多くの乗客が動き始めた。


 そして、電車の扉が開くと同時に、人が放射状に吐き出される。

 フレイもその波に乗り電車から吐き出された。


 駅を出てフレイは、グレイグ市の中央とも言える都会に降り立った。


そこには、先ほど電車から見ていたような巨大な建物がひしめき合い

まるで、自分が住んでいる田舎とは別世界に入り込んだような錯覚をフレイは覚えた。


また、サン・イル・トマレイ国、屈指の都会と言うだけあって

朝早い時間なのに人が多い。


フレイは、人にぶつかりそうになりながら

急ぎ足で、大通りを歩き、ついにこれから通う事になる学校へ向かった。


フレイが通う事になるグレイグ魔騎士防衛学校は、校名が書かれた校門が壁沿いにあり

その奥に校舎が建っている。


 校舎は最近建て直しをしたばかりらしく、校門に向いている側は全面硝子張りになっており

校門の外から見ると淡い水色にテラテラ光っている。


 形は、真四角でかなり大きい。


その建物へ、次々とフレイと同じ制服の学生が入っていく様は、何か巨大な化け物が、まるで人間を次々と吸い込んでいるようだった。


「よう! フレイ!」

ふいに、横から声が掛けられた。


フレイは声のした方を振り向く。


そこには、フレイと同じ詰め襟型の制服に身を包んだ男が右手を振って立っていた。

男はフレイよりも少し背は低いが、がっしりとした筋肉質の体に

髪は軽くセンター分けで目元付近まであり、目は少し垂れ目の愛らしい顔で女子にもてそうな顔をしていた。


フレイはその男を確認すると、

右手を上げ、笑顔で

「おはよう! キュリオス!」

と言った。


キュリオスは、フレイの近くまで来ると

校門の中へ視線を投げた。


視線の先には化け物のような校舎がある。

「いよいよだな」

キュリオスが、校舎を見つめながら言った。


「ああ。」

フレイも校舎の方へ視線を移しながら言う。


フレイとキュリオスはこれから始まる学校生活、そしてその後の生活に希望と不安が入り交じる複雑な気持ちで気分が高揚していた。


二人は校舎の中へ入ると、1階から6階まで一目で見渡せる吹き抜けのロビーに感動しつつ、その真ん中あたり、つまり3階から4階の間付近に、魔法のシンボルマークとも言える六芒星のマークを象った丸い像を見て、一流の魔術学校へ来たことを実感し、テンションが上がっていた。


