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成長

ドラゴンがわずかに右の前脚を動かした。

巨大な爪が、視界いっぱいに広がる。

振り下ろし。

速い。

その巨体からは想像できない速度。


爪が空気を裂き、遅れて轟音が鳴る。

目で追ってから避けるのでは間に合わない。


ドラゴンの肩の動きと地面に伝わる重心の変化を感じた瞬間

すでに左へ飛んでいた。


直後、俺のいた場所が消えた。

地面が爆ぜる。

土砂と岩片が弾丸のように飛び散る。

破片のいくつかが頬をかすめる

俺は低く姿勢を落とし、爪の外側へ回り込む。


ドラゴンの前脚は大木のように太く

その鱗は硬い

普通に斬ってもダメージは通らない。

鱗の上からでは刃が弾かれる。

狙うなら、関節。

あるいは鱗の継ぎ目。


そこを狙い俺が踏み込んだ瞬間

ドラゴンの尾が横から迫る。


木々をなぎ倒しながら迫る尻尾

単なる横なぎなのに範囲が広すぎる。


上に跳べば空中で狩られる。

後ろに退けば追撃がくる。

俺は地面を蹴り、尾の向かって走る。


尾が迫る。

視界が黒い壁で埋まる。

衝突の直前、俺は体を限界まで低く沈め

尾の付け根と地面とのわずかな隙間に滑りこむ

尾が頭上を通過する。


風圧だけで背中が裂けるように痛い。

服が破れ、皮膚が焼けるように擦れる。

それでも抜けた。


抜けた瞬間、俺は跳ね起きる。

ドラゴンは横なぎの回転のまま左足で後ろ回し蹴りを放つ

俺はそれを左に交わしすかさず懐に入ろうとする


巨体の下。

普通なら安全地帯に思えるが

ここは一番危険な場所。


脚で踏まれれば終わり。

体を押し潰されても終わり。

首を曲げられれば噛みつきが届く。


それでも、そこに入らなければ攻撃は届かない。

それを見たドラゴンが息を吸った。

それだけで、周囲の魔力が引き寄せられるのが分かった。


空気が重くなる。

肌が粟立つ。

まずい。

俺は腹の下から抜けるために全力で走る。


次の瞬間、背後が白く染まった。

熱風が背中に迫る。

地面が溶け、岩が赤く光り、空気そのものが燃える。

ただの炎ではない。

吐き出された力が、通ったものすべてを焼き尽くしていく。


まともに受ければ、灰も残らない。

俺は振り返らない。


背中側に薄く魔力を広げ、熱を逸らす。

同時に背中側に土魔法で、壁を作る。


だが、壁は一瞬で焼けた。

焼けた土が赤い雨のように降ってく。

肩に当たった一粒が、肉を焦がした。

痛い。

熱い。

止まったらブレスに飲み込まれる。


俺は斜めに進路を変え、炎の流れから外れる。

熱の縁をかすめながら、ドラゴンの右側面へ回り込む。


ブレスが止まり

ドラゴンの首が追ってくる。

速い。

まるで俺の逃げ道を先に読んでいるようだ。

いや、実際に読まれている?

と思える動きで攻撃が追ってくる。

ドラゴンの咢を右に躱しながら

俺は剣を握り直した。

魔力を動かす。

足を運ぶ。

刃を置く。

重心をずらす。

衝撃を逃がす。


さらにドラゴンの爪が横から薙ぐ。

持っている剣の刃を斜めに合わせ

爪の力を流す。

ほんのわずかに軌道をずらし

自分の体をその隙間へ滑り込ませる。


爪が肩をかすめた。

肉が裂け、血が飛ぶ。

しかし骨は無事。

それで十分。


俺はそのまま前へ出て

剣を振るう。

鱗に当たる。

甲高い音が響き、火花が散った。


浅い。


刃が通らない。

ドラゴンの目がこちらを向く。

金色の瞳の奥に、わずかな笑みがあった。

瞬間、ドラゴンの前脚が跳ね上がる。


叩き潰し?

