ごめんね
病院の中に息を切らして入ってきた私を見て道行く人々が怪訝そうに見ては通り過ぎて行った。息を整えて私は受付の女性に帷の名前を聞いて病室を教えてもらった。
病室に行くまでの間、どうやって入ろうかと悩んだ。悩んだあげく成り行きに任せることにした。うだうだ悩んでいるうちに病室に着いてしまっていた。息を整えて震える手で扉を開いた。
四人部屋でいろんな人がいた。両足を骨折している人、頭に包帯を巻いている人、首にギブスを巻いている人、そしてその一番奥に帷は横たわっている。
近づいていくと帷は私に気づいて横目で私を見る。その目は何だか疲れきっているようで私は怯んだ。
「なごちゃん……?どうして、」
いろんな感情が混じりあって何も言えずにいた。何から言えばいいのだろう。
「ご、ごめんね、帷……」
溢れる涙を堪えきれなかった、帷が驚いたように目を見開く。
「なごちゃん……」
「私、帷を追い詰めてるって分からなかった……馬鹿だから、ごめん、ごめんなさい!」
帷はゆっくり起き上がるとその手で優しく涙を拭ってくれた。そして微笑んだ。
「なごちゃんが謝ることじゃないよ、それに僕も昨日ひどいこと言ってごめんね」
帷の腕には白い包帯が巻かれている。察するに手首を切ったのだろう。
「でも、自殺、しようとしたんでしょ?」
ちょっと困ったように帷は笑う。
「……うん、だけどなごちゃんのせいじゃないよ。ちょっと昨日はいろいろあったんだ、本当になごちゃんのせいじゃないから」
「本当……?」
「うん、本当」
「よ、よかった、よくないけど、よかったあ……帷が死ななくてよかった……」
「心配かけてごめん」
帷が死ななくて本当によかった。私は安心したのに泣き続けた、どうやら涙腺が弱くなっているようだ。湯水のごとく涙がで続ける、同じく鼻水も。
そんな私を見て帷は困ったようにでも少しだけ嬉しそうに笑っているように見えた。
落ち着いた頭で考えると私は病室にいる人たちにとんでもない迷惑をかけてしまったことに気づく。当然ここは個室ではない、衝立はあるが泣き声は筒抜けだろう。恥ずかしい上に申し訳ない。後で謝らないと。
今さらではあるがこっそりと話す。
「と、帷、痛くなかったの……?」
「うーん……どうだったかなあ、よく覚えてないや」
「でも、結構深い傷なんでしょ?」
「うん、多分。血が止まらなかったしね。でも、何だか不思議と怖くなかったよ。でも、今考えたら結構怖い」
帷は自分の腕に巻かれた包帯を見ている。そして、その腕から目を離さずに話続ける。
「実は今までにも何回かリストカット、したことあるんだ」
全然分からなかった、そう言うと帷はうまく隠せてたんだと笑った。私は全然笑えない、笑う方がおかしい。
私には自分で自分の腕を切るなんて痛そうで怖くてできない。
「もう、しないよね……?」
「……うん、しないよ」
「約束だよ」
「うん……それに僕、転校するから」
「どこに?」
「隣の県の学校」
帷がいじめから解放されることを喜ばしく思った。
これで帷はいじめから解放される。私がいなくなってもきっと大丈夫だろう、私も安心して死ぬことができる。
「よかった、もう安心だね」
「……うん」
帷は少し顔を陰らせた。まだ元気がないのだろうか。
新しい場所への不安があるのだろうか、きっと私が帷の立場だったら不安で不安で堪らないだろう。それに帷はいじめにあっていた、解放されて安心する反面不安もあるのだろう。
「心配しなくて大丈夫だよ。帷ならきっと友達もできるよ、だって優しいもん、頭もいいし」
「そうかな」
「うん」
「そうだといいな」
「あ、謝るの忘れてた……」
家までの道程を半分ほど歩いていたところで病室にいた人たちに謝るのを忘れていたことを思い出した。