二人はそこで少し談笑をしたあと、始業式が始まる10分前に落ち合う約束をし、一旦別れた。


フレイはそのまま、校舎の奥に建っている男子寮のアルファ棟へ入って行った。


そして自分がこれから暮らす事になる102と書かれた部屋に入る。


その部屋はベッドと勉強机があるだけの簡素な部屋でおしゃれなカーテンや、壁紙などは何もなく、ただ昨日届いたであろうフレイの荷物が2つ置いてあるだけであった。


フレイはその荷物を1つ開ける。

中には、衣服や、小物などが入っていた。


フレイはその中に入っていた白い小物入れを取り出しゆっくりとふたを開ける。


中には、ポツンと1つだけ寂しそうにネックレスが入っていた。


フレイはそのネックレスを取り出す。


ネックレスは銀のチェーンに六芒星を象った飾りが付いている。


フレイは、何気なく六芒星を見る。


親父......。


 フレイはその飾りを見ながら、父親を思い

薄寂しい気持ちになった。


フレイの父親は、サン・イル・トマレイ国を

代表する屈指の魔導師だった。


その唱えられる魔法の数々は、正に圧倒的で、

他の魔導師が霞んでしまうほどであった。


ヒール系の魔法を使うと何百人もの傷が癒され

攻撃系の魔法を使うと何百人もの人が倒れたと言う。


正に向かう所敵なしだった彼だが

当時隣国のジーグ・レギオン国が軍隊を召集し、不穏な動きをしている事を嗅ぎ付け

偵察を兼ねて様子を見にジーグ・レギオン国へ入ってから音信が途絶えてしまった。


それ以来、彼の姿を見た者はおらず、行方不明になってしまったのだ。


しばらくして、彼と一緒にジーグ・レギオン国に入った魔導師4人は死体で発見された。


現在、その件から5年が経ち、彼は死んだ者とされ、彼の家族、つまりフレイ一家は、父親の国に対する高い貢献度から高額の遺族補償金をもらった。

 その補償金のおかげで、彼達一家は、普通に生活し、またグレイグ市でも一流の魔術学校へ入学出来たのである。


そして今、フレイが見ているネックレスはフレイが5歳の時に偉大な父親からもらったいわば形見のようなものであった。


 親父……。


 フレイはもう一度思う。


 実は、フレイ自身はどうしても父親が死んでいるとは思えなかった。


何故だか不思議だが彼は遠くで父親を感じていた。

それは、得体の知れないもので、言葉では形容し難いものではあるが

確かに彼は、世界の何処かで今も父親が存在していると感じている。


フレイは手に持っていたネックレスをそっと首からかける。

そうすると、不思議と父親を近くに感じる事が出来た。


俺がサン・イル・トマレイを代表する魔導師になってやる。

フレイはそう思いながら、ネックレスの六芒星をぐっと掴んだ。


しばらくフレイは届いた荷物を整理していると、始業式が始まる15分前になった。


フレイは、実家から持ってきた木で出来た古い時計を見るといそいそとキュリオスが待っているロビーへと向かった。


ロビーでは先程よりも人の出入りが激しくなり

騒がしい。


その中に、ポツンとキュリオスが一人立っていた。

フレイはキュリオスを発見すると笑顔で近付いていく。


「フレイ、そのネックレス・・・・・・」

キュリオスがネックレスを右手で指差す。

「そう。親父のなんだ。かっこいいだろ」

フレイが六芒星のネックレスを少し見せ付けるようにしながら言った。

「いいなあ。フレイは。

親父がすげー有名人だもんなあ」

とキュリオスが言う。

「まあな」

フレイが返す。

「俺の所なんか農家だから、そんなかっこいい物、何もないぜ。

せいぜいかっこいい形のした鉈くらいしか」

とキュリオスが言い、右手で鉈の形をなぞった。

フレイがふっと笑みを漏らす。


二人はそんな話をしながら、奥の大聖堂の方へ向かった。


奥の大聖堂は、校舎の入口から入ってそのまま真っ直ぐ行くと

突き当たりにある。


身の丈2倍ほどの白い扉を開けるとそこには白で統一された巨大な壁が広がり、天井には巨大な蝋燭を模した硝子で出来たシャンデリアのような照明がある。

また真正面には、舞台があり、今は色鮮やかな花などで装飾が施されている。

そしてその舞台の真上には巨大な六芒星の形をしたモニュメントが埋め込まれていた。


フレイ達は、その荘厳華麗さに暫くの間、言葉を失ってしまった。


「す、すげー」

キュリオスが言う。

フレイも周りを見渡しながらうなずいた。


その大聖堂に入ってくる他の生徒達も例外なく、

大聖堂の圧倒的な存在感に言葉が出ない様子だった。


大聖堂のそこらじゅうから感嘆の声が上がる。


そして、フレイ達は自分達が整列する場所へ行く。

男女別に四列ずつ舞台を前に並び、

生徒が並ぶ場所は全て決められていた。

フレイ達は、自分の指定された場所で静かにその時を待つ。


そしてついに始業式が始まる。


 始めに、器楽隊による演奏が始まり、新入生を歓迎した。

次に声楽隊による入学の賛美が贈られ

その後、学長、他、これからこの魔術学校で教えてもらう事になる講師が舞台上に勢揃いした。


まず、舞台の真ん中には、長い口髭が特徴的なダンボラス・スメリ学長が立ち、その右後ろには、20年前にゲルタ・ハルマン国で起こった大規模なクーデターを鎮める事に当事18歳で、大活躍した通称〈鎮魂の騎士〉カーロス・デュメイ魔騎士が並んでいる。そしてダンボラスの左後ろには、15年前に北の山に現れた巨大バジリスクを倒した〈蛇喰いの魔導師〉ユルガロフ・トルエンが並び、その左側には、軍略や、陣形を考える天才であり自身も召喚系の魔法で有名な〈謀略の召喚師〉ロメロ・スローンが居る。