いや

そのまま突き。

巨大な爪先が、槍のように伸びる。

左へ避けようとして、途中で動きを止る。


違う。

左は罠だ。


ドラゴンの尾がすでに回り込んでいる。

ならば前。


俺は爪に向かって踏み込んだ。


迫る爪の側面に剣を当てる。

火花が散る。

腕がしびれる。

そのまま体をひねり、爪の上を滑るように越える。

足場は一瞬。

爪の表面を蹴る。

体が宙に浮く。


その瞬間、ドラゴンの翼が動く。

暴風。


ただ羽ばたいただけで、森の空気がまとめて殴りつけてきた。

俺の体は空中で吹き飛ばされる。


姿勢が崩れる。

上下が分からなくなる。

視界が回る。

ドラゴンの首が伸びてきた。


牙。

噛まれれば終わり。


俺は空中で魔力を足に集中させる

何もない空間を蹴るように体勢を変える。

完全には避けきれない。


牙が右腕をかすめる。

皮膚が裂け、骨まで響く衝撃が走った。

それでも腕は残った。


俺はドラゴンの顎の下へ潜り込む。

剣を振るう。

狙いは喉元。


だが、ドラゴンは首をわずかに引く。

刃は鱗を削っただけだった。

火花が散る。


同時に、ドラゴンの右手が下から跳ね上がってくる。

避けられない、

直撃を剣で防ぐ。


重い。

山に殴られたような衝撃だった。


腕の感覚が消える。

体が上へ飛ばされる。

肺の空気が全部抜ける。


空中に放り出された

そこにドラゴンの尾が迫る。

速すぎる。

避ける余裕はない。


俺はなんとか体を捻り

剣を盾に肩口で受け尾の角度を変えようと。

全身に衝撃が走った。


骨が軋む。

視界が白く弾ける。


俺は岩場へ叩きつけられた。

岩が砕ける

一瞬、意識が飛びかける。


だが、歯を食いしばって体制を戻す。

倒れたら終わりだ。

ドラゴンは待ってくれない。


俺は砕けた岩の中から立ち上がる。

右腕が重い。

肩から血が流れている。

肋骨も何本かひびが入っているかもしれない。


でも、脚は動く。

剣も握れる。

なら、まだいける。


ドラゴンが俺を見下ろす。

強者の余裕か

少しの間が開く

息を整える。


痛みはある。

恐怖もある。


痛みは体の状態を教えてくれる。

恐怖は危険を知らせてくれる。


恐怖や痛みを押し殺す必要はない。

ただ、飲み込めばいい。


俺は地面を蹴った。

真正面から走る。


ドラゴンの瞳が細くなる。


当然、真正面から行けば潰される。

だからこれは誘いだ。

ドラゴンの爪が振り下ろされる。


俺は直前で進路を変える。

横ではない。

斜め前。


爪の内側へ入る。


衝撃波が背中を叩く。

体が浮きかける。

俺は空いた左手を地面に向けた。

土魔法で土の弾丸を飛ばす

ドラゴン対しては軽い

目くらまし程度。


だが、視界を完全に塞ぐ必要はない。

一瞬、輪郭をぼかせればいい。


その一瞬で、俺は姿勢をさらに低くする。


ドラゴンの視線が、土煙の中の俺の残像を追った。

影魔法で分身を作りおとりにする

その隙に、俺は足元を回り込む。


狙いは後脚。

前脚ほど警戒は厚くない。

剣を振るう。


やはり鱗は硬い。

だが、ここは何度も観察した場所だ。


歩く時、ほんのわずかに鱗が開く箇所がある。

俺はそこへ刃を差し込むように当てる。

刃に薄く鋭く魔力を乗せる

それでも

深くはない。


だが、今までで一番通った。

ドラゴンの体がわずかに揺れる。


後脚が跳ねた。

蹴り。


俺は体を倒し直撃を避ける

風圧で地面を転がる。

背中が削れる。

口の中に血の味が広がる。


それでも転がりながら立ち上がる。

ドラゴンの尾が追ってくる。


今度は読めていた。


俺は跳ぶ。

尾を越える。

その瞬間、翼が再び動く。


暴風が来る。

分かっていた。

風魔法で空気の流れをゆがめる

自分の周りを避けるように空気の幕をつくる

それでも暴風に体が流される

魔法により暴風を流しつつ

身体強化を最大限まで引き上げる

無理やり体をささえる。

吹き飛ばされずにたえた。

俺は岩壁を蹴り、ドラゴンの首元へ一直線に飛ぶ。


ドラゴンの首元には、古い傷跡があった。

初めて見た時から気になっていた場所だ。

硬い鱗に覆われた体の中で、そこだけはわずかに鱗の並びが乱れている。

もちろん、弱点と呼べるほど甘いものではない。


ドラゴンもわかっている。

瞳が俺を捕らえる。


首が動く。

爪が迫る。

逃げ道はほとんどない。

しかしここで届かなければ負ける

風魔法で後ろから体をおし速度を上げる

土魔法の弾丸をあて爪での攻撃を遅らせる


ほんの一瞬だけ右前脚の動きが遅れる。

やっとできたほんのわずかな隙。

俺は剣を前に出した。

それでも間に合わない

ドラゴンの爪が迫る。

剣がぶつかる。


衝撃。


腕の骨が軋む。

指が開きそうになる。

だが、離さない。

剣を押し込むのではなく、あえて力を抜き。

剣と爪の間に水魔法で水流を作り力の方向をそらす

自分の体の動きを身体強化と風魔法のブーストで制御していく

やっと魔法と体の使い方が重なってきた


