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臨時PT出発

「臨時パーティ、面倒事はワンセットで」


「「「一緒に来てください!!」」」


三人の声が、ギルドの掲示板前にきれいに揃った。

健一は、懐の手紙の重みと、目の前の圧を同時に感じながら、もう一度掲示板の依頼票を見直した。


『――複数ランク混合パーティ募集。遠方産の薬草・鉱石採集。単独Eランクでの参加は不可――』


「……つまり、君たちだけじゃ受けられない依頼なんだ」


「そうなんです」


「俺が入れば条件満たすと」


「はい」


「随分はっきり言うね、君たち」


ニナが、手帳を閉じたまま頷く。


「回りくどくしても、健一さんには通じないので」


「見抜かれてる時点でもう負けてる気がする」



健一はしばらく依頼票を眺めた。

薬草・鉱石採集。期間、往復五日。混合ランクなら護衛の頭数も揃う。

危険度としては、ワイバーンの時に比べれば、だいぶ大人しい部類だろう。


(旅立つ前に、ちょっとくらい面倒見てから行くのも……)


そこまで考えて、自分の思考に苦笑した。

完全に、保護者の理屈だった。


「……で、ロイ」


「はい!」


「なんでさっきから、そのお弁当を俺の目の前でチラつかせてるの」


ロイの手には、いつもの保存食の包みが、心なしか前回より増量されている。


「これもあります!」


「これもって、何段目」


「三段目です」


「そのお弁当で俺を釣ろうとしてない?」


ロイが、一瞬だけ視線を泳がせた。


「……してます」


「素直か」


「健一さんに嘘ついても、どうせバレるので」


「その学習能力、依頼にも活かして」


トマが横から口を挟む。


「もう活かしてるつもりなんですけど」


「まだ足りない部分に俺が呼ばれてる自覚は持って」


三人が、揃って神妙な顔で頷いた。

その息の合い方だけは、もう新人のそれではなかった。


結局、健一は依頼票にサインをした。

ミリアが受付でにこやかに書類を差し出してくる。


「今回もよろしくお願いしますね」


「書類、また多いですね」


「混合パーティなので、いつもより一枚多いです」


「一枚くらい何とかしてほしい」


「一枚は誤差です」


「誤差の感覚がおかしい」


出発は翌朝、東門前。

集合場所に着くと、すでに三人が待っていた顔ぶれとは別に、見慣れない三人の大人が立っていた。


一人は、やたら肩幅の広い大男。

腰の剣より、腕の太さのほうが目立つ。


一人は、年季の入った革鎧を着た女性。

目つきに、余計な力みがない分だけ、逆に只者ではない空気がある。


一人は、口元を歪めて欠伸をしている弓使いの男。

態度の悪さが、もはや癖のように染みついている。


「お前らが噂の新人組か」


大男が、開口一番そう言った。


「バルクだ。今回のリーダーをやる」


「レイラ」


女性が短く名乗る。


「ジーク。よろしくな、お子様たち」


弓使いが、興味なさそうに片手を上げた。


三人分の自己紹介は、それだけで終わった。

値踏みの視線も、長話も、特に挟まれない。


(あっさりしてるな)


健一が意外に思っていると、バルクの目が、初めて健一のほうへ向いた。


「で、お前が例の追加要員か」


「はい、佐藤健一です」


「ふん。噂はいろいろ聞いてるが、まあ、現場で見りゃわかる」


それだけ言うと、バルクはさっさと隊列の指示に移った。

噂への興味は、それきりのようだった。


(あっさりしてる、というより……仕事中心の人たちなのかもしれない)