反対にカーロスの横には、みんなよりも画体が一回り大きく、巨大グモを素手で殺した事があると言われる〈トマレイの番人〉ドン・バッチがおり、スローンの横には、世界中の武器を集める事を、趣味とし、闇系の魔法を使う〈ザ・コレクター〉ジュノ・サイラスが並んでいる。


その他にも講師陣は別称があり、トマレイでは最高クラスの騎士や魔導師ばかりだ。


「なんなんだ。この存在感は」

フレイは、舞台上に並んだ講師陣達を目の当たりにし

そのオーラに圧倒されていた。


そして、ダンボラス学長が話し始める。


「おはよう。諸君」

少し嗄れた声ではあるが、よく通る重みのある声で

ダンボラスが言う。

「私は、ダンボラス・スメリ、このグレイグ魔騎士防衛学校の学長である。

 よろしく」

そこで一息入れる。

「えー。諸君は、この国でも1、2を争う厳しい試験を合格し、この学校に入学した。


おめでとう。

そして、まずは合格した事を誇りに思いなさい。

君達はこの国随一の魔騎士、魔導士学校へ入学したのだ。


諸君は、これから最高の教育を受け、そして、トマレイ国最高の魔騎士、魔導師になる」

ダンボラスは身振り手振りを交えながら話している。

「その道のりは、決して平坦ではない。

楽しく学ぶ事も有ればつらく苦しい経験をする事もあるだろう。

試練は、想像を絶する程で

この中から脱落者が出るかも知れない。

というよりも、毎年、入学した者の約半分は脱落し

志半ばにして退学を余儀なくされる。


卒業をする者イコール一流の魔騎士、魔導師は、そういった者達の意志を継ぎ

任ぜられた務めに当たらなければならない。


そして、その受け継いだ意志を包括する程の力をこの学校にいる間に手に入れなければならない。

諸君には、その責任があり、これは義務でもある。


だが……。

案ずる事はない。


 諸君が厳しい訓練に打ち勝ち、成すべき事を成せば

卒業をする頃には

その一つ一つが血となり肉となり、諸君を必ずや名誉ある、魔騎士、魔導士へと成長させるだろう。」


ダンボラスの言葉は続く。

生徒達はその一言一言を噛み締めながら

話しを聞いていた。


ダンボラスは最後に、

「そして、国や家族のため、また諸君の大切な者達のため尽力しなさい。

それが、諸君がここで学ぶ最大の意義であり、理由である。

改めてもう一度言う。

入学おめでとう。」

 と挨拶を締めくくった。

その瞬間会場からは割れんばかりの拍手が起こる。


始業式は続き、

やがて、日光が爛々と地上に降り注ぐ頃

クライマックスを迎えていた。


「では、続きまして、最後のプログラム、

選別の時間〈とき〉です」

上級生の司会が淡々と告げる。


 すると舞台上に、何やら巨大な鏡が運ばれてきた。

フレイや、生徒達にさざ波のような、小さな動揺が拡がる。


でかい。


フレイは率直にそう思った。

鏡は、人の二倍ほどの高さがあり、横幅はフレイが両手を広げて

やっと届くくらいの大きさだ。

鏡の表面は、現世と同じような世界を一片の曇りなく写し出しているが、その鏡の奥底には、黒く巨大な人間の力では到底理解不可能な塊がうごめいているように見える。


それを敏感に感じ取り、フレイは何故だか自分でも分からないが、身体が一瞬ぶるっと震えた。


 この鏡は本当の姿ではないような気がする。

 フレイは率直にそう思った。


その感じは、他の何人かの生徒も一緒に感じたようで

フレイが辺りを見渡すと、警戒の色を浮かべている生徒もいた。


真ん中に運ばれてきた鏡は、一回くるっと舞台を回されたあと

舞台の真ん中に設置される。


ついに、決まるな。俺の専攻も。


選別の時間〈とき〉と呼ばれる鏡は、五大陸で唯一、神々の囁きと呼ばれる石で出来ている鏡で、今まで世界で大きな出来事を予言してきた。


そして、そのすべての予言は未だかつて外れた事がない。


しかし、何故か5年ほど前から世界を左右するような大きな予言をしなくなった。

それは、世界で本当の平和が訪れ特に予言をする必要がなくなったのではないかと一部では考えられている。


大きな予言はしなくなったが、その以前から伝統として行われていた選別の時間<とき>による学科の選定は予言をしなくなった今でも変わらず出来た。


それは、グレイグ魔騎士防衛学校では鏡を使い、生徒一人一人に対し、魔導師科か魔騎士科のどちらを専攻するべきかを決する儀式の事で、その儀式による予言をされた生徒はその決定に従わなければならない。


つまり、選別の時間〈とき〉によって、生徒はその後の人生が決まってしまうのだ。


端から見ればかなり特殊に見えるが、この国では、選別の時間〈とき〉は一般的に受け入れられている事であり、選別される事は名誉な事で、重要な儀式でもある。


選別の時間〈とき〉と呼ばれる不思議なオーラを持つ世界に一つだけの鏡は、古代語の呪文によってのみ、力を現す。


先程、舞台に運ばれて来た鏡の横で、講師の一人〈炎帝の寵児〉ソフラ・ナイトビークが、その事と一連の流れの説明を行う。


ソフラは、ダンボラスの挨拶の際、一番左側に立っていた女性の魔導師で、若干切れ長の目をしており、スラッと背が高く、スタイルがいい。白いコートのような制服の上からでも、出ている所が出ているのが分かる。


