第四章 その2 『強くなりたければ好敵手も育てよ』
『曲がる』
T町のアイスはよく曲がる。
それは知識として乃花から聞いていたりして知ってはいた。
たが、知識は体験が伴わなければ役に立たない事がある。
わへいの今が正にそれだった。
『なんて繊細な氷なんだ…』
自分が普段乗っている氷が大雑把という訳ではもちろん、ない。
しかし。
石の癖、ラインによる差、ちょっとしたスウィープによる変化。
これらの全てがわへいを悩ませた。
一日、二日、変化について行けず混乱のまま終わる毎日。
普段の実力が全く出せない。
わへいは焦りを感じていた。
「蹴り出したときが4.0でホグホグが14〜15でドローウェイト…」
混乱しながら自分を落ち着かせようとわへいは状況を呟く。
普段の環境であればガードもしくはホグラインまで届かないウェイト。
だがそれで止まるわけでもなくスウィープで伸ばせる。
ラインが少しでもズレたらとんでもなく曲がる。
「強い石はいらん!弱い石で良い。俺が必ず届かせる。俺が必ず目標の場所まで運んでやる」
阿王紳士がスウィープしながら叫ぶ。
そのブラシはしなっているのだから大した力だ。
「お前のスウィープにはパゥワーが足りん。いいか?ブラシをへし折るつもりでパゥワーを込めろ」
「よし、わへい。俺が投げるからお前のスウィープでガード裏のハウス内まで運んでみろ」
御堂がゆっくりとしたウェイトで石を投げる。
「2、3!」
わへいが叫ぶ。
ハウスの中心が7。ハウスの外縁は4。
2、3はフリーガードゾーンの位置に該当する。
「伸ばすぞ!俺達のパゥワーで!最初が肝心だ」
阿王とわへいがスウィープを開始する。
「曲げ!!阿王!Yes!曲げ!」
ハウスの青野が叫ぶ。
曲がりが足りないのだろう。
確かにガードストーンに当たりそうな軌道をしている。
「ぬわぁぁぁ!パゥワー!曲げのパゥワー」
阿王が回転方向に向かって猛烈にスウィープする。
御堂の投げた石は阿王のスウィープに従いぐいぐいと曲がっていく。
ガードに当たる寸前。
御堂の投げた石は文字通り紙一重でガードを躱す。
「躱した!」」
「まだだ!わへい、Yes!パゥワーYes!最後までパゥワーだっ!曲げるぞ!最後が肝心だ!」
『結局最初も最後も肝心なんじゃないか』
というツッコミをしている暇もなく、石は阿王のスウィープに導かれていく。
そしてガードの裏へ。
「はぁ、はぁ、最後、の、一回転の、くるん…ぜぇぜぇ、これだけで勝利を引き寄せる事が…はぁ、はぁ、ある。諦める、な。最後まで」
さすがの阿王も肩で息をしている。
だが、彼が凄いのはチームメイトのどの石に対しても同様のスウィープを行っているという事。
それだけの筋持久力はわへいには、ない。
「確かに凄いパワーだ」
わへいは舌を巻く。
「パゥワー、パゥワーうるさいけど、大したもんだろ?」
松山京が得意げにわへいの肩を叩く。
「お前が自慢するなよ」
苦笑する御堂。
「アイツはね。カーリング始めたのは俺達三人…俺、青野、阿王…の中では一番遅かったんだ。最初は全くダメだったよ。そしたらな。力だけはあるからって。それだけに特化して。磨きをかけたんだ。スウィープ力なら筋トレすればつくからな。アイツは誰の投げた石でもいつも全力でスウィープしてる。アイツがいれば多少のミスはどうということはない。俺達は安心して投げられる」
個々の力もあるがチームとしての絆が強い。
「しかしここまで僕に色々と教えて良いのかい?」
わへいは松山に誘われこの合宿に参加している。
とても良い経験を積んでいる。
一方で青野達のメリットになっているのか?
わへいが教わる事は山ほどあるがわへいから与えられるモノは何もない。
それに対して青野が朗らかに答える。
「うちの宇葉コーチの格言があってな。強くなりたければ好敵手も育てよって…な」




