15話 ボス登場
──そうして試験は三日目……最終日を迎えた。
密林全体を揺るがす轟音が響き渡った。地面が揺れ、木々から鳥が一斉に飛び立っていく。
「わわっ!? なに地震!?」
モンスターと戦っている真っ最中だったハルは思わぬ自体に身体を低くし、キョロキョロ周りを見回す。
直後、密林全体に響き渡る運営の通知が届いた。
『試験参加者に通達。ダンジョンボス『ストーン・ギガンテス』が出現。逃げ切れば生存ポイントを獲得。討伐に成功すれば高得点を付与する』
その言葉を聞いて、ハルは目を見開いた。
「ストーン・ギガンテスって……!」
『超大型ゴーレムです。攻撃、防御ともに非常に強力で兵器として運用される場合もあります。……到底、学園の一年生に挑ませるモンスターとは思えませんが……』
「逃げ切れば生存ポイントって言ってたから、要するに逃げろってことじゃない?」
『……肯定。それならある程度納得ができます。……それにしたってとは思わなくもないですが』
いぶかしむアリシア。それに対してハルは別のことを考えていた。
(倒せば高得点……)
ここまでの試験の成果を振り返る。自分が今まで得たポイントを計算する。
──まだ、十分じゃない。
初日こそハルは雑魚と思われていたので集中的に狙われ、それを返り討ちにしてポイントを稼ぐことができた。
だが二日目ともなると迂闊に挑んでくるものは激減し、十人も倒した頃にはむしろ他の生徒に避けられるようになっていた。
今の時点でも十分高ポイントだとは思うけど、これまでのことを考えるともう少し稼ぎたい。
でも、ストーン・ギガンテスを倒せれば確実に合格できるはずだ。
(それに……)
胸の奥で、もう一つの想いが燃えていた。
アリシアと出会って、魔法が使えるようになった自分。
死ぬほどの訓練を積み重ね、同級生相手に無双できるようになった自分。
挑んでみたい。今の自分がどこまで行けるのか、確かめてみたい。
もしもそんなに強いモンスターを倒せたなら、自分はやっと、堂々と胸を張って自分を誇れるようになると思う。
『マスター。ストーン・ギガンテスの位置を特定しました。ここから五分程度の距離です』
「あ、う、うん」
アリシアの言葉に意識が現実に戻る。
「えっと、それじゃあ……」
『それではマスター。逃げますか? それとも挑みますか?』
あっさりとそう言われて、ハルは思わず目をぱちくりさせた。
「挑んでいいの?」
『リスクは大きいです。おそらく、逃げながらポイントを稼ぐ方が確実でしょう』
そう言って、ほんの少しアリシアは笑った。
『でも……マスターが挑みたそうな顔をしていたので』
「……えへへ♪ ありがとう。……アリシアも変わったね」
『そうでしょうか』
くすりと笑って、ハルはぎゅっと杖を握りしめた。
足が震えている。けれどこれは武者震いだ。
「よし! それじゃあ行こっか、アリシア!」
『承認。当機の全霊を持って、マスターを支援します』
そうして二人は密林を走り、ストーン・ギガンテスの元に向かった――が。
「……いやでっっっか!!」
ハルは思わず叫んだ。まだそこそこ距離があるのにでかすぎる。
まるで動く山。
三十メートルを超える巨大な岩の巨人が、森を蹂躙しながらゆっくりと前進している。
全身を覆う岩盤には青白く輝く魔力路が走り、ごうん、と一歩踏み出すたびに地面が揺れる。
「ちょ、ちょっと待って……あれ、本当に試験用のモンスター!?」
『過去の試験に関しては当機も情報を集めていましたが、一年生の試験に出されたモンスターとしては間違いなく最強クラスです』
「いや最強クラスとか、もはやそういうレベルの話じゃなくない?」
その時、ギガンテスの頭部がこちらを向いた。見た目の割に感知能力は高いのか、赤く光る眼がはっきりとハルを捉えている。
そして、ギガンテスが地面にうずくまる。何をしているのかと思っていると、地面に埋まっていた巨大な岩を両手で軽々と引き抜いた。
「え」
嫌な予感がしてサーッと血の気が引く。
そのままギガンテスが巨大な岩を振りかぶり、ハルめがけて勢いよく投げつけてきた。
「ちょっ!?」
ズドオォォォォンッ!!!