しかも、かなりの美人だ。


男子生徒はソフラにうっとりと魅入りながら、説明を聞いていた。


説明が終わり、男子生徒が鏡の前に並び始める。

その後ろに女子生徒が並んでいる。


フレイもそれに倣い列に並んだ。


そして、先頭の男子学生が、鏡の正面に立ち説明で聞いた通り古代語の呪文を唱えた。


少しすると鏡の中に石を投げ込まれた池のような波紋が起こり始める。

始めは緩やかな波紋だったが、時間が経つにつれ、少しずつ激しさを増し出す。

次の瞬間、ふっと波紋が止まったかと思うと、中から鏡に写る男子学生の頭にちょうどのるように帽子が現れた。


それを始めて見た生徒達から、おおっと驚きの声が上がる。

その男子学生は、魔導師学科に選ばれたのだった。


続いて、何人か帽子が出た後、次の生徒には鏡の中の自分の姿に

剣が携わるように現れた。


その時も、皆一様に感嘆の声を上げた。

その男子学生は、魔剣士学科に選ばれたのだ。


魔剣士学科に選別された男子学生は、舞台から降り、

魔剣士学科と書かれている場所へ向かった。



次々と、選別が行われる。

フレイは、はやる心を抑えつつ自分の番を待った。


俺はこの国最高の魔導師になってやるんだ。

親父のように。


キュリオスの方をちらっと見る。

キュリオスはリラックスをした感じで、列にならんでいた。

ちょうどフレイの10番くらい前になる。


キュリオスがこちらを一度振り向き、ぐっと右拳を胸の前で握った。

フレイがふっと笑みを返しながら

右拳を胸に当て、挨拶を返した。


この選別の時間〈とき〉という方法では、フレイが確実に魔導師になれるとは限らない。


しかし、選別の時間〈とき〉は、選別をされる者の特性や将来その者が歩むであろう道を鑑み、選別をすると言われている。

そしてその特性は親に似る事が、圧倒的に多く

親が、兵士であればほとんどが親と同じ学科になってきた。


魔法が強い親の生まれであれば子供も魔法が強く、

剣技がすごい親の生まれであれば、同じく剣の使い方が

上手い子供になるからだ。


よって選別された学科は、それに応じた学科になる。


選別の時間〈とき〉で、親と違う選別をされた事は今まで二回しかない。


 〈炎帝の寵児〉ソフラと〈鎮魂の騎士〉カーロスである。

この二人は親とは真逆の選別をされた。

どういう意図で選別の時間〈とき〉がそう判断したのかは分からないが、いずれにせよこの二人は選別された運命を受け入れ、並外れた努力をし、国を代表する兵士になった。


フレイは、そういった実例があるにはあるが、例外中の例外だったので、自分は魔導師になるとなんの疑いもなく思っていた。


また、そのため小さい頃から魔法の練習をしていたのだ。


選別は次にキュリオスの番になる。

キュリオスが静かに深呼吸を一度し、

古代語で呪文を唱えた。


今までの生徒と同じように鏡に波紋が起こる。

そして、不意に波紋が収まり、中から帽子が出てきた。


つまり、キュリオスは魔導師学科に選別されたのだ。