さらにドラゴンの爪にしたから土魔法を当て上に大きくそらす

首元があく。

爪の衝撃を抑えるように回転しながら

ドラゴンの首元にとびかかる


古い傷跡。

乱れた鱗の隙間。

そこへ、剣の刃先を滑り込ませた。


浅く。

皮一枚。

血が一筋、浮いた。


次の瞬間、俺は吹き飛ばされた。

ドラゴンが首を振っただけだ。

ただそれだけで、俺の体は岩場を横切り、地面を何度も跳ね、最後に大岩へ叩きつけられた。

息が止まる。

視界が暗くなる。

背骨が折れたかと思った。

全身が痛い。

どこが痛いのか分からないくらい痛い。


俺は大岩にもたれかかりながら、ずるずると地面に落ちた。

指が震える。

剣は遠くに落ちている。


それでも、俺は笑っていた。


「……入った」


小さな声だった。


ドラゴンは動かなかった。

巨大な体を低く構えたまま、俺をじっと見ている。

金色の瞳が細くなる。


怒っているのか。

驚いているのか。

それとも、楽しんでいるのか。


しばらく沈黙が続いた。


森の音が戻ってくる。

折れた木が倒れる音。

焼けた岩が冷えてひび割れる音。

遠くへ逃げた魔物たちの気配。


やがて、ドラゴンがゆっくりと首を上げた。

首元に、細い赤い線がある。

俺の剣がつけた傷だった。


ドラゴンはその傷を確認するように血をぬぐう

喉の奥で低く笑った。


『……見事だ、人間』


「一本、ですか」


『ああ』


ドラゴンは重々しく頷いた。


『一本だ』


その言葉を聞いた瞬間、体から力が抜けた。

俺はその場に仰向けに倒れ込む。

空が見えた。

森の奥の空は、やけに青かった。


ドラゴンが近づいてくる。

一歩ごとに地面が揺れる。


『生きているか』


「たぶん」


『返事ができるなら十分』


「どらさんの訓練、毎回ギリギリなんですよ」


『回復魔法があるから死ななきゃよかろう』


「いや・・痛いんですよ」


『そうか、痛みは大事だな』


「その基準、絶対におかしいです」


どらさんは楽しそうに喉を鳴らした。

俺は痛む体を起こそうとして、失敗した。


肋骨が痛い。

肩も痛い。

右腕は感覚が鈍い。

地面に寝たまま自分の体に魔力を流す。

傷口を塞ぐ。

骨のずれを戻す。

裂けた筋肉を繋ぐ。


治しているのに、治す過程が普通に痛い。


「ぐっ……」


『情けない声だな』


「痛いものは痛いんです」


『だが、よく届いた』


その声には、さっきまでのからかうような響きがなかった。

俺は少しだけ目を開け、どらさんを見る。


巨大なドラゴンは、静かに俺を見下ろしていた。


『最初に会った頃のお前なら、我の視線だけで膝をついていた』


「実際、つきましたね」


『今は首に刃を届かせた』


「浅かったですけどね」


『深さではない。届かせたことに意味がある』


どらさんはそう言った。

俺は息を吐いた。

森狼と戦って、井戸まで這っていったあの日。

あの時の俺は、まさかこんな日が来るとは思っていなかった。


巨大なドラゴンと戦い

吹き飛ばされ、骨を軋ませながら、それでも一本を取る。


人生、何があるか分からない。

いや、これは異世界だからか。


しばらくして、俺はようやく立ち上る。

まだ体は重い。

だが、歩ける。


どらさんは首元の傷を気にするでもなく、岩場に腰を下ろしていた。


「どらさん」


『なんだ』


「俺、そろそろ森を出ようと思います」


どらさんの金色の瞳が、こちらを向いた。


『ほう』


「森での生活も楽しいんですけどね」


それは本心だった。


畑を作り、家を広げ、燻製を作り、訓練をして、魔物と戦って。

最初は怖かった森も、今では落ち着く場所になっている。


でも。


「せっかく異世界に来たんで、色々見て回りたいんです」


『人の住む場所へ行くのか』


「まずはそこからですね。町とか村とか、街道とか。そういうのを探してみようかなって」


『軽いな』


「軽い気持ちで行くくらいが、ちょうどいいかなと」


『世界を見て回る旅を、軽い気持ちで始めるか』


「時間だけはありますから」


どらさんはしばらく黙っていた。

そして、低く笑った。


『クハハッ、ならば行け。森の外を見てくるといい』


「止めないんですか?」


『また帰ってくるのだろう?』


「まぁそのうち?」


『ただし、人の世は面倒だぞ』


「魔物よりですか?」


『時にはな』


「それは嫌だなあ」


『だが、お前なら死にはすまい』


「そこは安心して送り出すところなんですね」


『死なぬなら十分だ』


どらさんらしい言い方だった。

俺は苦笑しながら、森の出口がある方角を見る。

まずは拠点へ戻ろう。

旅の準備をして、人の住む場所を目指す。


森狼に怯えていた俺は、もういない。

けれど、あの日の自分がいたから、今の俺がいる。

そして今度は、この森の外へ行く。

異世界を、見て回るために。

毎日更新はなかなかむずかしいですね。できるだけ間隔あかないように更新していきます。

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