表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

保存食

『初心者でも腐らせない保存食入門』


肉を持った笑顔のおじさんが表紙・・・


「読む気なくなる・・・」


『そこはそうじゃな』


「腐らせない・・」


『おぬし向けじゃな』


「腐らせましたしね」


俺はページを開いた。

最初の一文。


> 肉は放置すると腐ります。


「それはそう」


『三日放置してたじゃろ?』


「熟成させたと」


『ほう?熟成じゃと?』


「・・・・」


よし本読もう。

本によるとこの世界で初心者ができる保存方法は、主に三つ


- **塩漬け**

- **干し肉**

- **燻製**


さらに魔法をつかうなら


- **乾燥魔法**

- **低温保存魔法**

- **保存箱の作成**


などもあるらしい。


「低温保存魔法! 冷蔵庫じゃん!」


『今のおぬしには無理じゃな』


「初心者でもって書いてあるのにできないとは」


『あくまで〝肉″の初心者向けじゃな』


「なるほど」


今の俺に現実的なのは

塩漬けか干し肉。

もしくは燻製。


「燻製って憧れるけど、道具いるよな」


『倉庫にあるぞ』


「あるんかい」


『生活に必要なものは大体あると言ったじゃろ』


「風呂は?」


『ない』


「なんでそこがない・・・」


『元の世界でも風呂は普通ではないじゃろ』


「日本人ですし」


『特殊な人種じゃの』


いや、おかしくない。

風呂は文明の頂点だ。



本によれば、最も簡単なのは塩漬けらしい。

肉に塩をまぶして、水分を抜いて腐敗を遅らせる。


「塩?」


俺はキッチンの棚を開けた。

そこには、小さな壺があった。

中身は塩。


「たりなっ」


普通の家庭用くらいの量しかない。

エルダービッグボアの肉を保存するには足りなすぎる。


『倉庫にあるぞ』


「ありましたっけ?」


俺は倉庫へ向かった。


例の食べ物生成箱の横。

壁際に木箱がいくつか積まれている。


昨日までなかったような?


『あったぞ』


「ですか?」


『うむ』


いや絶対今出したぽい・


ピカッ。


「塩ありがとうございます

 あとカミナリ反対」


空の光は消えた。


慎重に木箱を開ける。

中には、袋詰めの塩が大量に入っていた。


「すご!」


さらに別の箱には、


- 香辛料

- 乾燥ハーブ

- 麻紐

- 木製の保存容器

- 金属製のフック

- 清潔な布

- 薄い木板


が入っている。


「準備よすぎる……」


『親切じゃろ?』


性格以外は・・


ピシャァァン!


「ぎゃあああああ!」


倉庫の中に雷が落ちた。

一瞬、視界が白くなる。

俺は床に倒れた。

ビリビリと


「……カ・ミナ・リ・はん・たい・・」」


『おぬしが悪い』


本にもどろう

まずは肉を洗うために

井戸へ切り分けた肉を運んだ。


肉は大量にある。

大量というか山だな

肉の山。


「これを一人で?」


『ほかにだれか見えるのか?』


「手伝ってくれたりは?」


『十分アドバイスしちょるじゃろ?』


「まぁ・・」


洗うか・・

この井戸水は多少の怪我を癒すって言ってたけど

肉洗うのに使っていいのかな?


『問題ない。むしろ鮮度維持に少しよい』


「すごい井戸」


『わし作じゃからな』


「さす女神!」


めんどくさ・・


ピカッ。


「褒めてます!!」


光は消えた。

危ない。


洗った肉を薄めに切る。


「また切るのか……」


昨日一日中切っていたのに。

今日もまた切る。


俺の異世界生活、ほぼ肉関連では?


「勇者じゃなくて肉屋スタートなんですけど」


『職業を肉屋見習いにするか?』


「やめてください」


『似合うぞ』


「狩人見習いとかにしてください」


『何か狩ったか?。それは罠でも弓でもなく枝じゃし』


「枝で巨獣倒したってすごく強そう?」


『事故じゃろ』


「否定できない」


俺は解体ナイフを取り出し、魔力を薄く流す。

昨日より少しだけ感覚がわかる。

刃に魔力を込めすぎない。

薄く。

均一に。


「よし……」


ザクッ。


肉が切れる。

昨日より上手く切れたか?