それをキュリオスは、恐る恐る見つめ、帽子を確認した瞬間、両手を上げて喜んだ。


キュリオスもフレイと同じく魔導師になりたかったのだ。

そして、フレイの方を振り返り親指を上げ、グッドサインを出した。

フレイは微笑みを返す。


選別は進み、ついにフレイの順番になる。

 フレイが静かに古代語の呪文を唱える。


 しばらくして、鏡もその古代語に呼応し、波紋が起こり始めた。


 波紋が大きくなるにつれて、フレイの鼓動も早く脈打つ。

 

 魔導士の帽子よ来い!


 フレイがじっと鏡を見つめる。


 波紋が鏡からあふれんばかりに大きくなる。


 それほど大きな時間はかかっていなかったが

フレイにとっては、永遠とも思える時間がかかっているように感じた。


 波紋が大きすぎて鏡から何かが漏れると思った瞬間。

ふっと波紋が止む。


 全ての時が止まったような感覚がフレイを包む。


 何も聞こえない。何も感じない。


 フレイはそう思った。


 その瞬間、鏡からふっとそれが現れた。


 フレイは、それを見た瞬間、足から崩れ落ちそうになる。


 何故だ。そんな馬鹿な。


 フレイは率直にそう思った。


 なんと鏡には、フレイの腰に剣が携えるように浮かんでいたのだ。


 フレイは、ぶるぶる震える足を必死で抑え込みながら

理由を考えた。


 しかし、考えても考えても答えは出ない。

選別の時間〈とき〉は、神々の囁きと呼ばれる解析不能の未知の石から出来ているのもあって

人間では、その選別の理由は分からない。


 それはフレイにも分かっているはずだった。

だがフレイには、全く納得が出来なかった。

父親が偉大な魔導士であったのもあるが、祖父も曽祖父も、魔導士だったのだ。


 つまり、フレイの家系は魔導士の家系だった。


 それもあり、フレイには、その選別がにわかに信じる事が出来なかった。


 キュリオスもそのフレイの異様な雰囲気に気づき、鏡を遠目で見て、鏡に剣が浮かんでいる事が分かると

口をあんぐりと開けてしまった。


 ダンボラスは、フレイのその選別を見ると眉毛をピクリと動かした。

 カーロスはちらっとフレイを見る。


〈蛇喰いの魔導士〉ユルガロフ・トルエンは目を細めた。


 フレイは、もう一度鏡をしっかり見つめ

鏡に剣が浮かんでいるのを確認すると

ゆっくりと魔剣士学科の生徒が並んでいる場所へ歩いていく。


 しっかりとした足取りで、一歩ずつ、この選別を受け入れるようにフレイが歩く。


 キュリオスはそんなフレイを見つめつつ、なんとも言えない気持ちになっていた。

 

 フレイは、魔剣士の列に並び、キュリオスを見る。

キュリオスは不安そうな顔でフレイを見ていた。

フレイは、キュリオスに向かい、ふっと笑みを湛えると

胸の前で拳を作った。


 そのサインはキュリオスは魔導士学科、フレイは魔剣士学科を認め

そして決定した瞬間だった。

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