そんな健一の隣で、ニナがそっと呟いた。


「今回の三人は、探る隙がなさそうです」


「探る気だったんだ」


「観察は趣味です」


「趣味の範囲が広すぎる」


出発してしばらく、街道を離れ、採集ポイントへの脇道に入る。

先頭を歩いていたバルクが、ふと足を止めて振り返った。


「よし、新人組。ここから先頭を任せる」


「「「え」」」


ロイ、トマ、ニナが、揃って固まった。


「見習いなら見習いらしく、危険を先に嗅ぎ分ける訓練だ。安心しろ、後ろは俺たちが見てる」


言葉自体は、筋が通っているように聞こえた。

だが、健一の視線は、バルクの足元――正確には、その少し先の地面の色に吸い寄せられていた。


土の色が、周囲よりわずかに新しい。

落ち葉の並びも、不自然に整いすぎている。


「……バルクさん、そこ」


「あ?」


「それ、罠っぽいです」


「はっ、新人がそう見えるだけだろ。この程度の道で――」


言い終わる前に、バルクの足が、その一歩を踏み抜いた。


「ぬおっ」


ずぼっという、間の抜けた音とともに、バルクの姿が地面に消える。

落とし葉に偽装された、そこそこ深さのある落とし穴だった。


「……あれ」


健一は、穴の縁からバルクを見下ろした。


「言ってましたよね、俺」


「……言ってた、な」


穴の底から、くぐもった声が返ってくる。


「新人がそう見えるだけだと」


「悪かった」


「大丈夫ですか」


「プライドが」


「怪我よりそっちが心配なタイプなんですね」


健一は、無言でロープを下ろしながら、思わず口元が緩むのを止められなかった。

まるで、目の届く範囲にいる子どもが、また目を離した隙に何かやらかしたような、そんな感覚だった。


(三人組の心配してたはずが、いつの間にか対象が増えてる)


その顔は、我ながら完全に保護者のそれだった。


隣で一部始終を見ていたレイラが、腕を組んだまま、静かに口を開いた。


「……アンタ、新人よりギルドマスター拾ってきそうな顔してるね」


健一は、思わず動きを止めた。


「よく言わ……」


言いかけて、途中で止める。

ここしばらく、封印していたはずの返しだった。


「……いえ、なんでもないです」


「今、何か言いかけなかったか?」


「気のせいです」


レイラが、片眉だけ上げて健一を見た。

それ以上、深くは追及してこない。

その引き際が、噂を鵜呑みにしない現実主義者らしい、乾いた距離感だった。


穴から這い上がってきたバルクが、泥を払いながら咳払いをする。


「……先頭は、俺がやる」


「さっきと言ってること違いません?」


「訓練は中止だ」


「早くないですか」


「早い方がいい訓練もある」


ジークが、遠くから欠伸混じりに茶々を入れてきた。


「リーダー、それただの結果論だぞ」


「うるさい」



結局、その日の採集ポイントまでは、バルクが先頭、健一がすぐ後ろという並びに落ち着いた。

ロイたちは、少し離れた位置から、興味津々にその様子を眺めている。


「健一さん、なんかもう副隊長みたいですね」


「そんな役職、頼んでない」


「でも、なってます」


「なりたくてなってない役職のほうが、世の中多い気がする」


トマが、感心したように呟いた。


「大人になっても人生って、そんな感じなんですか」


「前世からずっとそんな感じだよ」


「前世?」


「……いや、なんでもない」


うっかり漏れた一言に、健一自身が一番驚いていた。

幸い、トマはそれ以上追及せず、視線はすでに次の話題に移っていた。


(危なかった……気をつけないと)


日が傾き始める頃、一行はようやく目的の採集ポイントの手前、開けた高台にたどり着いた。

バルクが、周囲を見渡してから短く告げる。


「今日はここで野営だ。採集は明日から」


「「「了解です!」」」


三人組の返事の良さに、レイラがわずかに口の端を上げた。


「元気だけはあるね、坊主ども」


「元気しかないので」


ロイが、悪びれもせず即答する。


火をおこす準備が始まる中、健一は懐の手紙にそっと手を当てた。


(この依頼が終わったら、そろそろ……本当に、旅立つ準備をしないとな)


空を見上げると、夕焼けが、いつもよりずいぶん長く尾を引いていた。

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