とてつもない質量が高速で飛来し、地面が抉れ、爆発にも似た衝撃波が発生する。ハルは転がるようにしてどうにか避けたが、余波だけで吹っ飛ばされて地面を転がった。
「わあぁぁぁっ!?」
巻き上げられた土砂にまみれながら、ハルはなんとか立ち上がる。
「待って待って! この距離で見つかるの!? ていうかあんなの攻撃っていうか災害だよね!?」
『マスター! 回避してください!』
「まだ来るの!?」
息つく暇もなく、ゴーレムはすくい取った土を握り固めるとそれを投げつけてきた。
ただの土塊……なんて話じゃない。高速で飛来する土は散弾となってハルがいた辺り一帯を襲う。
「ひいぃっ!?」
咄嗟に近くの岩陰へ飛び込んだ。直後、土砂の散弾が周囲を容赦なく削り取り木々が次々と粉砕される。隠れていた岩も土塊が当たった場所が大きく割れていた。
(これ、まともに当たったら一発でアウトだ……!)
冷や汗が流れるが立ち止まっている時間はない。ハルはギュッと杖を握りしめ、ゴーレムに向かって走る。
「あれだけ大きいなら、当てるのは簡単……!」
狙うは巨大な頭部。あれだけ大きな的なら、外しようがない。
「いっけぇぇぇ!!」
ありったけの魔力を注ぎ込んだ魔力放射が放たれる。光と闇が絡み合った強力な一撃がギガンテスの頭部に直撃。頭部が爆煙に包まれる。
「やった!?」
だが煙が晴れたその先に見えたのは、まったく無傷のギガンテスだった。サーッとハルの顔から血の気が引く。
「いや、いやいやいやいや! 流石に無傷はやり過ぎじゃない!? 今の私の全力だよ!?」
『マスター、どうやら相手は大型の魔力炉心を搭載しているようです。それにより防御魔法も展開している模様』
「で、でも私の魔力放射なら対消滅反応で防御魔法も貫通できるんじゃないの!?」
『出力が違いすぎます。大岩をスプーンで削るようなものです』
その直後、ハルの足元に巨大な影が落ちる。反射的に回避行動を取った次の瞬間、巨大な拳が地面を叩きつけた。
ドゴォォォォォォォン!!
まるで隕石の直撃だ。地面が大波のようにめくれ上がり小規模なクレーターを形成する。ハルは回避したものの、衝撃波だけで数メートル吹き飛ばされた。
「いや無理! これ無理!! どう考えても勝てる気がしないんだけど!?」
『マスター撤退を! 相手の戦力がこちらの想定を完全に上回っています!』
「うわあああぁぁぁぁぁん来なきゃよかったあああぁぁぁぁ!!」
ハルは全力で走り出す。背後からは巨大な岩の拳が何度も振り下ろされ、次々と森が破壊されていく。
†
メイガス魔法学園の試験観戦ホールでも、その状況がスクリーンに映し出されていた。
『なんということでしょう! ハル選手、ギガンテスに追い詰められ大ピンチ! ……いや流石に相手強すぎません?』
『あれは上級生でも危ないレベルだと思いますが……学園側は今年から試験の難易度を上げたのでしょうか?』
観戦していた生徒たちは息をのんでいた。ミルカも悲鳴を上げながらスクリーンを見つめる。
「きゃああぁぁぁぁ!? ハルが死んじゃうぅぅぅぅ!?」
「い、いや、保護魔法があるから死ぬのだけは避けられると……」
隣にいた見ず知らずの男子生徒は、胸ぐらを掴まれて振り回され過ぎて気分が悪くなってきたのか少し青い顔をしていた。
そんな中、教師席のロキアだけが冷静に画面を睨んでいた。
(さて、どうする? フェルシアス……そして、アリシア)




