第四章 その1 『後にカーリング三投士と呼ばれるトリオ』
「はぁ、はぁ、はぁ…」
暑い。
実際の気温はそう高くは無いはず。
それでも暑いと感じるのは運動量のせいか。
カーリングホールを出てかれこれ二時間はロードバイクを漕ぎ続けている。
一体ここは何処なのか?
土地勘の無いわへいには何処を走っているのか分からない。
暫くは畑が広がっていたがその内に大きな湖の周りを走っている事に気づいた。
暫く走ってから潮の香りがし始め、海が見えてきた。
軽井沢町に引っ越してから久しく海を見ていないのではしゃいでも良さそうだが、今のわへいにはそんな余裕はなかった。
ここは何処なんだろう?
嘘か誠か道路標識に『網走』と見えた気がする。
頭の中で社会の教科書に載っていた網走刑務所の写真が一瞬フラッシュバックするが、それでもわへいには網走が北海道のどの辺りなのかピンとこない。
「はぁ、はぁ、わへい!…ッくっ遅れているぞ!はぁ、はぁボクの後ろに来いっ!ボクが…ッ風よけになる!」
前を行く青野蒼士が叫び、わへいは何とか青野にくっついていく。
「そうだ!諦めるなわへい!俺達は一つだ!青野を信じて全力で食いつけ!追い越す勢いで食らいつけ!」
後ろからは御堂士流の叫び声。
理屈は分かるが単純について行く脚力が残っていないんだ、と言い返したいがそんな力もわへいには残っていない。
「はぁはぁ、パゥワーが足りん!根性も、はぁ、足りん!圧倒的、な、パゥワー、こそパゥワーこそ、はぁ、はぁ、とにかくパゥワーだっ!もう少しだっ!はぁ、はぁ、踏ん張れ!最後まで!Yes!Yes!Yes!」
横に並んだ阿王紳士が叫ぶ。
パゥワー、パゥワーと煩いなと思いながら、漕ぎながら喋る事の辛さは想像がつく。
現に自分には喋るだけの余力はない。
それでもわへいを励ましているのだから、言葉遣いの割にいいヤツなのかもしれない。
「漕ぎ方やめ!漕ぎ方やめ!ここからは流すぞ!」
緩やかな下りに入り、青野の号令で全員がペダルを漕ぐ力を抜き、惰性に任せる。
「足は動かしておけ。いきなり動きを止めるなよ」
御堂の言葉にそれでも足を回し続ける。
緩やかな下り坂がまた緩やかな上り坂に変わり、そこで道が途切れた。
道路脇にロードバイクを放置し小高い丘に向かう。
その先に見えたのは古ぼけた灯台と海。
それがなんと呼ばれる海なのか、わへいは知らない。
潮の香りと湿気を含んだ空気がわへいを包む。
各々がその場に座り込みわへいもそれに倣う。
そのまま倒れ込みたい衝動に駆られるが。
「寝転ぶなら野生動物の糞に気をつけろよ」
御堂の警告を聞き考え直す。
わへい達の他、韓国から来ているチームもいるらしい。
韓国語(推定)で語り合う青年達がいた。
『思えば遠くへ来たものだ…か』
と、考えても、わへいが松山に誘われ北海道T町へ合宿に来て、まだ三日と経っていない。
☆☆☆
ロードバイクでのトレーニングが終わりカーリングホールに帰ってきた一同。
わへいはトレーニングルームで仰向けに倒れている。
その隣には松崎京も倒れている。
「はぁ…はぁ…っ持久力が、はぁ、圧倒的にふぅ、不足だな」
阿王紳士があきれたように言い放つ。
「阿王。お前だって息上がってるだろうが」
スポーツタオルで汗を拭きながら青野が隣に立つ。
「しかし、彼は信頼がおけるね」
「信頼?」
「そう。彼は最後まで力を緩めなかった」
「フン。力も持久力もないが根性だけはあると?」
「ただの根性ではないよ。彼は自分がスピードを落とせば隊列が崩れる…それを気にしての事だろう」
「俺にはまだわからんな」
「わへい!松山!身体を冷やすなよ」
「へ〜い」
「分かりました」
わへいの北海道での合宿がはじまっていた。