「お?」


もう一枚。


ザクッ。


「やっぱり上達してる?」


『あれだけ切ればの』


「たしかに」


俺は黙々と肉を切った。


厚めのものは塩漬け。

薄めに切れたものは干し肉か燻製用。

筋が多い部分は後で燃やそう。


淡々と

切る。

分ける。

塩をまぶす。

布の上に置く。


「……これ、完全に仕事だな」


『働けてよかったの』


「異世界に来てまで・・・」


大きめに切った肉は、木箱に塩を敷き詰め、その上に並べる。

さらに上から塩。


肉。

塩。

肉。

塩。


「これ、塩めっちゃ使うな」


『腐るよりはよかろう』


「まあ……

 そういえばこの世界では潮は普通に流通してるんです?」


『精製塩ではないがの』


塩漬け用の箱を三つ作った

だがまだ肉は残っている。


「エルダービッグボア、でかすぎ……」


『エルダーじゃからな』


「エルダーはいやだー・・・」


ビシャァァン


これはカミナリしょうがない・・俺が悪い。


『せめて口に出さなければの』


「つい」


まだまだ肉はある。

次は干し肉にするか。


本によると

風通しのいい場所で

虫が寄らないように網や布で覆って干す。


「虫……」


俺は腐肉蝿を思い出して顔をしかめた。

絶対に寄せたくない。


倉庫から木枠と細かい網を持ってくる。

簡易干し棚のようなものを組み立てる。


「こんなのまであるんだな」


『便利じゃろ』


俺は本を見ながら

庭の結界内で風通しのよさそうな場所に干し棚を設置。


そこへ薄切り肉を並べる。

塩とハーブを軽く振る。


「なんか、それっぽい」


『それっぽいの』


「食べられるかな」


『失敗すると腹を壊すぞ』


「幸運12なんですけど?」


『おもしろくなるとよいのw』


「・・・」


慎重にやろう。

異世界での腹痛は怖い。

それ以上にこの女神に笑われるのもやだし。


最後は燻製。


倉庫にあった金属製の大きな箱。

煙突つき。

中にフックがある。


「これ、燻製器ですよね?」


『そうじゃな』


「風呂はないのに……」


『しつこいな』


燻製器の下部に木片を入れる。

燻製用の木材まであった。

香りのよい木らしい。


「至れり尽くせりだな……」


『じゃろ?』


「性格以外は」


ピカッ。


「言いません! 続きは言いません!」


光は消えた。

学習する男である。

俺は火魔法で慎重に木片へ火をつけた。


「ファイア」


ぽっ。


小さな火がつく。

すぐに炎を強くせず、煙が出るくらいに調整する。


これが難しい。


火が強いと燃えすぎる。

弱いと消える。


「火加減って魔法でも難しいんだな」


『料理と同じじゃ』


燻製器から煙が立ち上る。

肉の匂いが少しずつ変わっていく。

生臭さではなく、香ばしい匂い。


「うまそう」


その時、森の方から低いうなり声が聞こえた。


「……」


結界の外。

木々の間に、エルダーフォレストウルフが数匹いた。

さっきより近い。


『肉の匂いにつられたの』


「焼却して臭い減らしたのに、今度は美味そうな匂いで呼んでるんですけど」


『世の中ままならんの』


「他人事!」


狼たちは結界に近づくが、透明な壁に阻まれているようにそれ以上入ってこない。

ただ、こちらをじっと見ている。

黄色い目。

低い唸り声。

牙。


「……怖いな」


『一匹一匹はエルダービッグボアより弱いぞ』


「群れるんですよね?」


『群れるの』


「ですよね」


俺は燻製器の前でナイフを握った。

手が少し震える。

初日に死にかけた記憶がよみがえる。


あの突進。

痛み。

息ができない感覚。


「……まだ外には出たくないな」


『なら結界内で力をつけることじゃ』


「ですね」


今回は素直にそう言えた。

修行したいわけじゃない。

英雄になりたいわけでもない。


ただ、あの狼が結界を越えてきた時に、何もできず食われるのは嫌だ。


「快適に引きこもるためにも、防衛力が必要ってことか」


『そうじゃな』


夕方。


ようやく肉の処理が一段落した。


「はぁぁぁ……」


俺は地面に座り込んだ。

今日も疲れた。

昨日も疲れた。

異世界に来てから、まともに楽をした記憶がない。


『三日寝てたじゃろ』


何も言えない・・


---


「達成感少々」


『少しはあるじゃろ』


「まあ……ありますね」


肉を保存した。

残骸を焼いた。

火魔法を使った。

洗浄魔法を覚えた。

身体強化も少し使えた。


昨日の俺よりは、少しだけマシになった気がする。


『そういえばステータスみるのじゃ』


ステータスの端に〈NEW〉の文字


- 生活魔法適性 Lv1

- 洗浄魔法を習得しました

- 火魔法 Lv1 を習得しました

- 身体強化 Lv1 を習得しました

- 解体補助 Lv1 の熟練度が上昇しました

- 保存食作成 Lv1 を習得しました


「保存食作成!これはめんどくさい作業なしで作れるように!」


『レベルがあがればじゃな』


「やめてください」


ちょっとテンション上がるな。



燻製器から一切れ取りだす。

表面は色づき、香りがいい。

念のためフライパンで軽く焼く。

じゅう、と脂が溶ける。


「うまそう……」


一口食べる。


「……うまっ」


煙の香り。

濃い肉の味。

塩気。


少し硬い。

ちょっと塩が強い。

でもうまい。


「これは成功では?」


『そうじゃな』


「褒めました?」


『気のせいじゃ』


俺はもう一切れ食べた。

疲れた体に塩気が染みる。


異世界にきて

魔獣を倒し、解体し、焼却し、保存食にした。


流れだけ見るとすごい。

実態はだいたい半泣きだったが。


『寝てたのと、肉腐らせたのは記憶から消去しとるの』


「明日はやすみ!」


『魔法の練習じゃ』


「えぇ……」


俺は燻製肉を噛みながら、窓の外を見た。

結界の外で、狼たちがまだこちらを見ている。

黄色い目が、夕闇の中で光っていた。


「……やっぱり、休んでばかりもいられないか」


『ようやくわかってきたようじゃな』


「違いますよ」


俺は小さくため息をついた。


「安心して休むために、仕方なく頑張るだけです」


『それで十分じゃ』


すこしやさしく感じるその言葉をちょっとかみしめ。

もう一切れ燻製肉を口に放り込んだ。


魔女でもなれると女神っぽく・・・

ぴしゃぁぁぁあああん!!


『こりないやつじゃのw』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